令和7年度第12回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、急性期入院医療の機能評価について重要な議論が行われました。DPC制度における急性期機能の評価体系の見直しと、総合入院体制加算・急性期充実体制加算の実績要件の課題が明らかになっています。人口減少が進む地域での医療提供体制の確保と、医療機関の機能分化をどのように進めるべきかが、次期診療報酬改定の重要な論点となっています。
本メールマガジンでは、急性期入院医療の現状と課題を包括的に解説します。急性期一般入院料1算定病院における救急搬送受入実績の格差は、年間1,000件未満から4,000件以上まで大きな幅があります。総合入院体制加算と急性期充実体制加算では、心臓血管外科手術の対象要件が異なり、実績を満たす病院の割合にも大きな差が生じています。なお、両加算は同時に算定することができず、医療機関はどちらか一方を選択する必要があります。人口20万人未満の二次医療圏では、地域の救急搬送を一手に担いながらも、実績要件を満たせない医療機関が存在します。これらの現状を踏まえ、地域の実情に応じた評価体系の構築が求められています。
急性期医療機関の機能分化と評価指標の現状
急性期入院医療の評価において、一般的な急性期機能と拠点的な急性期機能の区別が重要な視点となっています。DPC制度では機能評価係数IIによって、各病院が目指すべき医療と地域の実情に応じて求められる機能を評価してきました。救急搬送件数、全身麻酔手術件数、総合性の3つの観点から、医療機関の急性期機能を評価する枠組みが構築されています。
急性期一般入院料1算定病院の救急搬送受入実績を見ると、医療機関によって大きな差があります。年間1,000件未満の病院から4,000件以上の病院まで幅広く分布しており、単に急性期一般入院料1を算定しているだけでは、医療機関の機能を十分に評価できない状況です。救急搬送受入件数が増えるにつれて、許可病床数、病床当たり医師数、全身麻酔手術件数、夜間・時間外救急患者数も増加する傾向が明確に表れています。
医業収支の観点から見ると、救急搬送受入件数による差が顕著です。救急搬送受入件数1~1,199件の病院では医業利益率が-0.7%、1,200~1,999件では-2.0%、2,000~3,999件では-1.9%、4,000件以上では-2.3%となっており、救急搬送受入件数が多い病院ほど医業利益率が低い傾向にあります。これは、高度な急性期医療の提供には多大な医療資源の投入が必要であることを示しています。
医療資源投入量の観点からも、1患者1日当たり包括範囲出来高点数は、救急搬送受入件数が多い病院ほど高くなる傾向にあり、医療の密度と救急対応能力には相関関係が認められます。DPC標準病院群においても、救急搬送受入件数の多い病院ほど、包括点数に対する包括範囲出来高点数の比率が高くなっています。
診療情報・指標ワーキンググループでは、「DPC制度において、入院基本料と総合入院体制加算、急性期充実体制加算との関係を組み合わせて、新たな病院群の定義を検討することもあり得る」との意見が出されました。また、「全身麻酔手術で必ずしも医療資源投入量が高いとは言えないものや、脊椎麻酔である程度点数の高いものもある」という指摘もあり、評価指標の見直しが検討されています。
総合入院体制加算の要件と実施状況の詳細分析
総合入院体制加算は、24時間総合的な入院医療を提供できる体制を評価する加算として位置づけられています。加算1から3までの3区分があり、それぞれ異なる施設基準と実績要件が設定されています。7診療科(内科、外科、整形外科、脳神経外科、精神科、小児科、産科または産婦人科)の標榜と入院医療の提供が基本要件となっています。ただし、地域医療構想調整会議で合意を得た場合に限り、小児科、産科又は産婦人科の標榜及び当該診療科に係る入院医療の提供を行っていなくても良いという例外規定があります。
総合入院体制加算1の要件は最も厳格です。救命救急センターまたは高度救命救急センターの設置、全身麻酔手術件数年間2,000件以上、人工心肺を用いた手術および人工心肺を使用しない冠動脈・大動脈バイパス移植術40件/年以上などが求められます。悪性腫瘍手術400件/年以上、腹腔鏡下手術100件/年以上、放射線治療4,000件/年以上、化学療法1,000件/年以上、分娩件数100件/年以上といった幅広い実績要件があります。
総合入院体制加算2と3では、要件が段階的に緩和されています。加算2では全身麻酔手術件数1,200件以上、救急搬送件数2,000件以上、加算3では全身麻酔手術件数800件以上となっています。手術等の実績要件についても、加算2では少なくとも4つ以上、加算3では少なくとも2つ以上を満たすことが求められています。
実績要件を満たす割合を見ると、総合入院体制加算1届出病院では3割の病院が全ての要件を満たしており、全ての病院が7項目以上の要件を満たしていました。総合入院体制加算3届出病院では、消化管内視鏡手術や心臓血管外科手術要件を満たしている割合が他の加算届出病院と比較して低く、実績要件を満たす数が少ない病院の割合が高い状況です。具体的には、消化管内視鏡手術600件を満たす病院は37%、心臓血管外科手術100件を満たす病院はわずか14%にとどまっています。
重要な点として、総合入院体制加算を届け出ている病院は、急性期充実体制加算の届出を行うことができません。この排他的関係により、医療機関は自院の機能と地域のニーズを踏まえて、どちらの加算を選択するか慎重に判断する必要があります。
急性期充実体制加算の特徴と精神科医療体制の課題
急性期充実体制加算は、高度な急性期医療を提供する体制を評価する加算として創設されました。急性期一般入院料1の届出と重症度、医療・看護必要度IIの使用が前提条件となっています。救命救急センターまたは救急搬送件数2,000件/年以上、全身麻酔手術2,000件/年以上(うち緊急手術350件/年以上)が基本要件です。総合入院体制加算の届出を行っていないことも要件の一つとなっており、両加算の同時算定はできません。
手術実績要件は総合入院体制加算よりも詳細に設定されています。悪性腫瘍手術400件/年以上、腹腔鏡下または胸腔鏡下手術400件/年以上、心臓カテーテル法手術200件/年以上、消化管内視鏡手術600件/年以上、心臓胸部大血管手術100件/年以上のうち5つ以上を満たす必要があります。化学療法については、外来腫瘍化学療法診療料1の届出と、外来実施割合6割以上という条件が付されています。
精神科医療体制については、両加算ともに課題が明らかになっています。総合入院体制加算1届出病院では全ての病院で精神科の入院医療を提供していましたが、その他の加算届出病院では、精神科の入院医療提供割合が小児科(91-100%)や産婦人科(92-100%)と比較して、精神科は29-83%と低い傾向にあります。
精神科領域患者の入院実態調査によると、摂食障害や依存症の治療のため予定入院で精神病床に入院させた経験のある医療機関は46.9%、自殺企図のために救急外来から直接精神病床に入棟させた経験のある医療機関は53.9%存在しました。また、内科的理由などで精神科領域患者を精神病床に入院させた経験のある医療機関も、予定入院で47.9%、救急外来からの直接入棟で26.3%存在しています。
精神病床数の推移を見ると、総合入院体制加算と急性期充実体制加算の算定病院における精神病床届出数は、令和2年の3,946床(84施設)から令和7年の4,191床(96施設)へと増加傾向にあります。しかし、同一の病院で経年比較すると、特に急性期充実体制加算を届け出た病院で精神病床届出施設数がやや減少する傾向(48施設から45施設へ)が見られ、総合病院における精神科医療提供体制の維持が課題となっています。
地域特性に応じた評価体系の課題と現状
人口20万人未満の二次医療圏における医療提供体制には特有の課題があります。161の二次医療圏のうち、救急搬送受入件数2,000件を超える病院を持つ医療圏は91医療圏、年間1,500件を超える病院を持つ医療圏は113医療圏、年間1,200件を超える病院を持つ医療圏でも127医療圏にとどまっています。人口規模が小さい医療圏では、地域シェア率が高くなる傾向があり、患者の流出率が40%を超える医療圏も多く存在します。
人口の少ない地域(131二次医療圏)では、総合入院体制加算3を届け出ている病院が約15%を占めています。これらの地域では、実績要件等の基準が厳しい総合入院体制加算1や急性期充実体制加算1を届け出ている病院が少なく、地理的な事情から症例や医療従事者を集約しても実績要件を満たすことが困難な状況です。
へき地医療拠点病院の約半数は、20万人未満の二次医療圏に所在しています。20万人未満二次医療圏のへき地医療拠点病院では、巡回診療、医師派遣、代診医派遣といった主要3事業を一定程度実施しており、総合入院体制加算や急性期充実体制加算の届出の有無と実施状況に大きな違いは見られませんでした。しかし、これらの病院で総合入院体制加算や急性期充実体制加算を届け出ている割合は、20万人以上の二次医療圏と比較して低い状況です。
診療情報・指標ワーキンググループでは、「人口が少ない地域での評価については、既存の類型の中での条件緩和あるいは別類型をつくるなどが必要ではないか」「実績要件を緩和する場合には、緊急・救急対応が必要か、医療従事者の集約化が必要か、という観点があるのではないか」「化学療法も、集約化が必要な化学療法と、アクセスのよいところに必要な化学療法があるのではないか」といった意見が出されています。
オンライン診療(D to P with N、D to P with D)の活用など、新しい医療提供手法を組み合わせた支援体制の構築も検討されています。小規模な二次医療圏では、へき地診療所等への支援を実施する病院と、拠点的機能を有する病院が連携し、地域全体で医療を支える体制づくりが求められています。
心臓血管外科手術要件の違いと医師配置の実態
総合入院体制加算と急性期充実体制加算では、心臓血管外科手術の対象Kコードと実績件数に大きな違いがあります。総合入院体制加算では人工心肺を用いた手術と人工心肺を使用しない冠動脈・大動脈バイパス移植術が対象で、年間40件以上が要件です。急性期充実体制加算では、より広範な心臓胸部大血管手術が対象となり、年間100件以上が要件となっています。
急性期充実体制加算の対象手術には、K552(冠動脈、大動脈バイパス移植術)、K553-2(左心形成術、心室中隔穿孔閉鎖術、左室自由壁破裂修復術)、K557-4(ダムス・ケー・スタンセル吻合を伴う大動脈狭窄症手術)など、総合入院体制加算では対象外の手術が含まれています。総合入院体制加算届出病院の実施件数分布を見ると、総合入院体制加算対象手術では40件未満の病院が多い一方、急性期充実体制加算対象手術では40件以上の病院が多い状況です。
常勤心臓血管外科医の配置と手術実施件数には明確な相関があります。心臓血管外科医が1~2人の病院では、急性期充実体制加算対象手術の中央値が0件/年で、第3四分位点も40件/年となっています。心臓血管外科医が3~5人の病院では、第1四分位点でも55件/年、中央値102件/年の手術を実施しており、医師数による差が顕著です。6~9人配置では中央値288件/年、10人以上では中央値603件/年と、医師数の増加に伴い手術実施件数も大幅に増加しています。
診療情報・指標ワーキンググループでは、「総合入院体制加算と急性期充実体制加算で、心臓血管外科手術の対象の手術が異なっていることや、腹腔鏡下手術は両方の加算の対象となっている一方、胸腔鏡下手術は総合入院体制加算の対象となっていないことについて、あえて分ける必要はないのではないか」「心臓血管手術だけではなく、異常分娩50件と正常分娩100件の違いについても、異常分娩を50件実施しているところは、通常、正常分娩も100件実施している」といった意見が出され、実績要件の整合性について議論が行われています。
これらの違いは、医療資源の集約化と専門性の確保という観点から重要な示唆を与えています。限られた専門医をどのように配置し、地域の心臓血管外科手術のニーズにどう対応するかは、地域医療構想の実現において重要な検討課題となっています。
まとめ
急性期入院医療の機能評価において、総合入院体制加算と急性期充実体制加算は重要な役割を果たしていますが、実績要件の違いや地域特性への配慮において複数の課題が明らかになっています。両加算は同時算定ができない排他的関係にあり、心臓血管外科手術、腹腔鏡下手術と胸腔鏡下手術、正常分娩と異常分娩など、同様の機能に対して異なる要件が設定されており、評価体系の複雑化を招いています。人口の少ない地域では、総合的な機能が求められながらも実績要件を満たすことが困難な医療機関が存在し、年間1,200件を超える救急搬送を受け入れている127医療圏のうち、多くの地域で適切な評価がなされていない状況があります。精神科の入院医療体制についても、総合病院が持つべき機能として十分に提供されていない現状があり、精神科領域患者の約半数が急性期病院での入院経験があるにも関わらず、対応体制が不十分です。医業収支の観点からも、高度急性期医療を提供する病院ほど医業利益率が低い傾向(-0.7%~-2.3%)にあり、今後の診療報酬改定において、これらの課題にどのように対応するかが重要な論点となっています。