令和8年3月11日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第648回)で、公知申請とされた適応外薬4成分の保険適用が報告されました。この保険適用は薬事承認より先に行われるため、仕組みを知らないと、保険で使えるかどうかを誤って判断するおそれがあります。本号では、公知申請による保険適用の仕組みと、今回追加された適応の内容を解説します。
今回の報告は、4成分の新しい使い方が、薬事承認に先立ってすでに保険適用されたことを示すものです。公知申請とされた適応外薬は、4段階の医学薬学的評価を経ていれば、薬事審議会の事前評価が終わった時点で保険適用されます。今回適応が追加されたのは、モキシフロキサシン、ゲムシタビン、フルダラビン、メトトレキサートの4成分の、資料に記載された販売名です。これらの薬を使う際は、公表された報告書の確認と、院内の薬剤情報の更新が欠かせません。
公知申請の仕組み:事前評価の終了時点で保険適用される
公知申請とされた適応外薬は、有効性と安全性が公知であると確認された段階で保険適用されます。この取扱いは、適応外薬の保険適用を迅速に行うため、平成22年8月25日に中医協で了承されました。以下では、2つの用語、4段階の評価プロセス、保険適用のタイミングの順に説明します。
仕組みを理解するには、「適応外薬」と「公知申請」の2つの用語を押さえる必要があります。適応外薬とは、国に承認されていない効能・効果に使われる医薬品です。公知申請とは、有効性と安全性が医学薬学上公知であることを根拠に、承認を申請する方法です。公知申請では、臨床試験の全部または一部を新たに実施せずに申請できます。
公知であることは、次の4段階の評価プロセスで確認されます。
検討会議:「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」が、医療上の必要性が高いと判断する
ワーキンググループ:検討会議のワーキンググループが、有効性と安全性が公知かどうかを検討し、報告書を作成する
検討会議:検討会議が、報告書に基づいて公知申請に該当するかを判断する
薬事審議会:公知申請が可能とされた医薬品について、薬事審議会(旧薬事・食品衛生審議会)の医薬品部会が事前評価を行う
4段階の評価を終えた適応外薬は、薬事承認を待たずに保険適用されます。通常、医薬品の新しい適応は、薬事承認を経てから保険適用となります。一方、この仕組みでは、第4段階の事前評価が終わった時点で、有効性と安全性が公知であると確認されたとみなします。そのため、承認手続きが完了するまでの間も、患者は保険診療でその薬を使えます。
今回保険適用された4成分と追加された適応
今回保険適用されたのは、感染症、がん、造血幹細胞移植の3領域にわたる4成分です。これらの適応は、令和8年1月29日の薬事審議会医薬品第二部会と、令和8年3月5日の医薬品第一部会で事前評価を終えました。両部会で公知申請して差し支えないとされた適応は、それぞれの事前評価が終了した日付けで保険適用されました。資料で保険適用が示されているのは、次の一覧の販売名です。同じ成分でも、一覧にない販売名は今回の資料の対象に含まれていません。
1. モキシフロキサシン塩酸塩
販売名:アベロックス錠400mg【バイエル薬品株式会社】
追加された適応:
適応菌種:モキシフロキサシンに感性の結核菌
適応症:多剤耐性肺結核
2. ゲムシタビン塩酸塩
販売名:ゲムシタビン点滴静注用200mg「ヤクルト」、同1g「ヤクルト」、同200mg「タカタ」、同1g「タカタ」【高田製薬株式会社】
追加された適応:
局所進行上咽頭癌における化学放射線療法の導入療法
再発又は遠隔転移を有する上咽頭癌
3. フルダラビンリン酸エステル
販売名:フルダラ静注用50mg【サノフィ株式会社】
追加された適応:
同種造血幹細胞移植の前治療(対象疾患の拡大)
4. メトトレキサート
販売名:注射用メソトレキセート5mg、同50mg【ファイザー株式会社】
追加された適応:
造血幹細胞移植時の移植片対宿主病の抑制
モキシフロキサシン塩酸塩は、多剤耐性肺結核の治療に使えるようになりました。対象の販売名は、アベロックス錠400mg(バイエル薬品株式会社)です。追加された適応菌種は「モキシフロキサシンに感性の結核菌」、適応症は「多剤耐性肺結核」です。多剤耐性肺結核とは、主要な抗結核薬であるイソニアジドとリファンピシンの両方が効かない結核菌による肺結核です。
ゲムシタビン塩酸塩は、局所進行上咽頭癌の導入療法と、再発又は遠隔転移を有する上咽頭癌に使えるようになりました。対象の販売名は、ゲムシタビン点滴静注用200mg・1g「ヤクルト」と、同200mg・1g「タカタ」(高田製薬株式会社)です。追加された適応は、「局所進行上咽頭癌における化学放射線療法の導入療法」と「再発又は遠隔転移を有する上咽頭癌」の2つです。導入療法とは、主となる治療(ここでは化学放射線療法)の前に行う薬物療法です。
フルダラビンリン酸エステルは、より多くの疾患の同種造血幹細胞移植の前治療に使えるようになりました。対象の販売名は、フルダラ静注用50mg(サノフィ株式会社)です。追加された適応は「同種造血幹細胞移植の前治療(対象疾患の拡大)」です。前治療とは、移植の前に行う抗がん剤などによる処置で、「移植前処置」とも呼ばれます。拡大後の具体的な対象疾患は、公表されている報告書で確認してください。
メトトレキサートは、造血幹細胞移植時の移植片対宿主病の抑制に使えるようになりました。対象の販売名は、注射用メソトレキセート5mg・50mg(ファイザー株式会社)です。追加された適応は「造血幹細胞移植時の移植片対宿主病の抑制」です。移植片対宿主病(GVHD)とは、ドナー由来の免疫細胞が患者の体を異物とみなして攻撃する合併症です。
保険適用後に押さえたい2つの注意点
保険適用された4成分を使う際は、2つの点に注意が必要です。1つ目は、公表された報告書に基づいて使うことです。2つ目は、薬事承認前であることを踏まえて院内の薬剤情報を更新することです。
1つ目の注意点として、4成分は公表された報告書に基づき、患者ごとの症状に応じて使う必要があります。中医協の資料も、報告書などの資料に基づいて各患者の症状に応じ適切に使用することが必要だと明記しています。報告書とは、「公知申請への該当性に係る報告書」などの資料です。これらの資料は、厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページで公表されています。
PMDA 公表ページ:https://www.pmda.go.jp/index.html
2つ目の注意点として、院内の薬剤情報は、薬事承認前の保険適用を反映して更新する必要があります。保険適用の時点では、薬事承認はまだ完了していません。そのため、添付文書の効能・効果には、今回の適応がまだ記載されていない場合があります。院内の医薬品集やレセプトチェックの設定が古いままだと、保険適用された使い方を適応外と誤って判断するおそれがあります。薬剤部と医事課で情報を共有し、診療報酬の請求に支障が出ないよう備えましょう。
まとめ:4成分は承認前でも保険診療で使える
第648回中医協総会では、公知申請とされた適応外薬4成分の保険適用が報告されました。公知申請とされた適応外薬は、4段階の評価を経て事前評価が終わった時点で、薬事承認を待たずに保険適用されます。今回は、多剤耐性肺結核、上咽頭癌(局所進行例の導入療法、再発又は遠隔転移例)、同種造血幹細胞移植の前治療、造血幹細胞移植時の移植片対宿主病の抑制に、4成分の特定の販売名で適応が追加されました。これらの薬を使う際は、公表された報告書を確認し、院内の薬剤情報を速やかに更新しましょう。










