令和8年度診療報酬改定は、長期処方とリフィル処方箋の活用推進を「Ⅳ-4-1 重複投薬、ポリファーマシー、残薬、適正使用のための長期処方の在り方への対応」に位置づけました。この対応策の5番目にあたる「⑤ 長期処方・リフィル処方箋の活用に係る医学管理料等の見直し」は、特定疾患療養管理料をはじめとする日常的に算定頻度の高い項目に新しい要件を加えます。対象となる医療機関は、施行までに掲示物と院内運用を準備しなければなりません。本稿は、この項目で何がどう変わるのかを、実務対応の順に整理します。
今回の見直しは、医学管理料への要件追加と処方箋様式の変更という2つの柱で構成されます。要件追加の第一は、28日以上の長期の投薬とリフィル処方箋の交付に対応できる旨を、院内の見やすい場所に掲示することです。要件追加の第二は、患者から求められた場合に、患者の状態を踏まえて適切に対応することです。要件が追加される対象は、特定疾患療養管理料など6つの医学管理料等です。処方箋様式の変更は、リフィル処方箋の患者認知度を高めることをねらいます。
見直しの背景:リフィル処方箋を必要と考える患者はまだ少ない
今回の見直しは、リフィル処方箋を必要と考える患者が長期処方に比べて大幅に少ない現状を出発点とします。令和6年度入院・外来医療等における実態調査では、外来患者の53%が「28日以上の長期処方に対応していること」を定期的な受診を続ける上で必要と回答しました。これに対して、「リフィル処方箋に対応していること」を選んだ患者は15%にとどまりました。医療機関に「患者に継続した受診を続けてもらう上で必要なこと」を尋ねた同じ調査でも、「28日以上の長期の処方をしてもらえること」が47%、「リフィル処方箋を発行してもらえること」が7%と、同じ方向の差が出ています。ここで注意したいのは、この差が制度の使いにくさよりも、リフィル処方箋という選択肢を知る機会の少なさを示している可能性です。今回の見直しが掲示と処方箋様式という「患者への伝え方」に集中しているのは、この認識に立つためと読み取れます。
患者への伝え方をめぐる対応は、令和6年度改定から段階的に進んできました。令和6年度改定では、かかりつけ医機能を評価する地域包括診療料等に、リフィル処方や長期処方を活用できることを患者に周知する要件が加わりました。令和8年度改定は、この周知の要件を特定疾患療養管理料などの医学管理料へ広げます。要件が広がることで、周知を受ける患者は、かかりつけ医機能に関する項目を算定する患者から、後述する6つの医学管理料等を算定する患者へと拡大します。
要件追加①:長期処方とリフィル処方箋に対応できる旨を院内に掲示する
追加される要件の第一は、長期処方とリフィル処方箋に対応できる旨の院内掲示です。掲示する内容は、患者の状態に応じて28日以上の長期の投薬を行うこと「又は」リフィル処方箋を交付することについて、当該対応が可能であるという事実です。条文が「又は」で結んでいるとおり、掲示は2つの対応を常に両方提供すると約束するものではありません。掲示する場所は、当該保険医療機関の見やすい場所と定められています。
この掲示は、算定要件と施設基準の両方に位置づけられる点に注意してください。まず算定要件(通知)には、掲示と患者への対応をあわせた項目が新設されます。あわせて特定疾患療養管理料の注1に、「別に厚生労働大臣が定める施設基準を満たす保険医療機関において」という文言が加わります。新設される施設基準の本文は「特定疾患療養管理を行うにつき必要な体制が整備されていること」であり、その具体的な中身を通知が掲示として示す構成です。
施設基準が新設される点は、実務上もっとも影響が大きい変更です。現行の特定疾患療養管理料には施設基準そのものがなく、掲示をしていなくても算定できました。改定後は、施設基準を満たす医療機関でなければ算定できません。
ただし、この施設基準に届出が必要かどうかは、現時点では確定していません。改定案の注1は「別に厚生労働大臣が定める施設基準を満たす保険医療機関において」と記載しており、届出を伴う項目で用いられる「地方厚生局長等に届け出た保険医療機関」という表記ではないためです。この表記のとおりであれば届出は不要となり、基準を満たすこと自体が算定の条件になります。いずれにせよ判断材料は告示と通知にあるため、対象の医療機関は届出の要否と経過措置の有無を発出後にすみやかに確認してください。
要件追加②:患者から求められた場合は、患者の状態を踏まえて適切に対応する
追加される要件の第二は、患者から求められた場合の適切な対応です。算定要件(通知)は、掲示に続けて「患者から求められた場合に、患者の状態を踏まえて適切に対応を行うこと」と規定します。掲示だけで終わらせず、掲示を見た患者の申し出に応じる運用までを一体で求める構成です。
この対応要件は、患者の求めに必ず応じることを意味しません。条文が「患者の状態を踏まえて」と限定しているとおり、長期処方やリフィル処方箋を交付するかどうかは医師の医学的判断に委ねられます。症状が安定していない患者や、投与期間に制限のある医薬品を用いる患者には、従来どおりの処方が適切です。もっとも、求めに応じなかった場合には、その判断の根拠を診療録に記録しておく運用が安全でしょう。
対象:特定疾患療養管理料を含む6つの医学管理料等
要件が追加される対象は、特定疾患療養管理料を含む6つの医学管理料等です。個別改定項目は、次の項目を対象として列挙しています。
特定疾患療養管理料
皮膚科特定疾患指導管理料
婦人科特定疾患治療管理料
耳鼻咽喉科特定疾患指導管理料
二次性骨折予防継続管理料
小児科外来診療料
個別改定項目は、特定疾患療養管理料以外の5項目について「同様」と記しています。したがって注1の改正、施設基準の新設、算定要件への追加は、6項目すべてに及ぶと読むのが自然です。
これら6項目は、計画的な医学管理を継続して行うことを評価する点で共通します。共通する一方で、算定する診療科は内科から皮膚科、婦人科、耳鼻咽喉科、小児科まで広がります。二次性骨折予防継続管理料は入院医療と外来医療にまたがり、小児科外来診療料は初診料や再診料を含む包括点数です。対象の広がりを踏まえると、診療所だけでなく病院でも、複数の部門で同時に対応を確認する必要があります。
処方箋様式の見直し:リフィル処方箋の患者認知度を高める
医学管理料の要件追加と並ぶもうひとつの柱が、処方箋様式の見直しです。個別改定項目は、見直しの目的を「リフィル処方箋の患者認知度を向上する観点」と明示しています。現行の処方箋様式にもリフィル処方箋の欄は設けられており(令和4年度改定で追加)、欄の有無ではなく気づきやすさが課題という位置づけです。ただし、変更後の様式そのものは個別改定項目に示されていません。具体的なレイアウトは、告示の発出を待って確認してください。
処方箋様式の見直しは、同じⅣ-4-1に含まれる残薬対策の見直しとも連動します。「④ 残薬対策の推進に向けた処方箋様式の見直し」でも、薬局が残薬を確認した際の対応を医師が事前に指示できるよう、様式が変更されます。2つの見直しは同時期に施行されるため、レセプトコンピュータや電子カルテの改修は、両方をまとめてベンダーに確認するのが効率的です。
医療機関の実務対応:掲示・運用・届出・システムの4点を確認する
対象の医療機関は、掲示、運用、届出、システムの4点を確認してください。それぞれの確認事項は次のとおりです。
掲示は、28日以上の長期の投薬とリフィル処方箋の交付に対応できる旨を記した掲示物を、院内の見やすい場所に用意します。令和6年度改定以降、院内掲示事項は原則としてウェブサイトへの掲載も求められています。自院のウェブサイトを持つ医療機関は、掲示物と同じ内容をウェブサイトにも掲載してください。
運用は、患者から長期処方やリフィル処方箋を求められた場合の対応手順を、医師と受付・看護スタッフで共有します。掲示を見た患者からの問い合わせは、まず受付で受けることになるためです。
届出は、新設される施設基準への対応です。前述のとおり届出の要否は改定案の記載だけでは判断できないため、告示・通知の発出後ただちに確認し、必要な場合は施行までに提出します。
システムは、処方箋様式の変更へのベンダー対応です。改修の時期と費用を早めに確認し、施行日から新様式で発行できる状態にします。
まとめ:掲示と対応の2要件が、6つの医学管理料等に加わる
Ⅳ-4-1-⑤は、長期処方とリフィル処方箋の活用を医学管理料の要件から後押しする見直しです。特定疾患療養管理料など6つの医学管理料等に、長期処方とリフィル処方箋に対応できる旨の院内掲示と、患者から求められた場合の適切な対応という2つの要件が加わります。これら6項目には施設基準も新設されるため、届出の要否を告示・通知で確認する作業が欠かせません。あわせて処方箋様式も、リフィル処方箋の患者認知度を高める観点から見直されます。掲示物の準備、院内運用の整理、届出、システム改修の4点を、施行までに順に進めてください。










