令和6年度診療報酬改定は、いわゆる同一敷地内薬局を対象として特別調剤基本料A(令和6年度改定時点で5点)を新設しました。この特別調剤基本料Aでは、施設基準のただし書をめぐって2つの課題が指摘されてきました。第一の課題は、薬局と同一の建物内に診療所があれば対象外となるため、病院の敷地内薬局が適用を免れる例が生じたことです。第二の課題は、自治体が誘致したへき地の診療所敷地内薬局まで対象となり、経営が困難になる薬局が生じたことです。令和8年度改定は、この2つの課題に対応して特別調剤基本料Aの対象範囲を見直します。本稿では、その見直し内容を3つのポイントに整理して解説します。
本項目は、健康保険事業の健全な運営を確保する観点から、特別調剤基本料Aの点数ではなく施設基準を見直します。第一のポイントは、公有地にある診療所の敷地内などに所在する薬局を対象から外し、調剤基本料1を算定できるようにする措置です。第二のポイントは、同一建物内に診療所がある薬局を対象外としてきたただし書の削除です。第三のポイントは、同一敷地内にオンライン診療受診施設を設置する薬局を新たに対象へ加える措置です。以下では、この3つのポイントを順に説明します。
1.公有地の診療所と一体の薬局は調剤基本料1へ
第一のポイントは、へき地で公有地の診療所と一体的に所在する薬局が、特別調剤基本料Aではなく調剤基本料1を算定できるようになる点です。この取扱いは、調剤基本料の注1ただし書に規定する施設基準(以下「ただし書の施設基準」)に、新しい類型を追加する形で実現されます。改定案では、ただし書の施設基準に適合するものとして地方厚生局長等に届け出た薬局を、特別調剤基本料Aの対象から除く旨が明記されます。
新しい類型に該当するには、立地、診療所の性格、周囲の薬局の有無という3つの要件をすべて満たす必要があります。立地の要件は、地方公共団体が所有する土地に所在する診療所、または地方公共団体が開設する診療所と、同一の土地または建物に所在することです。診療所の性格の要件は、その診療所がへき地の医療の提供のために必要な診療所として都道府県知事に認められたものであることです。周囲の薬局の有無の要件は、当該薬局から水平距離4キロメートル以内に他の保険薬局がないことです。
立地の要件については、条文上の限定を正確に押さえる必要があります。対象となる保険医療機関は、いずれの場合も診療所に限られ、病院は含まれません。前段の「地方公共団体が所有する土地に所在する診療所」は、土地が公有地であることを求める要件であり、診療所の開設者は問われません。後段の「地方公共団体が開設する診療所」は、開設者が自治体であることを求める要件です。
これら3つの要件は、自治体が地域の医薬品供給を維持するために薬局を誘致した状況を想定しています。公有地の診療所と一体という立地は、薬局側の営業戦略ではなく、自治体の医療提供体制の確保に由来します。周囲4キロメートル以内に他の薬局がない環境では、その薬局が地域で唯一の医薬品供給拠点となります。今回の見直しは、こうした薬局を敷地内薬局への適正化措置の対象から外す判断といえます。
ただし書の施設基準は、今回の見直しによって2つの類型の選択制に再編されます。従来からある第一の類型は、医療資源の少ない地域(基本診療料の施設基準等別表第六の二に規定する地域)に所在すること、その区域内の保険医療機関が許可病床数二百床未満かつ十以下であること、処方箋受付回数が一月に二千五百回を超えないことの3要件で構成されます。今回追加される第二の類型は、前述したへき地の診療所に関する3要件で構成されます。改定案の条文上、第二の類型には処方箋受付回数の上限が設けられていません。
2.同一建物内に診療所がある薬局も特別調剤基本料Aの対象へ
第二のポイントは、同一建物内に診療所がある薬局を特別調剤基本料Aの対象外としてきたただし書が削除される点です。現行の施設基準は、薬局の所在する建物内に保険医療機関(診療所に限る)が所在している場合を対象から除いています。この除外規定が削除されるため、建物内に診療所があっても、不動産取引等その他の特別な関係と処方箋集中率五割超の要件を満たせば特別調剤基本料Aの対象となります。
この除外規定は、もともとビル型の医療モールへの配慮として設けられたものでした。ビル型の医療モールでは、1つの建物に複数の診療所と薬局が入居し、薬局が特定の医療機関に依存しない形態が想定されます。ところが実際には、病院の敷地内薬局が建物内に診療所を置くことで特別調剤基本料Aの適用を免れる例が生じていました。中央社会保険医療協議会の資料によれば、保険医療機関と特別な関係にあり処方箋集中率が五割以上であるにもかかわらず特別調剤基本料Aを算定していない薬局は、算定している薬局の2倍以上に上ります。
除外規定の削除には、既存の薬局に配慮した経過措置が設けられます。告示前日の時点で建物内に診療所が所在している薬局は、当面の間、特別調剤基本料Aの施設基準のイに該当しないものとして扱われます。ただし、原文は「告示日以降、新たに他の保険医療機関と不動産取引等その他の特別な関係を有しない場合又は当該保険医療機関(診療所に限る。)が所在し続ける場合に限り」と規定しており、2つの条件の関係は「又は」で結ばれています。この読み方は通知や疑義解釈で明確になる見込みであり、現時点では原文どおりに把握しておくことが安全です。
3.同一敷地内のオンライン診療受診施設は新たな該当要件へ
第三のポイントは、同一敷地内にオンライン診療受診施設を設置する薬局が、新たに特別調剤基本料Aの対象へ加わる点です。オンライン診療受診施設とは、令和8年4月1日施行の改正医療法第二条の二第二項に規定される新しい施設類型です。この施設は、オンライン診療を行う医師が勤務する病院や診療所に対して、患者がオンライン診療を受ける場所として提供されます。
この見直しにより、特別調剤基本料Aの施設基準は「いずれかの要件を満たす」形に再編されます。イの要件は、従来どおり、保険医療機関と不動産取引等その他の特別な関係を有し、当該保険医療機関に係る処方箋による調剤の割合が五割を超えることです。ロの要件は、当該薬局と同一の敷地内においてオンライン診療受診施設を設置していることです。ロの要件には処方箋集中率の基準が設けられていないため、集中率にかかわらず特別調剤基本料Aの対象となります。
ロの要件には、へき地の薬局を想定した例外が置かれています。本資料が引用する掲示事項等告示第十二条の二の要件、すなわち医療計画におけるへき地に所在する保険薬局に設置されたオンライン診療受診施設は、この例外に当たります。へき地の薬局にオンライン診療受診施設を設置しても、それだけでは特別調剤基本料Aの対象とはなりません。この例外は、へき地における医療へのアクセス確保を優先する考え方に基づきます。
ロの要件の追加は、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(薬担規則)の改正と一体で理解する必要があります。改正後の薬担規則は、保険薬局がオンライン診療受診施設と一体的な構造とすることと、一体的な経営を行うことを禁止します。この2つの禁止のうち、へき地の薬局に設置された施設について適用されないのは、一体的な構造に関する規定に限られます。薬局内で患者がオンライン診療を受ければ、その処方箋は当該薬局で調剤される蓋然性が高く、実質的に敷地内薬局と同じ構造が生じるためです。
実務で確認すべき3つのポイント
今回の見直しに備えるには、立地、建物、敷地という3つの観点から自局の状況を確認することが有効です。特別調剤基本料Aと調剤基本料1との差は、令和6年度改定時点の点数で40点(5点と45点)に達します。なお、令和8年度改定後の点数は本項目の資料に示されておらず、告示で確認する必要があります。
立地の観点では、へき地で公有地の診療所と一体的に所在する薬局が、新設される類型に該当するかを確認します。該当する場合は、ただし書の施設基準に適合するものとして地方厚生局長等へ届け出る必要があります。届出をしなければ、3要件を満たしていても調剤基本料1は算定できません。
建物の観点では、同一建物内に診療所があることを理由に特別調剤基本料Aの対象外となってきた薬局が、経過措置の対象となるかを確認します。経過措置は、告示前日時点で建物内に診療所が所在していることを前提としています。診療所の退去や新たな不動産取引の発生は、経過措置の適用に影響し得る事象です。
敷地の観点では、同一敷地内にオンライン診療受診施設を設置する計画がある薬局が、その影響を確認します。設置すれば、処方箋集中率にかかわらず特別調剤基本料Aの対象となります。オンライン診療受診施設への場所の提供は、薬担規則上の制約も踏まえて判断すべき事項です。
まとめ
令和8年度改定は、特別調剤基本料Aの対象範囲を施設基準の面から3方向に見直します。第一に、公有地の診療所と同一の土地または建物に所在し、その診療所が都道府県知事にへき地の診療所と認められ、水平距離4キロメートル以内に他の薬局がない薬局は、届出により対象から外れて調剤基本料1を算定します。第二に、同一建物内に診療所がある薬局を対象外としてきたただし書は削除され、経過措置つきで対象に加わります。第三に、同一敷地内にオンライン診療受診施設を設置する薬局は、処方箋集中率にかかわらず対象となります。いずれの見直しも、健康保険事業の健全な運営の確保という一貫した観点に基づいています。自局の立地、建物、敷地の状況を早めに確認し、届出や経過措置への対応を進めてください。










