令和8年度診療報酬改定では、医療従事者の人材確保と働き方改革を推進するため、ICT・AI・IoT等の利活用による業務効率化が大きく進みます。この改定は、看護現場の人手不足や医師の事務負担、煩雑な届出業務など、医療機関が長年抱えてきた課題に対応するものです。本記事では、個別改定項目「Ⅰ-2-2 業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進」に含まれる4つの改定項目の全体像を解説します。
今回の改定では、4つの分野で業務効率化が図られます。第1に、ICT機器の活用により看護配置基準が1割以内で柔軟化されます。第2に、生成AIの導入により医師事務作業補助者の配置人数が最大1.3人換算で算入可能となります。第3に、各種様式の統一や届出のオンライン化など事務の簡素化・効率化が進みます。第4に、様式9の勤務時間算入要件が追加され、小数点処理も統一されます。
① ICT等の活用による看護業務効率化の推進
ICT機器を組織的に活用した病棟では、看護職員の配置基準が1割以内で柔軟化されます。見守り・記録・情報共有の3領域すべてにICT機器を導入した病棟が対象であり、看護職員の配置数や看護師比率が基準の9割以上であれば、入院基本料等の所定点数を算定できます。
3領域のICT機器とは、具体的には以下の3つです。「見守り」の領域では、病室のカメラやベッドのセンサー等を活用して遠隔で複数の患者の状態を把握できる機器が求められます。「記録」の領域では、音声入力による看護記録の作成や電子カルテからの自動サマリー生成など、記録作成を効率化する機器が求められます。「情報共有」の領域では、ハンズフリーで複数人と同時通話できる機器やリアルタイムに情報共有できる端末が求められます。
ICT機器の導入に加えて、超過勤務が月平均10時間以下であることや、導入前後の業務量評価を年1回実施することなど、複数の施設基準を満たす必要があります。対象となる入院料は、急性期一般入院料1〜6をはじめ20種類に及びます。
▶ 詳しくはこちら:【令和8年度改定】ICT活用で看護配置基準を1割以内で柔軟化|3つの必須機器と施設基準を解説
② 医師事務作業補助体制加算の見直し
生成AIを含むICT機器を組織的に導入した医療機関では、医師事務作業補助者1人を最大1.3人として配置人数に算入できるようになります。あわせて、医師事務作業補助者の業務範囲も具体的に明確化されます。
配置人数の割増算入は、活用するICT機器の種類と範囲に応じて2段階に分かれます。1.2人換算は、生成AIを活用した文書作成補助システムの導入を含む4つの要件をすべて満たした場合に認められます。1.3人換算は、生成AIシステムに加えて、医療文書用の音声入力システム(汎用音声入力機能を除く)・RPAによる定型作業の自動化・10種類以上の患者向け説明動画のうち1種類以上を広く活用している場合に認められます。
ICT活用による柔軟化を届け出る場合は、直近3か月以上の実績要件を満たしたうえで、年1回の効果評価が義務づけられます。また、業務範囲の明確化として、文書作成補助の対象文書名や代行入力の対象項目が具体的に列挙されました。
▶ 詳しくはこちら:【令和8年度改定】生成AI活用で医師事務作業補助者1人が1.3人分に?配置基準の柔軟化を解説
③ 医療機関等における事務等の簡素化・効率化
医療DXへの対応と事務負担の軽減を目的として、5つの分野で簡素化が進みます。各種様式の共通項目の記載統一、入院診療計画書等の様式簡素化と署名・押印の廃止、施設基準届出の様式削減とオンライン化の推進、定例報告の対象限定と添付書類の省略、歯科診療報酬における事前承認対象の縮小です。
各種様式の統一では、診療報酬改定DX対応方針の一環として作成された76様式のデータテーブルを活用し、共通項目の標準化が進められます。入院診療計画書については、入院前の外来での説明を入院後7日以内と同様に取り扱えるようになるほか、短期入院の場合に計画策定・文書交付を省略できるようになります。署名・押印も代替方法で担保できるものは廃止されます。
施設基準届出のオンライン化は令和10年度の全届出オンライン化に向けて進められており、届出様式の削減と記載項目の最小化が図られます。定例報告も他に代替方法がないものや次期改定に必要なものに絞り込まれます。
▶ 詳しくはこちら:【令和8年度改定】医療機関の事務負担が変わる5つの簡素化ポイント
④ 様式9の見直し
入院基本料等の届出に使用する様式9について、勤務時間の算入要件が2つ追加され、小数点以下の処理方法も統一されます。いずれも、入院患者の看護に影響のない範囲で病棟勤務時間に算入できる内容を見直すものです。
1つ目の追加は、院内の緊急対応に係る勤務時間の算入です。保険医療機関内で生じた不測の事象に対応するため、病棟の看護要員が自病棟の入院患者以外の患者に日常の診療の延長として短時間対応した場合、病棟勤務時間に算入できるようになります。2つ目の追加は、病棟外での付き添い看護に係る勤務時間の算入です。入院患者に付き添って病棟外で一時的に看護を行った場合も、勤務時間に算入できるようになります。
小数点以下の処理方法については、従来は項目によって「切り上げ」「第2位以下切り捨て」「第3位以下切り捨て」と不統一でした。今回の改定では、可能な限り処理方法が統一されるとともに、注意事項の記載が整理されます。
▶ 詳しくはこちら:【令和8年度改定】様式9の見直し|勤務時間の算入要件が2つ追加、小数点処理も統一へ
まとめ
令和8年度診療報酬改定における「業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進」では、4つの分野で改定が行われます。第1に、3領域のICT機器の導入により看護配置基準が1割以内で柔軟化されます。第2に、生成AIの活用により医師事務作業補助者の配置人数が最大1.3人換算となります。第3に、様式統一・署名廃止・オンライン届出など5つの分野で事務の簡素化が進みます。第4に、様式9の勤務時間算入要件の追加と小数点処理の統一が行われます。いずれもICT・AI・IoT等の活用を前提とした業務効率化であり、医療機関は自院の状況に応じて計画的な導入と施設基準の確認を進めることが重要です。










