AIが経営の意思決定を支援する時代が本格的に到来しています。株式会社miiboでは、会話型AIプラットフォームを活用したAIドリブン経営を2023年から実践し、AIが提案した戦略を人間が検討・実行する仕組みを確立しました。本記事では、AIを単なる業務効率化ツールではなく、経営判断の強力なサポーターとして活用する「AIドリブン経営」の構築方法を解説します。
AIドリブン経営とは、AI技術を活用して意思決定や業務を最適化する経営方法です。重要なのは、AIが人間の意思決定を代替するのではなく、データに基づく客観的な分析と提案によって経営判断をサポートすることです。miiboの事例では、「Growth Buddy」というAIエージェントが、経営リスクの洗い出し、プロダクト改善ポイントの提案、チャーン防止策の提示など、多角的な経営支援を実現しています。成功には5つの必須要素(方向性の共有、リアルタイム性、アクションとの連携、透明性、自己進化)が必要であり、これらを満たすシステム構築が鍵となります。
AIが経営判断をサポートする仕組みの全体像
AIドリブン経営を実現するには、データストリーム、Tracking Agent、Growth Buddyという3つの核となる要素が必要です。データストリームは組織内の様々なデータが流れる基盤であり、売上データから社内コミュニケーションまで、多種多様な情報を横断的に扱います。この仕組みにより、AIは組織の「今」を正確に把握できるようになります。
Tracking Agentは、様々なフォーマットのデータを統一形式に変換する役割を担います。データの品質チェック、欠損データの補完、リアルタイムデータの取り込みを行い、AIが分析しやすい形に整えます。このエージェントの存在により、異なるツールやシステムからのデータを一元的に扱うことが可能になります。
Growth Buddyは、データストリームの情報を分析し、経営に関する示唆を生成する中核的なAIエージェントです。一次データと過去の示唆を横断的に分析し、過去の成功体験に基づいた提案を行います。重要なのは、AIが生成した示唆も再度データストリームに流し込まれ、継続的な学習と改善が行われる点です。
miiboのGrowth Buddyが実現する3つの支援機能
Growth Buddyは、自然言語での戦略相談、Slack上でのリアルタイム提案、経営レポートの自動生成という3つの主要機能を提供します。これらの機能により、経営陣は客観的なデータに基づく意思決定支援を24時間365日受けることができます。
自然言語での戦略相談機能では、経営者がGrowth Buddyに話しかけることで、売上推移、プロダクトの課題、成長率などの分析結果を即座に取得できます。内部ではText-to-SQLという技術が活用され、複雑なデータベースクエリを自然な会話で実行できます。この機能により、経営者はデータ分析の専門知識がなくても、必要な情報にアクセスできるようになります。
Slack上でのリアルタイム提案では、Growth Buddyが能動的に組織の状況を分析し、改善提案を行います。お問い合わせの傾向分析、プロダクトの改善点の指摘、緊急事態の検知など、人間では見逃しがちな変化をAIが察知して報告します。この機能により、問題の早期発見と迅速な対応が可能になります。
経営レポートの自動生成機能では、「モメンタム新聞」という社内新聞を毎日発行しています。直近のビッグニュース、社内MVP、リード顧客分析、改善点まとめなど、全データを横断した客観的な経営分析を提供します。人間では毎日まとめることが困難な包括的な情報を、AIが自動的に整理・提示することで、経営判断の質を向上させます。
AIドリブン経営を成功させる5つの必須要素
AIドリブン経営の成功には、方向性の共有、リアルタイム性、アクションとの連携、透明性、自己進化という5つの要素すべてが必要です。これらの要素が1つでも欠けると、人間がAIの提案を信頼できず、実効性のある経営支援が実現できません。
方向性の共有では、AIが企業のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)やOKR、KPIを理解している必要があります。miiboでは「North Star Prompt」という構造化プロンプトを用意し、企業の方向性や各チームの目標をAIのシステムプロンプトに組み込んでいます。この仕組みにより、AIの提案が常に企業の戦略とアラインされた状態を維持できます。
リアルタイム性の確保では、組織内で今必要とされることをAIが即座に把握し、適切なタイミングで提案を行う仕組みが重要です。データストリームによる継続的なデータ収集と、Tracking Agentによるリアルタイムデータ処理により、「今それをAIに出されても困る」という状況を回避できます。AIの提案が常に現在の組織状況に即したものになることで、実用性が大幅に向上します。
透明性と自己進化を実現する仕組み
AIのアウトプットに透明性を持たせるため、データストリームの可視化とトラッキング機能が実装されています。AIがどのデータに基づいて、どのような分析プロセスを経て提案を生成したかを追跡できる仕組みにより、経営陣はAIの判断根拠を理解し、必要に応じてデバッグや調整を行えます。
自己進化の仕組みでは、AIが生成した示唆をデータストリームに還元することで、継続的な学習と改善を実現しています。過去のAIの提案がどのように機能したかも学習材料となり、提案精度が時間とともに向上します。この循環により、AIは組織特有の文脈や成功パターンを学習し、より的確な支援を提供できるようになります。
ワーキングアグリーメントという概念も導入されており、AIと人間の間の約束事をRAGデータとして格納しています。このアグリーメントは、AIと人間のコミュニケーションの中で継続的にアップデートされ、組織とAIの協働関係が自律的に進化する基盤となっています。アジャイル開発のスクラムフレームワークから着想を得たこの仕組みにより、AIと人間のチームワークが向上します。
まとめ
AIドリブン経営は、AIを意思決定の代替ではなく、強力なサポーターとして活用する新しい経営手法です。miiboのGrowth Buddyの事例が示すように、データストリーム、Tracking Agent、分析AIの組み合わせにより、経営判断の質を飛躍的に向上させることが可能です。5つの必須要素を満たすシステム構築により、透明性が高く、継続的に進化する経営支援の仕組みを実現できます。AIのアクション領域はまだ限定的ですが、意思決定支援の分野では既に実用レベルに達しており、今こそAIドリブン経営への転換を検討すべき時期といえるでしょう。