令和8年9月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第656回)で、厚生労働省は「令和7年度 医療費の動向」を報告しました。この報告は、令和10年度診療報酬改定に向けた議論の前提となる基礎データのひとつです。本号では、報告資料(総-1と参考1〜4)から、医療費が「どれだけ」「なぜ」増えたのかを整理します。
令和7年度の医療費は49.2兆円となり、前年度より約1.3兆円(2.6%)増えました。第一に、患者の受診(受診延日数)は0.7%減った一方、1日当たり医療費が3.3%増え、全体を押し上げました。第二に、入院・入院外・歯科・調剤のすべてで医療費が増え、特に調剤(3.9%増)と歯科(3.5%増)の伸びが目立ちました。第三に、調剤では処方箋1枚当たりの薬剤料が5.7%増え、抗がん剤などの「腫瘍用薬」や注射薬が伸びを支えました。
用語メモ:概算医療費とは 医療機関から提出された診療報酬明細書(レセプト)をもとに、医療保険と公費負担医療の医療費を集計した速報値です。労災や全額自費の費用を含まず、国民医療費の約98%に相当します。
全体の動き:受診は減り、1日当たりの医療費が増えた
令和7年度の医療費の伸びは、受診の減少を「1日当たり医療費」の増加が上回った結果です。
医療費の伸び率は、令和6年度の1.5%から令和7年度は2.6%へ拡大しました。金額では、48.0兆円から49.2兆円に増えています。
医療費の伸びを分解すると、受診延日数は0.7%減り、1日当たり医療費は3.3%増えました。受診延日数とは、医療機関を受診した延べ患者数に相当する指標です。受診延日数は令和2年度にコロナで大きく落ち込んだ後、令和3年度以降は増えていました。令和7年度は、その受診延日数が減少に転じました。一方、1日当たり医療費の伸びは、令和3〜6年度と比べて大きくなっています。
医療費の伸び2.6%を要因別に見ると、人口や高齢化では説明できない「その他の影響」が大部分を占めています。
人口増の影響:▲0.5%
高齢化の影響:+0.6%
診療報酬改定等の影響:▲0.39%
その他の影響:+2.9%
人口の変化と診療報酬改定等がマイナスに働いた中で、「その他の影響」が+2.9%と伸びを主導しました。資料では「その他の影響」の具体的な内訳は示されていません。なお、令和7年度は前年度より休日(日曜・祭日等)が1日多く、休日数等による補正は▲0.2%です。
診療種類別:4分野すべてで増加、伸びは調剤と歯科が大きい
令和7年度の医療費は、入院・入院外・歯科・調剤の4分野すべてで増えました。ただし、伸びの大きさと理由は分野ごとに異なります。
総数:49.2兆円(+2.6%)
受診延日数 ▲0.7%/1日当たり医療費 +3.3%
入院:19.6兆円(+2.3%)
受診延日数 ▲0.5%/1日当たり医療費 +2.8%
入院外:16.5兆円(+1.6%)
受診延日数 ▲1.6%/1日当たり医療費 +3.2%
歯科:3.5兆円(+3.5%)
受診延日数 +0.4%/1日当たり医療費 +3.2%
調剤:8.8兆円(+3.9%)
受診延日数 ▲1.1%/1日当たり医療費 +5.0%
※カッコ内は医療費の対前年度伸び率です。調剤の受診延日数は処方箋枚数(受付回数)、1日当たり医療費は処方箋1枚当たり医療費です。
入院医療費は2.3%増え、医療材料や手術がその伸びを支えました。入院医療費の伸びへの影響度は、「特定保険医療材料」が0.6%、「DPC包括部分」が0.6%、「手術・麻酔」が0.5%です。特定保険医療材料の伸びでは、「循環器系の疾患」の影響が大きくなっています。入院の受診延日数を長期で見ると、新規入院件数はコロナ前の水準を超える一方、平均在院日数の短縮が続いています。その結果、令和7年度の入院の受診延日数は、令和元年度より低い水準です。
入院外医療費は1.6%増え、薬剤料がその伸びを支えました。入院外医療費の伸びへの影響度は、「薬剤料」が1.1%です。薬剤料では、「新生物<腫瘍>」が前年度のマイナスから大きなプラスに転じました。一方、入院外の受診延日数は1.6%減り、4分野の中で減少幅が最も大きくなっています。
歯科医療費は3.5%増え、受診延日数が増えた唯一の分野です。歯科の受診延日数は0.4%増え、1日当たり医療費は3.2%増えました。また、歯科医療費は治療に使う貴金属の価格に左右されます。令和7年度は、この貴金属の価格変動が歯科医療費の伸びをプラス方向に押し上げました。
調剤医療費は3.9%増え、4分野の中で伸びが最も大きくなりました。調剤の処方箋枚数は1.1%減った一方、処方箋1枚当たり医療費が5.0%増えています。調剤医療費の中身は、次の「調剤と薬剤料」の章で詳しく説明します。
年齢・医療機関別:高齢者医療費が増え、大学病院の伸びが大きい
年齢と医療機関の種類で見ると、医療費の伸びには偏りがあります。
1人当たり医療費は40.0万円となり、前年度より3.1%増えました。年齢区分ごとの1人当たり医療費(カッコ内は伸び率)は、次のとおりです。
全体:40.0万円(+3.1%)
75歳未満:26.1万円(+2.7%)
75歳以上:98.9万円(+1.6%)
未就学者(再掲):24.8万円(▲0.8%)
75歳以上の医療費は20.3兆円となり、前年度より3.9%増えました。75歳以上の1人当たり医療費の伸び(1.6%)は全体(3.1%)より小さいものの、医療費の総額は全体の伸び(2.6%)を上回っています。
未就学者の1人当たり医療費は0.8%減り、年齢区分で唯一のマイナスとなりました。未就学者は、1人当たり受診延日数が5.5%減った一方、1日当たり医療費は4.9%増えています。
大学病院の医療費は、他の病院より大きく伸びました。大学病院の伸び率は、入院が6.5%、入院外が7.5%です。病院全体の伸び率(入院2.4%、入院外2.6%)と比べると、大学病院の伸びが際立っています。
都道府県別の医療費では、東京都の伸びが最大でした。全体的に、関東圏と沖縄県で伸びが大きく、東北地方や山口県、徳島県で伸びが小さくなっています。
調剤と薬剤料:高額な薬と注射薬が伸びを主導
調剤医療費の伸びは、処方箋の枚数ではなく、処方箋1枚当たりの薬剤料の増加によるものです。(以下は電算処理分のレセプトを集計した数値で、概算医療費とは集計範囲がわずかに異なります。カッコ内は伸び率です。)
調剤医療費:8兆7,242億円(+3.8%)
処方箋枚数:8億8,669万枚(▲1.1%)
処方箋1枚当たり調剤医療費:9,839円(+5.0%)
うち技術料:2,676円(+3.2%)
うち薬剤料:7,144円(+5.7%)
内服薬:5,450円(+4.0%)
注射薬:918円(+23.8%)
薬剤料は、調剤医療費の伸び3.8%のうち3.3%分を占めました。技術料の影響は0.6%にとどまります。
注射薬は、処方箋1枚当たりで23.8%増え、最も大きく伸びました。処方箋1枚当たり薬剤料の伸び(5.7%)への影響度は、内服薬が3.1%、注射薬が2.6%です。
内服薬の伸びは、主に1種類当たりの投薬日数の伸びによるものです。内服薬の処方箋1枚当たり薬剤料の伸びを分解すると、薬剤種類数が+0.3%、1種類当たり投薬日数が+3.2%、1種類1日当たり薬剤料が+0.4%でした。
薬効分類別では、「腫瘍用薬」が伸びに最も大きく影響しました。医科・歯科・調剤を合わせた薬剤料の伸び(4.7%)への影響度は、「腫瘍用薬」が2.0%、「生物学的製剤」が0.9%です。一方、抗ウイルス薬などを含む「化学療法剤」は、マイナスに影響しました。
後発医薬品の使用割合は、令和7年度末(令和8年3月)時点で、数量ベースが91.7%、薬剤料ベースが75.9%です。数量ベースは前年度より1.0ポイント上昇し、薬剤料ベースは1.8ポイント低下しました。
まとめ:受診は減っても、医療の「単価」が医療費を押し上げた
令和7年度の医療費は49.2兆円となり、前年度より約1.3兆円(2.6%)増えました。
全体の動き:受診延日数は0.7%減った一方、1日当たり医療費が3.3%増えました。伸びの要因では、人口の変化と診療報酬改定等がマイナスに働く中、「その他の影響」が+2.9%と伸びを主導しました。
診療種類別:入院・入院外・歯科・調剤のすべてで医療費が増え、調剤(3.9%増)と歯科(3.5%増)の伸びが大きくなりました。
調剤と薬剤料:処方箋1枚当たり薬剤料が5.7%増え、腫瘍用薬や注射薬が伸びを主導しました。
「受診は減っても単価が上がる」という構図は、令和10年度診療報酬改定に向けた議論でも重要な前提になります。次号以降も、中医協での議論をわかりやすくお伝えします。
出典:中央社会保険医療協議会 総会(第656回)資料 総-1「令和7年度 医療費の動向」、総-1参考1「令和7年度 医療費の動向」、参考2「令和7年度 医科医療費(電算処理分)の動向」、参考3「令和7年度 歯科医療費(電算処理分)の動向」、参考4「令和7年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」(いずれも令和8年9月9日)










