頭痛が起きたら痛み止めを飲む。この当たり前の対処が、頭痛を悪化させることがあります。日本では2〜3%、200万人以上がこの状態に該当するとされています。しかも、その多くが自分の飲み過ぎに気づいていません。そこで今回は、脳神経外科専門医の山本俊先生に、痛み止めと頭痛の関係を聞きました。
山本先生が伝えるのは、飲み過ぎの基準を知り、正しいタイミングで正しい薬を使うという原則です。第一に、飲み過ぎの基準は回数ではなく日数であり、複合鎮痛薬は月10日、単一成分薬は月15日が境界線です。第二に、片頭痛専用のトリプタンでさえ月10日以上で同じ問題を起こす一方、最新のCGRP阻害薬はこの問題を起こしません。第三に、薬は頭痛の起こり始めに「狙い撃ち」してこそ効きます。
飲み過ぎの基準は回数ではなく日数
痛み止めの飲み過ぎで悪化する頭痛には、正式な名前があります。かつては「薬物乱用頭痛」と呼ばれていました。響きが悪いことから、現在は「薬剤の使用過多による頭痛」に名称が変わっています。市販の複合鎮痛薬などを慢性的に飲み過ぎることで、かえって頭痛がひどくなる現象です。
この状態にある人は、日本で2〜3%、200万人以上とされています。ただし山本先生は、実感としてはもっと多いのではないかと述べています。理由は把握のしにくさにあります。医師はお薬手帳で処方薬を確認できますが、患者が自分で買って飲む市販薬までは追えません。
飲み過ぎの基準は、薬のタイプによって2つに分かれます。イブやバファリンなどの複合鎮痛薬は、月10日以上が基準です。週2〜3回のペースが、すでにこの線を超えます。ロキソニンやカロナールなどの単一成分薬は、月15日以上が基準です。2日に1回以上飲んでいれば、この線を超えます。
ここで最も誤解されやすいのが、基準の数え方です。基準になるのは回数ではなく日数です。1日に3回飲んでも、1日とカウントされます。「6時間以上空けて飲んでいるから大丈夫」という理解は、この点で成り立ちません。山本先生は、これを「なかなか誰も教えてくれない事実」だと語ります。
複合鎮痛薬が飲み過ぎに陥りやすい理由は、成分にあります。市販薬の裏面には、無水カフェインが高い頻度で含まれています。加えて、長いカタカナのあとに「尿素」と付く成分も入っています。この尿素系成分は海外の鎮痛薬には含まれていませんが、日本の複合鎮痛薬には入っており、依存する傾向を誘発します。よく効くと感じるからこそ、飲む日数が増えていきます。
専用薬にも基準があり、最新薬にはない
飲み過ぎの問題は、市販薬に限りません。片頭痛には、トリプタンという専用薬があります。トリプタンは頭痛の起こり始めに飲めば高い効果を発揮し、痛みをしっかり抑えます。しかし、そのトリプタンでさえ、月10日以上の内服で薬剤の使用過多による頭痛を起こします。基準は、複合鎮痛薬と同じです。
この事実は、ひとつの矛盾を生みます。頭痛の頻度が多い人ほど、トリプタンを飲む日数が増えます。頭痛を良くするために飲んでいるのに、飲むことで余計にひどくなる。山本先生が予防治療の発信に力を入れる理由が、ここにあります。そもそも頭痛の回数を減らさなければ、この循環から抜け出せません。
回数を減らす手段が、CGRP阻害薬です。CGRPは片頭痛の起こり方に関わる物質であり、これをブロックする薬が頭痛の頻度を劇的に減らします。さらにCGRP阻害薬には、これまでの薬にない特徴があります。どれだけ飲んでも、飲み過ぎによる頭痛にならないという点です。山本先生は、これを従来薬との大きな違いとして挙げています。
薬は起こり始めに狙い撃つ
飲む薬が正しくても、飲むタイミングが遅ければ効きません。片頭痛が大きくなってから飲んでも、まったく効かない。これは最新の薬でも同じです。ベストなタイミングは、「ちょっと痛いな」と感じる起こり始めです。山本先生は、この飲み方を「狙い撃ち」と表現します。
狙い撃ちの対極にあるのが、「乱れ打ち」です。起こりそうだからとりあえず複合鎮痛薬を飲む。痛みが大きくなってからいっぱい飲む。我慢しているうちに、どんどんひどくなる。この飲み方が、飲み過ぎの状態をつくります。同じ「薬を飲む」でも、狙い撃ちと乱れ打ちはまったく違う行為です。
狙い撃ちを可能にするのが、予兆の把握です。片頭痛には予兆があります。首や肩が強く凝って張ってくる。天気が変わる、雨が降る。人によっては、天気が良くなるときに起こります。自分がいつも頭痛を起こすパターンを知っておけば、予兆の段階で早めに専用薬を飲み、痛みが大きくなる前にやっつけられます。
こうした情報が届いていない現状を、山本先生は大きな問題と捉えています。毎日痛み止めを飲む状態が何十年も続いた人は、なかなか元に戻りません。市販薬を売る現場にいる薬剤師や販売員は、この状態を防ぐ「ガードレール」になり得ます。しかし医師ひとりが日本中の薬局を回ることはできません。だからこそ、医師だけでなく薬剤師や販売員を含めた多くの人による啓発が必要だと語ります。
まとめ:飲み過ぎに気づいても、手遅れではない
痛み止めの飲み過ぎは、頭痛を悪化させます。基準は回数ではなく日数であり、複合鎮痛薬は月10日、単一成分薬は月15日が境界線です。専用薬のトリプタンにも月10日の基準がある一方、CGRP阻害薬は飲み過ぎによる頭痛を起こしません。そして薬は、頭痛の起こり始めに狙い撃ちしてこそ効きます。
「自分は飲み過ぎかもしれない」と感じた方へ。手遅れということはありません。医師に怒られるのではないかという不安も、必要ありません。頭痛専門医はこうした患者に慣れており、温かく話を聞いたうえで、良くしていく道筋を一緒に描きます。頭痛治療はここまで進化しています。人生が変わる可能性のあるチャンスを、取り逃さないでください。
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山本俊先生は、頭痛外来で患者と向き合いながら、AIを使った研究にも取り組む脳神経外科専門医です。メルマガでは、頭痛に悩む方へ専門家だから届けられる最新の治療情報を、医療従事者やAIに関心のある方へ研究・知的生産にAIエージェントを組み込む実例を、毎週土曜日に発信しています。
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