令和8年7月8日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第652回)に、新医薬品を7月15日に薬価基準へ収載する案が示されました。新薬の薬価は、算定方式や補正加算の組み合わせで決まるため、資料の数字だけでは決まり方が見えにくいものです。本号では、資料「総-2」をもとに、2成分の薬価がどのような根拠で算定されたのかを解説します。
今回の収載対象は、内用薬2成分3品目です。1つ目のジャスケイド(特発性肺線維症・進行性肺線維症)は、類似薬効比較方式(Ⅰ)で算定され、計40%の補正加算により18mg1錠8,363.00円となりました。2つ目のハイツエキシン(卵巣明細胞癌)は、原価計算方式で3つの補正加算に該当したものの、加算係数が0のため加算は反映されず、10mg1錠7,313.40円となりました。2成分はいずれも希少疾病用医薬品として革新的新薬薬価維持制度の対象となり、費用対効果評価の対象はジャスケイドのみです。
今回収載される新薬2成分の全体像
今回の新薬2成分は、効能も算定方式も対照的です。主な項目を同じ順序で並べます。
ジャスケイド錠(9mg・18mg)
成分名:ネランドミラスト
会社名:日本ベーリンガーインゲルハイム
効能・効果:特発性肺線維症、進行性肺線維症
算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
補正加算:有用性加算(Ⅰ)35%、市場性加算(Ⅰ)5%
算定薬価:9mg1錠 4,190.10円/18mg1錠 8,363.00円
ピーク時予測:10年度 1.8万人・578億円
ハイツエキシン錠(10mg)
成分名:リソバリシブメシル酸塩水和物
会社名:海和製薬
効能・効果:がん化学療法後に増悪したPIK3CA遺伝子変異を有する卵巣明細胞癌
算定方式:原価計算方式
補正加算:有用性加算(Ⅱ)5%、市場性加算(Ⅰ)10%、迅速導入加算10%(加算係数0)
算定薬価:10mg1錠 7,313.40円
ピーク時予測:9年度 586人・14億円
この違いを生んだのは、主に「比べる薬があるかどうか」です。比較できる既存薬があれば類似薬効比較方式、なければ原価計算方式が使われます。以下、2成分を同じ順序(概要→算定の基準→補正加算→市場規模)で見ていきます。
ジャスケイド:類似薬効比較方式で計40%を加算
ジャスケイドは、既存の抗線維化薬オフェブを比較薬とし、その1日薬価に計40%を上乗せして算定されました。
概要:作用機序が新しい肺線維症治療薬
ジャスケイドは、ホスホジエステラーゼ4B(PDE4B)阻害作用を持つ肺線維症の治療薬です。用法は、通常1回18mgを1日2回経口投与です。患者の忍容性に応じて、1回9mg1日2回に減量できます。
算定の基準:オフェブと1日薬価をそろえる
類似薬効比較方式(Ⅰ)は、効能や薬理作用が最も近い既存薬(最類似薬)と1日あたりの薬価をそろえる方式です。今回の最類似薬は、同じ会社のオフェブカプセル(ニンテダニブ)でした。オフェブ100mgの1日薬価は11,947.20円です。この1日薬価を1日2錠で割ると、加算前の18mg1錠は5,973.60円となります。
補正加算:有用性と希少性を評価
補正加算は、有用性加算(Ⅰ)35%と市場性加算(Ⅰ)5%の計40%です。有用性加算(Ⅰ)は、既存の抗線維化薬や肺高血圧症の適応を持つPDE阻害薬とは標的分子が異なる新規作用機序であること、既存薬との併用群も含めて有効性が認められたことが評価されました。市場性加算(Ⅰ)は、希少疾病用医薬品の指定により要件を満たしました。ただし、優先審査の対象ではなかったため、加算率は通常の範囲(10~20%)を下回る例外的な下限の5%とされました。
この結果、18mg1錠は5,973.60円から8,363.00円に引き上げられ、1日薬価は16,726.00円となりました。9mg1錠の4,190.10円は、オフェブの100mgと150mgの価格差から求めた規格間比(0.99703)を使って算出されています。なお、外国平均価格調整は行われていません。
市場規模:ピーク時578億円
市場規模の予測は、ピーク時(10年度)に投与患者数1.8万人、販売金額578億円です。最初に承認された国は米国(2025年10月)で、国内の製造販売承認日は令和8年5月18日です。
ハイツエキシン:原価計算方式で加算が価格に反映されず
ハイツエキシンは、比較できる既存薬がないため原価を積み上げて算定されました。3つの加算に該当しながら、加算係数0により薬価は加算前と同額です。
概要:既収載品にない作用機序の卵巣明細胞癌治療薬
ハイツエキシンは、PI3Kα阻害作用を持つ卵巣明細胞癌の治療薬です。用法は、通常1回40mg(10mg錠4錠)を1日1回空腹時に経口投与です。患者の状態により適宜減量します。
算定の基準:原価を積み上げる
原価計算方式は、製造原価に営業利益、流通経費、消費税を積み上げて薬価を決める方式です。今回は、「卵巣明細胞癌」の効能や「PI3Kα阻害作用」を持つ既収載品がないため、この方式が採用されました。積み上げの内訳は、次のとおりです。
製品総原価:5,224.20円
営業利益:965.60円(流通経費を除く価格の15.6%)
流通経費:458.80円(消費税を除く価格の6.9%)
消費税:664.90円
なお、上記4項目を単純に合計すると7,313.50円となり、算定薬価の7,313.40円と0.10円ずれます。これは各項目が端数処理後の値で表示されているためで、資料上の算定薬価は7,313.40円です。
補正加算:3つ該当したが加算係数は0
補正加算は、有用性加算(Ⅱ)5%、市場性加算(Ⅰ)10%、迅速導入加算10%の3つに該当しました。有用性加算(Ⅱ)は、新規作用機序であり、化学療法歴のあるPIK3CA遺伝子変異陽性患者で有効性が示されたことが評価されました。市場性加算(Ⅰ)は、希少疾病用医薬品の指定により要件を満たしました。迅速導入加算は、国際共同試験で開発され、優先審査の対象で、日本での申請・承認が欧米より早いことから要件を満たしました。加算率は、国際共同試験の日本人症例数が比較的多いことを踏まえ、上限の10%とされました。
しかし、原価計算方式の加算係数が0とされたため、加算は薬価に反映されていません。加算係数とは、原価計算方式で補正加算をどの程度反映させるかを決める係数で、一般に企業が示す原価の開示度に応じて設定されます。資料には、今回の係数が0となった個別の理由は記載されていません。この結果、10mg1錠は加算前と同じ7,313.40円となりました。なお、通常用量の1日4錠で計算すると、1日あたり29,253.60円です(資料記載の値ではなく、本号での試算です)。
市場規模:ピーク時14億円
市場規模の予測は、ピーク時(9年度)に投与患者数586人、販売金額14億円です。最初に承認された国は日本で、外国価格はありません。製造販売承認日は令和8年3月23日ですが、企業の都合により今回の収載希望となりました。
2成分に共通する制度上の扱い
2成分は、いずれも収載後の薬価を維持する仕組みの対象となりました。一方、費用対効果評価の扱いは分かれています。
革新的新薬薬価維持制度:2成分とも該当
革新的新薬薬価維持制度は、革新性の高い新薬について、一定の条件のもとで薬価改定時の引き下げを猶予する仕組みです。2成分は、いずれも希少疾病用医薬品の指定を主な理由として該当しました。
費用対効果評価:ジャスケイドのみ該当
費用対効果評価は、価格に見合う効果があるかを収載後に検証し、薬価を調整する仕組みです。ジャスケイドは、ピーク時の市場規模が大きい品目の区分である「H1」に該当しました。ハイツエキシンは該当しません。
まとめ:算定方式の違いが加算の効き方を分けた
第652回中医協総会では、内用薬2成分3品目を7月15日に薬価収載する案が示されました。ジャスケイドは、オフェブを比較薬とする類似薬効比較方式(Ⅰ)で計40%が加算され、18mg1錠8,363.00円となりました。ハイツエキシンは、原価計算方式で3つの加算に該当したものの、加算係数0により10mg1錠7,313.40円にとどまりました。2成分とも革新的新薬薬価維持制度の対象であり、ジャスケイドは今後、費用対効果評価(H1)を受けます。
出典:中央社会保険医療協議会 総会(第652回)資料「総-2 医薬品の新規薬価収載等について」(令和8年7月8日)










