令和8年度診療報酬改定は、残薬対策を推進するため、処方箋様式を見直します。現行の様式では、薬局が調剤時に残薬を確認した場合の対応として、「保険医療機関へ疑義照会した上で調剤」と「保険医療機関へ情報提供」の2つしか指示できません。そのため、残薬に応じて数量を減らして調剤する取扱いを、医療機関があらかじめ処方箋上で指示することができません。本稿では、個別改定項目Ⅳ-4-1④「残薬対策の推進に向けた処方箋様式の見直し」について、改定の内容と施行に向けた実務対応を解説します。
今回の見直しは、減らして調剤する取扱いを保険医療機関が事前に指示できるようにしたうえで、薬局に事後の報告を求める仕組みです。第1に、処方箋様式の備考欄に「調剤する薬剤を減量した上で保険医療機関に情報提供する」という選択肢を追加します。第2に、留意事項通知の調剤報酬点数表に関する事項に、薬局が減量して調剤した場合は原則翌営業日までに保険医療機関へ情報提供することを規定します。第3に、同じく調剤報酬点数表に関する事項に、数量を減じて調剤した旨を手帳へ記載することを規定します。なお本稿では、以下「減量調剤」を、薬局が残薬に応じて調剤する数量を減らすことの意味で用います。
1. 見直しの背景:現行様式では減量調剤を事前に指示できない
見直しの背景には、現行の処方箋様式が持つ2つの制約があります。ひとつは指示できる対応の選択肢が限られている点であり、もうひとつは実際の利用が広がっていない点です。以下では、平成28年度改定で導入された仕組みと、その後の運用実態を順に確認します。
現行の仕組みは、平成28年度診療報酬改定で導入されました。この改定では、処方医と薬剤師が連携して残薬確認と残薬に伴う調剤数量の調整を実施できるよう、処方箋様式に「保険薬局が調剤時に残薬を確認した場合の対応」を記載する欄を設けました。この欄で指示できる対応は、「保険医療機関へ疑義照会した上で調剤」と「保険医療機関へ情報提供」の2つです。チェックがある場合、薬局は患者の残薬の有無を確認し、残薬が確認されればこのいずれかの対応を行います。
この2つの選択肢は、実際の運用では十分に活用されていません。令和2年度改定の結果検証に係る特別調査(令和3年度調査、薬局n=887)によると、令和3年6月の1か月間で、「疑義照会した上で調剤」のチェックがある処方箋の受付が0回だった薬局は41.7%でした。「情報提供」のチェックについても、0回だった薬局は47.9%です。いずれも無回答が2割超(22.3%、23.9%)含まれる全体に対する割合であり、無回答を除いた受付回数の中央値はどちらも0回でした。一方で、医療機関が備考欄に「残薬調整後報告可」と記載し、薬局との連携で残薬調整に取り組む事例も報告されています。
こうした運用の背景には、薬局側の負担があります。令和4年度改定の結果検証に係る特別調査(令和5年度調査、n=1,008)では、残薬調整での問題点として「患者が全ての薬剤を持参しない」を挙げた回答が53.3%、「患者の残薬を確認することに時間がかかる」を挙げた回答が62.3%でした。残薬確認そのものに手間がかかるうえ、確認後に疑義照会を行えば、薬局と医療機関の双方にさらに時間が生じます。中央社会保険医療協議会は、これらの状況を踏まえ、医師が事前に、薬局で残薬を確認した際の取扱いについて円滑に指示を行えるよう処方箋様式を見直すことを論点としました。
2. 改定内容①:備考欄に「減量した上で情報提供」の選択肢を追加する
改定内容の第1は、処方箋様式の備考欄への選択肢の追加です。追加されるのは、薬局が調剤する薬剤を減量したうえで、保険医療機関へ情報提供する対応です。この追加により、指示できる対応は従来の2つから3つに増えます。
追加される選択肢は、「調剤する薬剤を減量した上で保険医療機関に情報提供する」ことを保険医療機関が指示できるようにするものです。この指示がある処方箋では、薬局は患家の残薬を確認したうえで、残薬に応じた数量で調剤し、その後に医療機関へ情報提供することになります。減量の可否についての判断は、処方箋を発行する時点で備考欄に示されます。したがって、調剤のたびに個別の照会を行わなくても数量調整ができる運用が想定されます。ただし、個別改定項目には疑義照会の要否そのものは明記されていません。実際の取扱いは、今後発出される通知等でご確認ください。
この選択肢の追加は、保険医療機関の指示を前提とする仕組みである点に注意が必要です。備考欄の指示は、処方箋ごとに記載するものであり、すべての処方箋で減量調剤が認められるわけではありません。この欄にチェックがない処方箋については、そもそも残薬確認時の対応についての指示がない状態となります。したがって医療機関は、どのような患者や薬剤についてこの指示を行うかを、院内で整理しておく必要があります。
3. 改定内容②:留意事項通知に薬局の報告と手帳記載を規定する
改定内容の第2は、留意事項通知への規定の追加です。規定されるのは、調剤報酬点数表に関する事項、すなわち薬局側の取扱いです。内容は、保険医療機関への情報提供と、手帳への記載の2つです。
第1の内容は、保険医療機関への情報提供です。薬局において薬剤を減量して調剤した場合、原則として翌営業日までに、保険医療機関へ情報を提供します。提供する内容は、患者の残薬の状況、その理由、実際に患者へ交付した薬剤の数量、患者への説明内容などです。この情報提供により、医師は次回の処方までに実際の交付量と残薬の背景を把握できます。
第2の内容は、手帳への記載です。薬局は、数量を減じて調剤した旨を手帳に記載します。手帳への記載は、患者本人や他の医療機関、他の薬局が調剤内容の変更を確認する手段になります。これらの2つの内容は、事前指示による減量調剤が薬局の判断のみで完結する仕組みではないことを示しています。
4. 実務対応:医療機関と薬局はそれぞれ運用ルールを整える
施行に向けた実務対応は、医療機関と薬局で内容が分かれます。医療機関は指示の出し方を整え、薬局は減量調剤後の報告体制を整えます。なお本章は、個別改定項目に記載された内容そのものではなく、改定内容から想定される準備事項を整理したものです。
医療機関が整えるのは、指示の出し方とシステム対応です。まず、電子カルテやレセプトコンピュータが出力する処方箋を、新しい様式へ更新する必要があります。次に、どの患者にどの選択肢を指示するかの判断基準を、院内で共有します。さらに、薬局から届く情報を、誰がどのように診療録へ反映するかを決めておきます。減量の情報が次回処方に反映されなければ、残薬対策の効果は限定的になるためです。
薬局が整えるのは、減量調剤の手順と報告体制です。まず、備考欄の指示を確認し、残薬の状況とその理由を聴取する手順を標準化します。次に、実際に交付した数量と患者への説明内容を記録し、翌営業日までに医療機関へ提供する様式を用意します。さらに、数量を減じた旨を手帳へ記載する運用を、日常業務に組み込みます。報告と記載が滞れば、医療機関との連携そのものが成立しません。
なお、様式の切替時期と経過措置は、今後発出される告示および通知でご確認ください。個別改定項目には、施行時期や経過措置に関する記載はありません。本稿の内容は、個別改定項目「④ 残薬対策の推進に向けた処方箋様式の見直し」と、中央社会保険医療協議会の資料「個別事項(その19)残薬対策」に基づく解説です。最終的な運用は、厚生労働省が発出する正式な告示、通知、事務連絡でご確認ください。
まとめ:事前指示と事後報告をセットで運用する
令和8年度診療報酬改定は、残薬対策の推進に向けて処方箋様式を見直します。処方箋様式の備考欄には、「調剤する薬剤を減量した上で保険医療機関に情報提供する」という選択肢が追加されます。この指示を受けた薬局は、原則翌営業日までに、残薬の状況や実際の交付数量などを保険医療機関へ情報提供します。あわせて薬局は、数量を減じて調剤した旨を手帳へ記載します。医療機関と薬局は、事前指示と事後報告をセットで運用できるよう、施行までに院内・薬局内のルールとシステムを整えておきましょう。










