令和8年度診療報酬改定は、栄養保持を目的とした医薬品の保険給付に新しい要件を設けます。この医薬品は、薬効分類325「たん白アミノ酸製剤」に属し、エンシュア・リキッドやラコールNF配合経腸用液などが該当します。中央社会保険医療協議会は、これらの医薬品と同程度の栄養を持つ食品が市販されている点を課題として指摘しました。そこで厚生労働省は、保険給付の適正化の観点から、外来患者への投薬について給付の対象となる患者を明確化します。本記事は、この見直しの内容と医療現場が備えるべき実務対応を解説します。
見直しの要点は、外来患者への投薬を原則として算定できないものとしたうえで、3類型の患者に限って算定を認める点にあります。第一に、算定できなくなるのは、入院中の患者以外の患者に栄養保持を目的とした医薬品を投薬した場合の調剤料、処方料、薬剤料、処方箋料及び調剤技術基本料です。第二に、例外として算定できるのは、手術後の患者、経管により栄養補給を行っている患者、及び医師が医療上特に必要と判断した患者への投薬です。第三に、例外に該当する場合は、その旨または理由を処方箋と診療報酬明細書の両方に記載する必要があります。
見直しの背景:市販食品で代替できる栄養補給を給付から切り分ける
見直しの背景には、栄養保持を目的とした医薬品が市販食品と栄養成分の面で近接している実態があります。中央社会保険医療協議会は、令和7年12月12日の総会資料「個別事項(その15)」でこの実態を示しました。厚生労働省は、この資料を踏まえて保険給付の要件見直しを提案しました。
医薬品と市販食品の栄養成分は、熱量とたんぱく質のいずれでも大きな差がありません。半消化態栄養剤で比較すると、医薬品の熱量は100mLあたり100kcalから160kcalの範囲にあります。これに対し市販食品の熱量は、100mLあたり150kcalから200kcalに達します。たんぱく質でも同じ傾向がみられ、医薬品が100mLあたり3.5gから6.4gであるのに対し、市販食品は5.7gから8.0gです。つまり通常の食事で栄養補給ができる患者の追加的な栄養補給は、市販食品で代替できます。
栄養成分が近接する一方で、これらの医薬品は特定の疾患を定めずに使用できる状態にあります。薬効分類325「たん白アミノ酸製剤」には、「一般に、手術後患者の栄養保持に用いることができる」と効能又は効果を定めた医薬品が薬価収載されています。この効能又は効果は、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給を本来の使途として想定します。しかし実際には、通常の食事と同様に経口投与される場合が存在します。
保険給付の適正化は、令和8年度改定に固有の論点ではなく、過去の改定から積み重ねられてきた流れの上にあります。厚生労働省はこれまでも、ビタミン剤、うがい薬及び湿布薬について薬剤給付の適正化を実施してきました。その手法は、使用目的の明確化や、一回の処方あたりの枚数制限です。今回の見直しは、この流れに栄養保持を目的とした医薬品を加えるものです。
対象医薬品の範囲:3つの条件をすべて満たす医薬品が該当する
対象となる医薬品は、薬効分類、効能又は効果、用法及び用量という3つの条件をすべて満たすものです。厚生労働省は、個別の品名ではなくこの3条件で対象範囲を画定しました。医療機関と薬局は、自院・自局の採用品目がこの3条件に該当するかを確認する必要があります。
第一の条件は、薬効分類が「たん白アミノ酸製剤」に分類されることです。この薬効分類は、番号325に対応します。医薬品の添付文書上部に記載される薬効分類番号で確認できます。
第二の条件は、効能又は効果が「一般に、手術後患者の栄養保持」であることです。この記載は、特定の疾患を限定せずに使用できることを意味します。特定の疾患を対象と定めた栄養製剤は、この条件に該当しません。
第三の条件は、用法及び用量に「経口投与」が含まれることです。この条件は、通常の食事と同様の経口摂取が可能な医薬品を対象とする趣旨によります。経管投与のみを用法及び用量に定める医薬品は、この条件に該当しません。
3条件に該当しうる品目は、中央社会保険医療協議会の資料に例示されています。半消化態栄養剤では、エンシュア・リキッド、エンシュア・H、ラコールNF配合経腸用液、エネーボ配合経腸用液、及びイノラス配合経腸用液が挙げられました。消化態栄養剤では、ツインラインNF配合経腸用液が挙げられています。これらはいずれも、経管又は経口の両方を投与方法とする医薬品です。ただし、これらは議論の過程で示された例示にとどまるため、対象品目の最終的な範囲は告示及び通知で確認してください。
改定の具体的内容:外来投薬は原則算定不可、3類型の患者のみ例外
改定の具体的内容は、医科点数表「第5部 投薬」の通則に第6項を新設する形で規定されます。この通則は、算定できない項目と、算定を認める患者の類型を定めます。現行の点数表に対応する規定はなく、今回が新設です。
算定できなくなる項目は、投薬に関する5つの区分です。対象は、入院中の患者以外の患者に栄養保持を目的とした医薬品を投薬した場合に限られます。具体的には、区分番号F000の調剤料、F100の処方料、F200の薬剤(薬剤料)、F400の処方箋料、及びF500の調剤技術基本料が算定できません。院内処方では調剤料、処方料、薬剤及び調剤技術基本料が対象となり、院外処方では処方箋料が対象となります。
算定を認める患者の第一類型は、手術後の患者です。この類型は、当該医薬品の効能又は効果である「手術後患者の栄養保持」に直接対応します。該当する場合は、手術後の患者である旨を記載します。
算定を認める患者の第二類型は、経管により栄養補給を行っている患者です。この類型は、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給という本来の使途に対応します。該当する場合は、経管により栄養補給を行っている患者である旨を記載します。
算定を認める患者の第三類型は、医師が医療上特に必要と判断した患者です。この類型は、疾病の治療のために必要であり、他の食事では代替できない場合を想定します。点数表上は、必要な栄養を食事により摂取することが困難な患者その他これに準ずる場合と規定されます。該当する場合は、旨の記載ではなく、必要と判断した理由の記載が求められます。
以上の「旨」と「理由」の書き分けは、改定案の通則の文言に基づくものです。一方、個別改定項目の「第2 具体的な内容」は、3類型のいずれについても「その理由を処方箋及び診療報酬明細書に記載する」と記述しています。実際の記載方法は、告示及び通知の確定を待って確認してください。
医療機関・薬局の実務対応:処方箋とレセプトの両方に記載する
医療現場に求められる実務対応は、記載の徹底と院内ルールの整備です。記載を欠いた場合、投薬に関する5区分は算定できません。医療機関と薬局は、施行までに運用を固める必要があります。
医療機関が最初に行うべき対応は、採用品目の棚卸しです。前述の3条件を用い、対象医薬品を特定します。特定した品目については、外来と在宅の処方実績を確認します。この確認により、影響を受ける患者数を把握できます。
対象品目を特定した後に必要となるのは、記載様式の整備です。手術後の患者と経管栄養の患者については、該当する旨を定型文で記載できるようにします。医師の判断による患者については、他の食事では代替できない理由を個別に記載します。電子カルテやレセプトコンピュータに定型文を登録しておくと、記載漏れを防げます。
記載の対象は、処方箋と診療報酬明細書の両方である点に注意が必要です。通則は、院内処方と院外処方を区別せず、両方への記載を算定の条件と定めます。処方箋のみに記載した場合も、診療報酬明細書のみに記載した場合も、要件を満たしません。院内処方における具体的な記載方法は、告示及び通知で確認してください。
薬局に求められる対応は、処方箋の記載確認と疑義照会の運用整備です。対象医薬品の処方箋を受け付けた際は、該当する旨または理由の記載を確認します。記載がない場合は、処方医への疑義照会を行います。なお今回新設される通則は医科点数表の規定であり、調剤報酬点数表の取扱いは告示及び通知で確認してください。
患者への説明も、実務対応の重要な要素です。要件に該当しない患者は、これまで保険給付の対象であった栄養補給を市販食品で行うことになります。説明の際は、市販食品でも同程度の栄養を確保できる点を伝えます。急な変更による患者の不安を避けるため、施行前からの計画的な説明が有効です。
まとめ:3条件で対象を特定し、3類型で記載を徹底する
令和8年度診療報酬改定は、栄養保持を目的とした医薬品の保険給付に要件を新設します。対象となる医薬品は、薬効分類「たん白アミノ酸製剤」、効能又は効果「一般に、手術後患者の栄養保持」、用法及び用量に「経口投与」を含むという3条件をすべて満たすものです。この医薬品を入院中の患者以外の患者に投薬した場合、調剤料、処方料、薬剤料、処方箋料及び調剤技術基本料は原則として算定できません。算定が認められるのは、手術後の患者、経管により栄養補給を行っている患者、及び医師が医療上特に必要と判断した患者への投薬に限られます。いずれの場合も、該当する旨または理由を処方箋と診療報酬明細書の両方に記載してください。なお、答申書の附帯意見は、食品類似薬の保険給付の在り方を引き続き検討する方針を示しています。今後の議論の動向にも注意を払いましょう。










