OTC類似薬の保険給付の見直しとは、市販薬(OTC医薬品)と成分・投与経路が同じで、一日最大用量も異ならない医療用医薬品(約77成分)について、原則として薬剤料の4分の1を「別途の負担」として患者に求める制度です。この制度は令和9年3月に始まる予定であり、医療機関と薬局は、どの処方が別途の負担の対象になるかを判断する準備を急ぐ必要があります。本号では、令和8年9月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第656回)の資料「総-2」をもとに、すでに決まった整理と今後議論される論点を解説します。
同総会で厚生労働省は、寄せられた意見の大半を「中間とりまとめ」の考え方で整理したうえで、残る論点と現場の支援策を示しました。第1に、パブリックコメント897件などの意見に対し、「がん疑い」は対象、生活保護受給者は対象外といった具体的な判断が示されました。第2に、長期使用の適用例、アトピー性皮膚炎のプロアクティブ療法、指定難病患者の確認方法の3点は、医療保険部会で引き続き議論されます。第3に、国は電子カルテ向けの情報公開、紙カルテ向けのチェックシート、処方箋への「一部保険外療養」欄の追加などで、現場の判断を支援します。
寄せられた意見の多くは「中間とりまとめ」の考え方で整理済み
寄せられた意見に対し、厚生労働省は「中間とりまとめ」(令和8年8月6日公表)の考え方に沿って回答を示しました。回答は「効能効果」「対象外とする者・療養」「長期使用」「その他」の4領域に分かれます。判断の軸は一貫しており、「OTC医薬品の効能効果と対応するか」「明確な基準で医師の判断がぶれないか」の2点です。
意見の出どころは、中医協、医療保険部会、患者団体、パブリックコメントの4つです。パブリックコメントは令和8年8月6日から20日まで募集され、897件の意見が届きました。中医協(8月26日)と医療保険部会(8月27日・9月3日)では、国による周知、システム改修への支援、紙カルテの医療機関への配慮、施行後の検証を求める意見が目立ちました。患者団体ヒアリング(8月27日・9月3日)では、がん治療後の後遺症、指定難病の確認方法、アトピー性皮膚炎の治療への配慮が求められました。
効能効果については、検査・処置中の使用を除き、OTC医薬品の効能効果と対応する使い方は原則として対象と整理されました。主な回答は次のとおりです。
胃カメラ検査で服用する炭酸水素ナトリウム:対象外(検査・処置中の使用)
日帰り手術で使う消毒用エタノール:対象外(検査・処置中の使用)
デノスマブ治療中のカルシウム・ビタミンD補充:対象(ただし年間を通じた使用が必要なら対象外)
エピナスチン点眼液0.1%・1日2回:対象(一日最大用量がOTC医薬品と異ならない)
OTC医薬品にない高濃度の外用薬:対象(一日最大用量の設定がなく、代替性を否定できない)
他の軟膏と混ぜる白色ワセリン・オリブ油:対象(基剤としても皮膚保護の役割を果たす)
関節リウマチの痛みに使う鎮痛薬:対象(関節痛を通常伴う疾患のため)
対象外とする者・療養については、医師ごとの判断の差を生まない基準かどうかで線が引かれました。主な回答は次のとおりです。
「がん疑い」の患者:対象(明確な基準を設定しにくい)
脳腫瘍・白血病など「がん」と表記されない悪性腫瘍:「がん」として扱う(がんに関連する使用は対象外)
菌状息肉症へのステロイド外用薬・抗ヒスタミン薬:対象外(がん治療に関連した使用)
放射線皮膚障害へのヘパリン類似物質:引用文献に推奨の記載を確認できなかった
在宅療養患者:対象(入院患者とは治療環境が異なる)
処置後14日を超える処方(治癒遅延時):対象(医師判断の例外は設けない)
リハビリの経過観察中の処方:対象(処置等の範囲に含まれない)
指定難病以外の完治が難しい慢性疾患:長期使用の要件を満たせば対象外となる場合あり
低所得者:生活保護受給者のみ対象外
長期使用については、「年間を通じた使用が医療上必要か」という基準が維持されました。具体的には、直近の実績を含め少なくとも50週の継続使用が医療上必要だと医師が認める場合に、別途の負担の対象外となります。月経困難症のように月に数日だけ服用する場合、抗真菌外用薬、花粉症の短期使用は対象のままです。変形性膝関節症への外用鎮痛薬は、画像検査でKL分類Grade4が確認された場合に限り対象外です。なお、外用薬は長期使用にエビデンスがある場合を除き対象ですが、湿布・皮膚保湿剤等は令和10年度末までの経過措置で対象外とされています。一方、50週の確認負担への意見を受けて、次の整理も示されました。少なくとも初診から6か月間、症状の持続または反復と継続的または反復的な使用が確認され、医師が通年の使用を医療上必要と認めれば、50週に満たない時点でも要件を満たせます。
その他の意見には、国の役割を明確にする回答が示されました。対象医薬品と対象外となる効能効果の一覧は、厚生労働省がシステム改修に使える形での公表に努めます。別途の負担の対象かどうかを判断するのは医師であり、薬局ではありません。指定難病で医療費助成を受けていない患者は、「登録者証」で確認することが基本となります。対象外の医薬品への処方シフトが起きていないかは、施行後に国が実態を把握します。
財政への影響と患者負担の目安も、あわせて示されました。公的医療保険の対象となる費用の削減効果は年間約900億円です。内訳は、患者の行動変容による約400億円と、保険給付と定率の自己負担が別途の負担へ移行する約500億円です。この試算は昨年末時点のもので、その後の配慮の検討や対象成分の入れ替えにより多少変動する見込みです。保険料への影響は、1人当たり年間約400円(月約30円)の軽減と機械的に試算されています。患者負担(3割負担、薬剤料のみ)は、たとえば解熱鎮痛薬5日分で45円から72円へ、抗アレルギー薬30日分で540円から855円へ増えるイメージです。実際には、これとは別に初診料や調剤基本料などの技術料がかかります。
医療保険部会で議論を続ける3つの論点
整理済みの意見とは別に、厚生労働省は取扱いをさらに明確にすべき3つの論点を医療保険部会に示しました。3つの論点は、いずれも「医療上の必要性」と「判断のぶれ」のバランスが問われる場面です。検討にあたっては、確認が複雑になりすぎないこと、医師による判断のばらつきを抑えること、他の対象外の者・療養との不均衡を生まないことの3点が視点とされます。
第1の論点は、長期使用の具体的な適用例の明確化です。50週の確認にかかる現場の負担、がん治療終了後の後遺症への薬物療法、周期的・反復的な処方について、意見が寄せられました。パブリックコメントでは、リンパ節郭清で迷走神経を切離した後に長く続く便秘への緩下剤も例として挙げられました。医療保険部会では、どのような使い方が「年間を通じた使用」に該当するか、具体的な適用例の明確化が議論されます。
第2の論点は、アトピー性皮膚炎へのステロイド外用薬のプロアクティブ療法の扱いです。ステロイド外用薬は急性増悪時の短期使用が中心のため、原則として別途の負担の対象と整理されています。しかし、プロアクティブ療法は症状が落ち着いた後も計画的に間欠使用する治療法として、診療ガイドラインに位置づけられています。委員からは、皮膚科学会のガイドラインで推奨度1・エビデンスレベルAとされているとの指摘もありました。医療保険部会では、この療法を長期使用等の例外としてどう整理するかが議論されます。
第3の論点は、指定難病患者を簡便に確認する方法の整備です。指定難病患者は、指定難病に関連する使用であれば別途の負担の対象外ですが、登録者証の普及状況や窓口での確認負担が課題となっています。患者団体からは、受給者証や登録者証だけでなく、カルテの記載などでも確認できるようにしてほしいという意見が出ました。医療保険部会では、患者が提示する書類で医療機関が簡便かつ客観的に確認できる方法が議論されます。
国が用意する現場の運用支援
施行に向けて、厚生労働省は医療機関と薬局の判断を支える4つの仕組みを示しました。4つの仕組みは、電子カルテ向けの情報公開、紙カルテ向けのチェックシート、処方箋様式の見直し、費用計算方法の明確化です。このうちシステム向けの情報と紙カルテ向けの一覧表・チェックシートは、制度開始前に提供し、十分な準備期間を確保するとしています。
電子カルテを使う医療機関向けには、国がシステム改修に必要な情報を公表します。公表されるのは、対象医薬品の薬剤コード、OTC医薬品と効能効果が対応しない傷病名の一覧、レセプトに記載する対象外理由の標準例です。これらの情報をもとに、電子カルテやレセコンは年齢・公費負担医療・傷病名を参照し、対象外となる可能性を表示できるようになります。ただし、がん・指定難病・長期使用など医学的判断が必要な事項は、システムが自動で判定せず、医師が最終的に判断します。
紙カルテを使う医療機関向けには、同じ情報の公表に加え、国が簡易なチェックシートを作成することが提案されました。チェックシートでは、①処方薬が対象成分に該当し効能効果が対応するか、②患者や療養が対象外の要件に該当するかを、順に確認できます。一覧表とチェックシートは、印刷して診察室や受付に備え付けられる形式で提供されます。さらに、全国共通のQ&A、具体的な事例、患者説明用資料も、厚生労働省が順次公表します。
処方箋様式には、新たに「一部保険外療養」欄が追加されます。令和9年3月以降に対象医薬品を処方する場合、別途の負担の対象なら「○」を、対象外なら「ー」を記載します。長期収載品でもあるOTC類似薬が別途の負担の対象となる場合、長期収載品の選定療養の特別の料金は求めません。OTC類似薬として対象外(「ー」)の場合は、長期収載品の選定療養の扱いが従来どおり適用されます。患者は、医療機関で医師が判断した結果をもとに、保険薬局で別途の負担を支払う流れになります。なお、当面は変更前の処方箋様式も使える経過措置が設けられます。
費用計算は、「薬価の4分の1×投薬全量」で別途の負担を求め、残りを通常どおり保険で計算します。薬価16.50円の錠剤を1日2錠・30日分処方し、3割負担の場合の計算例は次のとおりです。
A 別途の負担:250円 4.13円(薬価の4分の1)×2錠×30日=247.8円→1の位を四捨五入
B 保険対象となる費用:600円 12.38円(残りの4分の3)×2錠=24.76円→2点×30日=60点
C 患者の自己負担:180円 600円×0.30
D 保険外併用療養費(保険から支払われる額):420円 600円×(1-0.30)
E 患者負担の総額:430円 A+C=250円+180円
別途の負担は1の位を四捨五入します。別途の負担に消費税をかけるかどうかは、政府内で検討中です。あわせて、令和9年3月からは長期収載品の選定療養の特別の料金も「先発薬と後発薬の差額の2分の1×投薬全量」で計算する方式に改められます。
まとめ:判断基準はほぼ固まり、残る3論点と現場準備が焦点に
令和8年9月9日の中医協総会で、OTC類似薬の保険給付の見直しは、判断基準の大部分が固まりました。第1に、パブリックコメント897件などの意見に対し、「がん疑い」は対象、悪性腫瘍は「がん」として扱う、低所得者は生活保護受給者に限るといった整理が示されました。第2に、長期使用の適用例、プロアクティブ療法、指定難病患者の確認方法の3論点は、医療保険部会で引き続き議論されます。第3に、国は電子カルテ向けの情報公開、紙カルテ向けのチェックシート、処方箋の「一部保険外療養」欄、費用計算方法の明確化で現場を支援します。令和9年3月の施行に向けて、医療機関と薬局は、国が公表する一覧表やQ&Aを確認し、システム改修と窓口での患者説明の準備を進めることが求められます。










