令和7年12月25日、社会保障審議会医療保険部会は「議論の整理」を取りまとめました。この議論の整理は、骨太の方針2025や経済・財政新生計画改革実行プログラム2024に基づき、令和7年9月18日以降13回にわたる議論の成果です。2040年に高齢者数がピークを迎えることを見据え、全世代型社会保障の構築に向けた改革の方向性が示されました。
議論の整理では、4つの視点から5つの改革パッケージが提示されています。第一に、高額療養費制度の見直しによるセーフティネット機能の確保です。第二に、出産費用の現物給付化や国民健康保険における子育て世代支援など次世代支援の強化です。第三に、金融所得の勘案や高齢者窓口負担の在り方など世代間公平の確保です。第四に、OTC類似薬の自己負担見直しや長期収載品の選定療養拡充など効率的な給付の推進です。第五に、国民健康保険制度改革の推進です。
セーフティネット機能の確保:高額療養費制度の見直し
高額療養費制度の見直しは、専門委員会で8回にわたり多様な議論が行われました。この議論では、患者団体や保険者、医療関係者、学識経験者からのヒアリングが実施され、複数の事例に基づく経済的影響のイメージやデータを踏まえた検討が行われています。
専門委員会では、令和7年12月16日に「高額療養費制度の見直しを行っていく場合の基本的な考え方」がとりまとめられました。この基本的な考え方は、医療保険制度改革全体の中で全体感を持った見直しが行われることを前提としています。高齢者からのヒアリングでは、外来特例の維持を求める声や、制度の周知・説明の改善を求める意見が出されました。
現役世代及び次世代の支援強化:出産に対する新たな給付体系の創設
出産費用については、出産育児一時金が令和5年度に原則42万円から原則50万円に引き上げられた後も上昇が続き、妊産婦の経済的負担が増加しています。この状況を踏まえ、現行の出産育児一時金に代わる新たな給付体系の創設が提案されました。
新たな給付体系の骨格は、保険診療以外の分娩対応に要する費用について、全国一律の水準で保険者から分娩取扱施設に直接支給する現物給付化です。具体的には、療養の給付とは異なる出産独自の給付類型を設け、妊婦に負担を求めず費用の10割を保険給付とします。分娩1件当たりの基本単価を国が設定し、手厚い人員体制やハイリスク妊婦の受入体制などを評価する加算を設けることが適当とされています。
新たな給付体系への移行については、妊産婦の期待に応えて早期施行を求める意見がある一方、個々の施設が対応できる十分な時間的余裕を確保すべきとの意見もありました。当分の間は施設単位で現行の出産育児一時金の仕組みも併存させ、可能な施設から新制度に移行していく方針が示されています。
国民健康保険においては、子育て世帯の負担軽減のため、未就学児に係る均等割保険料の5割軽減措置の対象を高校生年代まで拡充する方向性が示されました。この拡充は地方団体からも要望が強く、法改正を含めた対応が求められています。
世代内、世代間の公平の確保:金融所得の勘案と高齢者窓口負担
高齢者の窓口負担割合について、議論の整理では高齢者の状態像の変化が確認されています。高齢者の受診率や受診日数は改善傾向にあり、医療費水準は5歳程度若返っています。また、高齢者の就業率・平均所得は上昇傾向にあり、所得は増加・多様化しています。
窓口負担割合の見直しについては、3割負担や2割負担の対象者拡大、負担割合の区切りとなる年齢の引き上げ、負担割合のきめ細かい設定といった複数の選択肢が議論されました。経済対策では「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」について、令和7年度中に具体的な骨子の合意、令和8年度中に具体的な制度設計を行い順次実施することとされています。
金融所得の勘案については、確定申告を行わない場合に保険料や窓口負担等の算定で勘案されない不公平を是正するため、法定調書を活用する方法が提案されました。まずは後期高齢者医療制度から金融所得を勘案する方針です。具体的な法制上の措置は令和7年度中に講じるとされています。
必要な医療の提供と効率的な給付の推進:薬剤自己負担と入院時費用
OTC類似薬の保険給付の見直しでは、医療機関における必要な受診を確保しつつ、薬剤を保険適用としたまま薬剤費の一部を保険給付の対象外とする新たな仕組みの創設が提案されました。この仕組みでは、OTC医薬品と成分が同一で代替性が高い医療用医薬品について、保険外併用療養費制度の中で患者に「特別の料金」を求めます。
特別の料金を徴収しない配慮対象として、こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方、入院患者や処置等の一環でOTC類似薬の処方が必要な方、医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方が挙げられています。
長期収載品の選定療養については、令和6年度の制度導入後、後発医薬品の使用割合が約4ポイント上昇し90%以上となりました。この効果を踏まえ、患者負担の水準を価格差の1/2以上へと引き上げる方向で検討が進められています。後発医薬品の安定供給確保に取り組みながら、供給状況や患者負担の変化に配慮することが求められています。
入院時の食費については、食材料費の高騰を踏まえ、令和6年6月に1食当たり30円、令和7年4月にさらに1食当たり20円の引上げが行われました。令和7年4月以降も食材料費等の上昇が続いていることから、標準負担額のさらなる引上げの方向で見直しが検討されています。入院時の光熱水費についても、令和6年度介護報酬改定において多床室の居住費の基準費用額・負担限度額が60円引き上げられたことを踏まえ、同様に引上げの方向で見直しが検討されています。いずれも所得区分等に応じた一定の配慮が行われる方針です。
効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療については、「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン処方」の適正化を新たに医療費適正化計画に位置付けることとされました。今後も厚生労働科学研究や医療技術評価分科会での学会等からの提案募集などから対象を探索し、医療費適正化計画への追加や診療報酬上の取り扱いなどについて引き続き検討が行われます。
国民健康保険制度改革の推進
国民健康保険制度については、被保険者の年齢構成が高く医療費水準が高いこと、被保険者の所得水準が低いこと、小規模保険者が多く財政運営が不安定になりやすいことなどの課題があります。これらの課題に対応するため、複数の見直しが提案されています。
具体的な見直し内容として、子どもに係る均等割保険料の軽減措置の対象を高校生年代まで拡充すること、令和8年度に向けて保険料水準統一加速化プランの改定を検討すること、財政安定化基金の使途を拡充し積戻し期間を延長すること、都道府県国保連合会の役割を強化し市町村の事務負担を軽減すること、資格喪失日を1日前倒しすることなどが挙げられています。
国保組合については、定率補助の補助率の下限の見直しが提案されました。補助率の下限13%を原則としつつ、財政力や被保険者の健康の保持増進等の取組の実施状況が一定の水準に該当する組合には、例外的に新たな補助率(12%・10%)を適用する方針です。この見直しに対しては、医師国保をはじめとする関係者から慎重な対応を求める意見も出されています。
まとめ
今回の議論の整理は、2040年に向けた全世代型社会保障の構築という中長期的な視点から、医療保険制度改革の方向性を示したものです。現役世代の負担軽減と高齢者の応能負担の実現、次世代支援の強化、効率的な給付の推進という複数の改革を総合的なパッケージとして進めることが求められています。厚生労働省には、十分な準備期間の確保と丁寧な周知を行いながら、確実に改革を実行することが期待されています。










