長期収載品の選定療養は、令和6年10月に導入された仕組みである。この仕組みでは、患者の希望で長期収載品を使う場合に、後発医薬品との価格差の4分の1相当を「特別の料金」として患者が支払う。この4分の1という水準について、中央社会保険医療協議会(中医協)や社会保障審議会医療保険部会では、「後発医薬品の更なる使用促進に向けて引き上げるべき」との意見が繰り返し示された。令和8年度診療報酬改定は、この特別の料金の水準を引き上げる。本稿は、個別改定項目Ⅳ-1-⑥「長期収載品の選定療養の更なる活用」について、変わる点と変わらない点を整理する。
今回の見直しは、患者負担の水準だけを変更する改定である。第一に、特別の料金は、長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1相当から2分の1相当に引き上げられる。第二に、選定療養の対象となる品目の範囲と、選定療養の対象外となる場面は、現行の枠組みが維持される見込みである。第三に、引上げの根拠は、創薬イノベーションの推進、後発医薬品の使用促進、保険給付の公平性の3点にある。第四に、医療機関と薬局には、患者への説明という実務対応が求められる。
1. 特別の料金は価格差の「4分の1相当」から「2分の1相当」へ
特別の料金の計算式は、価格差に乗じる割合だけが変わる。現行は、長期収載品の薬価から後発医薬品の薬価を差し引いた価格に、4分の1を乗じて患者負担額を算出する。改定後は、この同じ価格差に2分の1を乗じる。告示上の改正も、「保険外併用療養費に係る療養についての費用の額の算定方法」別表第二と、「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」第一の一の三の2か所で、「四分の一」を「二分の一」に置き換えるだけである。なお、ここでいう価格差は、令和6年度改定の制度設計上、後発医薬品の最高価格帯の薬価との差を指す。
この置換えによって、患者の窓口負担はどの程度変わるのか。中医協が示したイメージ図では、長期収載品の薬価を1錠20円、後発医薬品の薬価を1錠10円とし、1日4錠を25日分投薬した場合を想定している。この場合の薬剤費は、長期収載品が2,000円、後発医薬品が1,000円となり、価格差は1,000円である。自己負担割合を3割とすると、現行では特別の料金250円と一部負担金525円の合計775円を患者が支払う。改定後は特別の料金500円と一部負担金450円の合計950円となる。
この試算から読み取るべき点は、増える額と増える倍率が別物であることだ。特別の料金だけを見れば250円から500円へと2倍になる。一方で、患者が窓口で支払う総額は775円から950円へと175円、率にして約23%の増加にとどまる。特別の料金が増えた分だけ保険給付の対象額が減り、一部負担金が525円から450円に下がるためである。患者への説明では、「2倍になる」という言い方が誤解を生みやすい点に注意したい。
負担増の規模感は、レセプトデータからも確認できる。令和6年11月のレセプト分析では、選定療養の対象となった件数は約368万件で、外来・調剤全体の4.9%であった。このうち特別の料金は、1,000円未満が90.0%、2,000円未満が98.3%を占めている。単純に2倍にすると、大半の患者では特別の料金が2,000円未満の範囲に収まる計算になる。
なお、上記の金額はいずれもイメージであり、実際の請求額とは一致しない。実務では、薬剤料の点数計算や端数処理を経て金額が確定する。加えて、特別の料金は保険給付の対象外であるため、窓口で請求する際には別途消費税がかかる。この消費税の取扱いは現行と同じであり、今回の改定でも変更されない。
2. 選定療養の対象品目と対象外となる場面は変わらない見込み
対象範囲のルールは、令和6年度改定で定めた枠組みがそのまま続く見込みである。個別改定項目Ⅳ-1-⑥の告示改正は割合の数字だけを対象としており、対象品目や適用場面の規定には触れていない。中医協に示された「更なる活用に向けた見直し案」も、対象外の取扱いを維持することを前提としていた。したがって、現場の判断フローを組み替える必要はないと考えられる。
対象品目の範囲は、後発医薬品の上市からの経過年数と置換率で決まる。具体的には、後発医薬品の上市後5年を経過した長期収載品が対象となる。上市後5年を経過していない長期収載品でも、置換率が50%に達していれば対象となる。ただし、置換率が極めて低く、市場に後発医薬品がほぼ存在しない品目は対象から外れる。
対象外となる場面も、2つの類型が維持される。1つ目は、医療上の必要性があると認められる場合である。医師が医療上の必要性から銘柄名処方(後発品への変更不可)を行った場合が、これに当たる。2つ目は、薬局に後発医薬品の在庫がないなど、後発医薬品を提供することが困難な場合である。これら2つの場面では、引き続き長期収載品の薬価で保険給付が行われ、患者は特別の料金を支払わない。
3. 引上げの根拠は創薬イノベーション、使用促進、給付の公平性の3点
負担水準の引上げには、中医協の議論で整理された3つの根拠がある。厚生労働省は、これらの根拠を「更なる活用に向けた見直し案」の考え方として提示した。以下、3点を順に確認する。
第一の根拠は、創薬イノベーションの推進である。先発品企業は、特許期間中の新薬の売上で研究開発投資を回収し、革新的な新薬の創出に再投資する。後発医薬品の上市後は、後発品企業に安定供給等の役割を譲り、先発品は原則として市場から撤退する。この医薬品のライフサイクルを目指すべき姿として、長期収載品への保険給付を絞り込む必要があるとされた。
第二の根拠は、後発医薬品の使用促進である。調剤医療費(電算処理分)の後発医薬品割合(数量ベース)は、令和6年度末(令和7年3月)時点で90.6%に達した。厚生労働省は、選定療養の施行後に使用割合が上昇したことから、使用促進に一定の効果があったと評価している。中医協では、制度導入後の使用割合が横ばいで推移しているとして、更なる引上げによって使用促進を図るべきとの意見も示された。
第三の根拠は、保険給付の公平性である。長期収載品と後発医薬品は、同一の有効成分を同一量含み、効能・効果と用法・用量も原則として同一である。それにもかかわらず、医療上の必要がないまま長期収載品を使う被保険者には、より多くの保険給付が行われている。この差を縮めることが、医療保険制度の持続可能性の確保と、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減にもつながる。
もっとも、中医協では引上げに慎重な意見も出された。負担水準を価格差の全額(1分の1)まで引き上げるべきとの意見がある一方で、患者の経済的負担の変化や、後発医薬品の需要増による安定供給への影響を懸念する意見もあった。小児、慢性疾患を抱える患者、低所得者への配慮を求める発言もあった。厚生労働省の見直し案は「価格差の2分の1以上」とする方向を示すにとどめ、具体的な割合は予算編成過程を経て2分の1に決まった。
4. 医療機関と薬局には患者への説明という実務対応が求められる
現場が備えるべき対応は、負担増の説明と、対象外判断の記録の2つである。特別の料金が2倍になれば、患者が窓口で受ける印象も変わる。制度自体は変わらないという説明だけでは、患者の納得は得にくい。
負担増の説明では、金額の見通しを具体的に伝えることが要点となる。長期収載品と後発医薬品の価格差が大きい品目ほど、特別の料金の増加額も大きくなる。長期処方の患者や、複数の長期収載品を服用する患者では、増加額がさらに積み上がる。ただし、患者調査では「特別の料金がいくらであろうと、先発医薬品を選択する」との回答が28.3%と最も多く、料金の引上げが必ずしも切替えに直結するとは限らない点にも留意が必要である。
対象外判断の記録では、根拠を残すことが要点となる。医療上の必要性を理由に選定療養の対象外とする場合は、処方箋の「変更不可(医療上必要)」の記載など、判断の根拠を明確にしておく。後発医薬品の提供が困難で長期収載品を調剤する場合は、在庫状況を確認したうえで対応する。令和6年度の調査では、長期収載品を調剤した品目のうち43.9%が「後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、提供が困難であった」ことを理由としており、この判断は日常的に発生している。
施行日については、本個別改定項目の資料に記載がない。選定療養に関する令和6年度の見直しは、改定本体より遅れて令和6年10月1日に施行された経緯がある。実際の適用開始時期は、今後発出される告示および通知で確認する必要がある。
まとめ:変わるのは割合だけ、特別の料金は2倍になる
令和8年度診療報酬改定は、長期収載品の選定療養における患者負担の水準だけを引き上げる。特別の料金は、長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1相当から2分の1相当に変わる。選定療養の対象品目の範囲と、医療上の必要性や在庫不足による対象外の取扱いは、現行の枠組みが維持される見込みである。引上げの根拠は、創薬イノベーションの推進、後発医薬品の使用促進、保険給付の公平性の3点にある。特別の料金は2倍になるものの、患者が窓口で支払う総額の増加はそれより緩やかで、中医協のイメージ図では775円から950円への増加であった。医療機関と薬局は、施行日を告示で確認したうえで、患者への説明の準備を進めたい。










