令和8年4月8日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第649回)で、調査実施小委員会が「令和8年度医療機関等の経営状況に係る臨時調査」の実施案を報告しました。この臨時調査の結果は、令和8年度診療報酬改定の賃上げ分や物価対応分を令和9年度に加減算するかどうかの判断材料になります。本号では、臨時調査の目的・設計・調査票の内容を、総会資料(総-9-1~総-9-6)に沿って整理します。
臨時調査は、改定後の経営実態を短期間で把握し、令和9年度の追加調整の判断に使うための調査です。第1に、調査の目的は、経済・物価の動向が改定時の見通しから大きく変動し、経営に支障が生じた場合に備え、令和9年度予算編成で改定率の一部を加減算するための足元の情報を得ることです。第2に、調査の設計は、医療経済実態調査をベースに4つの施設類型を層化無作為抽出(一部は全数調査)し、令和7年と令和8年の6~9月を比較するものです。第3に、調査票は損益に加え、賞与・職員数・ベースアップ評価料など賃上げの状況も尋ねる構成で、回答は11月10日までに電子調査票で提出します。
1 調査の目的:令和9年度の「更なる調整」の判断材料をつくる
臨時調査は、令和7年12月24日の大臣折衝事項で予告された「令和9年度における更なる調整」に必要なデータを集める調査です。以下では、改定率の構造、調整の仕組み、臨時調査の位置づけの順に説明します。
令和8年度診療報酬改定の改定率は、2年度平均で+3.09%に設定されています。この+3.09%は、令和8年度+2.41%、令和9年度+3.77%という2段階の数字の平均です。内訳には、賃上げ分+1.70%、物価対応分+0.76%、食費・光熱水費分+0.09%が含まれます。改定は令和8年6月に施行されました。
この改定率の一部は、経済・物価の実際の動きに応じて見直されることがある仕組みになっています。大臣折衝事項は、実際の経済・物価の動向が改定時の見通しから大きく変動し、医療機関等の経営に支障が生じた場合の対応を定めています。その対応とは、賃上げ分・物価対応分・食費・光熱水費分(特例的な対応を除く)について、令和9年度予算編成で「加減算を含め更なる必要な調整を行う」ことです。つまり、調整は上乗せだけでなく、引き下げの可能性も含みます。
その調整の根拠となる「足元の情報」を得る手段が、今回の臨時調査です。大臣折衝事項は、必要な情報を正確に把握するため、令和8年度の経営状況等を調査すると明記しています。報告時期を11月下旬に置くのは、年末の予算編成に結果を間に合わせるためと考えられます。
2 調査の設計:4施設類型を抽出し、2期間の損益を比較する
臨時調査の設計は、医療経済実態調査をベースとしつつ、短期間で結果を得られるように組み立てられています。以下では、対象、抽出方法、調査期間、日程と方法、集計の順に説明します。
調査の対象は、社会保険による診療・調剤を行う全国の病院、一般診療所、歯科診療所、保険薬局です。保険薬局は、1か月の調剤報酬明細書の取扱件数が300件以上の薬局に限られます。一方、開設者が医育機関である病院(特定機能病院と歯科大学病院を除く)、特定人のための閉鎖的な施設、感染症病床のみの病院、自衛隊病院などの特殊な病院は対象外です。同様に、歯科併設の一般診療所、臨床検査センター、夜間診療所、巡回診療所、1か月の診療時間が100時間未満と推定される施設も除外されます。
対象施設の中から、施設類型ごとに層化無作為抽出で調査客体を選びます。ただし、特定機能病院・歯科大学病院・こども病院は抽出率が1/1であり、全数が調査客体となります。施設類型ごとの抽出率と主な層化の基準は次のとおりです。
病院
抽出率:1/2.5(特定機能病院・歯科大学病院・こども病院は1/1)
主な層化の基準:DPC対象の有無、病床規模(200床以上・未満)、院外処方の有無、地域、開設者など
一般診療所
抽出率:1/10
主な層化の基準:入院患者の有無、主たる診療科、院外処方の有無、地域など
歯科診療所
抽出率:1/30
主な層化の基準:院外処方の有無、地域、常勤歯科医師数
保険薬局
抽出率:1/20
主な層化の基準:地域、開設者(個人・法人)
調査期間は、令和7年6月~9月と令和8年6月~9月の2期間です。令和8年6~9月は、令和8年度改定の施行直後にあたります。同じ月同士を比べるため、季節による収益・費用の変動の影響を抑えて改定前後を比較できると考えられます。
調査の日程は、実施案では9月中旬に調査票を配布し、11月上旬を回答期限としています。調査票案に記載された提出期限は、令和8年11月10日です。回答は、ホームページを利用した電子調査方式で、医療機関等の管理者が自ら記入する「自計申告」で行います。調査主体は中医協です。結果は、中医協の議を経て速やかに公表されます。
集計は、施設類型ごとの基本集計と、機能別の集計の2本立てです。基本集計では、病院は医業・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満の施設を、一般診療所・歯科診療所・保険薬局は回答した全施設を集計します。機能別の集計では、病院機能別、入院基本料別、一般診療所の主たる診療科別、保険薬局の調剤基本料等別に損益を示します。さらに、ベースアップ評価料の算定状況別の損益も集計されます。
3 調査票の内容と回答のポイント:損益と賃上げの状況を尋ねる
調査票は「第1 基本データ」と「第2 損益」の2部で構成され、損益に加えて賃上げの状況を尋ねる項目も設けられています。以下では、基本データ、賃上げ関連項目、損益項目、回答時の注意点の順に説明します。
基本データでは、施設の属性を原則として令和8年9月30日時点で尋ねます。4つの調査票に共通する項目は、開設者、活動状況、消費税の経理方式、賞与引当金・退職給付引当金の計上有無です。活動状況で「令和7年6月2日以降に開設」「休止・廃止」などに該当する施設は、その時点で調査終了となります。病院票では、令和8年度改定後の区分(急性期病院A一般入院料、急性期病院B一般入院料など)で、令和8年6~9月に算定月数が最も多い入院基本料を記入します。保険薬局票では、令和8年6月以降に算定している調剤基本料を記入します。
賃上げ関連の項目は、賞与・職員数・ベースアップ評価料の3点から賃上げの状況を把握する設問です。賞与については、夏期賞与1人あたり支給額の前年比(増額・変化なし・減額)を尋ねます。職員数は、令和7年9月30日と令和8年9月30日の2時点の常勤・非常勤合計を記入します。ベースアップ評価料は、算定の有無を全施設類型で尋ねます。そのうえで、病院と一般診療所は外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)のみか、(Ⅱ)や入院ベースアップ評価料も算定しているかを選びます。歯科診療所は、歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)のみか、(Ⅱ)も算定しているかを選びます。
損益の項目は、2期間それぞれの収益と費用を金額で記入する形式です。費用のうち、給与費には賞与、賞与に係る法定福利費、引当金繰入額、退職金支払額の内訳欄があります。そのほかの費用の内訳として、水道光熱費、委託費、減価償却費、設備機器賃借料などの欄も設けられています。委託費の内訳欄は施設類型で異なります。病院と一般診療所は給食委託費と人材委託費、歯科診療所は歯科技工委託費、保険薬局は人材委託費を記入します。賃借料の内訳欄も施設類型で異なります。病院・一般診療所・歯科診療所は医療機器賃借料、保険薬局は調剤用機器賃借料を記入します。病院票に限り、補助金などを含む「その他の収益」や特別利益・特別損失まで記入し、総損益差額を算出します。
回答時の注意点は、主に施設単位の推計、賞与の計上方法、記入ルールの3つです。施設単位の推計については、法人全体で包括して経理している場合でも、面積・病床数・従事者数などで按分し、調査対象施設分のみを記入します。賞与の計上方法については、賞与引当金を計上していない施設は、年間支給額が決まっていれば年間支給額の4/12を記入します。夏季賞与のみ決まっている場合は、夏季賞与の支給額の8/12を記入します。記入ルールについては、金額が0の欄にも必ず「0」を記入します。ただし、賞与引当金・退職給付引当金を計上していないなど記入が困難な欄には「-」を記入します。なお、この調査は統計法に基づく一般統計調査であり、調査票が税務調査などの目的に使われることはありません。
まとめ:臨時調査は令和9年度の追加調整を判断する重要なデータになる
中医協総会(第649回)で報告された臨時調査は、令和8年度改定後の経営実態を把握し、令和9年度の追加調整の判断に使うための調査です。第1に、目的は、賃上げ分・物価対応分・食費・光熱水費分を令和9年度予算編成で加減算するかどうかの判断材料を得ることです。第2に、設計は、4つの施設類型を層化無作為抽出(一部は全数調査)し、令和7年と令和8年の6~9月の損益を比較するものです。第3に、調査票は損益に加え、賞与・職員数・ベースアップ評価料など賃上げの状況も尋ねる構成で、回答は11月10日までに電子調査票で提出します。
調査客体に選ばれた施設の回答が、全国の医療機関等の経営実態を示すデータになります。対象となった施設は、損益計算書をもとに早めに準備を進めることをお勧めします。なお、本号は4月8日時点の実施案に基づいているため、最終的な調査内容は配布された調査票と記入要領でご確認ください。










