片頭痛の予防治療は、長いあいだ「半分に減らせれば上出来」の世界でした。月30日のうち28日痛む患者を14日まで減らす。その限界が10年以上続いてきました。しかし今、28日をゼロにする治療が現実になっています。そこで今回は、脳神経外科専門医の山本俊先生に、片頭痛治療に何が起きたのかを聞きました。
山本先生が語るのは、片頭痛が「我慢する病気」から「解放される病気」へ変わったという事実です。第一に、変化の起点はCGRPという物質の発見であり、片頭痛の発症メカニズムがほぼ解明されました。第二に、CGRPをブロックする月1回の注射と新しい飲み薬が、片頭痛専用の薬として登場しました。第三に、これらの薬は副作用がほとんどなく、数%に軽い便秘が起こる程度です。
CGRPの発見が片頭痛治療を変えた
片頭痛の予防治療そのものは、決して新しい考え方ではありません。予防治療とは、痛みが起きてから薬を飲むのではなく、毎日の服薬や定期的な注射で頭痛の回数そのものを減らすアプローチです。日本でも2010年頃から、この考え方は存在していました。
ただし、当時の予防薬には出自の問題がありました。使われていたのは、てんかんの薬など、片頭痛とは関係のない薬剤の転用です。「頭痛にも効くじゃないか」という発見から使い始めた経緯であり、効果はあっても限界がありました。月28日の頭痛を14日にする。その壁が10年以上動きませんでした。
この壁を壊したのが、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質の発見です。CGRPは、片頭痛が起こる原因そのものに関わる物質です。原因に関わる物質が特定されれば、それをブロックするという治療戦略が成り立ちます。片頭痛のためだけに作られた薬が、ここで初めて可能になりました。
CGRPの働きは、三叉神経血管説として説明されます。顔や脳に神経線維を送る三叉神経が、CGRPを分泌します。分泌されたCGRPが脳の血管に伝わり、血管がずきんずきんと痛む。これが片頭痛の起こり方です。山本先生は、片頭痛の発症メカニズムは「まだ完全には解明されていない」とされながらも、事実上ほぼ解明されていると述べています。
注射と飲み薬という2つの選択肢がある
発症メカニズムが分かれば、あとはCGRPを何らかの形でブロックするだけです。ブロックの仕方には2通りあります。ひとつは、CGRPという物質そのものをやっつける方法です。もうひとつは、CGRPを受け取る受容体をブロックする方法です。山本先生は、どちらもブロックすることに変わりはなく、細かい違いより「ブロックすれば劇的に良くなる」という理解で十分だと説明しています。
治療の形は、注射と飲み薬の2つに分かれます。注射は2021年から使えるようになり、日本でも広く使われています。飲み薬は、ゲパントと呼ばれるタイプの薬が2025年末以降に登場しました。注射が苦手な人にとって、飲み薬は非常に人気のある選択肢です。効き目は注射とほぼ同等であり、頭痛が劇的に減る、あるいは起こらなくなるところまで期待できます。
投与のペースは、注射なら毎月1回、飲み薬なら基本的に毎日です。予防治療である以上、頭痛が多い月も少ない月も同じペースで続けます。ただし、一生続ける必要はありません。3ヶ月ほど試して効果が良ければ、一度やめてみるという調整も実際に行われています。
副作用の少なさが治療のハードルを下げた
CGRP阻害薬の最も画期的な点は、効果ではなく副作用の少なさだと山本先生は言います。CGRPは全身に存在する物質です。それをブロックすれば、体のどこかに影響が出そうに思えます。しかし実際には、頭痛がなくなる以外のことがほとんど起こりません。
報告されている副作用は、数%の患者に起こる軽い便秘程度です。割合そのものが低く、起きたとしても便秘薬で対応できることがほとんどです。副作用がほぼないという事実が、「まず試してみよう」という一歩のハードルを大きく下げています。
治療選択肢が増えたからこそ、山本先生は発信の独立性を重視しています。片頭痛治療の進歩に伴い、多くの製薬会社がこの領域に参入しています。特定の会社に寄ることは患者の利益になりません。山本先生は製薬会社からの援助を一切受けず、自分の意思で発信することを発信の前提としています。
まとめ:チャンスを逃さないでほしい
片頭痛は、我慢する病気から解放される病気へ変わりました。変化の起点はCGRPの発見であり、三叉神経血管説によって発症メカニズムはほぼ解明されています。CGRPをブロックする月1回の注射と、新しく登場したゲパント系の飲み薬が、片頭痛専用の治療として使えます。しかも副作用は、数%の軽い便秘程度にとどまります。
山本先生は、この治療で人生が変わった患者の顔が何人も浮かぶと語ります。子どもから大人まで、多くの人が片頭痛に悩んでいます。今からでも遅くありません。頭痛が劇的に良くなれば、その先の人生がガラッと変わります。頭痛専門医にかかり、こうした治療があることを知ること。その一歩が、かけがえのない機会につながります。
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山本俊先生は、頭痛外来で患者と向き合いながら、AIを使った研究にも取り組む脳神経外科専門医です。メルマガでは、頭痛に悩む方へ専門家だから届けられる最新の治療情報を、医療従事者やAIに関心のある方へ研究・知的生産にAIエージェントを組み込む実例を、毎週土曜日に発信しています。
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