令和8年度診療報酬改定は、病棟薬剤業務実施加算を3つの区分に再編します。この加算は平成24年の新設以降、専任薬剤師の配置や医薬品情報を扱う専用施設といった「体制」を評価してきました。しかし体制を届け出た施設が増える一方で、ポリファーマシー対策の中心となる薬剤総合評価調整加算を算定した施設は、調査対象7,985施設のうち1,333施設(16.7%)にとどまります。そこで今回の改定は、体制だけでなく薬学的介入の「実績」を評価する仕組みへと加算を組み替えます。本稿は、この見直しの内容と医療機関に求められる準備を整理します。
見直しの要点は3つです。第1に、実績要件を満たす医療機関を評価する病棟薬剤業務実施加算1(週1回300点)が新設されます。第2に、現行の加算1と加算2は、点数を据え置いたまま新しい加算2と加算3へ横滑りします。第3に、新設される加算1の施設基準には、薬剤総合評価調整業務と退院時薬剤情報管理指導の実績要件が加わります。
1. 3区分への再編で最大180点の上乗せ
改定案は、現行の2区分を3区分に組み替え、上位区分として300点の評価を新設します。現行の加算1(120点)と加算2(100点)は点数も対象も変わらないまま、それぞれ新しい加算2と加算3に名称が移ります。その上に、実績要件を満たす医療機関だけが算定できる新しい加算1が乗る形です。
新設される病棟薬剤業務実施加算1は、週1回300点を算定します。現行の加算1(120点)から見ると、180点の上乗せです。対象となるのは、入院基本料(特別入院基本料等を除く)や特定入院料のうち、加算1から加算3までのいずれかを算定できるものを現に算定している患者です。どの入院料がどの区分に対応するかは告示で定まるため、自院の病棟が加算1の対象となるかは告示の公表後に確認する必要があります。
現行の加算1に相当する病棟薬剤業務実施加算2は、週1回120点で存続します。この区分は、実績要件を満たさない医療機関の受け皿です。つまり現行どおりの体制を維持する医療機関は、名称が加算2に変わるだけで、点数も算定頻度も変わりません。
現行の加算2に相当する病棟薬剤業務実施加算3は、1日につき100点で存続します。この区分は、特定集中治療室やハイケアユニット等の治療室を対象とする評価です。施設基準は現行の加算2の内容がそのまま引き継がれます。
算定上のルールは、区分ごとの頻度を除いて現行と同じです。加算1と加算2は週1回、加算3は1日につき所定点数に加算します。また療養病棟入院基本料、精神病棟入院基本料、特定機能病院入院基本料(精神病棟に限る)を算定する患者については、入院日から起算して8週間が限度となる取扱いも維持されます。
2. 加算1の鍵は「薬剤総合評価調整」と「退院時薬剤情報管理指導」の実績
新設される加算1の施設基準は、現行の体制要件に実績要件を1つ加えた構成です。現行の加算1が求めるイからホまでの5項目は、そのまま加算1と加算2に共通する要件として残ります。この5項目に、実績要件である「ヘ」が加算1にのみ上乗せされます。
共通する体制要件は、現行と同じ5項目です。具体的には、病棟ごとの専任薬剤師の配置、薬剤関連業務に充てる十分な時間の確保、医薬品情報の収集と伝達を行う専用施設の設置、医薬品の安全性に係る重要情報を把握した際に速やかに措置を講じる体制の確保、そして薬剤管理指導料の施設基準の届出です。これらを満たす医療機関は、少なくとも加算2を算定できます。
上乗せされる実績要件は、「薬剤総合評価調整業務及び退院時薬剤情報管理指導につき十分な実績を有していること」です。薬剤総合評価調整業務は、持参薬を含む服用薬剤を多職種で総合的に評価し、処方内容を見直すポリファーマシー対策を指します。一方の退院時薬剤情報管理指導は、入院中に使用した主な薬剤をお薬手帳に記載し、退院後の服薬について患者に指導する業務です。この2つを「かつ」で求める点が、加算1のハードルとなります。
実績要件の水準は、個別改定項目の段階では明らかにされていません。「十分な実績」が算定回数で示されるのか、割合で示されるのかは、今後の告示と通知を待つ必要があります。なお施設基準が求めるのは「薬剤総合評価調整業務」と「退院時薬剤情報管理指導」であり、薬剤総合評価調整加算や退院時薬剤情報管理指導料の算定回数と一致するとは限りません。したがって医療機関は、算定回数を目安として自院の状況を把握しつつ、水準が公表された時点で速やかに判定できるよう備えることが現実的な対応となります。
3. 薬剤業務向上加算の対象は実質的に現行どおり
薬剤業務向上加算は、対象患者の範囲が実質的に維持されます。現行はこの加算の対象を「病棟薬剤業務実施加算1を算定している患者」に限っていました。改定案はこれを「病棟薬剤業務実施加算1又は病棟薬剤業務実施加算2を算定している患者」に改めます。
この改正は、区分の組み替えに伴う技術的な手当てです。現行の加算1が新しい加算1と加算2に分かれるため、対象を旧来どおりに保つには両区分を並べる必要があります。よって週1回100点という評価は現行から変わりません。免許取得直後の薬剤師への研修体制や他医療機関への出向体制を求める施設基準については、本項目で見直しが示されていないため、告示・通知で最終的な内容を確認してください。
4. 病院薬剤師の実績評価という改定の方向性
今回の見直しは、Ⅳ-4-2に並ぶ他の項目と同じ方向を向いています。この節は「医師及び薬剤師の適切な連携による医薬品の効率的かつ安全で有効な使用の促進」を掲げ、薬剤総合評価調整加算の見直し、病棟薬剤業務実施加算の見直し、医師と薬剤師の同時訪問の推進の3項目で構成されます。いずれも、薬剤師の薬学的介入を診療報酬上で可視化する内容です。
背景には、転院や退院で薬剤情報の連携が途切れる課題があります。急性期病院は入院期間が短く、ポリファーマシー対策に十分介入できないまま患者が転院するケースが少なくありません。また転院元から薬剤情報の提供がない場合には、いわゆる「処方の先祖返り」が生じる恐れも指摘されてきました。こうした課題に対し、Ⅳ-4-2①は薬剤総合評価調整加算の要件と評価を見直し、施設間の薬剤情報連携を促します。
病棟薬剤業務実施加算の見直しは、この連携を担う病棟薬剤師の体制を後押しする位置づけです。薬剤総合評価調整と退院時薬剤情報管理指導という2つの実績を加算1の条件とすることで、体制の届出にとどまらない実践を求める設計となっています。言い換えれば、届出だけでは上位区分に到達できない仕組みです。
5. 医療機関が今から着手すべき3つの準備
医療機関は、告示の公表を待つ間に3つの準備を進められます。第1に自院の実績の把握、第2に算定できていない要因の分析、第3に多職種での運用体制の点検です。これらはいずれも、実績要件の水準が示されてから着手したのでは間に合わない作業です。
第1の準備は、薬剤総合評価調整加算と退院時薬剤情報管理指導料の算定回数を月単位で把握することです。特に薬剤総合評価調整加算は、算定のある施設でも月9回以下が大半を占めています。自院がどの水準にあるかを数字で押さえることが、上位区分を目指すかどうかの判断材料となります。
第2の準備は、算定できていない要因を分析することです。調査では、2種類以上の減薬を評価する薬剤調整加算について、算定しない理由として「入院期間中に2種類以上の減薬を実施することが難しい」が最も多く挙げられました。一方で、退院時に1種類以上減少した患者は34.1%に達します。なお薬剤調整加算は、多職種による総合的な評価を評価する薬剤総合評価調整加算とは別の区分です。したがって減薬の可否だけでなく、総合的な評価というプロセス自体を確実に実施し記録に残す運用が鍵となります。
第3の準備は、多職種での運用体制を点検することです。薬剤総合評価調整業務は、医師、薬剤師、看護師等の連携の下で実施し、ポリファーマシー対策の手順書を院内に周知することが求められます。また退院時薬剤情報管理指導は、退院時の指導と記録を漏れなく行う運用が前提となります。この2つの業務を日常の病棟業務に組み込めるかどうかが、加算1の取得を左右します。
まとめ
令和8年度診療報酬改定は、病棟薬剤業務実施加算を3区分に再編し、実績を評価する新しい加算1(週1回300点)を新設します。現行の加算1と加算2は、点数を据え置いたまま加算2(週1回120点)と加算3(1日につき100点)へ移ります。新設される加算1は、現行の体制要件5項目に加えて、薬剤総合評価調整業務と退院時薬剤情報管理指導の十分な実績を求めます。実績の具体的な水準は今後の告示と通知で示されるため、医療機関は自院の算定回数の把握と多職種での運用体制の点検から着手することをおすすめします。










