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【2026年運用開始へ】電子カルテ情報共有サービスと救急医療DXの最新動向
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【2026年運用開始へ】電子カルテ情報共有サービスと救急医療DXの最新動向

中医協総会資料から読み解く電子カルテ標準化と情報共有基盤の構築スケジュール

中央社会保険医療協議会 総会(第637回)において、医療DXの個別事項が議論されました。本稿では、電子カルテ・電子カルテ情報共有サービス、救急時医療情報閲覧機能、サイバーセキュリティの3分野について解説します。これらは医療DXの基盤となる重要な取り組みであり、令和8年度診療報酬改定に向けた議論の焦点となっています。

電子カルテ情報共有サービスは2026年(令和8年)冬頃の全国運用開始を目指しており、救急時医療情報閲覧機能は既に令和6年12月からサービスを開始しています。サイバーセキュリティ対策については、令和6年度改定の見直しによりBCPやオフラインバックアップに取り組む医療機関が増加しました。以下、各分野の現状と今後の方針について詳しく説明します。

電子カルテ・電子カルテ情報共有サービスの現状と普及計画

電子カルテの普及は着実に進んでおり、2030年までに概ねすべての医療機関への導入を目指しています。現在、標準型電子カルテの開発とモデル事業を並行して進めており、2026年夏までに具体的な普及計画を策定する予定です。

電子カルテシステムの普及率は、令和5年時点で一般病院が65.6%、一般診療所が55.0%に達しています。病床規模別にみると、400床以上の病院では93.7%と高い普及率を示す一方、200床未満の病院では59.0%にとどまっています。この普及率の格差を解消するため、国は標準型電子カルテの開発を進めています。

標準型電子カルテ(導入版)は、医科無床診療所向けにクラウドネイティブで開発中です。この導入版は、医療DX対応を中心としたシンプルな画面設計を採用しており、2026年度中の完成を目指しています。導入版では、電子カルテ情報共有サービスを利用する医療機関からの診療情報提供書や検査データの閲覧、電子処方箋の発行が可能になります。

標準仕様(基本要件)については、5つの項目で検討が進められています。第1に、電子カルテ情報共有サービスと電子処方箋サービスへの接続インターフェイスの対応があります。第2に、ガバメントクラウドへの対応が可能となるモダンな技術を採用したクラウド・ネイティブ型の電子カルテの要件があります。第3に、外注検査システムや生成AI等との標準APIの搭載が求められます。第4に、データ引き継ぎが可能な互換性の確保として、json、xml、csv等のフォーマットが規定されます。第5に、医薬品・検査等の標準マスタ・コードの規定や医療情報システムの安全管理ガイドラインへの準拠が含まれます。

電子カルテ情報共有サービスは、全国の医療機関等において電子カルテ情報を共有・閲覧できるようにするサービスです。このサービスでは、3文書(診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書)と6情報(検査、感染症、処方、傷病名、薬剤アレルギー等、その他アレルギー等)を共有します。現在、全国10地域でモデル事業を実施中であり、臨床情報の登録から検証を開始しています。

モデル事業では、医療機関や電子カルテによって複数の課題が発生しており、その原因特定と解決が必要な状況です。令和7年夏頃をピークに登録に関する課題は減少傾向にありますが、閲覧の検証も今後開始予定です。この検証を経て、致命的な課題がないことを確認した上で、2026年(令和8年)冬頃を目処に全国で利用可能な状態にすることを目指しています。

救急時医療情報閲覧機能の概要と医療現場での活用

救急時医療情報閲覧機能は、救急現場における迅速な治療判断を支援するサービスです。令和6年12月からサービスを開始しており、多くの三次救急病院等で導入が進んでいます。

この機能により、病院においては患者の生命・身体の保護のために必要な場合、マイナ保険証により本人確認を行うことで、患者の同意取得が困難な場合でもレセプト情報に基づく医療情報等が閲覧可能となります。救急時医療情報閲覧機能は、主に救急患者を受け入れる一次救急から三次救急病院を念頭においた機能であり、病院であれば導入可能です。診療所や薬局への開放は想定されていません。

閲覧できる情報は、通常のオンライン資格確認等システムで表示可能な診療・薬剤情報に加え、救急用サマリーが含まれます。救急用サマリーには、受診歴(3か月分)、電子処方箋情報(45日分)、薬剤情報(3か月分)、手術情報(5年分)、診療情報(3か月分)、透析情報(3か月分)、健診実施日が集約されています。通常表示の期間よりも短い期間に限定することで、救急現場で必要な情報を迅速に把握できるよう設計されています。

救急科の医師からは、この機能の有効性について複数の声が寄せられています。第1の声として、意識不明の患者に対して薬剤情報を即座に確認でき、抗凝固薬の服用の有無がわかることで、脳出血のケースにおける拮抗薬投与の判断が迅速に行えるようになったという報告があります。第2の声として、初診の患者でも受診歴を頼りにかかりつけ医療機関を特定して問い合わせることで、過去の手術歴など詳細な情報を把握できるようになったという報告があります。第3の声として、救急用サマリーにより必要な情報が一元的に把握でき、治療リスクの評価や処置の判断が迅速に行えるようになったという報告があります。

これらの医師の声からも明らかなように、救急時医療情報閲覧機能は、意識不明等により同意の取得が困難な患者においても、薬剤情報・受診歴・手術歴等を迅速かつ正確に把握でき、救急現場での治療判断の質とスピードの向上につながっています。

サイバーセキュリティ対策の現状と診療録管理体制加算

サイバーセキュリティ対策は、医療DXの推進において不可欠な基盤です。令和6年度診療報酬改定における見直しにより、BCPやオフラインバックアップに取り組む医療機関が増加しました。一方で、情報セキュリティの統括責任者について、情報処理技術にかかる資格の取得者が少ない状況が課題として挙げられています。

診療録管理体制加算は、入院初日に算定される加算であり、3つの区分が設けられています。加算1は140点、加算2は100点、加算3は30点です。加算1の施設基準には、サイバーセキュリティ対策に関する複数の要件が含まれています。

加算1の主な施設基準として、3つの要件があります。第1に、許可病床数が200床以上の保険医療機関については、安全管理ガイドラインに基づき、専任の医療情報システム安全管理責任者を配置することが求められます。当該責任者は、職員を対象として、少なくとも年1回程度、定期的に必要な情報セキュリティに関する研修を行う必要があります。第2に、非常時に備えた医療情報システムのバックアップを複数の方式で確保し、その一部はネットワークから切り離したオフラインで保管することが求められます。日次でバックアップを行う場合は、少なくとも3世代を確保する等の対策が必要です。第3に、非常時を想定した業務継続計画(BCP)を策定し、医療情報システム安全管理責任者の主導の下、少なくとも年1回程度、定期的に訓練・演習を実施することが求められます。

病院におけるサイバーセキュリティ対策の調査結果によると、情報セキュリティの統括責任者(CISO)を設置している病院は全体の73%です。病床数別にみると、500床以上の病院では96%が設置している一方、20~99床の病院では65%にとどまっています。CISOを設置している病院のうち、医療情報に関連した資格を保持していた割合は15%程度にとどまっています。

CISOがIPAの実施する情報処理技術者資格を保持している割合をみると、病床数の多い病院では情報セキュリティマネジメント試験や情報処理安全確保支援士の所持者が多い傾向がありました。しかし、全体としては資格保持者が少なく、セキュリティ人材の育成が課題となっています。

まとめ:令和8年度改定に向けた論点

電子カルテ・電子カルテ情報共有サービスは、2026年夏までに普及計画を策定し、2026年(令和8年)冬頃の全国運用開始を目指しています。救急時医療情報閲覧機能は既にサービスを開始しており、救急現場での治療判断の質とスピードの向上に貢献しています。サイバーセキュリティ対策は、診療報酬改定の見直しにより取り組む医療機関が増加しましたが、セキュリティ人材の育成が引き続き課題です。

中央社会保険医療協議会では、医療DXにかかる各サービスの進捗状況や医療現場での患者メリットを踏まえ、これまでの評価により大きく普及した取り組みの実施を基本としつつ、更に普及を図るべき取り組みに着目した評価を行うことが論点として示されています。令和8年度診療報酬改定に向けて、各サービスの普及状況に応じた適切な評価のあり方について、今後の議論が注目されます。

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