令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第654回)で、「医薬品の新規薬価収載等について」が議題となりました。この議題は、新薬の薬価、処方日数制限の例外、既収載品の薬価見直しという3つの内容を含みます。本号では、医療機関・薬局の実務に影響する3つの内容を、資料(総-2-1~総-2-3)に沿って整理します。
結論として、今回の議題は「新薬の価格決定」と「既存薬の価格引下げ」を同時に進める内容です。第1に、新薬10成分13品目は、令和8年8月13日に薬価基準へ収載される予定とされました。第2に、月経困難症治療薬「マルシロン配合錠」は、新薬の14日処方制限の例外として、20日処方とする案が示されました。第3に、ヌーカラ、ヒフデュラ、デュピクセントの3成分8品目は、令和8年11月1日から薬価が引き下げられます。
1. 新薬10成分13品目の薬価収載
新薬13品目は、令和8年8月13日に薬価基準へ収載される予定です。内訳は、内用薬7成分10品目、注射薬2成分2品目、外用薬1成分1品目です。算定方式は、類似薬効比較方式(Ⅰ)が5成分、規格間調整が3成分、原価計算方式が2成分でした。
1. ジャクスタピッドカプセル小児用2mg
対象疾患:ホモ接合体家族性高コレステロール血症
算定方式:規格間調整
主な補正加算:小児加算5%
算定薬価:2mg1カプセル 72,127.50円
2. マルシロン配合錠
対象疾患:月経困難症
算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)5%
算定薬価:1錠 276.90円
3. ウェイリズ錠400mg
対象疾患:持続性及び慢性免疫性血小板減少症
算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
主な補正加算:有用性加算(Ⅰ)35%、市場性加算(Ⅰ)10%
算定薬価:400mg1錠 6,168.30円
4. サデルガカプセル25mg
対象疾患:ゴーシェ病の諸症状の改善
算定方式:規格間調整
主な補正加算:小児加算5%
算定薬価:25mg1カプセル 25,023.10円
5. ジョエンジャ錠10mg・30mg・70mg
対象疾患:活性化PI3Kδ症候群
算定方式:原価計算方式
主な補正加算:有用性加算(Ⅰ)40%、市場性加算(Ⅰ)10%、小児加算10%(加算係数0のため上乗せなし)
算定薬価:10mg1錠 27,077.90円、30mg1錠 102,115.70円、70mg1錠 133,176.50円
6. イソトレックスカプセル8mg・16mg
対象疾患:大量化学療法後の神経芽腫
算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)5%、市場性加算(Ⅰ)20%
算定薬価:8mg1カプセル 507.90円、16mg1カプセル 984.00円
7. ゾコーバ錠25mg
対象疾患:SARS-CoV-2による感染症の治療及びその予防
算定方式:規格間調整
主な補正加算:小児加算5%
算定薬価:25mg1錠 2,575.40円
8. キネレット皮下注100mgシリンジ
対象疾患:全身型若年性特発性関節炎、成人発症スチル病
算定方式:原価計算方式
主な補正加算:市場性加算(Ⅰ)10%、小児加算5%(加算係数0のため上乗せなし)
算定薬価:100mg0.67mL1筒 23,702円
9. サークリサ皮下注1400mg
対象疾患:多発性骨髄腫
算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)5%
算定薬価:1,400mg10mL1瓶 270,495円
10. ロープレッサ点眼液0.02%
対象疾患:緑内障、高眼圧症(他の緑内障治療薬が効果不十分又は使用できない場合)
算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
主な補正加算:有用性加算(Ⅱ)10%
算定薬価:0.02%1mL 987.80円
高い加算評価を得たのは、新しい作用機序をもつ希少疾病薬
高い有用性加算の評価は、新しい作用機序で既存治療の限界を補う2剤に付きました。ウェイリズ錠は、免疫性血小板減少症で初めてのブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬として、有用性加算(Ⅰ)35%を得ました。ジョエンジャ錠は、活性化PI3Kδ症候群(APDS)に適応をもつ初の治療薬として、有用性加算(Ⅰ)40%と評価されました。ただし、ジョエンジャ錠は原価計算方式で、加算率に掛ける加算係数が0とされました。このため、ジョエンジャ錠の薬価には、加算額が実際には上乗せされていません。原価計算方式のキネレットも、同じく加算係数0のため加算額は上乗せされていません。
小児への使用を評価した品目は5成分
小児加算の要件には、5成分が該当しました。ジャクスタピッド、サデルガ、ゾコーバの3剤は、既収載品と同じ成分の小児向け新規格(新用量・剤形追加)です。この3剤には、「規格間調整のみの算定における特例」として小児加算5%が付き、薬価に上乗せされました。キネレットは、既収載品で対象外の2歳未満にも使える点などが評価され、小児加算5%と判断されました。ジョエンジャは、日本人小児を含む国際共同第Ⅲ相試験の実施などが評価され、小児加算10%と判断されました。ただし、キネレットとジョエンジャは前述の加算係数0により、小児加算の額も上乗せされていません。
ピーク時の販売予測が最も大きいのはサークリサ皮下注
市場規模の予測では、サークリサ皮下注1400mgが最大の224億円(ピーク時10年度)です。サークリサ皮下注は、既収載の点滴静注製剤と同じ成分の皮下注製剤です。この品目では、比較薬の1日薬価を計算する体重について、企業から不服意見が出されました。企業は、点滴静注製剤の実臨床での平均体重を用いるべきと主張しました。第二回算定組織(令和8年7月21日)はこの意見を受け、特定使用成績調査から算出した平均体重56.80kgを用いることが妥当と判断しました。販売予測の2番目以降は、ウェイリズ錠の89億円、マルシロン配合錠の75億円です。
費用対効果評価の対象は2品目
費用対効果評価の対象には、マルシロン配合錠(H2)とサークリサ皮下注(H1)が該当しました。費用対効果評価とは、収載後に効果と費用のバランスを分析し、その結果で薬価を調整する仕組みです。この2品目は、今後の評価結果によって薬価が見直される可能性があります。
2. マルシロン配合錠は「14日ルール」の例外として20日処方の案
マルシロン配合錠について、処方日数の上限を14日ではなく20日とする案が示されました。14日ルールとは、新薬を薬価基準収載の翌月初日から1年間、原則1回14日分までしか処方できない制限です。この制限は、平成22年10月27日の中医協了承により、合理性と安全性が確認できる新薬に限り例外的に緩和できます。例外とする新薬は、個別に中医協の確認を得る決まりです。
例外の根拠は「最大80日の連続投与」という用法と「20錠シート」という包装
例外とする1つ目の根拠は、疾患と製剤の特性です。LEP配合剤(低用量エストロゲン・プロゲステロン配合剤)では、28日以上を1周期とする投与法の方が、28日周期より疼痛日数を減らすとの報告があります。マルシロン配合錠も、24~80日間連続で服用した後に4日間休薬する用法をとります。さらに、本剤の最小交付単位は20錠入りPTPシート1枚と想定されています。
例外とする2つ目の根拠は、安全性です。国内第Ⅲ相試験は、24~80日間の連続投与後に4日間休薬する用法で実施されました。この試験で、既承認のLEP配合剤と比べて新たな安全性上の懸念は示されませんでした。
既存のLEP配合剤は30日、マルシロンは20日
処方日数の上限は、既存のLEP配合剤とマルシロン配合錠で異なります。既存のLEP配合剤(ルナベルLD・ULD、ヤーズ、ジェミーナ、アリッサ)は、28日を1周期とする用法をもち、収載時に30日処方とされました。一方、マルシロン配合錠は、最小交付単位が20錠シートであることなどを踏まえ、20日とする案です。処方・調剤の際は、既存薬と上限日数が異なる点に注意が必要です。
3. ヌーカラ・ヒフデュラ・デュピクセントの薬価を11月1日に引下げ
既収載の3成分8品目は、令和8年11月1日から薬価が引き下げられます。今回の見直しは、3月診療分のNDBデータ(レセプト情報のデータベース)に基づく検討の結果です。効能追加などを受けた品目は、薬価改定の時期に限らず年4回見直す仕組みがあり、今回は新薬収載の機会が活用されました。
ヌーカラ皮下注
見直しの種類:市場拡大再算定
100mgシリンジ:159,891円 → 143,766円(約10.1%引下げ)
100mgペン:159,891円 → 143,766円(約10.1%引下げ)
ヒフデュラ配合皮下注
見直しの種類:市場拡大再算定
5.6mL1瓶:634,797円 → 539,577円(約15.0%引下げ)
シリンジ5mL1筒:665,026円 → 565,272円(約15.0%引下げ)
デュピクセント皮下注
見直しの種類:持続可能性特例価格調整
300mgシリンジ:53,493円 → 51,515円(約3.7%引下げ)
300mgペン:53,659円 → 51,675円(約3.7%引下げ)
200mgシリンジ:39,549円 → 38,087円(約3.7%引下げ)
200mgペン:39,706円 → 38,238円(約3.7%引下げ)
※引下げ率は、資料の現行薬価と改定薬価から編集部で算出しました。
ヌーカラとヒフデュラは「市場拡大再算定」に該当
ヌーカラとヒフデュラは、効能追加を受けた後に販売額が要件を超えたため、市場拡大再算定の対象となりました。市場拡大再算定とは、販売額が想定を大きく上回った医薬品の薬価を引き下げる仕組みです。2剤はともに、年間販売額350億円超かつ基準年間販売額の2倍以上という要件に該当しました。ヌーカラは令和6年8月に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」が、ヒフデュラは令和6年12月に「慢性炎症性脱髄性多発根神経炎」が追加されています。
デュピクセントは「持続可能性特例価格調整」に該当
デュピクセントは、販売規模が極めて大きいため、持続可能性特例価格調整の対象となりました。持続可能性特例価格調整とは、巨額の販売額に達した医薬品の薬価を引き下げる特例です。デュピクセントは、令和7年3月に「慢性閉塞性肺疾患」が追加されており、年間販売額1,500億円かつ基準年間販売額の1.3倍以上という要件に該当しました。一方で、希少疾病(A=10%)と小児適応(A=5%)の効能追加に係る補正加算が適用され、引下げ率は約3.7%となりました。
適用まで約3か月の猶予を設定
改定薬価の適用日は、令和8年11月1日です。この猶予期間は、医療機関や薬局の在庫への影響を踏まえて設けられました。3剤を扱う施設は、11月1日を境に請求価格が変わる点を在庫管理に反映させる必要があります。
まとめ:8月の新薬収載と11月の薬価引下げに備える
第654回中医協総会では、新薬の価格決定と既存薬の価格引下げが同時に示されました。第1に、新薬10成分13品目は8月13日に収載予定とされ、希少疾病や小児への使用が加算で評価されました。第2に、マルシロン配合錠は14日ルールの例外として、1回20日分まで処方できるとする案が示されました。第3に、ヌーカラ、ヒフデュラ、デュピクセントの薬価は、11月1日から約3.7~15%引き下げられます。処方日数の上限と11月の薬価変更を、院内の採用薬リストと在庫管理に早めに反映させましょう。
※出典:中央社会保険医療協議会 総会(第654回)資料 総-2-1、総-2-2、総-2-3(令和8年8月5日)。資料の記載は「収載予定」「案」の段階のため、最終的な取扱いは議事録・告示でご確認ください。










