2026年(令和8年)5月13日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第650回)で、再生医療等製品2品目の最適使用推進ガイドライン(以下、GL)が報告されました。GLの要件は保険適用上の留意事項にも反映されるため、医療機関は要件を正確に把握する必要があります。本稿では、対象2品目の概要、使用の要件、診療報酬明細書(レセプト)への記載事項を順に整理します。
両品目は、GLの要件を満たす施設・医師・患者に限って、保険診療で使用できます。対象は、外傷性脳損傷後の運動麻痺に用いる「アクーゴ脳内移植用注」と、パーキンソン病の運動症状に用いる「アムシェプリ」です。使用には、医療施設、治療の責任者、投与対象となる患者の3要件をすべて満たす必要があります。この3要件への該当性は、2026年5月20日からレセプトの摘要欄への記載が求められています。
対象は脳に細胞を移植する再生医療等製品2品目
今回の対象は、定位脳手術で脳に細胞を移植する再生医療等製品2品目です。定位脳手術とは、頭蓋骨に開けた小さな孔から、画像で決めた脳内の目標点へ器具を正確に進める手術です。両品目とも臨床試験成績が限られているため、「条件及び期限付承認」を受けています。この承認は、期限内に有効性と安全性を改めて検証することを条件とした承認です。
最適使用推進GLは、革新的な医薬品等を、真に必要な患者に、適切な施設で使うための指針です。この仕組みは、2017年(平成29年)9月13日に中医協で取扱いが了承されました。GLは承認審査と並行して作成され、保険適用までに保険適用上の留意事項とともに通知されます。今回のGLは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と関係学会の協力で作成されました。
アクーゴ脳内移植用注(一般的名称:バンデフィテムセル、製造販売業者:サンバイオ)は、外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺を改善する製品です。本品は、健康成人の骨髄から採った間葉系幹細胞に、遺伝子を導入した細胞製品です。移植した細胞が分泌するサイトカインにより、神経の修復が期待されます。第Ⅱ相試験(TBI-01試験)では、移植群46例と偽手術群15例を比較しました。移植群は3つの用量群(2.5×10⁶個、5.0×10⁶個、10.0×10⁶個)を合わせた集団で、承認用量にあたる5.0×10⁶個群は15例です。主要評価項目である24週時点の運動機能スコア(FMMS)の改善幅は、移植群8.3点、偽手術群2.3点でした。両群の差は6.0点で、統計学的に有意でした(p=0.0401)。
アムシェプリ(一般名:ラグネプロセル、製造販売業者:住友ファーマ)は、既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病の運動症状を改善する製品です。本品は、他人のiPS細胞から作製したドパミン神経前駆細胞を含む細胞製品です。移植した細胞は、ドパミンを作る神経細胞に分化して働くことが期待されます。第Ⅱ相試験(IACT16049-01試験)は、対照群を置かない非盲検の試験として、国内1施設で行われました。この試験では7例に移植し、両側同時に移植した6例で有効性を評価しました。6例には、承認用量より少ない片側2.4×10⁶個を移植した2例が含まれます。副次評価項目である移植後24カ月の運動症状スコア(オフ時のMDS-UPDRS Part III、低いほど症状が軽い)は、平均50.8点から41.3点に下がりました。6例中4例は、5点以上改善する「著効」と判定されました。残る2例は、スコアがそれぞれ3点、5点悪化しました。なお、本品では拒絶反応を抑えるため、移植日から免疫抑制剤タクロリムスを服用します。
2品目の比較
アクーゴ脳内移植用注
一般名:バンデフィテムセル
細胞の由来:他人の骨髄由来間葉系幹細胞
効能・効果:外傷性脳損傷に伴う慢性期の運動麻痺の改善
移植部位:損傷した組織の周辺部
併用する治療:移植後のリハビリテーション
アムシェプリ
一般名:ラグネプロセル
細胞の由来:他人のiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞
効能・効果:既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病の運動症状の改善
移植部位:両側の被殻
併用する治療:移植日からのタクロリムス投与(1年を目安)
使用には施設・責任医師・患者の3要件をすべて満たす
両品目を使用するには、医療施設、治療の責任者、投与対象となる患者の3要件をすべて満たす必要があります。この3要件は、レセプトの摘要欄に記載を求められる項目とも一致します。以下では、3要件を同じ順で両品目について説明します。
医療施設の要件では、まず施設の種類が、特定機能病院、大学附属病院、関係学会の基幹施設・連携施設・認定施設のいずれかに限られます。大学附属病院は、脳神経外科の診療科を持つ場合に限ります。アクーゴで対象となる学会施設は、日本脳神経外科学会の基幹施設又は連携施設、日本脳神経外傷学会の認定研修施設、日本定位・機能神経外科学会の認定施設です。アムシェプリで対象となる学会施設は、日本脳神経外科学会の基幹施設又は連携施設、日本定位・機能神経外科学会の認定施設です。さらに両品目とも、定位脳手術の設備、再生医療等製品の情報管理担当者、重篤な副作用に24時間対応できる体制(連携施設での対応を含む)が必要です。アクーゴでは、細胞調製の設備・手順書と、脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ)~(Ⅲ)の届出も求められます。アクーゴではさらに、自施設で3件以上の細胞調製実績があり、講習を修了した細胞調製担当者の配置も必要です。アムシェプリでは、日本脳神経外科学会認定専門医と日本神経学会認定神経内科専門医を、それぞれ1名以上配置する必要があります。アムシェプリでは、タクロリムスの用量を血中濃度に基づいて調節できる医師の配置も求められます。なお、移植後のリハビリテーション(アクーゴ)や経過観察(アムシェプリ)は、移植施設と連携する等の要件を満たせば、別の施設でも行えます。
治療の責任者の経験要件(GLの表4)は、両品目で共通です。ただし責任者には、アクーゴでは外傷性脳損傷、アムシェプリではパーキンソン病の診断・治療に十分な経験と知識も求められます。責任者となる医師は、初期研修の2年間を除き、4年以上の脳神経外科の臨床研修を修めている必要があります。この4年のうち3年以上は、脳神経外科治療の臨床経験でなければなりません。また、日本定位・機能神経外科学会の機能的定位脳手術技術認定に相当する経験(5例以上)も必要です。加えて、製造販売業者が実施する本品の講習を修了していることが求められます。
投与対象となる患者の要件は、各疾患の病期と重症度で定められています。アクーゴの対象は、受傷後6か月以上が経過して運動機能障害が固定した、GOS-Eスコア3~6の患者です。GOS-Eとは、外傷後の生活状態を1(死亡)から8(良好な回復)の8段階で評価する指標で、3~6は中等度又は重度の障害にあたります。アクーゴでは、運動麻痺の原因となる局所病変をMRI等で確認できることも条件です。アムシェプリの対象は、次の6項目をすべて満たすパーキンソン病患者です。
パーキンソン病と診断され、罹病期間が5年以上の者
既存の薬物療法では運動症状のコントロールが十分に得られていない者
MDS-UPDRS Part 3及び/又は症状日誌から、オンとオフの状態を有する者
オフ時のHoehn & Yahr重症度分類が2度以上の者
オン時のHoehn & Yahr重症度分類が3度以下の者
抗パーキンソン病薬を休薬した状態で、レボドパへの反応性が30%以上である者
対象外や慎重投与となる患者も、両品目で定められています。両品目とも、本品の成分に過敏症の既往歴がある患者は禁忌です。アクーゴでは、定位脳手術やリハビリテーションの実施が困難な患者も対象になりません。アムシェプリでは、本品の投与歴がある患者も禁忌です。また、アムシェプリは臨床試験で70歳超の患者への移植経験がないため、有益性と危険性をより慎重に評価する必要があります。
3要件の比較
アクーゴ脳内移植用注
医療施設:特定機能病院、大学附属病院(脳神経外科あり)、日本脳神経外科学会の基幹・連携施設、日本脳神経外傷学会の認定研修施設、日本定位・機能神経外科学会の認定施設のいずれか
治療の責任者:脳神経外科の臨床研修4年以上(うち治療経験3年以上)、定位脳手術5例以上、講習修了
投与対象患者:受傷後6か月以上、運動機能障害が固定、GOS-E 3~6
アムシェプリ
医療施設:特定機能病院、大学附属病院(脳神経外科あり)、日本脳神経外科学会の基幹・連携施設、日本定位・機能神経外科学会の認定施設のいずれか
治療の責任者:脳神経外科の臨床研修4年以上(うち治療経験3年以上)、定位脳手術5例以上、講習修了
投与対象患者:罹病5年以上、オン・オフあり、H&Y分類(オフ時2度以上・オン時3度以下)、レボドパ反応性30%以上 等
レセプト摘要欄に3要件の該当性を記載する
保険請求では、レセプトの摘要欄に3要件への該当性を記載します。この留意事項通知は2026年5月19日に発出され、5月20日から適用されています。
留意事項の基本的な考え方は、両品目をGLに従って使用することです。留意事項通知には、この考え方が明記されます。そのため、医療機関は移植の前に、3要件を満たしているかを確認する必要があります。
摘要欄の記載項目は、①医療施設の要件への該当性、②治療の責任者の要件への該当性、③投与対象となる患者要件への該当性の3つです。①では、特定機能病院、大学附属病院、学会の認定施設等のうち、どの区分に該当するかが問われます。②では、責任者となる医師が、研修年数、定位脳手術の経験、講習修了の要件を満たすことが問われます。③では、アクーゴならGOS-Eスコアや受傷後の期間、アムシェプリなら先の6項目への該当が問われます。具体的な記載方法は、5月19日発出の通知本文で確認してください。
摘要欄の記載に備え、医療機関は3要件の根拠となる記録を院内で整えておくことが重要です。施設の認定状況、責任医師の経歴と講習修了の記録、患者の評価スコアは、レセプト作成時にすぐ参照できるようにしておきましょう。
まとめ:3要件の確認とレセプト記載が保険請求の前提
第650回中医協総会では、再生医療等製品2品目の最適使用推進GLが報告されました。対象は、外傷性脳損傷後の運動麻痺に用いるアクーゴ脳内移植用注と、パーキンソン病の運動症状に用いるアムシェプリです。両品目の使用には、医療施設、治療の責任者、投与対象となる患者の3要件をすべて満たす必要があります。この3要件への該当性は、2026年5月20日からレセプトの摘要欄に記載することが求められています。
※本稿は、2026年5月13日の中医協総会資料(総-6-1、総-6-2、総-6-3、総-6参考)に基づいています。その後の通知改正等は、厚生労働省の最新情報でご確認ください。










