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【2026年度実施】OTC類似薬の自己負担見直しと国保改革の3つの柱を解説
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【2026年度実施】OTC類似薬の自己負担見直しと国保改革の3つの柱を解説

子育て世帯の保険料軽減拡充から保険料水準統一まで、令和8年度に向けた改革の全体像

令和7年11月27日、第205回社会保障審議会医療保険部会が開催されました。本部会では、骨太方針2025および三党合意を踏まえ、医療保険制度の持続可能性確保に向けた具体的な制度設計が議論されています。本稿では、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しと国民健康保険制度の取組強化という2つの重要テーマについて解説します。

今回の議論では、OTC類似薬について保険給付を維持しつつ別途負担を求める方向での検討が進められています。国民健康保険制度については、子どもの均等割保険料軽減を高校生年代まで拡充することや、保険料水準統一の加速化、保険者努力支援制度へのマイナス指標導入が提案されています。これらの改革は令和8年度からの実施を目指しており、医療機関経営や患者負担に大きな影響を与える可能性があります。

OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し

OTC類似薬の保険給付見直しは、現役世代の保険料負担軽減と医療保険制度の持続可能性確保を目的としています。骨太方針2025では、2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現可能なものについて2026年度から実行するとされました。本節では、費用負担の在り方、配慮が必要な者の範囲、対象となるOTC類似薬の範囲という3つの論点について整理します。

費用負担の在り方については、薬剤そのものを保険給付の対象外とはしない前提で検討が進められています。医療保険部会での議論では、OTC医薬品への変更や保険適用除外とした場合、患者の自己負担がかなり増えるケースがあるとの指摘がありました。このため、保険の枠内に置きつつ、選定療養のような形で別途負担を求める仕組みが検討されています。患者団体からも、OTC類似薬については保険適用とした上で患者負担を変更する方法が弊害が少ないとの意見が出されました。

配慮が必要な者の範囲については、新たな負担を求めない対象として複数の類型が論点として提示されています。子どもについては、成人年齢が18歳以上であることやこども医療費助成制度の普及を踏まえ、18歳以下の者を配慮対象とすることが検討されています。また、医療費に着目して公的な支援を受けている方、長期にOTC類似薬の利用を必要とする方、入院患者についても配慮が必要とされています。患者団体ヒアリングでは、がん患者や難病患者、アレルギー疾患患者など、OTC類似薬を日常的・長期的に使用する方への経済的負担増大への懸念が示されました。

OTC類似薬の範囲については、医療用医薬品とOTC医薬品の同等性をどう判断するかが課題となっています。成分が一致していても、用法・用量、効能・効果、対象年齢、投与経路、剤形など様々な違いがあり、単純に保険適用から外すことは難しいとの意見があります。一方で、OTC医薬品を購入する方との公平性や医療保険制度の持続可能性の観点から、OTCで代替可能なものはできるだけ広い範囲を対象として検討を進めるべきとの意見も出されました。

国民健康保険制度の取組強化

国民健康保険制度は、被保険者の高齢化や所得水準の低さ、小規模保険者の多さなど構造的な課題を抱えています。人口減少・少子高齢化に伴い地方公共団体の人材不足も深刻化しており、保険者事務の持続可能性確保が急務となっています。本節では、医療費適正化のインセンティブ強化、子育て世帯の保険料負担軽減、持続的な国保運営のための取組強化、国保組合に係る見直しについて解説します。

医療費適正化のインセンティブ強化については、保険者努力支援制度(都道府県取組評価分)の見直しが決定されました。現行の普通調整交付金は、理由にかかわらず医療費に応じて配分額が増減される仕組みとなっており、医療費適正化のインセンティブが働かないとの指摘がありました。地方団体からは、普通調整交付金が担う所得調整機能は重要であり、政策誘導に使われるべきではないとの意見が出されています。このため、保険者努力支援制度の医療費適正化のアウトカム評価指標において、令和8年度分からマイナス指標を導入し、医療費適正化のインセンティブがより働くようメリハリを強化することとされました。

子育て世帯の保険料負担軽減については、均等割保険料の軽減対象を高校生年代まで拡充することが提案されました。現行制度では令和4年4月から、未就学児に係る均等割保険料について5割を公費(国1/2、都道府県1/4、市町村1/4)により軽減する措置が講じられています。全国知事会、全国市長会、全国町村会からは、対象年齢の18歳までの引上げや軽減割合の拡充を求める要望が出されており、今回の拡充はこれらの要望に応えるものです。

持続的な国保運営のための取組強化は、保険料水準の統一と事務負担軽減の2つの柱で構成されています。保険料水準統一については、令和8年度の国保運営方針中間見直しに向けて、納付金ベースの統一や完全統一に係る目標年度の設定・前倒しの検討を含め、議論を加速化することとされました。納付金ベースの統一は令和12年度保険料算定までの達成が目標とされ、完全統一は令和15年度までの移行を目指しつつ、遅くとも令和17年度までの移行が目標とされています。財政安定化基金についても、保険料水準統一や制度改正により納付金が著しく上昇する場合等に取崩しを認め、従来の3年間よりも長い期間での積戻しを可能とする見直しが提案されています。

市町村の事務負担軽減については、都道府県国保連合会の役割強化が検討されています。また、国民健康保険の資格喪失日を1日前倒しし、資格喪失の原因たる事実が発生した日を資格喪失日とする運用見直しも提案されました。これは令和7年度地方分権提案で報告された支障事例を踏まえたもので、保険者間の資格重複による軽減判定への影響を解消することが目的です。

国保組合に係る見直しでは、負担能力に応じた負担を進める観点から定率補助の見直しが提案されています。現行の補助率下限13%を原則としつつ、以下の3要件すべてに該当する国保組合には、例外的に12%(平均所得270万円以上)または10%(平均所得280万円以上)の補助率を適用することとされました。3要件とは、①保険料負担率(被保険者一人当たり保険料÷国保組合の平均所得)が低いこと、②積立金が多いこと(かつ被保険者数3,000人以上)、③医療費適正化等の取組の実施状況が低調であることです。併せて、健康保険適用除外に係る手続の簡素化や、補助率判定に用いる所得上限額を1,200万円から2,200万円に見直すことも行われます。

まとめ

第205回医療保険部会では、医療保険制度の持続可能性確保に向けた重要な改革の方向性が示されました。OTC類似薬については、保険給付を維持しつつ別途負担を求める制度設計が進められ、子どもや慢性疾患患者、低所得者への配慮が図られます。国民健康保険制度については、保険者努力支援制度へのマイナス指標導入による医療費適正化インセンティブの強化、子育て世帯支援の拡充、保険料水準統一の加速化により、制度の安定性向上が目指されています。これらの改革は令和8年度からの実施に向けて、今後さらに具体的な制度設計が進められる見込みです。

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