中央社会保険医療協議会(中医協)総会は、令和8年3月11日に第648回会合を開催しました。同会合では、令和8年3月18日に薬価基準へ収載する新医薬品が示されました。収載日は会合のわずか1週間後であり、医療機関と薬局には短期間での準備が求められます。本稿は、今回の収載内容を「品目の全体像」「薬価算定の要点」「処方日数制限の例外」の3点から整理します。
今回の収載は、高額な腫瘍用薬が中心となる点と、1品目に処方日数制限の例外が設けられる点が特徴です。第一に、収載されるのは14成分20品目であり、うち腫瘍用薬が7成分を占めます。第二に、補正加算は8成分に適用される一方で、2品目の不服意見はいずれも認められませんでした。第三に、ボラニゴ錠10mgについては、処方日数制限を14日間ではなく30日間として取り扱う案が示されました。
1.収載品目の全体像:14成分20品目、腫瘍用薬が半数
令和8年3月18日に収載される新医薬品は、14成分20品目です。剤形別の内訳は、内用薬が7成分12品目、注射薬が6成分7品目、外用薬が1成分1品目です。各社が示したピーク時の予測販売金額を単純に合算すると、約1,635億円です。ただし、ピーク時として想定される年度は品目ごとに異なります。
薬効分類では、その他の腫瘍用薬が7成分と最も多くを占めます。具体的には、ボラニゴ錠10mg(ボラシデニブ)、エルゾンリス点滴静注1000μg(タグラキソフスプ)、ジニイズ点滴静注500mg(レチファンリマブ)、ブーレンレップ点滴静注用100mg(ベランタマブ マホドチン)、ミンジュビ点滴静注用200mg(タファシタマブ)、リブロファズ配合皮下注(アミバンタマブ・ボルヒアルロニダーゼ アルファ)、ルンスミオ皮下注(モスネツズマブ)の7成分です。いずれも希少疾病や難治性がんを対象としており、対象患者数は限られます。
腫瘍用薬には、算定薬価が100万円を超える品目が並びます。最高額はエルゾンリス点滴静注1000μgの3,607,878円(1瓶)です。これに、ルンスミオ皮下注45mgの2,327,787円(1瓶)、ブーレンレップ点滴静注用100mgの1,284,052円(1瓶)が続きます。一方で予測販売金額が最も大きいのはリブロファズ配合皮下注であり、ピーク時に438億円と見込まれています。
小児および希少疾病領域の品目も、今回の収載の柱です。プリミーフォート経腸用液(人乳等)は、極低出生体重児等の体重増加不全を呈する新生児および乳児の栄養管理を効能・効果とします。セピエンス顆粒分包(セピアプテリン)は、フェニルケトン尿症を効能・効果とします。オプスミット小児用分散錠(マシテンタン)は、3カ月以上の小児の肺動脈性肺高血圧症に用いる分散錠です。
対象患者数の多い品目も含まれており、一般外来への影響も想定されます。アバレプト懸濁性点眼液0.3%(モツギバトレプ)は、ドライアイを効能・効果とし、ピーク時に63.1万人の投与が予測されています。ザズベイカプセル30mg(ズラノロン)は、うつ病・うつ状態を効能・効果とし、同じく20万人が予測されています。イセルティ錠100mg(リンザゴリクスコリン)は、子宮筋腫に基づく諸症状の改善を効能・効果とし、4.1万人が予測されています。
2.薬価算定の要点:加算は8成分、不服意見は2件とも不採用
今回の薬価算定では、算定方式の内訳と補正加算の適否が要点となります。算定方式は、類似薬効比較方式(Ⅰ)が11成分、原価計算方式が2成分、規格間調整が1成分です。類似薬効比較方式(Ⅰ)は、効能・効果や薬理作用が類似する既収載品(最類似薬)と1日薬価をそろえる方式を指します。原価計算方式は、類似薬がない場合に製造原価や営業利益を積み上げる方式を指します。
補正加算が認められたのは、14成分のうち8成分です。特定用途加算はオプスミット小児用分散錠に10%が適用されました。小児加算はプリミーフォート経腸用液とセピエンス顆粒分包に各10%が適用されました。有用性加算(Ⅱ)はエクテリー錠300mg、エルゾンリス点滴静注、ジニイズ点滴静注に各5%、ブーレンレップ点滴静注用に10%が適用されました。市場性加算(Ⅰ)はエルゾンリス点滴静注に15%、ジニイズ点滴静注とミンジュビ点滴静注用に各10%が適用されました。迅速導入加算はブーレンレップ点滴静注用とミンジュビ点滴静注用に各5%が適用されました。なお、ここでいう補正加算は、画期性加算から迅速導入加算までの加算を指します。新薬創出・適応外薬解消等促進加算はこれとは別枠であり、14成分のうち11成分が該当します。
加算が認められても薬価が上がらない品目がある点には、注意が必要です。プリミーフォート経腸用液とエルゾンリス点滴静注は、いずれも原価計算方式で算定され、加算係数が0とされました。加算係数は原価の開示度に応じて設定される係数であり、開示度が低い場合には0となります。その結果、両品目では加算率が算定薬価に反映されず、加算前と加算後の価格が同額となりました。
外国平均価格調整によって薬価が引き上げられた品目は、3品目です。ボラニゴ錠10mgは15,895.90円から31,791.80円へ引き上げられました。エルゾンリス点滴静注1000μgは3,079,692円から3,607,878円へ引き上げられました。ミンジュビ点滴静注用200mgは117,248円から125,201円へ引き上げられました。なお、ザズベイカプセル30mgは、海外での効能・効果が「産後うつ病」に限られることから、調整の対象外とされています。
算定案に対する不服意見は2品目から示されましたが、いずれも認められませんでした。ブーレンレップ点滴静注用は、有用性加算の要件ハ③への該当を主張しました。これに対し第二回算定組織は、同一の観点での重複評価は行わないこと、本邦で最も推奨される標準的治療とは判断できないことを理由に、該当しないとの見解を示しました。アバレプト懸濁性点眼液は、初のTRPV1阻害剤としての新規性を主張しました。これに対し第二回算定組織は、温度感の異常等の特徴的な副作用が注意喚起されていること、ベネフィットがリスクを大きく上回るとまでは判断できないことを理由に、該当しないとの見解を示しました。
費用対効果評価の対象となったのは、ブーレンレップ点滴静注用100mgの1品目です。同品目はH1区分に該当するとされました。H1区分は、ピーク時の市場規模が大きい品目を対象とする区分であり、収載後に費用対効果の分析と価格調整が行われます。
3.処方日数制限の例外:ボラニゴ錠10mgは30日間
ボラニゴ錠10mgについては、処方日数制限を14日間ではなく30日間として取り扱う案が示されました。新医薬品は、薬価基準収載の翌月の初日から1年間、原則として1回14日分を限度に投与することとされています。この「14日ルール」には、平成22年10月27日の中医協了承に基づく例外規定が2種類あります。今回適用されるのは、そのうち②の要件です。②の要件は、疾患の特性や製剤上の特性から1回の投薬期間が14日を超えることに合理性があり、かつ投与初期から14日を超える投薬における安全性が確認されていることです。この要件を満たす場合、処方日数制限は製剤の用法・用量から得られる最少日数に応じた日数となります。
第一の根拠は、疾患の特性です。ボラニゴ錠10mgの対象であるびまん性神経膠腫は、脳機能障害やてんかん発作など多彩な症状を引き起こします。低リスクのGrade2の患者では、毒性の高い化学・放射線療法を延期する「積極的な経過観察」が標準治療の選択肢の一つとなっています。したがって、手術後で直ちに放射線療法等を実施する必要がない患者に対する治療選択肢は、限られています。
第二の根拠は、製剤上の特性です。本剤の包装単位は1ボトル30個です。吸湿性等の特性から、錠剤を分包化することは適さず、ボトルのまま処方・管理する必要があります。そのため、減量が必要な患者や体重40kg未満の12歳以上の小児患者では、14日間で1ボトルを使い切ることができません。
第三の根拠は、投与初期からの安全性です。IDH1またはIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験では、14日間を超える投薬が行われました。承認審査においても、本剤の安全性は許容可能であるとされました。
実務では、対象品目と対象期間の切り分けが重要になります。今回の資料で例外的な取扱いが示されたのは、収載品目のうちボラニゴ錠10mgのみです。ほかの品目については、原則どおりの取扱いとなります。処方日数制限の期間は、薬価基準収載の翌月の初日から1年間です。令和8年3月18日収載の品目であれば、令和8年4月1日から令和9年3月31日までが対象期間となります。
まとめ:3月18日収載に向けて押さえるべき3点
第648回中医協総会では、令和8年3月18日に収載する新医薬品が示されました。収載されるのは14成分20品目であり、うち腫瘍用薬が7成分を占めます。補正加算は8成分に適用された一方で、2品目の不服意見はいずれも認められませんでした。ボラニゴ錠10mgについては、処方日数制限を30日間とする例外的な取扱いの案が示されました。収載日までの期間は短いため、採用予定品目の薬価と処方日数の確認を早めに進めることをおすすめします。
出典
中央社会保険医療協議会 総会(第648回)議事次第(令和8年3月11日)
中医協 総-2-1「医薬品の新規薬価収載等について」
中医協 総-2-2「令和8年3月薬価収載予定の新薬のうち14日ルールの例外的な取扱いをすることについて(案)」
注記 本稿は令和8年3月11日時点の中医協提出資料に基づきます。14日ルールの例外的な取扱いは「案」として示されたものであり、最終的な取扱いは厚生労働省が発出する告示・通知をご確認ください。










