令和8年4月8日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第649回)で、費用対効果評価専門組織から、てんかん治療薬「ブリィビアクト錠(一般名:ブリーバラセタム)」の費用対効果評価案が報告されました。費用対効果評価の結果は、薬価の価格調整に直結します。本号では、この評価案の結果と、その結果を導いた議論のポイントを解説します。
ブリィビアクト錠は、費用対効果評価で最も低い価格調整係数が対応する区分と評価されました。第一に、評価結果として、併用療法の患者集団でICERが最も高い「1,000万円/QALY以上」の区分となりました。第二に、評価の過程で、公的分析は追加的有用性、治療継続率、後治療、QOL値の4点で企業分析を見直しました。第三に、企業の不服意見に対して、専門組織は公的分析の結果が妥当と結論付けました。
評価結果:併用療法の患者でICER1,000万円/QALY以上
評価結果として、ブリィビアクト錠は併用療法の患者集団で、ICERが1,000万円/QALY以上と評価されました。この区分には、最も低い価格調整係数「0.1」が対応します。
評価対象となったブリィビアクト錠は、市場規模の大きさから費用対効果評価の対象に指定された品目です。製造販売業者はユーシービージャパン株式会社です。効能・効果は「てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)」です。収載時価格は25mg1錠373.30円、50mg1錠609.30円で、有用性系加算率は5%です。ピーク時の市場規模は178億円と予測されています。この市場規模により、本剤は「H1(市場規模100億円以上)」区分として、2024年8月7日の総会で評価対象に指定されました。
評価の物差しとなるICER(増分費用効果比)は、比較対照の治療と比べて、追加の効果1単位を得るのに必要な費用を示す指標です。効果の単位にはQALY(質調整生存年)を使います。1QALYは、完全に健康な状態で1年間生存することに相当します。ICERが高いほど、追加の効果を得るために多くの費用がかかることを意味します。
ICERの算出にあたり、比較対照技術は両集団ともレベチラセタムです。併用療法を受ける患者集団(患者割合100%)では、比較対照は「レベチラセタム+薬物療法」となります。この集団での争点は、分析で想定する治療の順番でした。企業は、薬剤の世代ごとに治療を選ぶ枠組みを示しました。一方、専門組織は、薬理作用に基づいて治療を選ぶ公的分析の枠組みを妥当としました。臨床現場では、ある薬剤が効かない場合に、同じ薬理作用の薬剤を選ぶことは考えにくいためです。なお、単剤療法を受ける患者集団は「分析不能」とされています。
ICERの区分と価格調整係数の関係は、資料のグラフで次のように示されています。
ICER 200万円/QALY以上500万円/QALY未満:価格調整係数 1.0
ICER 500万円/QALY以上750万円/QALY未満:価格調整係数 0.7
ICER 750万円/QALY以上1,000万円/QALY未満:価格調整係数 0.4
ICER 1,000万円/QALY以上:価格調整係数 0.1
本剤は、最も低い係数0.1の区分に該当します。この価格調整係数は、有用性系加算などの価格部分に適用されます。つまり、価格調整の対象は薬価全体ではありません。最終的な価格は、価格決定の時点で確定します。価格決定では、その時点の最新価格を用いてICERの区分が機械的に再計算されます。そのため、区分が変更される場合もあります。
評価の過程:公的分析が企業分析を見直した4つの論点
評価の過程で、公的分析は、追加的有用性、維持治療の継続率、後治療、QOL値の4点で企業分析を見直しました。公的分析とは、企業の分析を国の側で検証・再分析する仕組みです。4つの論点はいずれも、企業の設定の根拠に課題があると判断された点です。
追加的有用性について、公的分析は、発作抑制効果ではレベチラセタムに対する追加的有用性は示されていないと判断しました。判断の根拠は、複数の臨床試験を統合するネットワークメタアナリシスの結果です。完全発作消失率のオッズ比は1.208(95%信頼区間0.457~3.194)でした。この値は1を超えるものの、信頼区間の幅が広い結果です。一方、50%レスポンダー達成率(発作回数が半分以下に減った患者の割合)のオッズ比は0.787(95%信頼区間0.554~1.118)でした。この値からは、本剤の有効性が劣る可能性も否定できません。2つの指標で相反する結果が出たため、公的分析は両指標にオッズ比1.000(差なし)を適用しました。
維持治療の継続率について、公的分析は、異なる種類のデータを比べた企業の推計を見直しました。企業は、本剤にはランダム化比較試験(RCT)のデータを用いました。一方、レベチラセタムにはレセプトデータベースを用いた観察研究のデータを用いました。この比較から、企業は本剤の継続率が高いと推計しました。しかし、RCTと観察研究は研究デザインが大きく異なります。そこで公的分析は、レベチラセタムの中断率に「有害事象による治療中断」のオッズ比0.678を乗じて、本剤の継続率を推計しました。
後治療について、公的分析は、後治療の費用とQOL値を「0」とした企業の設定を改めました。後治療とは、本剤またはレベチラセタムを中止した後の治療です。具体的には、ブリーバラセタムとレベチラセタムを含まない合理的多剤併用療法、迷走神経刺激療法、外科手術などを指します。費用とQOL値が「0」の状態は、「死亡」と同じ扱いを意味します。しかし、後治療を受ける患者は生存しています。そこで公的分析は、近い健康状態と考えられる「非レスポンダー」の費用とQOL値を後治療に適用しました。
QOL値について、公的分析は、韓国の一般人から得た値を、患者本人から得た値に置き換えました。企業は、韓国の一般人を対象にビニエット法で測定したQOL値(Kang 2014)を用いました。ビニエット法とは、文章で示した健康状態を一般人に想像してもらい、評価を得る手法です。分析ガイドラインは、この手法を「本人から回答を得ることが困難な場合」の方法と位置付けています。しかし、部分発作の患者本人に対するQOL調査は、本剤の臨床試験(N01252、N01253、N01254試験)で実施済みです。加えて、Kang 2014のシナリオは、発作のたびに意識消失・転倒・記憶障害が起き、発作が月10回以上起きる重い状態を前提としていました。そこで公的分析は、臨床試験で患者本人から得たQOL値を用いました。
企業の不服意見と専門組織の判断
企業の不服意見として、製造販売業者は後治療、追加的有用性、QOL値、分析不能集団の4点について主張しました。専門組織は議論の結果、分析結果については公的分析が妥当と結論付けました。
後治療について、企業は後治療を考慮しない評価を求めました。企業の理由は、後治療を含めると不確実性が増すことです。企業は、自社の他製品(ビンゼレックス)での扱いを前例として示しました。これに対し専門組織は、後治療を分析に含めるべきと判断しました。ビンゼレックスの例は、評価対象と比較対照で後治療への移行確率が同等だったための措置です。この前例から、本剤の後治療を分析から外す判断は導けません。
追加的有用性について、企業は加算の価値がICERに反映されていないと主張しました。本剤は薬価算定時に、有用性加算(治療方法の改善[利便性])を受けています。企業は、ICERに反映できない価値に対する加算の減額は適切でないと主張しました。これに対し専門組織は、現時点のデータに基づいて分析するべきと判断しました。新たなエビデンスが得られた場合は、H3品目として対応すべきとしています。
QOL値について、企業は韓国人のビニエット法による値を用いるのが妥当と主張しました。企業の理由は、日本人のQOL値が存在しない以上、欧米人の値より韓国人の値が合理的な代替になることです。これに対し専門組織は、患者本人から得たQOL値を使うべきと判断しました。企業が用いた値は、先行研究と比べて非常に低い値です。専門組織は、重い発作を前提としたシナリオでは、非常に低い値になることは容易に推測できるとしました。そのうえで、この値の採用は学術的に問題が大きいとしました。
分析不能集団について、企業は単剤療法の患者集団の評価中断を求めました。中医協の取り決めでは、データ不足で「分析不能」と確認された品目は、専門組織での協議を経て、総会で評価を中断できます。企業は、単剤療法の臨床試験を計画中であり、分析に使えるデータを得られる見込みが高いと主張しました。この点について、資料には専門組織の個別の判断は示されていません。評価結果案は、併用療法の患者集団のみを対象としています。
まとめ:ブリィビアクト錠は価格調整係数0.1の区分に
ブリィビアクト錠の費用対効果評価案は、費用に見合う効果が乏しいとの結果になりました。第一に、評価結果として、併用療法の患者集団でICERが1,000万円/QALY以上となり、最も低い価格調整係数0.1が対応します。第二に、評価の過程で、公的分析は追加的有用性、治療継続率、後治療、QOL値の4点で企業分析を見直しました。第三に、企業の不服意見に対して、専門組織は公的分析の結果が妥当と結論付けました。
なお、資料は、企業分析と公的分析の双方に一定の科学的妥当性を認めています。資料の検討事項は、双方の見解が主に異なる部分を抜粋したものです。評価の詳細は、国立保健医療科学院が公表する報告書で確認できます。
参考資料:中医協 総-2「医薬品等の費用対効果評価案について」(令和8年4月8日)










