ロボット手術は、平成24年度の保険適用以降、累次の診療報酬改定で対象術式が拡大し、現在32項目が保険収載されている。しかし、令和6年時点では、ロボット手術を実施する675施設のうち年間150回未満の施設が59%を占め、算定回数の分散が顕著である。本稿では、こうした状況を背景に令和8年度改定で新設された「内視鏡手術用支援機器加算」について、加算の趣旨、対象手術、施設基準、経過措置を解説する。
内視鏡手術用支援機器加算は、年間200例以上のロボット手術を実施する保険医療機関を対象に15,000点を算定する新加算である。算定対象は、悪性腫瘍手術等の25区分(区分番号ベース)のK番号手術である。施設基準は、年間症例数、人員配置、機器管理体制、情報公開の4つの観点で構成される。情報公開要件のうち前年実績のウェブサイト掲載については、令和9年5月31日まで経過措置が設けられている。
新加算の背景:算定の分散と高額な医療材料費
新加算の背景には、ロボット手術の算定実績の分散と医療材料費の高さという2つの課題がある。厚生労働省は、これらの課題を踏まえ、高額医療機器の効率的活用と集約化を促す方針を示した。
ロボット手術の算定実績は、医療機関ごとに大きく分散している。令和6年の算定医療機関数は675施設、総算定回数は約11.3万回である。このうち、年間算定回数が150回未満の医療機関は全体の59%を占める一方、250回以上の医療機関は22.8%にとどまる。さらに、250回以上の医療機関で実施されるロボット手術は全体の55.5%に達し、症例の集約傾向が認められる。
医療材料費は、ロボット手術が腹腔鏡下等手術と比較して約2〜3倍高い。外保連試案2026によれば、肺悪性腫瘍手術(肺葉切除等)の償還できない医療材料費は、腹腔鏡下等手術が175,762円であるのに対し、ロボット手術は511,584円である。胃悪性腫瘍手術(全摘)でも、腹腔鏡下等手術346,240円に対しロボット手術697,582円と、同様の傾向がみられる。
こうした課題を踏まえ、令和8年度改定では、多数の手術を実施する保険医療機関への評価を新設する方針が示された。具体的には、医療機器の効率的な活用と高額医療機器の集約化を図る観点から、年間手術実績に応じた評価を行うこととされた。新加算は、この方針を実現する具体的な手段として位置づけられる。
新加算の概要:15,000点で25区分が算定対象
内視鏡手術用支援機器加算は、所定の手術を実施する際に手術1件ごとに15,000点を算定する加算である。算定対象は、悪性腫瘍手術およびそれに準じた手術のうち、内視鏡手術用支援機器を用いた症例である。
算定対象となるK区分番号は25区分にわたる。ただし、区分番号は25であっても、K514-2は枝番2と枝番3が、K655-2は枝番3が、K655-5は枝番3が、K657-2は枝番4のみが対象となるため、対象手術項目としては実質的に26項目となる点に留意が必要である。
具体的な対象手術は、領域別に整理すると以下のとおりである。頭頸部領域では、K374-2(鏡視下咽頭悪性腫瘍手術)およびK394-2(鏡視下喉頭悪性腫瘍手術)が対象となる。胸部領域では、K502-5(胸腔鏡下拡大胸腺摘出術)、K504-2(胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術)、K514-2の2・3(胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術)、K529-2・K529-3(食道悪性腫瘍手術)、K554-2(胸腔鏡下弁形成術)、K555-3(胸腔鏡下弁置換術)が含まれる。
腹部領域では、K655-2の3(腹腔鏡下胃切除術・悪性腫瘍手術)、K655-5の3(腹腔鏡下噴門側胃切除術・悪性腫瘍手術)、K657-2の4(腹腔鏡下胃全摘術・悪性腫瘍手術)、K674-2(腹腔鏡下総胆管拡張症手術)、K695-2(腹腔鏡下肝切除術)、K702-2(腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術)、K703-2(腹腔鏡下膵頭部腫瘍切除術)、K719-3(腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術)、K740-2(腹腔鏡下直腸切除・切断術)が対象となる。
泌尿器・婦人科領域では、K755-2(腹腔鏡下副腎髄質腫瘍摘出術)、K773-5(腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術)、K773-6(腹腔鏡下尿管悪性腫瘍手術)、K778-2(腹腔鏡下腎盂形成手術)、K803-2(腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術)、K865-2(腹腔鏡下仙骨腟固定術)、K879-2(腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術、子宮体がんに限る)が含まれる。
算定対象と症例数カウント対象の非対称:K843-4の取扱いに要注意
本加算の最大の注意点は、加算の算定対象となる手術と、200例の症例数要件をカウントする対象となる手術が、完全には一致しない点にある。具体的には、K843-4(腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術)が両者で異なる扱いを受ける。
K843-4は、施設基準告示において200例の症例数要件をカウントする対象に含まれている。つまり、年間200例という分子の集計には、K843-4の症例を算入できる。前立腺癌に対するロボット手術は症例数の多い領域であるため、施設基準の充足にあたって重要な意味を持つ。
一方で、K843-4は、加算15,000点の算定対象には含まれていない。つまり、K843-4の手術自体には本加算を上乗せして算定することはできない。本加算が算定できるのは、前項で列挙した25区分(実質26項目)の手術に限られる。
この非対称な構造を踏まえると、医療機関は2つのリストを明確に区別して運用する必要がある。施設基準の充足判定には26区分(K843-4を含む)の合計症例数を、加算の算定可否判断には25区分(K843-4を除く)の対象手術リストを参照することになる。リストを取り違えると、施設基準誤届出や算定誤りの原因となりうる。
施設基準:症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4要件
施設基準は、症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4つの観点から構成される。これらの基準を満たし、地方厚生局長等への届出を行った保険医療機関のみが、本加算を算定できる。
症例数要件は、年間200例以上のロボット手術実績である。対象手術は、施設基準告示に列挙された26区分のK番号手術(K843-4を含む)を合算する。この要件は、医療機器の効率的活用と集約化を促す本加算の中核的な要件である。
人員配置要件は、麻酔科の標榜、常勤麻酔科標榜医の配置、常勤臨床工学技士1名以上の配置の3点である。あわせて、緊急手術が可能な体制を整備することも求められる。これらは、ロボット手術を安全に実施するための周術期体制を担保する要件である。
機器管理要件は、保守管理計画の策定と適切な保守管理の実施である。また、関連学会が行うレジストリへの参加も求められ、手術患者の長期予後情報の収集に貢献することが施設に課せられる。これらの要件は、機器の安全性確保と医療技術のエビデンス蓄積を目的とする。
情報公開要件は、前年の実績(症例数および平均在院日数)をウェブサイトに掲載することである。本要件には経過措置が設けられ、令和9年5月31日までの間は、未掲載であっても要件を満たすものとみなされる。算定を予定する医療機関は、経過措置期間内にウェブサイトを整備する必要がある。
まとめ:集約化の方針を踏まえた体制整備と運用設計が鍵
内視鏡手術用支援機器加算は、年間200例以上のロボット手術を実施する保険医療機関を対象とする新加算である。本加算は、算定実績の分散と医療材料費の高さを背景に、高額医療機器の集約化を促す目的で新設された。算定対象は悪性腫瘍手術等の25区分(実質26項目)で、施設基準は症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4要件から構成される。特に、K843-4(腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術)は症例数要件のカウント対象には含まれるが加算算定対象には含まれないという非対称な扱いには注意が必要である。情報公開要件のうちウェブサイト掲載については、令和9年5月31日までの経過措置が設けられている。算定を目指す保険医療機関は、経過措置期間内に体制整備とウェブサイト掲載を完了させることが求められる。










