令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)で、「DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応について」が議題となりました。DPC病院では、高額な新薬を使っても包括払いの点数に反映されないため、どの薬剤が包括評価の対象外になるかを正しく把握する必要があります。本号では、今回示された高額薬剤判定の仕組みと対象品目、医療機関が確認すべき点を解説します。
今回の判定では、22品目の医薬品を使用した患者について、該当する診断群分類に限り、次期診療報酬改定まで出来高算定とする事務局案が示されました。判定の仕組みは、薬剤費の見込み額が「その薬剤を使用していない症例の薬剤費の84パーセンタイル値」を超えるかどうかです。対象は、令和8年8月13日に薬価収載予定の新薬6品目と、令和8年6月19日に効能・効果や用法・用量が追加された医薬品16品目です。この案が告示に反映されると、医療機関は「薬剤」と「診断群分類」の組み合わせで対象患者を判定し、出来高で請求する必要があります。
1. 高額薬剤判定の仕組み
高額薬剤判定とは、DPCの包括点数に反映されていない高額な新規医薬品を、一時的に包括評価の外に出す仕組みです。判定は診断群分類ごとにおこなわれ、薬剤費が84パーセンタイル値を超えるかどうかで決まります。以下では、制度の目的、対象となる医薬品、判定の手順、具体例の順に説明します。
制度の目的は、DPC病院で新しい医療技術の導入が妨げられないようにすることです。 DPC/PDPSの包括点数は、過去の診療実績データをもとに設定されています。そのため、新たに保険適用された医薬品の費用は、包括点数に含まれていません。高額な新薬を包括払いのまま使うと、病院が薬剤費を持ち出すことになります。そこで国は、十分な使用実績データが集まりDPCで包括評価できるようになるまで、一定の基準に該当する薬剤を使った患者を包括評価の対象外としています。この判定は、新薬の薬価収載にあわせて年4回実施されます。
判定の対象となる医薬品は、新薬・一部変更・公知申請の3区分です。 新薬は、新たに薬価収載される医薬品です。一部変更(一変)は、効能・効果や用法・用量が追加・変更された医薬品のうち、薬事審議会で審査・報告されたものです。公知申請は、事前評価済みの公知申請により効能が追加された医薬品です。今回の判定には、新薬と一部変更の2区分が含まれています。
判定の手順は、診断群分類ごとに「仮想投与回数」から1入院当たりの薬剤費を算出し、84パーセンタイル値と比べるものです。 まず、効能・効果から、その医薬品を使う可能性のある診断群分類(14桁コード)を抽出します。次に、入院初日から退院まで添付文書どおりに投与した場合の回数(仮想投与回数)を求めます。この仮想投与回数には、平均在院日数が加味されます。そして、「1回投与当たりの標準的な費用」に仮想投与回数を掛けて、1入院当たりの標準的費用を算出します。この標準的費用が、その診断群分類で当該薬剤を使用していない症例の1入院当たり薬剤費(包括範囲の薬剤費)の84パーセンタイル値を超えると、高額薬剤に指定されます。なお、併用薬が必要な薬剤では、併用薬の費用も見込み額に含めて判定します。
84パーセンタイル値とは、薬剤費を低い順に並べたとき、下から84%の位置にある値です。 つまり、その薬剤を使うと、同じ診断群分類で使用していない症例の約84%よりも薬剤費が高くなる場合に、高額薬剤と判定されます。この基準は、前年度に使用実績のない医薬品に適用されます。
判定のもう一つの作業として、診断群分類の定義そのものに新薬を追加する場合があります。 類似薬効比較方式で算定された新薬について、比較薬がすでに診断群分類の定義テーブルで分岐として定義されている場合は、その新薬も定義テーブルに追加されます。この作業は「定義告示」への追加と呼ばれます。一方、包括評価の対象外とする薬剤と診断群分類を定める作業は、「高額薬剤告示」への追加と呼ばれます。
具体例として、ゼオマイン(痙性斜頸・眼瞼痙攣)の判定を見てみましょう。 ゼオマインの1回投与当たりの標準的な費用は16,660円です。対象となる診断群分類「010180xx99x0xx(不随意運動)」では、仮想投与回数は1回なので、1入院当たりの標準的費用も16,660円です。この診断群分類の84パーセンタイル値は13,059円です。16,660円は13,059円を超えるため、ゼオマインは高額薬剤と判定されます。このように、1回の費用が比較的低い薬剤でも、診断群分類の薬剤費水準が低ければ対象になります。
2. 今回該当した22品目
今回の判定で基準に該当したのは、新薬6品目と一部変更16品目の計22品目です。新薬は、令和8年8月13日に薬価収載予定の医薬品です。一部変更は、令和8年6月19日に効能・効果や用法・用量が追加された医薬品です。以下では、新薬、一部変更(がん領域)、一部変更(がん以外の領域)の順に一覧で示します。
新薬6品目は、希少疾患や小児がん、食道がんなど、幅広い領域にわたります。 特に、テロメライシン注は1回投与当たり3,102,489円と高額です。食道の悪性腫瘍の一部の診断群分類では、仮想投与回数が3回となり、1入院当たりの標準的費用は9,307,467円です。この額は、84パーセンタイル値(256,773円〜613,851円)を大きく上回ります。
ウェイリズ錠(リルザブルチニブ)
効能・効果:持続性及び慢性免疫性血小板減少症
対象の診断群分類:130110 出血性疾患(その他)
1回投与当たりの標準的な費用:6,168.3円
サデルガカプセル25mg(エリグルスタット酒石酸塩)
効能・効果:ゴーシェ病の諸症状の改善
対象の診断群分類:100335 代謝障害(その他)
1回投与当たりの標準的な費用:78,350.5円
ジョエンジャ錠(レニオリシブリン酸塩)
効能・効果:活性化PI3Kδ症候群
対象の診断群分類:130150 原発性免疫不全症候群
1回投与当たりの標準的な費用:133,176.5円
イソトレックスカプセル(イソトレチノイン)
効能・効果:大量化学療法後の神経芽腫
対象の診断群分類:02001x、040010、060030
1回投与当たりの標準的な費用:2,952.0円
キネレット皮下注(アナキンラ)
効能・効果:全身型若年性特発性関節炎、成人発症スチル病
対象の診断群分類:070560 重篤な臓器病変を伴う全身性自己免疫疾患
1回投与当たりの標準的な費用:23,702円
テロメライシン注(スラタデノツレブ)
効能・効果:根治切除・化学放射線療法の適応とならない食道癌
対象の診断群分類:060010 食道の悪性腫瘍
1回投与当たりの標準的な費用:3,102,489円
一部変更のうち、がん領域の7品目は、免疫チェックポイント阻害薬や二重特異性抗体などです。 テビムブラ、イミフィンジ、ミンジュビ、テクベイリ、タービーには、資料上「このほかに併用薬の費用がかかる」と注記されています。テクベイリとタービーは、両剤を併用する用法・用量で判定されています。レットヴィモは、RET融合遺伝子陽性の固形腫瘍が対象のため、脳腫瘍や乳がんなど36の疾患(6桁コード)が対象に挙げられています。
ティブソボ錠(イボシデニブ)
効能・効果:IDH1遺伝子変異陽性の治癒切除不能な胆道癌
対象の診断群分類:060050、060060
1回投与当たりの標準的な費用:60,015.2円
レットヴィモ錠・カプセル(セルペルカチニブ)
効能・効果:RET融合遺伝子陽性の固形腫瘍、RET遺伝子変異陽性の甲状腺髄様癌
対象の診断群分類:010010 脳腫瘍ほか計36分類
1回投与当たりの標準的な費用:7,717.4円
ミンジュビ点滴静注用(タファシタマブ)
効能・効果:再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫
対象の診断群分類:130030 非ホジキンリンパ腫
1回投与当たりの標準的な費用:375,603円
テビムブラ点滴静注(チスレリズマブ)
効能・効果:治癒切除不能な進行・再発の胃癌
対象の診断群分類:060020 胃の悪性腫瘍
1回投与当たりの標準的な費用:428,996円
イミフィンジ点滴静注(デュルバルマブ)
効能・効果:胃癌における術前・術後補助療法
対象の診断群分類:060010、060020
1回投与当たりの標準的な費用:847,755円
テクベイリ皮下注(テクリスタマブ)
効能・効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
対象の診断群分類:130040 多発性骨髄腫、免疫系悪性新生物
1回投与当たりの標準的な費用:最大1,081,023円
タービー皮下注(トアルクエタマブ)
効能・効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
対象の診断群分類:130040 多発性骨髄腫、免疫系悪性新生物
1回投与当たりの標準的な費用:最大1,879,962円
一部変更のうち、がん以外の領域の9品目は、神経・免疫・内分泌・皮膚など多様な疾患が対象です。 このうちボトックス(下肢痙縮)は、対象となる診断群分類を特定できませんでした。そのため、全包括診断群分類の包括範囲薬剤費を用いて判定されています。
アバスチン点滴静注用(ベバシズマブ)
効能・効果:神経線維腫症2型
対象の診断群分類:070020 神経の良性腫瘍
1回投与当たりの標準的な費用:45,147円
献血グロベニン-I静注(ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン)
効能・効果:自己免疫性脳炎
対象の診断群分類:010080、010081
1回投与当たりの標準的な費用:347,972円
グロベニン-I静注(pH4処理酸性人免疫グロブリン)
効能・効果:自己免疫性脳炎
対象の診断群分類:010080 脳脊髄の感染を伴う炎症
1回投与当たりの標準的な費用:267,672円
ソグルーヤ皮下注(ソマプシタン)
効能・効果:SGA性低身長症、ヌーナン症候群における低身長
対象の診断群分類:100360、140010、140620
1回投与当たりの標準的な費用:52,476円
サデルガカプセル100mg(エリグルスタット酒石酸塩)
効能・効果:ゴーシェ病の諸症状の改善
対象の診断群分類:100335 代謝障害(その他)
1回投与当たりの標準的な費用:78,350.5円
リツキサン点滴静注(リツキシマブ)
効能・効果:頻回再発型・ステロイド依存性・難治性のネフローゼ症候群
対象の診断群分類:110260 ネフローゼ症候群
1回投与当たりの標準的な費用:93,343円
ゼオマイン注用(インコボツリヌストキシンA)
効能・効果:痙性斜頸、眼瞼痙攣
対象の診断群分類:010180 不随意運動
1回投与当たりの標準的な費用:16,660円
ボトックス注用(A型ボツリヌス毒素)
効能・効果:下肢痙縮
対象の診断群分類:全診断群分類
1回投与当たりの標準的な費用:221,680円
オルミエント錠・内用懸濁液(バリシチニブ)
効能・効果:円形脱毛症(広範囲・難治の場合)
対象の診断群分類:080190 脱毛症
1回投与当たりの標準的な費用:4,820.0円
※効能・効果と1回投与当たりの標準的な費用は、資料の記載どおりです。テクベイリとタービーの費用は、投与回数によって異なるため最大値を示しています。 ※対象の診断群分類は6桁の疾患コードで示しています。実際の判定は14桁の診断群分類ごとにおこなわれるため、詳細は告示で確認してください。
3. 医療機関が確認すべき3つのポイント
今回の判定を受けて、医療機関は「対象患者の判定」「算定期間」「院内体制」の3点を確認する必要があります。いずれも、請求漏れや査定を防ぐための実務上のポイントです。
第1のポイントは、対象患者を「薬剤」と「診断群分類」の組み合わせで判定することです。 出来高算定となるのは、対象薬剤を使用し、かつ、その薬剤に対応する診断群分類に該当する患者に限られます。たとえば、レットヴィモを使用しても、患者の診断群分類が告示に掲げられたものでなければ、包括評価のままです。告示では14桁の診断群分類番号が指定されているため、手術・処置等の分岐まで含めて照合する必要があります。
第2のポイントは、出来高算定が「次期診療報酬改定まで」の暫定措置であることです。 出来高算定の期間中に集まった使用実績データは、次期改定での包括評価の検討に用いられます。その結果、包括評価に組み込まれる薬剤や、診断群分類の分岐として定義される薬剤が出てくる可能性があります。改定のたびに、対象薬剤の取り扱いが変わっていないかを確認しましょう。
第3のポイントは、医事課・薬剤部・診療部門で対象薬剤の情報を共有することです。 高額薬剤判定は年4回実施されるため、対象薬剤は定期的に増えていきます。薬剤部が採用薬の更新情報を医事課に伝える流れを作っておくと、出来高算定の漏れを防げます。また、適用開始日は告示・通知で示されるため、薬価収載日や効能追加日とあわせて確認してください。
まとめ:高額薬剤判定で22品目が次期改定まで出来高算定に
令和8年8月5日の中医協総会(第654回)で、22品目の医薬品を使用した患者について、該当する診断群分類に限り次期改定まで出来高算定とする事務局案が示されました。判定基準は、薬剤費の見込み額が、診断群分類ごとに当該薬剤を使用していない症例の薬剤費の84パーセンタイル値を超えるかどうかです。対象は、新薬6品目と、効能・効果や用法・用量が追加された一部変更16品目です。医療機関は、薬剤と診断群分類の組み合わせで対象患者を判定し、院内で情報を共有して確実に出来高請求をおこないましょう。
参考資料
中央社会保険医療協議会 総会(第654回)議事次第(令和8年8月5日)
中医協 総-7「DPCにおける高額な新規の医薬品等への対応について」(令和8年8月5日)
中医協 総-7参考「現行のいわゆる『高額薬剤判定』の運用方法について」(中医協 総-3(平成25年12月25日)一部抜粋)










