岡大徳のメルマガ
岡大徳のポッドキャスト
令和8年度診療報酬改定に向けた中長期的検討課題3選:持参薬・重症度評価・包括医療の見直しポイント
0:00
-8:06

令和8年度診療報酬改定に向けた中長期的検討課題3選:持参薬・重症度評価・包括医療の見直しポイント

データ解析の限界と委員間の見解相違から見えてきた、持参薬ルール・重症度評価・患者別評価の課題と今後の方向性

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会では、次期診療報酬改定に向けた評価・分析を進める中で、データ解析の技術的限界や委員間の見解相違により即座に結論を出せない課題が明らかになりました。中央社会保険医療協議会の診療報酬調査専門組織である同分科会は、これらの課題について中長期的な検討が必要と判断しました。本稿では、来年度以降に実施される実態調査や厚生労働科学研究等での検討が求められる3つの重要課題の内容を説明します。

中長期的検討が必要な課題は、持参薬ルールの明確化、重症度・医療・看護必要度の在り方の整理、包括期入院医療における患者別評価の実現の3つです。持参薬ルールについては、DPC/PDPSでの公平な支払いを実現するため、医療機関間で大きなばらつきがある持参薬使用割合の統一的運用に向けた検討が必要です。重症度・医療・看護必要度については、平成20年度の導入から約20年が経過し、入院患者の高齢化や医療環境の変化に伴う指標の妥当性検証が求められています。包括期入院医療における患者別評価については、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟において、疾患・ADL・診療行為等に応じた適切な評価の実現が課題となっています。

持参薬ルールの明確化が求められる背景

持参薬ルールの明確化が必要となった背景には、DPC/PDPSにおける公平な支払いの実現という課題があります。DPCデータによると、入院中の持参薬使用割合は医療機関間で大きなばらつきが認められており、統一的な運用が行われていない実態が明らかになりました。

統一的な運用を推進するための持参薬ルールの明確化には、医療安全を確保する観点、病棟における持参薬の確認業務の負担の観点、患者が薬剤を持参する負担の観点など、多角的な検討が必要です。具体的には、当該持参薬の処方元が自院であるか他院であるかの別、予定入院と緊急入院の別、入院中の診療内容と当該持参薬の関係性の別、薬剤の特性別など、具体的な場面を想定した妥当性の検討が求められます。併せて、DPC/PDPS以外で薬剤費が包括される入院料を算定する病棟における持参薬の取扱いについても、検討を進めることが望ましいとされています。

重症度・医療・看護必要度の在り方の整理

重症度・医療・看護必要度の在り方の整理が必要となった理由は、指標導入から約20年の経過における医療環境の変化です。重症度・看護必要度は平成20年度改定で、病棟のタイムスタディ調査等の研究成果をもとに「入院患者へ提供されるべき看護の必要量」を予測する指標として導入されました。平成26年度改定では「重症度・医療・看護必要度」に名称変更され、急性期患者の医学的特性を測る目的が重視されました。平成28年度改定では医学的状況を測るC項目が加わり、平成30年度改定では病棟の看護職員の測定負担を軽減する観点から、A項目及びC項目をレセプト電算コードにより評価する「重症度・医療・看護必要度Ⅱ」が選択可能とされました。

このような経緯を踏まえると、よりよい入院医療の診療報酬評価を実現するための重症度・医療・看護必要度の在り方を検討する前提として、2つの考え方の整理が必要です。「入院患者へ提供されるべき看護の必要量を予測すること」と「急性期患者の医学的な特性を測ること」という2つの考え方をどのように勘案すべきかについて、整理する必要があります。入院患者の高齢化や、電子カルテ等のICT技術の進展、インフォームド・コンセント等患者本位の医療の普及等による病棟看護業務の変化に伴って、現在の指標が実際の病棟の看護の必要量を適切に推測できているのか、検証する必要があります。

最新の病棟のタイムスタディ調査によると、病棟看護業務の約25%を「診療・治療」が占め、約25%を「患者のケア」が占めている実態が明らかとなりました。このうち「診療・治療」の定量的評価は、診療行為のレセプト電算コードを用いて表現可能であり、A項目・C項目、医療資源投入量はレセプト電算コードを活用した評価方法となっています。「患者のケア」については、要介護度、ADL、B項目などで測定されうるが、これらの評価項目は重複があり、一定の類似性があるという分析結果となっています。特にB項目については、患者の高齢化に伴う近年の看護業務の増加を証明することに有用ではないかという意見がありますが、B項目のこうした観点での有用性の検証は、レセプトデータや診療行為情報が主体のDPCデータでは限界があることに留意する必要があります。

重症度・医療・看護必要度に関するこうした検討は、あくまで適切な診療報酬の支払いを実現する観点で行われるべきものです。しかし、測定した結果を、医療現場において入退院時の医療・介護連携の推進、病棟内の多職種連携の推進、病棟の人員マネジメントの向上等に用いることが有用である可能性もあることから、こうした観点も含め検討することが考えられます。

包括期入院医療における患者別評価の実現

包括期入院医療における患者別評価の実現が求められる理由は、患者選別による病棟機能低下の懸念です。患者ごとに医療・看護ケアの必要量に応じた適切な費用が償還されない仕組みの場合、入棟させる患者の選別を引き起こし、結果として病棟の機能の低下につながる懸念があります。

現在、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟などの主として高齢者を受け入れる機能を担う病棟には、急性期病棟のDPC/PDPSのような仕組みはありません。DPC/PDPSでは、疾患・ADL・診療行為等に応じて患者別に包括評価の支払額及び標準的な在院日数を変化させる仕組みですが、地域包括医療病棟等では基本的にすべての患者が一律の支払額及び標準的な在院日数により算定する仕組みとなっています。

こうした機能を担う病棟の、より適切な患者別の評価の実現に向けて検討を行った結果、特に地域包括医療病棟においては、緊急入院や手術の有無等による「医療資源投入量(包括範囲出来高実績点数)」に一定の違いがあることが明らかとなりました。一方で、「医療資源投入量(包括範囲出来高実績点数)」が同程度でも、高齢者のADLや要介護度は様々であり、これらに要する看護ケアの必要度は「医療資源投入量」という考え方のみでは推し量れない部分がある、という意見があることに留意する必要があります。

高齢者は、複数疾患を併存している場合が多いこと、症状が非典型的に表れやすいことから、DPC/PDPSのように「医療資源を最も投入した傷病名」を一意に定めて区分を決める支払い方式はなじみにくく、予定入院と緊急入院の別や手術実施等の客観的事実に着目した評価がよいのではないか、という意見がありました。地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟に期待される機能が連続的であることを踏まえた評価方法とすることや、高齢者の介護の必要性を反映することができる評価方法とすることも考えられます。いずれにしても、より適切な患者別の評価の実現に向けて、引き続き最新の診療データを用いた分析を行う他、別途実態調査等の実施の要否も含め、現行の評価方法の課題の明確化や妥当性の検証を行いつつ、更に検討する必要があります。

まとめ:来年度以降の検討に向けて

中長期的に検討すべき3つの課題は、いずれも入院医療の質の向上と公平な診療報酬の支払いを実現するために重要な論点です。持参薬ルールの明確化は、DPC/PDPSにおける統一的な運用を推進し、公平な支払いを実現するために不可欠です。重症度・医療・看護必要度の在り方の整理は、入院患者の高齢化や医療環境の変化に対応した適切な評価指標の確立に必要です。包括期入院医療における患者別評価の実現は、高齢者の多様な医療・看護ケアの必要量を適切に反映し、病棟機能の低下を防ぐために求められます。これらの課題について、来年度以降に実施される入院・外来医療等における実態調査や厚生労働科学研究等により、更に検討が進められることが期待されます。

Discussion about this episode

User's avatar