令和8年5月13日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第650回)で、令和8年6月1日に保険適用が予定される医療機器などが審議されました。これらの医療機器を使う医療機関は、償還価格だけでなく、対象患者・施設の条件や診療報酬明細書への記載事項も押さえる必要があります。本号では、資料「総-3-1」と「総-3-2」をもとに、新たに保険適用される医療機器の価格と算定ルールを整理します。
今回の議題は、医療機器の価格決定、材料価格以外の枠組みでの評価、価格算定に使う係数の更新の3つで構成されます。第一に、医療機器7製品に償還価格が設定され、いずれも企業の希望価格を下回りました。第二に、医療機器・検査の3件は、技術料・検査点数・評価療養という材料価格以外の枠組みで評価されました。第三に、原価計算方式で使う3つの係数が、令和8年度分としてすべて引き上げられました。
償還価格が決まった医療機器7製品
償還価格が決まった医療機器7製品は、「処置・手術で使う機器」「治療用アプリ」「歯科材料」の3つに分かれます。7製品の償還価格は、いずれも企業希望価格を下回りました。また、多くの製品で、対象患者の限定や診療報酬明細書の摘要欄への記載が算定の条件になっています。なお、7製品とも市場規模予測が50億円未満のため、費用対効果評価の対象外です。
シルクエラスチン創傷用シート(三洋化成工業):区分C1/償還価格 1,460円/cm²/原価計算方式/企業希望 1,760円/cm²
コクレアインプラント Nexa(日本コクレア):区分C1/償還価格 1,690,000円/類似機能区分比較方式・改良加算5%/企業希望 1,730,000円
ゴア TIPS セット(日本ゴア):区分C1/償還価格 102,000円/原価計算方式/企業希望 107,000円
ゴア VIATORR TIPS ステントグラフト コントロールエクスパンション(日本ゴア):区分C2/償還価格 792,000円/原価計算方式・有用性加算10%(加算係数0.2)/企業希望 1,140,000円
サスメド 不眠障害用アプリ Medcle(サスメド):区分C2/償還価格 24,100円/原価計算方式・有用性加算5%/企業希望 49,458円
ENDEAVORRIDE(塩野義製薬):区分C2/償還価格 14,500円/原価計算方式・有用性加算5%/企業希望 29,914円
KZR-CAD ファイバーブロック シンボー(YAMAKIN):区分C2/償還価格 11,700円/類似機能区分比較方式・改良加算10%/企業希望 18,200円
一覧中の用語を先に確認します。区分C1(新機能)は、既存の技術料で使える新しい機能の材料です。区分C2(新機能・新技術)は、材料に加えて技術料の評価も新たに必要となる医療機器です。原価計算方式は、製造原価に経費と利益を積み上げて価格を決める方法です。類似機能区分比較方式は、似た既存製品の価格を基準に、改良点などを加算して価格を決める方法です。
処置・手術で使う医療機器(4製品)
処置・手術で使う4製品は、創傷治療、人工内耳、門脈圧亢進症の治療(TIPS関連2製品)に使われます。
シルクエラスチン創傷用シートは、全層創傷・部分層創傷の治療材料として、1cm²当たり1,460円で収載されます。 この製品は、遺伝子組換えタンパク質であるシルクエラスチンを使った創傷被覆材です。シルクエラスチンは、創傷面の滲出液を吸収して溶け、体温でゲル化して創傷面に密着します。価格は原価計算方式で算定され、企業希望の1,760円/cm²を下回りました。算定対象は、次の3つの条件(ア~ウ)のいずれかに該当する創傷に限られます。アは、人工真皮で奏効しない、または治癒遷延等が懸念される急性創傷のうち、明らかな感染兆候のないものです。イは、滲出液が少なく、骨・腱の露出が創傷面の10%以内の慢性創傷です。ウは、滲出液が少なく、局所陰圧閉鎖療法または人工真皮が奏効しなかった慢性創傷です。「滲出液が少ない」とは、二次ドレッシング材の交換頻度が2日に1回程度の状態を指します。また、関連学会の適正使用指針に従って使用することも算定の条件です。算定量の上限は、一連の治療計画につき原則98cm²です。算定時には、使用する医学的理由と既存療法の結果を摘要欄に記載します。98cm²を超える場合は、その医学的必要性も摘要欄に記載します。臨床試験では、慢性創傷20例の90%が、貼付14日後に閉創可能な状態になりました。
コクレアインプラント Nexaは、高度難聴患者の人工内耳として、1,690,000円で収載されます。 この製品は、従来品(CI600シリーズ)を改良し、1回の充電での稼働時間を延ばした次世代品です。価格は、既存の人工内耳用インプラント(1,650,000円)を基準に、耐久性の向上を評価した改良加算5%を上乗せして算定されました。企業は操作性の向上も含めた加算10%を希望しましたが、認められたのは5%でした。この製品に合わせて、人工内耳用インプラントの機能区分は「標準型」と「長時間稼働型」の2区分に分かれます。企業資料では、16時間持続可能な患者の割合が、成人で86%(従来品65%)と示されています。
ゴアのTIPS関連2製品は、門脈圧亢進症の治療材料として、ステントグラフトが792,000円、アクセスセットが102,000円で収載されます。 TIPS(経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術)は、カテーテルを使って肝静脈と門脈の間にシャント(迂回路)を作る手技です。ステントグラフトには、治療方法の改善を評価した有用性加算10%が付きました。ただし、原価計算の開示度が50%未満のため、加算係数0.2が掛けられています。この結果、実際の上乗せ幅は2%にとどまります。手技料は、K561 ステントグラフト内挿術の「腹部大動脈(その他のもの)」49,440点を準用します(準用とは、既存の点数を借りて算定することです)。算定対象は、難治性胸腹水または消化管静脈瘤を伴う門脈圧亢進症の患者に限られます。算定には、関連学会の適正使用指針の遵守も必要です。算定時には、材料を用いる医学的必要性を摘要欄に記載します。材料は、原則として1回の手術でそれぞれ1個まで算定できます。複数個を算定する場合は、その医学的必要性を摘要欄に記載します。
治療用アプリ(2製品)
治療用アプリ2製品は、不眠障害と小児ADHDを対象とし、どちらも研修を修了した医師による指導管理が算定の条件です。2製品とも、指導管理料はB005-14 プログラム医療機器等指導管理料(90点)を準用します。初回の指導管理を行った月には、導入期加算(50点)も準用して加算します。この準用算定に、プログラム医療機器等指導管理料の届出は不要です。一方、研修の修了証の写しは、院内の見やすい場所に掲示し、原則としてウェブサイトにも掲載する必要があります。
サスメド 不眠障害用アプリ Medcleは、成人の不眠障害の治療支援アプリとして、24,100円で収載されます。 このアプリは、7日間の睡眠衛生指導と睡眠表の後に、不眠障害の認知行動療法(CBT-I)を治療原理とする8週間のプログラムを提供します。価格は、原価計算方式に有用性加算5%を上乗せして算定されました。この価格は、企業希望価格49,458円(加算15%)の半額以下です。対象は、薬物療法に適しない、または薬物療法に同意しない軽症から中等症の外来患者です。睡眠障害治療薬を服用している患者や、交代勤務・夜勤に従事している患者などは対象外です。算定は、7日間の睡眠表を含む睡眠衛生指導を行った後に、1回に限り認められます。算定時には、薬物療法に適しない・同意しない理由を摘要欄に記載します。また、関連学会等のガイドラインと適正使用指針に従って使用することも算定の条件です。医師が修了すべき研修は、6時間以上で修了証が交付されるものと定められています。
ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)は、小児ADHDの治療補助アプリとして、14,500円で収載されます。 このアプリは、2つの課題を同時にこなし、難易度が自動で調整されるビデオゲーム型です。価格は、原価計算方式に有用性加算5%を上乗せして算定されました。この価格は、企業希望価格29,914円の半額以下です。算定できる医療機関は、研修を修了した医師が1名以上いて、過去6か月間に20歳未満の発達障害患者の初診が5名以上ある施設です。対象は、環境調整や心理社会的治療を行っても症状改善が見られない小児ADHD患者です。対象患者には、小児特定疾患カウンセリング料(医師による場合)または通院・在宅精神療法の所定の区分を算定していることも求められます。アプリの算定は患者1人につき2回までで、2回目は初回から10週間以上あけます。また、関連学会のガイドラインと適正使用指針に従って使用することも算定の条件です。なお、この製品は医療技術評価分科会での審議を経ています。
歯科材料(1製品)
KZR-CAD ファイバーブロック シンボーは、CAD/CAMで作るブリッジの材料として、11,700円で収載されます。 この材料は、グラスファイバーを芯にしたレジンブロックです。歯科用CAD/CAM装置でこのブロックを削り出し、3歯ブリッジを作ります。価格は、既存の歯冠用高強度硬質レジンと歯冠用グラスファイバーを基準に、改良加算10%を上乗せして算定されました。企業希望価格は18,200円でした。技術料は、M017-2 高強度硬質レジンブリッジ(3,000点)を準用します。企業が希望したCAD/CAM冠3歯分(3,600点)などの準用は採用されませんでした。対象は、第二小臼歯または第一大臼歯の1歯欠損を補う3歯ブリッジです。従来の高強度硬質レジンブリッジは原則として失活歯のみが対象でしたが、本品は生活歯の支台歯にも使えます。実施施設には、補綴治療の経験が3年以上ある歯科医師1名以上の配置が求められます。院内にCAD/CAM装置がある施設では、歯科技工士の配置も必要です。院内にCAD/CAM装置がない施設では、装置を持つ歯科技工所との連携が必要です。
技術料・検査・評価療養で評価された3件
医療機器7製品とは別に、3件が材料価格以外の枠組みで評価されました。Artemis プログラマは技術料で、コバスBKVは検査点数で、リフトンDは評価療養で扱われます。
Artemis プログラマ(アボットメディカルジャパン)は、材料価格を設定せず、新しい技術料で評価されます。 この製品は、脳深部刺激(DBS)療法の刺激装置の設定を、インターネット回線を介して遠隔で変更できるプログラム医療機器です。資料では、在宅振戦等刺激装置治療指導管理料(810点)について、情報通信機器を用いた場合は所定点数に代えて705点を算定する規定が示されています。この705点を算定できるのは、施設基準に適合するものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関です。また、この遠隔での指導管理では、植込手術後の初回指導を対面で行う必要があります。症状の変動や機器トラブルが起きた場合は、速やかに対面診療へ切り替えます。算定時には、初診日と植込手術後の初回指導日を、診療録と摘要欄に記載します。臨床試験では、症状改善までの平均日数が、オンライン診療群で対面診療群より15.1日短くなりました。なお、この製品も医療技術評価分科会での審議を経ています。
コバスBKV(ロシュ・ダイアグノスティックス)は、BKウイルス核酸定量の新しい検査として、450点で保険適用されます。 BKウイルスは、移植後の免疫抑制状態で活性化し、腎移植ではBKV腎症を、造血細胞移植では出血性膀胱炎を起こすことがあります。点数は、D023 微生物核酸同定・定量検査の「サイトメガロウイルス核酸定量」を準用します。対象は、臓器移植または造血細胞移植を受けた患者のうち、BKV腎症や出血性膀胱炎が疑われる患者などです。算定時には、4つの対象区分(ア~エ)のどれに該当するかを摘要欄に記載します。
リフトンD(DTアクシス)は、保険適用ではなく評価療養として、4年間の実施が認められます。 評価療養とは、将来の保険適用を評価するために、保険診療との併用が認められる制度です。このアプリは、薬物療法を行っても中等度以上の抑うつ症状が残るうつ病患者に、認知行動療法の理論に基づくプログラムを提供します。第1段階承認の治験では、主要評価項目で統計的な有意差は得られませんでした。評価療養の期間中は、実診療のデータを集め、既存治療への上乗せ効果(抑うつ症状の変化)を評価します。評価療養の実施状況やデータ集積状況については、少なくとも2年に1回の報告が求められます。
原価計算方式の係数が令和8年度分に更新
原価計算方式で価格を算定する際の3つの係数が、令和8年度分としてすべて引き上げられました。3つの係数とは、一般管理販売費率、営業利益率、流通経費率です。
一般管理販売費率(一般管理費/製造業者出荷価格):25.7% → 25.9%
営業利益率(営業利益/製造業者出荷価格):8.0% → 8.5%
流通経費率(流通経費/税抜き価格):10.8% → 10.9%
※いずれも「令和7年度 → 令和8年度」の値です。
3つの係数は、原価に上乗せする経費と利益の割合を表します。係数の出典は、厚生労働省の「医療機器産業実態調査報告書」(令和6年度)です。上げ幅が最も大きいのは営業利益率で、0.5ポイントの引き上げです。係数の引き上げは、今後原価計算方式で算定される材料の価格を、同じ原価でもわずかに高くする方向に働きます。
まとめ:6月1日までに算定条件と摘要欄記載を確認
第650回中医協総会では、令和8年6月1日に保険適用が予定される医療機器などの扱いが示されました。医療機器7製品の償還価格は、いずれも企業希望価格を下回りました。医療機器・検査の3件は、技術料、検査点数、評価療養という材料価格以外の枠組みで評価されました。原価計算方式の3つの係数は、令和8年度分としてすべて引き上げられました。該当する機器を使う医療機関は、対象患者・施設の条件と摘要欄への記載事項を、6月1日までに確認しておきましょう。
出典:中央社会保険医療協議会 総会(第650回)資料「総-3-1 医療機器の保険適用について」「総-3-2 特定保険医療材料の基準材料価格の算定における原価計算方式の係数の更新」(令和8年5月13日)










