在宅自己注射指導管理料は、患者が自宅で注射薬を自己投与できるよう、医師が指導と管理を行った場合に算定する診療報酬です。2026年(令和8年)4月8日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第649回)で、この管理料の対象薬剤に2剤を追加する案が示されました。対象薬剤の追加は、患者の通院負担と医療機関の算定実務の両方に影響します。本号では、追加される2剤の特徴と、追加を判断した根拠を解説します。
中医協は、アニフロルマブとガラダシマブの2剤を、在宅自己注射指導管理料と「保険医が投与することができる注射薬」の対象に追加する案を示しました。アニフロルマブが追加されれば、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者は週1回の皮下注射を自宅で続けられるようになります。ガラダシマブが追加されれば、遺伝性血管性浮腫(HAE)の患者は発作の発症抑制のための月1回の皮下注射を自宅で続けられるようになります。2剤の追加は、中医協の運用基準が定める要件と追加時期のルールにもとづく判断です。
1. アニフロルマブ:SLE患者の毎週の通院負担を減らす
アニフロルマブは、既存治療で効果不十分なSLEに対し、週1回の皮下注射で使う薬剤です。自己注射が認められると、患者は毎週の通院を減らしながら治療を継続できます。以下では、薬剤の特徴、学会の要望理由、安全性と対象患者の順に説明します。
薬剤の特徴:アニフロルマブ(販売名:サフネロー皮下注120mgオートインジェクター)は、SLEの病態形成で中心的な役割を果たすI型インターフェロン(IFN)の働きを抑える抗体製剤です。本剤は、I型IFN受容体のサブユニット1(IFNAR1)に結合し、I型IFNのシグナル伝達を遮断します。I型IFNが誘導する遺伝子の発現上昇は、成人SLE患者の約60~80%にみられます。この発現上昇は、SLEの疾患活動性や重症度と相関しています。用法・用量は、成人に1回120mgを1週間ごとに皮下注射するものです。本剤は、2026年(令和8年)2月に薬事承認を受けました。
学会の要望理由:日本リウマチ学会と日本臨床免疫学会は、就労世代の患者が多く、毎週の通院が負担になることを主な理由に、自己注射の保険適用を要望しました。SLEは指定難病(指定難病49)であり、2022年の特定医療費(指定難病)受給者証の所持者数は65,145例と報告されています。SLEは、皮膚、関節、腎臓、中枢神経など全身に症状が及び、雇用の喪失やQOLの著しい低下につながる可能性が指摘されています。週1回の通院は、身体的・経済的な負担に加え、就業を含む社会生活にも影響します。両学会は、自己注射の保険適用が治療継続と患者の利便性向上に役立つと述べています。
安全性と対象患者:アニフロルマブについては、点滴静注製剤の全例調査と皮下注製剤の臨床試験のいずれでも、新たな安全性の懸念は報告されていません。点滴静注製剤は2021年11月に発売され、2025年7月29日時点のデータで1,518例が解析されました。この解析では、安全性に関する新たな懸念は認められていません。皮下注製剤の第III相臨床試験(TULIP-SC試験)の中間解析でも、注射部位反応はプラセボ群と比べて増えていません。自己注射の対象は、医師が適応を妥当と判断し、かつ指導を理解して確実に自己注射できる患者です。主な副作用は、注射部位反応、気管支炎、上気道感染、帯状疱疹、過敏症、重篤な感染症などです。
2. ガラダシマブ:HAE患者の専門医への通院負担を減らす
ガラダシマブは、HAEの急性発作の発症を抑制するため、月1回の皮下注射で使う薬剤です。自己注射が認められると、患者は遠方の専門医療機関への通院を減らしながら発作の発症抑制を続けられます。以下では、アニフロルマブと同じく、薬剤の特徴、学会の要望理由、安全性と対象患者の順に説明します。
薬剤の特徴:ガラダシマブ(販売名:アナエブリ皮下注200mgペン)は、HAE発作の原因となるブラジキニンの生成を抑える抗体製剤です。本剤は、活性化第XII因子(FXIIa)の触媒ドメインに結合し、その働きを阻害します。FXIIaの働きが阻害されると、発作時の炎症や腫れを引き起こすブラジキニンが作られにくくなります。用法・用量は、成人と12歳以上の小児に初回400mg、以降は200mgを月1回皮下注射するものです。本剤は、2025年(令和7年)2月に薬事承認を受けました。
学会の要望理由:日本皮膚科学会、日本アレルギー学会、日本補体学会は、専門医療機関への通院が難しいことを主な理由に、自己注射の保険適用を要望しました。HAEは、主としてC1インヒビター遺伝子(SERPING1)の変異により、皮膚、粘膜、腸などに繰り返し腫れが起こる病気です。喉の腫れは気道をふさぎ、命に関わる場合もあります。HAEは、指定難病「原発性免疫不全症候群」のひとつに認定されています。HAEを診療できる施設は限られており、都市部から離れた地域では、遠方の専門医を受診する患者も多くいます。発作はいつ起こるか予測できないため、旅行や出張、新しい職場などの環境でも投与を続けやすい仕組みが必要です。
安全性と対象患者:ガラダシマブの安全性は、在宅自己注射を含む臨床試験で確認されています。この臨床試験では、在宅自己注射に伴う安全性上の問題は認められていません。自己注射の対象は、医療従事者の指導を受け、医師が確実に自己投与できると判断した患者(または介護者)です。主な副作用は、注射部位反応(内出血、紅斑、そう痒感)です。製造販売業者は、適正使用のための資材を用意すると学会に報告しています。
3. 追加の根拠となる運用基準と実務上の留意点
2剤の追加は、中医協が2016年(平成28年)に承認し、2023年(令和5年)に改正した「在宅自己注射指導管理料の対象薬剤に係る運用基準」にもとづく判断です。この運用基準は、どの薬剤を、いつ対象に加えるかを定めています。以下では、対象薬剤の要件、追加時期のルール、告示上の位置づけ、導入時の留意事項の順に説明します。
対象薬剤の要件:運用基準は、頻回投与または発作時の緊急投与が必要で、剤形が注射でなければならない薬剤のうち、3つの要件をすべて満たすものを対象とします。1つ目の要件は、関連学会等のガイドライン等で在宅自己注射の必要性が確認されていることです。2つ目の要件は、維持期の投与間隔が概ね4週間以内であることです。3つ目の要件は、学会から追加の要望があることです。さらに、補充療法や発作時の緊急投与以外の薬剤には、要望した学会以外の学会の意見を確認するなど、診療上の必要性の十分な確認が求められます。学会の要望書には、自己注射の安全性、対象患者の要件、使用上の留意点、頻回・長期投与が必要な理由などを記載する必要があります。2剤は、週1回と月1回の投与間隔であり、いずれも複数の学会が要望書を提出しています。
追加時期のルール:運用基準は、投与間隔が14日未満か14日以上かで、対象に加える時期を分けています。投与間隔が14日未満の薬剤は、原則として薬価収載の時期にあわせて追加を検討します。投与間隔が14日以上の薬剤は、14日を超える投薬が可能な場合に、原則として薬価収載の時期にあわせて追加を検討します。新医薬品は、原則として薬価収載の翌月1日から1年間、投薬期間が14日に制限されます。つまり、週1回投与のアニフロルマブは前者に、月1回投与のガラダシマブは後者にあたります。
告示上の位置づけ:今回の追加案は、2つのリストに薬剤を加えることを意味します。1つ目のリストは「保険医が投与することができる注射薬」です。このリストは、保険医が処方箋を交付して患者に渡せる注射薬を限定的に定めたものです。2つ目のリストは、在宅自己注射指導管理料の対象となる注射薬(特掲診療料の施設基準等 別表第九)です。既存のリストには、SLE治療薬のベリムマブや、HAE治療薬のイカチバント、ラナデルマブなどがすでに含まれています。今回の追加により、SLEとHAEの在宅治療の選択肢が広がります。なお、2剤とも、在宅療養指導管理材料加算の設定はありません。
導入時の留意事項:対象薬剤に追加された後も、医療機関は通知(平成17年4月27日 保医発第0427002号)の留意事項に従って自己注射を導入する必要があります。1つ目の留意事項は、対象疾患の診療経験が十分な医師が指導管理を行うことです。2つ目の留意事項は、導入前に入院または週2~3回以上の外来・往診・訪問診療で、十分な教育期間を設けることです。3つ目の留意事項は、かかりつけ医と異なる医師が指導管理する場合に、緊急時の対応などで連携を図ることです。4つ目の留意事項は、使用済みの注射器など廃棄物の処理方法を指導することです。今回の資料は「案」として示されたものであり、実際の適用日は告示・通知で確認してください。
まとめ:2剤追加でSLE・HAE患者の在宅治療が広がる
中医協は、アニフロルマブとガラダシマブの2剤を、在宅自己注射指導管理料と「保険医が投与することができる注射薬」の対象に追加する案を示しました。アニフロルマブが追加されれば、SLE患者は週1回の自己注射で、通院負担を減らしながら治療を続けられるようになります。ガラダシマブが追加されれば、HAE患者は月1回の自己注射で、遠方の専門医への通院負担を減らしながら発作の発症抑制を続けられるようになります。2剤の追加は、運用基準の要件と追加時期のルールにもとづく判断です。医療機関は、導入時の指導体制を整えたうえで、告示・通知で適用日を確認してください。










