令和8年度診療報酬改定では、入院時の食事療養の質の向上を図るため、食事療養に関する制度が見直されます。今回の見直しは、嚥下調整食を必要とする患者への対応と、入院患者の多様な食事ニーズへの対応を目的としています。この記事では、個別改定項目「Ⅰ-1 ③入院時の食事療養に係る見直し」の内容を解説します。
今回の改定では、主に3つの変更が行われます。第一に、嚥下調整食が特別食加算の対象として新たに追加されます。第二に、特別メニューの追加料金について、1食あたり17円の標準額が削除され、医療機関が柔軟に金額を設定できるようになります。第三に、行事食やハラール食などの宗教に配慮した食事も、特別料金の対象として明確化されます。
嚥下調整食が特別食加算の新たな対象に追加
今回の改定の最大のポイントは、嚥下調整食が特別食加算の対象に新たに追加されることです。これまで特別食加算の対象は、腎臓食や糖尿食などの「治療食」に限られていました。嚥下調整食は対象外であったため、摂食機能や嚥下機能が低下した患者に提供しても加算を算定できませんでした。
嚥下調整食が加算の対象外であったことには、実態との乖離がありました。嚥下調整食を必要とする患者は各入院料において一定数存在しています。しかも、嚥下調整食は普通食よりも食材費が高く、最もコストのかかる嚥下調整食と普通食の1日あたりの食材費の差は76円に上るとの報告があります。こうしたコスト負担が、医療機関の持ち出しとなっていました。
嚥下調整食の質の向上は、患者の栄養状態やADLの改善に直結します。見た目を改善し適切な栄養量を確保した嚥下調整食を提供した研究では、1日あたりエネルギー273.8kcal、たんぱく質12.4gの摂取量増加が認められました。さらに、この栄養強化群ではADLの改善も確認されています。
今回新設された算定要件では、嚥下調整食は「治療食」とは別の区分として整理されています。具体的には、摂食機能または嚥下機能が低下した患者に対して、医師の発行する食事箋に基づき提供された、適切な栄養量および内容を有する嚥下調整食が対象となります。従来の治療食が「疾病治療の直接手段」と位置づけられているのに対し、嚥下調整食は「摂食・嚥下機能の低下への対応」として独立した位置づけを持つ点が特徴です。
特別メニューの追加料金に関する2つの見直し
入院患者の多様な食事ニーズに対応するため、特別料金の支払いを受けることができる食事についても2つの見直しが行われます。ひとつは追加料金の標準額の削除、もうひとつは対象となる食事の明確化です。
標準額の削除と柔軟な料金設定
1つ目の見直しは、特別メニューの追加料金における標準額の削除です。これまで、基本メニュー以外のメニューを患者が選択した場合の追加料金は、1食あたり17円を標準として設定されていました。この標準額が削除され、保険医療機関が柔軟に妥当な額を設定できるようになります。
標準額が見直された背景には、現行の17円という金額が現状に合っていないとの指摘がありました。食材費や人件費の高騰が続くなか、17円では基本メニュー以外の選択肢を準備するための追加コストを賄えない状況が生じていたためです。今後は各医療機関が、実際のコストに見合った「社会的に妥当な額」を自ら設定できるようになります。
行事食・宗教配慮食の対象明確化
2つ目の見直しは、特別料金の対象となる食事の拡大です。患者の自由な選択と同意に基づき、行事食やハラール食などの宗教に配慮した食事を提供した場合も、特別の料金の支払いを受けることができることが明確化されます。
この明確化の背景には、すでに多くの医療機関が追加料金なしでこれらの食事に対応している実態がありました。約8割の医療機関が行事食を追加料金なしで提供し、約2〜3割の医療機関がハラール食などの宗教配慮食を追加料金なしで対応していました。今回の見直しにより、こうした食事提供にかかるコストを、患者の同意のもとで適正に収受できる道が開かれます。
まとめ
令和8年度改定における入院時の食事療養の見直しは、3つの柱で構成されています。第一に、嚥下調整食が特別食加算の対象に追加され、摂食・嚥下機能が低下した患者への質の高い食事提供が評価されるようになります。第二に、特別メニューの追加料金について標準額が削除され、医療機関による柔軟な料金設定が可能になります。第三に、行事食やハラール食などの宗教配慮食が特別料金の対象として明確化されます。いずれも、入院時の食事療養の質の向上と、入院患者の多様なニーズへの対応を目指した改定です。










