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中医協第650回|テッペーザとトロデルビの費用対効果評価案を解説
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中医協第650回|テッペーザとトロデルビの費用対効果評価案を解説

ICERの区分、価格調整係数、企業分析と公的分析の争点まで、専門組織の報告を要点から整理します

令和8年5月13日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第650回)で、費用対効果評価専門組織から医薬品2品目の評価案が報告されました。この評価案は、ICERの区分や価格調整係数、企業分析と公的分析の争点を含むため、資料だけでは要点をつかみにくい内容です。本メルマガでは、評価結果と争点に対する専門組織の判断を、費用対効果評価に初めて触れる方にもわかるように整理します。

専門組織は、テッペーザとトロデルビの2品目について、いずれも公的分析を妥当とする評価案をまとめました。ICERの区分は、テッペーザが「750万円/QALY以上1,000万円/QALY未満」、トロデルビが「1,500万円/QALY以上」で、どちらも価格調整係数が1を下回る区分に該当します。テッペーザでは、再発割合と薬剤費の設定について、公的分析の設定が妥当とされました。トロデルビでは、QOL値の設定方法について、同一の健康状態に同一のQOL値を用いる公的分析の方法が妥当とされました。

評価結果:2品目とも価格調整係数が1を下回る区分に

テッペーザとトロデルビは、いずれも2024年11月13日に総会で評価対象に指定され、今回の評価案でICERが価格調整係数1.0の区分を上回りました。価格調整係数は、価格のうち有用性系加算などの一部分に掛ける係数です。この係数が1未満になると、その部分の価格が引き下げの対象となります。以下では、評価の仕組みを確認したうえで、各品目の結果を説明します。

費用対効果評価の仕組み 費用対効果評価は、新しい医薬品が既存の治療(比較対照技術)と比べて、費用に見合う効果を持つかを判定する仕組みです。この判定には、ICER(増分費用効果比)という指標を使います。ICERは、1QALYを追加で得るために、既存の治療より何円多くかかるかを示す値です。QALY(質調整生存年)は、生存年数に生活の質の重み(QOL値:完全な健康を1、死亡を0とする値)を掛けた指標です。ICERが大きいほど、効果に比べて費用が高いと判定されます。ICERの区分に応じて価格調整係数が決まり、係数が小さいほど引き下げ幅は大きくなります。

テッペーザの評価結果 テッペーザ点滴静注用(テプロツムマブ 500mg、アムジェン株式会社)は、ICERが750万円/QALY以上1,000万円/QALY未満の区分となりました。本剤は、活動性甲状腺眼症の治療薬です。収載時価格は500mg1瓶979,920円、有用性系加算率は45%です。ピーク時の市場規模は494億円と予測され、市場規模100億円以上の「H1」区分で評価されました。比較対照技術は、ステロイドパルス療法と放射線外照射の併用療法です。評価結果の対象集団は、中等度から重症の活動性甲状腺眼症(CAS3点以上)の患者で、患者割合は100%とされました。資料の補足図(営業利益の価格調整係数)では、この区分は係数0.67の区間に当たります。

トロデルビの評価結果 トロデルビ点滴静注用(サシツズマブ ゴビテカン、ギリアド・サイエンシズ株式会社)は、ICERが1,500万円/QALY以上の区分となりました。本剤は、化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌の治療薬です。収載時価格は200mg1瓶187,195円、有用性系加算率は40%です。ピーク時の市場規模は93億円と予測され、市場規模50億円以上の「H2」区分で評価されました。比較対照技術は、エリブリンです。評価結果の対象集団は、効能・効果と同じ患者集団で、患者割合は100%とされました。資料の補足図(有用性系加算等の価格調整係数)では、この区分は最も低い係数0.1の区間に当たります。

2つの補足図の違い 2品目の補足図は、ICERの境界値と価格調整係数の刻みがどちらも異なります。テッペーザの図は、境界値が500万・750万・1,000万円/QALYで、係数が1.0・0.83・0.67・0.5の4段階です。トロデルビの図は、境界値が750万・1,125万・1,500万円/QALYで、係数が1.0・0.7・0.4・0.1の4段階です。係数を掛ける対象も、テッペーザは営業利益、トロデルビは有用性系加算等と異なります。そのため、「0.67」と「0.1」という数字を、そのまま引き下げ幅として比べることはできません。なお、トロデルビの境界値が高い理由は資料に記載されていません(筆者補足:抗がん剤などには、より高い境界値が適用される仕組みがあります)。

2品目の評価結果の比較

テッペーザ点滴静注用

  • 一般名:テプロツムマブ

  • 効能・効果:活動性甲状腺眼症

  • 収載時価格:979,920円(500mg1瓶)

  • 有用性系加算率:45%

  • 市場規模(ピーク時予測):494億円(H1)

  • 比較対照技術:ステロイドパルス療法と放射線外照射の併用療法

  • ICERの区分:750万円/QALY以上1,000万円/QALY未満

  • 補足図で該当する係数:0.67(営業利益の価格調整係数)

トロデルビ点滴静注用

  • 一般名:サシツズマブ ゴビテカン

  • 効能・効果:化学療法歴のあるホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌

  • 収載時価格:187,195円(200mg1瓶)

  • 有用性系加算率:40%

  • 市場規模(ピーク時予測):93億円(H2)

  • 比較対照技術:エリブリン

  • ICERの区分:1,500万円/QALY以上

  • 補足図で該当する係数:0.1(有用性系加算等の価格調整係数)

テッペーザの争点:再発割合と薬剤費の設定

専門組織は、テッペーザの3つのパラメータについて、いずれも公的分析の結果を妥当と判断しました。3つのパラメータとは、本剤の眼球突出の再発割合、併用療法の再発割合、分析対象集団(c)の費用パラメータです。

分析の枠組み 公的分析が再分析を行ったのは、中等症から重症でCAS3点以上の集団(c)です。分析の枠組みでは、患者を3つの集団に分けています。軽症の集団(a)の比較対照技術は、対症療法です。中等症から重症でCAS3点未満の集団(b)と、CAS3点以上の集団(c)の比較対照技術は、ステロイドパルス療法と放射線外照射の併用療法です。この併用療法は、診療ガイドライン上、ステロイドパルス単独より治療効果が高いとされるため選ばれました。集団(a)と(b)では、トリアムシノロン局所注射を比較対照技術とするシナリオ分析も行うこととされました。

本剤の眼球突出の再発割合 本剤の眼球突出の再発割合は、企業の0%ではなく、公的分析の24%が妥当とされました。企業は、TED01RV試験の結果から、再発割合を0%と設定しました。公的分析は、同じ試験の長期観察で再発が確認されており、0%は過小である可能性を指摘しました。そのうえで、本剤の複数の臨床試験を統合したKahalyら(2024)による72週時点の再発率24%を用いました。

本剤の薬剤費 本剤の薬剤費は、企業の体重50kgの仮定ではなく、公的分析のNDB集計に基づく設定が妥当とされました。企業は、薬価算定時の体重設定にあわせて、患者の体重を50kgと仮定しました。公的分析は、NDB(匿名医療保険等関連情報データベース)から本剤の実際の算定バイアル本数を集計し、これを用いて薬剤費を算出しました。企業の説明によると、公的分析はNDBの体重区分別の患者割合から加重平均値を求めています。企業はこれに対し、MDV社のレセプトデータでは1回あたり平均2.37バイアルであり、1回あたりの平均投与量を用いるべきだと反論しました。

併用療法の再発割合 併用療法の再発割合は、企業の30.5%ではなく、公的分析の18.4%が妥当とされました。企業は、複数文献の報告値の最大値と最小値の中点をとり、30.5%と設定しました。公的分析は、治療反応と再発の定義が事前に明確に規定されたKahalyら(2018)の18.4%を用いました。企業は、ステロイドパルス療法は眼球突出にほとんど有効性を示さない可能性があると主張しました。そのうえで、この文献の再発の定義には改善が見込まれにくい眼球突出と複視の悪化が含まれるため、再発割合が低く見積もられる可能性があると反論しました。公的分析も、文献の再発割合は複合アウトカムとしてのみ報告されているため、分析上の再発割合は依然として過剰に推計されている可能性を否定できないとしています。それでも公的分析は、企業の値より妥当だと判断しました。

専門組織の判断 専門組織は、企業が主張する再発率0%を受け入れられないと判断しました。その根拠として、欧州のガイドラインでは眼球突出の再発率が29.4%とされている点を挙げました。また、本剤は従来の治療薬より再発率が高くない印象はあるものの、症例数と長期の観察が不足していると指摘しました。さらに、主要な論点はいずれもパラメータ設定に関するもので、公的分析は一貫した仮定に基づくと評価しました。なお、筆者補足として、2つの再発割合の変更は、いずれも本剤と比較対照技術の効果の差を小さくする方向の設定です。

トロデルビの争点:QOL値の設定方法

専門組織は、トロデルビのQOL値について、「同一の健康状態には同一のQOL値を適用する」公的分析を妥当と判断しました。企業は、同じ健康状態でも治療法によって異なるQOL値を設定していました。

企業分析の方法 企業分析は、同じ健康状態でも治療法ごとに異なるQOL値を用いました。企業は、ASCENT試験で測定した患者報告型アウトカム(EORTC QLQ-C30)を、EQ-5D-3LのQOL値に変換しました。次に、変換したQOL値を、治療群とPD(病勢進行)の有無を共変量とする混合効果線形回帰モデルで分析しました。この結果、同じ健康状態でも、トロデルビ群と比較対照群で異なるQOL値となりました。

公的分析の方法 公的分析は、各健康状態について、両群のQOL値の平均値を共通して用いました。同一の健康状態に異なるQOL値を設定することは適切でないと考えたためです。

企業の反論 企業は、4つの根拠を挙げて、トロデルビ群のQOL値は高いと主張しました。1つ目の根拠は、奏効率の高さです。ASCENT試験で、トロデルビ群はTPC群(医師選択治療群)より高い客観的奏効率を示しました(オッズ比10.99、95%信頼区間5.65~21.35)。企業は、トロデルビ群のPFS(無増悪生存)期間は腫瘍縮小を伴う期間であり、TPC群とは質的に異なると主張しました。2つ目の根拠は、既報のQOL予測モデルとの一貫性です。Lloydら(2006)のモデルでは、奏効状態のQOL値は安定・維持の状態より0.075高く設定されています。このモデルは、Iwataniら(2021)で日本人患者のQOL値予測にも有用と報告されています。3つ目の根拠は、欠測データによるバイアスです。企業は、TPC群では病状悪化による早期脱落が多いと想定されるため、QOL値を単純に平均するとTPC群を過大評価すると主張しました。4つ目の根拠は、PD後への波及効果です。企業は、トロデルビ群は腫瘍負荷が縮小した状態から進行するため、PD後もQOLの優位性が続くと主張しました。英国NICEの報告書でも、複数の臨床専門医がこの考え方に同意したとしています。

専門組織の判断 専門組織は、企業分析の方法がモデル構造と整合せず、妥当ではないと判断しました。このモデルの健康状態は、PFS、PD、死亡の3つだけです。腫瘍縮小は、健康状態として明示的にモデル化されていません。PFSを単一の健康状態として扱いながら群間で異なるQOL値を用いる方法は、モデル構造との整合性の観点から妥当ではないとされました。また、同一の健康状態に同一のQOL値を適用する前提は、評価の透明性確保の観点からも妥当とされました。

判断の読み解き方(筆者解説) 専門組織の判断は、奏効によるQOLの差の有無そのものを結論づけたものではありません。判断の根拠は、腫瘍縮小を健康状態として表現していないモデルで、群ごとに異なるQOL値を使う点にありました。費用対効果評価では、臨床的な主張に加えて、モデル構造と数値設定の整合性が問われることがわかります。

まとめ:2品目とも公的分析を妥当とする評価案に

第650回中医協総会で報告された評価案では、テッペーザとトロデルビの2品目とも、公的分析が妥当とされました。ICERの区分は、テッペーザが750万円/QALY以上1,000万円/QALY未満、トロデルビが1,500万円/QALY以上で、どちらも価格調整係数が1を下回る区分です。テッペーザでは、本剤と併用療法の再発割合、本剤の費用パラメータについて、公的分析の結果が妥当とされました。トロデルビでは、同一の健康状態に同一のQOL値を用いる公的分析の方法が妥当とされました。価格調整後の薬価は、本資料には示されていません。

なお、資料の留意事項では、総合的評価において企業分析と公的分析の双方に一定の科学的妥当性が認められているとされています。「専門組織での主な検討事項」は、双方の見解の主な相違部分を抜粋したものです。費用対効果評価の詳細は、国立保健医療科学院から公表される報告書で確認できます。

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