中央社会保険医療協議会(中医協)は、令和8年3月11日の総会(第648回)で「DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応」を議題としました。この対応は、DPC対象病院が新規医薬品をどの方式で請求するかを直接左右します。本記事は、今回示された判定結果と、医療機関が確認すべき実務上の留意点を整理します。
今回の資料は、いずれも「としてはどうか」という事務局提案の形式で示されています。提案の内容は、出来高算定の対象追加と、診断群分類の定義への反映という2つの措置からなります。判定の基準は、当該医薬品を使った場合の1入院当たり薬剤費が、その診断群分類の包括範囲薬剤費の84パーセンタイル値を超えるかどうかです。この基準に該当し、次期診療報酬改定まで出来高算定となる医薬品は16あります。また、類似薬効比較方式で薬価が算定され、比較薬の分岐が既にある医薬品5つは、診断群分類の定義に反映されます。
高額薬剤判定の仕組み
高額薬剤判定とは、高額な新規医薬品を一定期間だけ包括評価の対象外とする仕組みです。判定は診断群分類ごとにおこない、薬剤費の84パーセンタイル値を基準とします。判定作業は、高額薬剤告示への追加と定義告示への追加の2つで構成されます。
高額薬剤判定の目的は、医療の技術革新の導入を妨げない点にあります。新規に薬価収載された医薬品は、DPC/PDPSの診療報酬点数表に反映されていません。そのまま包括評価を適用すると、高額な新薬を使うほど医療機関の持ち出しが大きくなります。そこで厚生労働省は、十分な使用実績データが集まるまでの間、対象薬剤を包括評価の対象外としています。
包括評価の対象外とするかどうかは、個別の診断群分類ごとに判定します。同じ医薬品でも、対象となる診断群分類と対象とならない診断群分類が分かれます。前年度に使用実績のない医薬品は、標準的な使用における薬剤費の見込み額で評価します。この見込み額には、併用する医薬品の費用も含めます。
見込み額の評価では、84パーセンタイル値が判定のものさしになります。まず、添付文書の用法・用量に従って入院初日から退院まで投与した場合の投与回数(仮想投与回数)を求めます。次に、その回数から1入院当たりの薬剤費を算出します。この薬剤費が、当該診断群分類で使われている1入院当たり薬剤費の84パーセンタイル値を超える場合、当該医薬品を高額薬剤として指定します。
高額薬剤として指定された医薬品は、2つの告示によって運用に反映されます。ひとつは高額薬剤告示で、包括評価の対象外となる薬剤と診断群分類を定めます。もうひとつは定義告示で、診断群分類の定義(傷病名・手術・処置等)を定めます。これら2つの作業は、新薬の薬価収載に合わせて年4回実施されます。
出来高算定の対象となる16の医薬品
今回、出来高算定の対象として提案された医薬品は16あります。内訳は、効能効果・用法用量の一部変更が7、事前評価済公知申請が1、新規の薬価収載予定品が8です。これらの薬剤を使用した患者のうち、対応する診断群分類に該当するものは、次期診療報酬改定までの間、出来高で算定します。
対象となった医薬品は、令和7年10月から令和8年3月までの承認・収載の動きに対応しています。効能効果・用法用量の一部変更は、令和7年11月20日および12月22日に追加されたものです。事前評価済公知申請は、令和7年10月29日に受理されたものです。新薬は、令和8年3月18日に薬価収載を予定しているものです。
効能効果・用法用量の一部変更による対象は、次の7医薬品です。
1. ユプリズナ点滴静注100mg(イネビリズマブ)
効能効果:IgG4関連疾患の再燃抑制
対象診断群分類:030500 唾液腺の疾患(その他)、060340 胆管(肝内外)結石・胆管炎、060360 慢性膵炎(膵嚢胞を含む)等、070560 重篤な臓器病変を伴う全身性自己免疫疾患、110280 慢性腎炎症候群等、110420 水腎症等
2. ビラフトビカプセル50mg・75mg(エンコラフェニブ)
効能効果:BRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
対象診断群分類:060035 結腸(虫垂を含む)の悪性腫瘍、060040 直腸肛門の悪性腫瘍
3. オータイロカプセル40mg・160mg(レポトレクチニブ)
効能効果:NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌
対象診断群分類:010010 脳腫瘍、03001x 頭頸部悪性腫瘍など、固形癌を中心とした35区分
4. ベネクレクスタ錠10mg・50mg・100mg(ベネトクラクス)
効能効果:慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)
対象診断群分類:130030 非ホジキンリンパ腫
5. ダラキューロ配合皮下注(ダラツムマブ/ボルヒアルロニダーゼ アルファ)
効能効果:高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫における進展遅延
対象診断群分類:130040 多発性骨髄腫、免疫系悪性新生物
6. テセントリク点滴静注1200mg(アテゾリズマブ)
効能効果:切除不能な胸腺癌
対象診断群分類:040010 縦隔悪性腫瘍、縦隔・胸膜の悪性腫瘍
7. デュピクセント皮下注200mg・300mg(デュピルマブ)
効能効果:気管支喘息(既存治療でコントロールできない重症・難治の患者に限る)。今回は6歳以上12歳未満の小児の用法用量が追加されました
対象診断群分類:040100 喘息
事前評価済公知申請による対象は、マブキャンパス点滴静注30mg(アレムツズマブ)の1医薬品です。効能効果はT細胞性前リンパ球性白血病で、対象診断群分類は非ホジキンリンパ腫です。薬価は1瓶90,907円で、1回投与当たりの標準的な費用も同額となります。
令和8年3月18日に薬価収載を予定している新薬による対象は、次の8医薬品です。
1. プリミーフォート経腸用液6・8・CF(人乳等)
効能効果:極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児・乳児の栄養管理
対象診断群分類:全診断群分類
2. セピエンス顆粒分包250mg・1000mg(セピアプテリン)
効能効果:フェニルケトン尿症
対象診断群分類:100335 代謝障害(その他)
3. ボラニゴ錠10mg(ボラシデニブクエン酸水和物)
効能効果:IDH1またはIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫
対象診断群分類:010010 脳腫瘍、070030 脊椎・脊髄腫瘍
4. エルゾンリス点滴静注1000µg(タグラキソフスプ)
効能効果:芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍
対象診断群分類:130010 急性白血病
5. ブーレンレップ点滴静注用100mg(ベランタマブ マホドチン)
効能効果:再発または難治性の多発性骨髄腫
対象診断群分類:130040 多発性骨髄腫、免疫系悪性新生物
6. ミンジュビ点滴静注用200mg(タファシタマブ)
効能効果:再発または難治性の濾胞性リンパ腫
対象診断群分類:130030 非ホジキンリンパ腫
7. リブロファズ配合皮下注(アミバンタマブ/ボルヒアルロニダーゼ アルファ)
効能効果:EGFR遺伝子エクソン20挿入変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌、およびEGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
対象診断群分類:040040 肺の悪性腫瘍
8. ルンスミオ皮下注5mg・45mg(モスネツズマブ)
効能効果:再発または難治性の濾胞性リンパ腫
対象診断群分類:130030 非ホジキンリンパ腫
16医薬品のなかでも、1回投与当たりの費用が特に大きい薬剤には注意が必要です。ユプリズナは1回当たり10,485,912円、エルゾンリスは1回当たり3,607,878円に達します。プリミーフォートは、対象となる診断群分類を特定できないため、全包括診断群分類の包括範囲薬剤費を用いて判定されました。その結果、同剤は全診断群分類が出来高算定の対象となります。
診断群分類の定義に反映される5つの医薬品
今回、診断群分類の定義に反映される医薬品は5つあります。いずれも類似薬効比較方式により薬価が算定され、かつ比較薬に特化した診断群分類の分岐が既に設定されている医薬品です。これらは既存の分岐に追加されるため、比較薬と同じ取扱いになります。
1. エクテリー錠300mg(セベトラルスタット)
反映させる診断群分類:130150 原発性免疫不全症候群
追加される分岐(比較薬):イカチバント酢酸塩
2. ジニイズ点滴静注500mg(レチファンリマブ)
反映させる診断群分類:060040 直腸肛門(直腸S状部から肛門)の悪性腫瘍
追加される分岐(比較薬):ペムブロリズマブ
3. ブーレンレップ点滴静注用100mg(ベランタマブ マホドチン)
反映させる診断群分類:130040 多発性骨髄腫、免疫系悪性新生物
追加される分岐(比較薬):ダラツムマブ
4. ミンジュビ点滴静注用200mg(タファシタマブ)
反映させる診断群分類:130030 非ホジキンリンパ腫
追加される分岐(比較薬):オビヌツズマブ
5. リブロファズ配合皮下注(アミバンタマブ/ボルヒアルロニダーゼ アルファ)
反映させる診断群分類:040040 肺の悪性腫瘍
追加される分岐(比較薬):アミバンタマブ
5つのうち3つは、出来高算定の対象にも同時に該当します。ブーレンレップ、ミンジュビ、リブロファズの3剤がこれにあたります。これら3剤は、定義告示上の分岐に追加されたうえで、該当する診断群分類では出来高算定の対象にもなります。残るエクテリーとジニイズは、定義告示への追加のみが対象です。
医療機関が確認すべき3つの実務ポイント
医療機関は、算定期間、対象の組合せ、システム更新の3点を確認してください。いずれも請求誤りに直結する項目です。なお、本章は資料の記載ではなく、資料をもとにした一般的な留意点です。
算定期間は、次期診療報酬改定までの間に限られます。出来高算定は恒久的な取扱いではありません。この取扱いは、十分な使用実績データが集まり包括評価が可能になるまでの暫定措置です。したがって、期間の終期を院内で共有しておく必要があります。
対象の判定は、薬剤単独ではなく「薬剤と診断群分類の組合せ」でおこないます。同じ薬剤を使っていても、該当しない診断群分類では包括評価のままです。とくにオータイロやユプリズナのように対象分類が多い薬剤では、14桁の診断群分類番号まで照合してください。
システム更新は、告示された診断群分類番号を基準に実施します。医事会計システムとレセプト点検の設定を、新しい高額薬剤告示と定義告示に合わせて更新します。更新後は、対象薬剤を使用した症例で出来高算定が正しく反映されるかを検証してください。検証の際は、併用薬を含めた請求区分の整合性もあわせて確認します。
まとめ
中医協総会(第648回)には、DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応が示されました。今回の提案は、出来高算定の対象追加と、診断群分類の定義への反映の2つからなります。判定の基準は、1入院当たり薬剤費が84パーセンタイル値を超えるかどうかです。出来高算定の対象は16医薬品、定義への反映は5医薬品で、うち3医薬品は双方に該当します。DPC対象病院は、算定期間、薬剤と診断群分類の組合せ、システム更新の3点を早めに確認してください。
※本記事は令和8年3月11日の中医協総会資料(総-5、総-5参考)にもとづく解説です。実際の運用は、公布される告示および関係通知をご確認ください。










