令和8年度診療報酬改定では、質の高い摂食嚥下機能回復に係る取組を推進するため、摂食嚥下機能回復体制加算と経腸栄養管理加算の要件が見直されます。この見直しは、「中心静脈栄養の実施が前提となっている要件では、経腸栄養や経口摂取への移行に取り組む医療機関の努力が評価されにくい」という現場の課題を踏まえたものです。
今回の見直しは、大きく3つのポイントに整理できます。第1に、摂食嚥下機能回復体制加算1・2の言語聴覚士の配置要件が「専従」から「専任」に緩和されます。第2に、加算3の実績要件に、経腸栄養から経口摂取へ回復した患者も算入可能となります。第3に、経腸栄養管理加算の対象患者が拡大され、入院前から中心静脈栄養で管理されていた患者や、経口摂取不可となり経腸栄養を選択した患者も算定対象となります。
見直しの背景:届出・算定が伸び悩む現状
摂食嚥下機能回復体制加算と経腸栄養管理加算は、いずれも届出・算定の伸び悩みが課題となっていました。回復期リハビリテーション病棟入院料1の届出病棟のうち、摂食嚥下機能回復体制加算1または2を届け出ている施設は約13%にとどまっています。現場からは「専従の言語聴覚士の確保が難しい」という声が上がっていました。
療養病棟で算定される加算3についても、届出94施設のうち約6割が算定回数ゼロでした。この背景には、実績要件が「中心静脈栄養を実施していた患者」に限定されていたことがあります。中心静脈栄養を行わない方針の施設では、そもそも実績を積むことができませんでした。
経腸栄養管理加算は、令和6年度改定で新設されましたが、届出910施設のうち約9割弱が算定回数ゼロという状況でした。「入棟前の1か月間に経腸栄養が実施されていた患者は算定できない」という除外規定や、「長期間、中心静脈栄養を実施している患者」という要件が、対象患者の範囲を狭めていました。
見直し①:言語聴覚士の配置要件を「専従」から「専任」に緩和
第1の見直しは、摂食嚥下機能回復体制加算1・2における言語聴覚士の配置要件の緩和です。従来、摂食嚥下支援チームの構成員である言語聴覚士は「専従の常勤」が求められていました。今回の改定では、この要件が「専任の常勤」に変更されます。
専従と専任の違いは、他の業務との兼務の可否にあります。専従は当該業務に専ら従事することを意味し、原則として他の業務を兼務できません。一方、専任は当該業務に主として従事しつつ、他の業務を兼務することが認められます。この変更により、言語聴覚士が摂食嚥下支援チームの業務を行いながら、疾患別リハビリテーション等の他業務にも従事できるようになります。
この緩和は、限られた言語聴覚士の人材を効率的に活用することを目的としています。回復期リハビリテーション病棟では、言語聴覚士が摂食嚥下支援と疾患別リハビリテーションの両方に関与するニーズが高く、専従要件がボトルネックとなっていました。この見直しにより、加算の届出施設数の増加が期待されます。
見直し②:加算3の実績要件に経腸栄養からの回復患者を追加
第2の見直しは、療養病棟で算定される摂食嚥下機能回復体制加算3の実績要件の拡大です。従来の実績要件は、「中心静脈栄養を実施していた患者のうち、嚥下機能が回復し中心静脈栄養を終了した者が前年に2名以上」に限定されていました。今回の改定では、この実績に加え、経腸栄養(鼻腔栄養や胃瘻)から経口摂取へ回復した患者も算入可能となります。
具体的には、実績要件が次のアとイの合計で2名以上に変更されます。アは、従来どおり中心静脈栄養を終了した患者です。イは、鼻腔栄養を実施していた患者または胃瘻を造設していた患者のうち、嚥下機能評価と嚥下リハビリテーション等を経て、経口摂取のみの栄養方法に回復した患者です。
この見直しの背景には、中心静脈栄養を実施しない施設では実績要件を満たせないという課題がありました。経腸栄養から経口摂取への移行も、質の高い摂食嚥下機能回復の成果です。この成果を実績に含めることで、より多くの療養病棟が加算3を届出・算定できるようになります。
見直し③:経腸栄養管理加算の対象患者を拡大
第3の見直しは、経腸栄養管理加算の対象患者の要件変更です。この変更には、対象患者の拡大と除外規定の撤廃という2つの内容が含まれます。
対象患者の要件は、次のように見直されます。アの要件は、従来の「長期間、中心静脈栄養を実施している患者」から「入院前から又は入院後2週間以上、中心静脈栄養による栄養管理を実施しており、経腸栄養への移行を目的とするもの」に変更されます。この変更により、入院前から経腸栄養を行っておらず中心静脈栄養で管理されていた患者も算定対象に含まれます。イの要件は、従来の「経口摂取が不可能となった又は経口摂取のみでは必要な栄養補給ができなくなった患者」から「経口摂取が不可能となった又は経口摂取のみでは必要な栄養補給ができなくなり、入棟後に経腸栄養を開始したもの」に変更されます。このイの要件変更により、経口摂取が不可となった場合に、適切なプロセスを経て中心静脈栄養ではなく経腸栄養を選択した場合についても算定可能であることが明確化されます。
もうひとつの重要な変更は、従来あった「入棟前の1か月間に経腸栄養が実施されていた患者については算定できない」という除外規定が撤廃される点です。従来はこの除外規定があったため、入棟前にすでに経腸栄養を実施していた患者は算定対象外でした。この撤廃により、対象患者の範囲がさらに広がります。
まとめ
令和8年度診療報酬改定における摂食嚥下機能回復に係る見直しは、3つのポイントに集約されます。加算1・2の言語聴覚士の配置要件が「専従」から「専任」に緩和されること、加算3の実績要件に経腸栄養からの経口摂取回復患者が追加されること、経腸栄養管理加算の対象患者が拡大されることです。いずれも、中心静脈栄養の実施を前提とした要件が現場の取組を評価しにくくしていたという課題に対応するものです。該当する医療機関は、施設基準の変更内容を確認し、届出の準備を進めることをお勧めします。










