令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会は、令和6年度診療報酬改定で導入された栄養管理体制の基準明確化に関する調査結果を公表しました。この改定では、世界の主要栄養学会が策定したGLIM基準を活用した低栄養評価が推奨されました。調査の目的は、GLIM基準の活用状況と低栄養患者の実態を把握し、今後の栄養管理体制の充実に向けた課題を明らかにすることです。
調査結果は、病棟種別によってGLIM基準の活用状況に大きな差があることを示しました。GLIM基準の活用率は、地域包括医療病棟が100%と最も高く、特定機能病院が40.4%と最も低い状況です。低栄養リスクを有する患者の割合は、急性期一般入院料で約4割、地域包括医療病棟等で約8割に達しました。GLIM基準による低栄養(重度・中等度)に該当する患者は、地域包括医療病棟や回復期リハビリテーション病棟等で約3割を占めました。GLIM基準の導入により、多職種連携が進んだという回答が約5割ありました(回復期リハビリテーション病棟入院料1での調査)。分科会では、管理栄養士の病棟配置が的確な栄養スクリーニングを可能にしているとの評価がなされました。
GLIM基準の活用状況に見る病棟種別の特徴
GLIM基準の活用率は病棟種別で顕著な差を示しています。地域包括医療病棟入院料を算定している施設では100%がGLIM基準を栄養管理手順に位置づけていました。この高い活用率は、令和6年度改定で栄養管理体制の基準が明確化され、標準的な栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価が求められたことに対応したものです。
地域包括医療病棟に続いて、回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定している施設が98.0%、地域包括ケア病棟入院料を算定している施設が80.8%とGLIM基準を活用していました。これらの病棟では、退院後の生活を見据えた栄養管理が特に重視されています。
対照的に、特定機能病院入院基本料を算定している施設では40.4%にとどまりました。急性期一般入院料1を算定している施設でも73.6%と、地域包括系の病棟と比較して低い水準です。特定機能病院では高度急性期医療に重点が置かれており、栄養管理手順へのGLIM基準の組み込みが他の病棟種別と比べて進んでいない実態が明らかになりました。
低栄養リスク患者の分布から見える病棟機能の違い
低栄養リスクを有する患者の割合は、病棟の機能特性によって大きく異なります。急性期一般入院料を算定している病棟では、低栄養リスクを有する患者が約4割でした。急性期病棟では、手術や急性疾患の治療を目的とした入院が中心であり、比較的短期間の入院が想定されています。
地域包括医療病棟では、低栄養リスクを有する患者が約8割に達しました。地域包括ケア病棟入院料や回復期リハビリテーション病棟でも同様に高い割合を示しています。これらの病棟では、急性期治療を経た患者や在宅復帰を目指す患者を受け入れており、低栄養リスクの高い患者層が集中する傾向にあります。
療養病棟入院料を算定している病棟でも、低栄養リスクを有する患者の割合は高い水準です。療養病棟では長期療養を必要とする患者が多く、栄養状態の維持が重要な課題となっています。病棟種別による低栄養リスク患者の分布の違いは、各病棟が担う医療機能と患者特性を反映したものといえます。
GLIM基準による低栄養患者の実態と評価の精度
GLIM基準による低栄養(重度・中等度)に該当する患者は、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟等で約3割を占めました。この結果は、単なる低栄養リスクの評価を超えて、GLIM基準による具体的な低栄養診断が行われている実態を示しています。GLIM基準では、表現型基準(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少)と病因基準(食事摂取量減少・消化吸収能低下、疾病負荷・炎症)の両方から評価し、重症度判定まで行います。
分科会では、地域包括医療病棟で低栄養リスク患者が多く検出されている要因について議論されました。管理栄養士が病棟配置されていることで、的確な栄養スクリーニングが実施できているという評価です。病棟配置された管理栄養士は、患者の日々の食事摂取状況を直接観察し、他職種と密接に連携して栄養状態を評価できます。
分科会からは、低栄養リスクだけでなくGLIM基準で低栄養と判定された患者の状況についても詳細に示すべきとの指摘がありました。今後は、低栄養と判定された患者に対する栄養管理計画の内容や、栄養状態の改善度合いなど、より詳細な分析が求められています。
GLIM基準導入がもたらした多職種連携の進展と課題
回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定している病棟を対象とした調査では、GLIM基準の評価導入による影響が明らかになりました。「栄養評価に時間がかかるようになった」という回答が69.9%と最も多く、標準的な評価基準の導入に伴う業務負担の増加が示されています。GLIM基準では、体重減少率やBMI、筋肉量の測定など、複数の指標を総合的に評価する必要があります。
一方で、「多職種連携が進んだ」という回答が52.8%に達しました。この結果は、GLIM基準という共通の評価基準を用いることで、医師、看護師、管理栄養士、リハビリテーション職種などが、患者の栄養状態について同じ認識を持ち、協働して栄養管理に取り組めるようになったことを示唆しています。
「低栄養と判定される患者が増えた」という回答も39.2%ありました。これは、GLIM基準という標準的な評価基準の導入により、従来は見逃されていた低栄養患者が適切に抽出されるようになった可能性を示しています。栄養評価の精度向上は、適切な栄養介入の実施につながり、患者の予後改善に寄与することが期待されます。
栄養管理体制の充実に向けた今後の展望
令和6年度診療報酬改定では、栄養管理体制の基準が明確化され、標準的な栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価が入院基本料等の施設基準に位置づけられました。各医療機関は、機能や患者特性等に応じた栄養管理手順を作成し、GLIM基準を活用することが望ましいとされています。今回の調査結果は、病棟種別によって取り組み状況に差があることを示しました。
特定機能病院をはじめとする急性期病棟でのGLIM基準活用率の向上が課題です。高度急性期医療を担う病棟においても、患者の栄養状態を的確に評価し、早期から適切な栄養介入を行うことは、治療効果の向上や合併症の予防につながります。病棟の特性に応じた栄養管理手順の整備と、多職種による協働体制の構築が求められています。
地域包括医療病棟や回復期リハビリテーション病棟での成功事例は、管理栄養士の病棟配置の重要性を示しています。病棟に配置された管理栄養士は、患者の栄養状態を継続的にモニタリングし、医師や看護師、リハビリテーション職種と密接に連携して、個別性の高い栄養管理計画を実施できます。
分科会での議論を踏まえ、今後はGLIM基準で低栄養と判定された患者に対する栄養介入の内容や効果についても詳細な分析が進められる見込みです。標準的な評価基準の活用により、栄養管理の質の向上と、エビデンスに基づいた栄養介入の推進が期待されます。退院後の生活を見据えた入院患者の栄養管理体制の充実は、医療の質向上に欠かせない要素となっています。
まとめ
令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会の調査結果は、GLIM基準の活用状況が病棟種別で大きく異なることを明らかにしました。地域包括医療病棟での100%活用という成果は、管理栄養士の病棟配置による的確な栄養スクリーニング体制の重要性を示しています。回復期リハビリテーション病棟入院料1での調査では、多職種連携の進展という効果も確認されました。今後は、急性期病棟を含むすべての病棟種別での標準的な栄養評価体制の構築と、低栄養患者に対する効果的な栄養介入の実践が課題です。