令和8年度診療報酬改定は、服用薬剤調整支援料2の算定要件と評価を全面的に見直す。現行の服用薬剤調整支援料2は、複数の医療機関から6種類以上の内服薬が処方された患者について、重複投薬等の解消提案を90点または110点で評価してきた。しかし、薬剤数の削減や重複投薬の解消だけに着目した評価では、薬物治療の質を高める調整支援を評価できない。本稿は、この見直しの内容を、評価、算定要件、実務対応の3点から整理する。
見直しの要点は、評価の大幅な引き上げ、算定要件の厳格化、適用日の後ろ倒しの3つである。評価は、90点・110点の2段階から1,000点の一本化に変わる。算定要件は、研修を修了したかかりつけ薬剤師による薬物療法の適正化支援に変わる。適用日は、令和9年6月1日に設定される。なお、本項目が見直しの対象とするのは服用薬剤調整支援料2のみであり、服用薬剤調整支援料1については何ら記載がない。
1. 見直しの背景:薬剤数から薬物治療の質へ
今回の見直しは、服用薬剤数の削減によらない調整支援の手法が策定された状況を踏まえたものである。厚生労働省は、基本的な考え方でこの点を明記した。つまり、「何種類減らしたか」から「どのように薬物治療を適正化したか」へ、評価の軸が移る。
評価の軸が移る背景には、従来の減薬中心の評価が抱えた限界がある。中医協の資料によれば、服用薬剤調整支援料等の算定回数は経時的に増加してきた。それにもかかわらず、令和2年時点で75歳以上であった患者の服用薬剤数は、5年間で増加傾向を示した。減薬に着目した評価を積み重ねても、多剤服用そのものは減っていない。
多剤服用が減らない状況に対して、質に着目した手法が示されている。高齢者医薬品適正使用検討会は、「服薬簡素化提言」に基づく服薬の集約化を紹介した。同検討会は、「日本版抗コリン薬リスクスケール」を用いたリスク低減の手法も紹介した。いずれも、薬剤数を減らさずに薬物治療の安全性を高める手法である。
こうした手法の登場を受け、中医協の分科会は評価の見直しを求めた。入院・外来医療等の調査・評価分科会では、「薬剤数ではなく、ポリファーマシー対策が適正に実施されているか、質を評価すべき」との意見が出された。ポリファーマシーとは、単に服用する薬剤数が多い状態ではない。薬物有害事象のリスク増加や服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態を指す。今回の見直しは、この分科会の意見を制度に反映したものである。
2. 評価の見直し:90点・110点から1,000点へ
評価は、90点・110点の2段階から1,000点へ一本化される。引き上げ幅は、約9倍から11倍にのぼる。調剤報酬の項目としては異例の水準である。
一本化にともない、点数を分けていた施設基準は削除される。現行の服用薬剤調整支援料2は、重複投薬等の解消に係る実績を持つ薬局を110点で評価し、それ以外の薬局を90点で評価してきた。改定後は、この実績要件(施設基準十一の二)がなくなる。薬局単位の実績ではなく、薬剤師個人の資質と業務の中身で評価する仕組みに変わる。
一方で、算定できない薬局の範囲は現行から変わらない。「調剤基本料の注2に規定する別に厚生労働大臣が定める保険薬局」においては、改定後も算定できない。この除外規定は、現行の文言がそのまま維持される。ただし、令和8年度改定では敷地内薬局に関する見直しも別途議論されている。除外の対象となる薬局の具体的な範囲は、告示の確定を待って確認したい。
3. 算定要件の見直し:かかりつけ薬剤師による適正化支援へ
算定要件は、重複投薬等の解消提案から、かかりつけ薬剤師による薬物療法の適正化支援へ変わる。実施者、実施内容、算定回数の3つが同時に見直される。現行と改定案の対比は、次のとおりである(矢印の左が現行、右が改定案)。
点数:イ110点・ロ90点 → 1,000点に一本化
実施者:保険薬剤師 → かかりつけ薬剤師(研修修了者に限る)
対象患者:複数医療機関から6種類以上の内服薬が処方されていたもの → 複数医療機関から6種類以上の内服薬が処方されている患者
算定の起点:患者又はその家族等の求め → 変更なし
把握の方法:一元的に把握 → 継続的及び一元的に把握
提案の前提:重複投薬等が確認された場合 → 服用中の薬剤の調整を必要と認め、必要な評価等を実施した場合
提案の内容:重複投薬等の解消に係る提案 → 服用中の薬剤の調整に係る提案
算定回数:3月に1回 → 同一患者につき6月に1回、かつかかりつけ薬剤師1人につき月4回まで
施設基準:重複投薬等の解消に係る実績 → 削除
実施者は、総合的な管理及び評価に必要な研修を受けたかかりつけ薬剤師に限定される。厚生労働省は、この研修の水準を留意事項通知で規定する方針を示した。具体的には、相当程度の保険薬局勤務年数を持つ薬剤師を対象とする。加えて、極めて高度な水準の専門性を持ち、ポリファーマシー対策に関する十分な時間の研修を受講した薬剤師に限る。1,000点という評価は、この限定と一体で設けられている。
実施内容は、留意事項通知で6項目が具体的に示される予定である。厚生労働省が示した実施事項は、次の6つである。
ア 薬物治療に関する患者又はその家族等からの主観的情報の聴取
イ 検査値等の薬物治療に必要な客観的情報の収集
ウ 服薬支援に必要な患者の生活状況及び意向に関する情報の聴取
エ 各服用薬剤がもたらす治療効果及び有害事象の評価
オ 解決すべき薬剤関連問題の特定及び整理
カ 服用薬剤調整後の観察計画及び対応案の立案
6項目は、主観的情報と客観的情報の収集から始まり、評価、問題の特定、調整後の計画立案まで一連の流れを構成する。処方箋の内容を点検するだけでは、この要件を満たせない。検査値の入手と、調整後のフォローアップまでを含む包括的な業務が求められる。
算定の起点は、現行と同じく患者又はその家族等の求めである。薬局の判断だけで実施しても、算定要件を満たさない。この点は、現行の規定がそのまま維持される。
算定回数は、患者単位と薬剤師単位の二重の上限で管理される。同一の患者に対しては、6月に1回に限り算定できる。現行の3月に1回から、間隔が倍に延びる。また、かかりつけ薬剤師1人につき、月4回までしか算定できない。同一患者への算定間隔が6月であることを踏まえると、1人の薬剤師が1か月に算定できる患者は4人までとなる計算である。
4. 実務対応:令和9年6月1日までの準備
適用日は、令和9年6月1日である。多くの改定項目が令和8年6月1日に適用されるのに対し、本項目は約1年遅れて適用される。資料は理由を明示していない。ただし、研修の受講が要件となる以上、体制整備の期間を確保したものと考えられる。
準備期間を踏まえ、薬局は3つの対応を計画したい。第1に、対象となる薬剤師の選定と研修受講の計画である。第2に、かかりつけ薬剤師として関与する患者の把握と、対象患者の抽出である。第3に、検査値の入手方法と、調整後の観察計画を記録する様式の整備である。いずれも、通知の発出を待ってから着手すると間に合わない。
ただし、要件の詳細は留意事項通知の発出まで確定しない。研修の実施主体、時間数、勤務年数の目安は、いずれも現時点で示されていない。「かかりつけ薬剤師」がかかりつけ薬剤師指導料等の同意を前提とするのかも、資料からは読み取れない。今後の通知やQ&Aを確認したうえで、具体的な体制を固める必要がある。
まとめ:薬剤師個人の専門性を評価する制度へ
令和8年度改定は、服用薬剤調整支援料2を、薬剤数の削減を評価する仕組みから薬物治療の質を評価する仕組みへ転換する。評価は、90点・110点から1,000点へ一本化される。算定要件は、研修を修了したかかりつけ薬剤師による包括的な適正化支援へ厳格化される。適用日は令和9年6月1日であり、準備の時間は残されている。薬局単位の実績ではなく、薬剤師個人の専門性が問われる制度へ、評価の軸が移る。










