令和8年度診療報酬改定では、個別改定項目「Ⅲ-7⑬ 歯科固有の技術の評価の見直し」により、歯科固有の技術の評価と運用が広く見直されます。この見直しは、管理料から補綴、処置、口腔外科手術まで対象が多岐にわたります。そのため、自院に関係する変更点だけを短時間で拾い上げる作業は、担当者にとって大きな負担となります。本稿は、この項目の内容を3つの柱に整理し、新旧の点数を対比しながら解説します。
今回の見直しは、「学会等が提案した技術の評価」「歯科技工料調査を踏まえた歯冠修復及び欠損補綴等の評価」「臨床現場の実態を踏まえた個別の評価」という3つの柱で構成されます。第1の柱では、歯科口腔リハビリテーション料2や歯科遠隔連携診療など16の技術について、医療技術評価分科会等における検討結果を踏まえて評価や運用が見直されます。第2の柱では、光学印象が100点から150点に、総義歯が1顎につき2,420点から2,500点に引き上げられます。第3の柱では、顎関節脱臼非観血的整復術が410点から800点になるなど、口腔外科手術を中心に大幅な引き上げが行われます。
1. 学会等の提案を踏まえ技術の評価と運用を見直す
第1の柱は、歯科医療の推進に資する技術について、医療技術評価分科会等における検討結果を踏まえて評価や運用を見直すものです。対象となるのは、学会等から同分科会に提案された技術のうち、診療報酬改定において対応する優先度が高いとされた技術です。個別改定項目には、その「例」として16の技術が挙げられています。この16はあくまで例示であり、見直し対象がこれで尽きるとは限りません。また、各技術をどの方向にどれだけ見直すかという具体的な点数は、この項目には示されていません。
挙げられた16の技術は、本稿の整理として、次の5つの領域に分けられます。
管理・指導:歯科口腔リハビリテーション料2/歯科矯正管理料/歯科麻酔管理料/位相差顕微鏡による歯周病患者画像活用指導
デジタル・連携:模型調製における光学印象及びデジタル模型/歯科遠隔連携診療
補綴:口蓋補綴及び顎補綴の咬合採得/チタン及びチタン合金によるブリッジ/歯科用暫間被覆冠成形品を用いた暫間的ダイレクトボンディングブリッジ/床補強のための接着芯/後継永久歯の無い乳臼歯へのCAD/CAM冠
手術・処置・麻酔:上顎骨悪性腫瘍手術及び下顎骨悪性腫瘍手術における超音波切削機器加算/Ni-Tiロータリーファイル加算/静脈麻酔
検査・適応拡大:口腔粘膜湿潤度検査/厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常に係る適応症の拡大
これら16の技術のうち、静脈麻酔については点数表の項目そのものが新設されます。具体的には、医科点数表の見直しも踏まえ、歯科点数表において「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」が新たに設けられます。麻酔を実施する医療機関は、算定する項目名が変わる点に注意が必要です。
2. 歯科技工料調査を踏まえ歯冠修復及び欠損補綴等を引き上げる
第2の柱は、歯冠修復及び欠損補綴等の評価について、歯科技工料調査の結果等を踏まえて評価や運用を見直すものです。個別改定項目に掲載された項目は、いずれも引き上げとなっています。対象は、補綴装置本体、デジタル関連技術、支台築造及び維持装置の3つの領域に分かれます。
補綴装置本体では、総義歯、高強度硬質レジンブリッジ、非金属歯冠修復の評価が引き上げられます。
総義歯(1顎につき):2,420点 → 2,500点
高強度硬質レジンブリッジ(1装置につき):2,800点 → 3,000点
非金属歯冠修復 レジンインレー 単純なもの:128点 → 148点
非金属歯冠修復 レジンインレー 複雑なもの:180点 → 200点
デジタル関連技術では、光学印象と、装着時の内面処理加算1の評価が引き上げられます。
光学印象(1歯につき):100点 → 150点
内面処理加算1 CAD/CAM冠:45点 → 55点
内面処理加算1 CAD/CAMインレー:45点 → 55点
内面処理加算1 高強度硬質レジンブリッジ:90点 → 110点
光学印象は5割の引き上げとなり、今回の第2の柱のなかで最も引き上げ率が高い項目です。内面処理加算1は、いずれも歯質に対する接着性を向上させる目的で内面処理を行った場合に算定します。この算定要件そのものに変更はありません。
支台築造及び維持装置では、支台築造、根面被覆、磁性アタッチメント、大連結子の評価が引き上げられます。
支台築造 間接法 ファイバーポストを用いた場合(大臼歯):211点 → 221点
支台築造 間接法 ファイバーポストを用いた場合(小臼歯及び前歯):180点 → 190点
根面被覆 根面板によるもの:195点 → 225点
磁性アタッチメント キーパー付き根面板を用いる場合:550点 → 580点
鋳造バー(1個につき):458点 → 468点
このうち鋳造バーについては、点数だけでなく項目の名称も変わります。現行の【バー】という区分名が、改定案では【大連結子】に改められます。名称変更はレセプト電算処理システムのマスタにも及ぶため、システムの更新時期を事前に確認しておくと安全です。
3. 臨床現場の実態を踏まえ処置と口腔外科手術を見直す
第3の柱は、その他の個別の評価について、臨床現場の実態等を踏まえて評価や運用を見直すものです。掲載された項目の中心は口腔外科手術であり、引き上げ幅の大きい項目が目立ちます。あわせて、象牙質レジンコーティングの算定要件と加圧根管充填処置の評価も見直されます。
算定要件の見直しは、象牙質レジンコーティングが対象です。現行では、生活歯歯冠形成を行った場合に「歯冠形成から装着までの一連の行為」につき1回に限り算定します。改定案では、この範囲が「歯冠形成から印象採得までの一連の行為」に改められます。「1回に限り」と数える区切りが、装着時点から印象採得時点へと前倒しになる形です。実際の算定の取扱いは、告示及び通知の記載を確認したうえで院内ルールを整理してください。
処置の見直しは、加圧根管充填処置が対象です。
単根管:139点 → 150点
2根管:168点 → 180点
3根管以上:213点 → 230点
加圧根管充填処置は、いずれの区分も1歯につき算定する点に変更はありません。
口腔外科手術の見直しは、埋伏智歯の抜歯から広範囲顎骨支持型装置に関する手術まで、幅広い術式に及びます。
抜歯手術「4」の加算(下顎完全埋伏智歯(骨性)又は下顎水平埋伏智歯の場合):130点 → 230点
顎骨腫瘍摘出術(歯根嚢胞を除く) 長径3センチメートル未満:2,820点 → 4,020点
腐骨除去手術 顎骨に及ぶもの 片側の3分の1未満の範囲のもの:1,300点 → 1,560点
腐骨除去手術 顎骨に及ぶもの 片側の3分の1以上の範囲のもの:3,420点 → 4,100点
がま腫切開術:820点 → 1,230点
唾石摘出術(一連につき) 表在性のもの:720点 → 1,080点
顎関節脱臼非観血的整復術:410点 → 800点
なかでも顎関節脱臼非観血的整復術は、410点から800点へと約2倍の引き上げとなります。がま腫切開術と唾石摘出術(表在性のもの)も、それぞれ1.5倍の水準です。
腐骨除去手術については、点数本体だけでなく加算も引き上げられます。この加算は、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死又は放射線性顎骨壊死に対して手術を行った場合に算定します。ただし対象は「2 顎骨に及ぶもの」の「イ 片側の3分の1未満の範囲のもの」に限られ、「ロ 片側の3分の1以上の範囲のもの」は対象外です。この加算の評価が、1,000点から1,200点になります。
顎骨内異物(挿入物を含む。)除去術と広範囲顎骨支持型装置に関する手術も、同様に引き上げられます。
顎骨内異物除去術 簡単なもの 手術範囲が顎骨の2分の1顎程度未満:850点 → 1,500点
顎骨内異物除去術 簡単なもの 手術範囲が全顎にわたる場合:1,680点 → 2,000点
顎骨内異物除去術 困難なもの 手術範囲が顎骨の3分の2顎程度未満:2,900点 → 4,000点
顎骨内異物除去術 困難なもの 手術範囲が全顎にわたる場合:4,180点 → 5,500点
広範囲顎骨支持型装置埋入手術 1回法によるもの:14,500点 → 16,000点
広範囲顎骨支持型装置埋入手術 2回法によるもの 1次手術:11,500点 → 13,000点
広範囲顎骨支持型装置埋入手術 2回法によるもの 2次手術:4,500点 → 6,000点
広範囲顎骨支持型装置掻爬術(1顎につき):1,800点 → 3,300点
広範囲顎骨支持型装置掻爬術は、1,800点から3,300点へと約1.8倍の引き上げとなります。これらの手術を実施する医療機関では、算定実績のある術式を事前に洗い出しておくと、改定後の点数の切り替え漏れを防げます。
4. 医療機関が改定までに確認すべき3点
改定内容を実務に落とし込むうえで、確認しておきたい作業を3点挙げます。なお本節は、個別改定項目に書かれた内容ではなく、実務上の備えとしての提案です。第1に、自院で算定実績のある技術を洗い出し、今回の見直し対象と突き合わせます。第2に、象牙質レジンコーティングのように算定要件そのものが変わる項目を抽出し、算定タイミングを院内で共有します。第3に、【バー】から【大連結子】への名称変更や「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」の新設に備え、電子カルテとレセプトコンピュータのマスタ更新時期をベンダーに確認します。
なお、本稿で示した点数は個別改定項目の改定案に基づく内容です。最終的な取扱いは、告示及び通知の内容を必ずご確認ください。
まとめ:3つの柱で歯科の技術評価が底上げされる
令和8年度診療報酬改定における「歯科固有の技術の評価の見直し」は、3つの柱で構成されます。第1の柱では、学会等が提案した16の技術について、医療技術評価分科会等の検討結果を踏まえて評価や運用が見直されます。第2の柱では、歯科技工料調査の結果等を踏まえ、光学印象や総義歯をはじめとする歯冠修復及び欠損補綴等の評価が引き上げられます。第3の柱では、臨床現場の実態等を踏まえ、口腔外科手術を中心に大幅な引き上げが行われます。自院の算定実績と照らし合わせ、算定要件の変更とマスタ更新への対応を早めに進めましょう。










