令和8年8月5日の中央社会保険医療協議会(以下、中医協)総会(第654回)で、再生医療等製品「テロメライシン注」の最適使用推進ガイドライン(以下、GL)と保険適用上の留意事項が報告されました。このGLは使用できる施設・医師・患者を限定するため、導入を検討する医療機関は要件を事前に確認する必要があります。本稿では、GLと留意事項の要点を、臨床成績、使用要件、保険請求の3つの観点から整理します。
テロメライシン注は、要件を満たす施設で、適応となる患者に、3回を上限として使用する製品です。臨床成績では、放射線療法との併用により、投与開始後24週までの局所完全奏効(L-CR)率41.7%が示されました(ただし、事前に設定した閾値に対する統計的有意差は認められていません)。使用要件では、施設、治療の責任者となる医師、投与対象となる患者の3つが定められました。保険請求では、診療報酬明細書(以下、レセプト)の摘要欄に施設要件、医師要件、投与回数の記載が求められ、資料では令和8年8月13日から適用とされています。
1. テロメライシン注の特徴と臨床成績
テロメライシン注は、最適使用推進GLの対象となった食道癌治療用の再生医療等製品です。本節では、GL制度、製品の特徴、効能と用法、有効性、安全性の順に説明します。
最適使用推進GLは、革新的な医薬品等を真に必要な患者に、適切な施設で使うための指針です。 この制度の取扱いは、平成29年9月13日に中医協で了承されました。制度の背景には、革新的かつ非常に高額な医薬品が国民負担や医療保険財政に与える影響への懸念があります。GLは、関係学会やPMDA(医薬品医療機器総合機構)の協力のもと、承認審査と並行して作成されます。作成されたGLは、薬価収載(再生医療等製品では保険適用)までに、保険適用上の留意事項とあわせて通知されます。
テロメライシン注(一般的名称:スラタデノツレブ)は、遺伝子組換えアデノウイルスを主成分とする再生医療等製品です。 このウイルスは、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写活性酵素)の遺伝子プロモーターの制御下で、ウイルスの複製に必要な遺伝子を発現するよう改変されています。このため、hTERTを高発現する腫瘍細胞に感染すると、ウイルスが腫瘍内で増殖します。増殖したウイルスは腫瘍細胞を溶解し、抗腫瘍効果を示すと期待されています。製造販売業者は、オンコリスバイオファーマ株式会社です。
テロメライシン注の効能は、根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道癌です。 用法は、放射線療法との併用が前提です。成人には、1回1 mL(1×10¹² vp)を、概ね2週間間隔で計3回投与します。投与は、上部消化管内視鏡下で腫瘍内に直接注入します。腫瘍の大きさや数によっては、1回2 mL(2×10¹² vp)まで増量できます。
有効性では、国内第Ⅱ相試験で投与開始後24週までのL-CR率41.7%が示されました。 この試験(OBP101JP試験)は、cStageⅡ・Ⅲの局所進行食道癌患者37例を対象に、国内17施設で実施されました。有効性の解析対象は、投与開始後の腫瘍評価を受けなかった1例を除く36例です。L-CR(局所完全奏効)とは、本品を投与した病変で、腫瘍を示唆する内視鏡所見が消失し、生検でも癌が認められない状態などを指します。24週までのL-CR率は41.7%(15/36例、90%信頼区間27.7~56.7%)でした。ただし、信頼区間の下限は、放射線単独療法のCR率から設定した閾値30.2%を下回りました。つまり、閾値に対する統計的有意差は認められていません。なお、24週の解析後に探索的に計画された18カ月間の解析では、L-CR率は50.0%(18/36例)でした。
安全性では、放射線療法との併用下で、有害事象が97.3%(36/37例)に認められました。 Grade 3以上の有害事象は、70.3%(26/37例)に認められました。頻度の高い有害事象は、発熱62.2%、リンパ球数減少56.8%、食道炎35.1%でした。これらの有害事象には、放射線療法による事象も含まれます。本品との因果関係が否定されなかった副作用は、70.3%(26/37例)でした。死亡に至った有害事象は1例(急性呼吸窮迫症候群)でした。この1例は放射線療法に関連した副作用と判断され、本品との因果関係は否定されています。本品の投与中止に至った有害事象は認められませんでした。
2. 使用できる施設・医師・患者の要件
GLは、施設、治療の責任者となる医師、投与対象となる患者の3つに要件を設けています。さらにGLは、投与時の留意事項と、カルタヘナ法に基づく取扱いも定めています。
施設は、がん診療体制、カルタヘナ法への対応、製造販売後調査の実施体制のすべてを満たす必要があります。 がん診療体制では、食道癌に対する放射線療法が実施可能であり、かつ次のいずれかに該当することが求められます。
厚生労働大臣が指定するがん診療連携拠点病院等
特定機能病院
都道府県知事が指定するがん診療連携病院
外来化学療法室を設置し、外来腫瘍化学療法診療料1・2・3のいずれかの施設基準を届け出ている施設
抗悪性腫瘍剤処方管理加算の施設基準を届け出ている施設
カルタヘナ法への対応では、第一種使用規程に従って本品を取り扱い、患者に説明するためのチーム医療体制が必要です。施設には、このほか2つの体制も求められます。1つは、再生医療等製品の情報管理担当者を置く体制です。もう1つは、重篤な副作用に対し、当該施設または連携施設で24時間対応できる体制です。
治療の責任者は、所定の臨床経験と、食道癌治療に必要な知識の両方を満たす医師です。 臨床経験は、医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、次のいずれかを満たす必要があります。
5年以上のがん治療の臨床研修(うち2年以上はがん薬物療法を主とした臨床腫瘍学の研修)
消化器癌のがん薬物療法を含む5年以上の消化器外科学の修練
4年以上の臨床経験(うち3年以上は消化器癌のがん薬物療法を含む消化器病学の臨床研修)
知識は、次のすべてを満たす必要があります。
食道癌の治療と上部消化管内視鏡診療の学識・技術を習得している
製造販売業者による適正使用の講習を受講し、資材の内容を十分理解している
カルタヘナ法を理解し、第一種使用規程に従った取扱いができる
投与対象は、根治切除と化学放射線療法の適応とならない食道癌患者です。 ただし、次の患者は対象となりません。
頸部、胸部及び上腹部病変への放射線療法の治療歴があり、その照射野が本品適用対象の照射野と重複する患者
他の抗悪性腫瘍剤と併用する患者
cStage 0のうち、標準的な内視鏡的切除が推奨される患者
cStageⅣBのうち、通過障害がなく、標準的な化学療法が推奨される患者
cStageⅡ・Ⅲ以外の患者は、第Ⅱ相試験に組み入れられていません。このため、これらの患者への投与では、臨床上の必要性を十分に検討します。また、本品の成分に過敏症の既往歴がある患者は、禁忌・禁止とされています。
投与時の留意事項で最も重要なのは、投与回数を3回までとすることです。 3回を超える投与の有効性と安全性は、臨床試験で評価されていません。このため、放射線療法が延期になった場合でも、投与回数の上限は3回です。併用する放射線療法は、臨床試験と同じくDay 4からDay 43まで、1日2.0 Gy、週5回、総線量60 Gyを参考にします。副作用では、発熱、血球減少(リンパ球数減少、白血球数減少)、食道穿孔に注意して患者を観察します。
カルタヘナ法に基づく取扱いでは、ウイルスの拡散防止が求められます。 本品は、遺伝子組換え生物等を含む製品です。このため、本品の原液は、遺伝子組換え生物等である旨を表示して、適切に管理された冷凍庫などで保管します。調製は他の区画と明確に区別された作業室で、投与は他の区画と明確に区別された治療室で行います。投与後、排出等の管理が不要となるまでの期間は、患者が他の医療施設で治療を受けることを原則避けるよう指導します。廃棄は医療廃棄物管理規程に従い、処理業者へ委託する場合は感染性廃棄物として扱います。
3. 保険請求時の留意事項
保険請求では、GLに従った使用を前提に、レセプト摘要欄へ3つの事項を記載する必要があります。資料では、この留意事項通知は令和8年8月12日に発出され、翌13日から適用とされています。
留意事項の基本的な考え方は、GLに従って使用することです。 通知には、テロメライシン注を最適使用推進GLに従って使用する旨が明記されます。このため、GLの施設要件・医師要件・投与回数の上限は、保険請求でも確認すべき事項になります。
レセプト摘要欄には、施設要件、医師要件、投与回数の3項目を記載します。
① 医療施設の要件への該当性
対応するGLの項目:GL「4.施設について」①-1(1)の施設区分
② 治療の責任者の要件への該当性
対応するGLの項目:GL「4.施設について」①-2の医師要件
③ 本製品の投与回数
対応するGLの項目:投与回数(GLでは上限3回)
具体的な記載方法は、発出された留意事項通知で確認してください。施設区分と医師要件は、導入前に院内で確認しておくと、請求時の記載がスムーズです。
導入施設は、適用日に向けて診療部門とレセプト担当の情報共有が必要です。 診療部門は、施設要件と医師要件の該当性を確認します。レセプト担当は、摘要欄の記載方法と投与回数の管理方法を確認します。
まとめ:テロメライシン注は「限られた施設・医師・患者・回数」で使う製品
テロメライシン注は、要件を満たす施設で、適応となる患者に、3回を上限として使用する再生医療等製品です。臨床成績では、放射線療法との併用で24週までのL-CR率41.7%が示されましたが、閾値に対する統計的有意差は認められていません。使用要件では、施設、治療の責任者となる医師、投与対象となる患者の3つが定められています。保険請求では、レセプト摘要欄に施設要件、医師要件、投与回数を記載する必要があり、資料では令和8年8月13日から適用とされています。
参考資料
中医協 総-4-1「最適使用推進ガイドライン スラタデノツレブ(販売名:テロメライシン注)」(令和8年8月5日)
中医協 総-4-2「最適使用推進GLが策定された再生医療等製品の保険適用上の留意事項について(テロメライシン注)」(令和8年8月5日)
中医協 総-4参考「最適使用推進ガイドラインの取扱いに係る通知について」(令和8年8月5日)










