令和7年12月25日に開催された第209回社会保障審議会医療保険部会において、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しが議論されました。この見直しは、OTC医薬品で対応している患者との公平性確保と、現役世代の保険料負担軽減を目的としています。本記事では、令和8年度中に実施予定の新制度の内容を解説します。
新制度では、OTC医薬品と成分・投与経路が同一の医療用医薬品77成分(約1,100品目)に対し、薬剤費の4分の1を「特別の料金」として保険外負担とします。対象となる症状は、風邪・鼻炎・胃痛・便秘など日常的な軽症状が中心です。こどもやがん患者、難病患者、低所得者などには配慮措置が設けられ、特別の料金は徴収されません。
新制度創設の背景と目的
OTC類似薬の保険給付見直しは、2つの課題を解決するために創設されます。
第一の課題は、OTC医薬品利用者と医療用医薬品利用者の間に生じている不公平です。現役世代を中心に、平日の診療時間中に受診することが困難な患者は、OTC医薬品を自費で購入して対応しています。一方、同じ症状であっても医療機関を受診すれば、他の被保険者の保険料負担で医療用医薬品の給付を受けられます。この負担の不均衡が問題視されてきました。
第二の課題は、現役世代の保険料負担の増大です。高齢化の進展に伴い、医療費は増加を続けています。OTC医薬品で対応可能な軽症状にまで保険給付を行うことは、現役世代の保険料負担をさらに重くする要因となっています。
これらの課題を踏まえ、政府は保険外併用療養費制度の中に「特別の料金」を求める新たな仕組みを創設することを決定しました。この仕組みは長期収載品(後発医薬品のある先発医薬品)で既に導入されている方式を参考にしています。
対象となる医薬品と特別の料金
特別の料金の対象となる医薬品は、77成分・約1,100品目です。
対象医薬品の選定基準は、OTC医薬品との代替性の高さに基づいています。具体的には、OTC医薬品と成分が同一であること、投与経路が同一であること、一日最大用量が異ならないことの3条件を満たす医療用医薬品が機械的に選定されました。
主な対応症状は以下のとおりです。
鼻炎(内服・点鼻)
胃痛・胸やけ
便秘
解熱・痛み止め
風邪症状全般
腰痛・肩こり(外用)
みずむし
殺菌・消毒
口内炎
おでき・ふきでもの
皮膚のかゆみ・乾燥肌
特別の料金は、対象薬剤の薬剤費の4分の1と設定されました。患者は従来の定率負担(1〜3割)に加えて、薬剤費の4分の1を保険外負担として支払うことになります。
配慮措置の対象者
新制度では、特定の患者に対して特別の料金を徴収しない配慮措置が設けられます。
配慮措置の対象となるのは、以下の方々です。
こども
がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方
低所得者
入院患者
医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方
これらの配慮措置は、患者団体からのヒアリング結果を踏まえて設計されました。がん患者の疼痛治療や難病患者の長期治療には、OTC類似薬が不可欠なケースがあります。また、アトピー性皮膚炎などの慢性疾患では、症状コントロールのために継続的な投薬が必要です。こうした医療上の必要性がある場合には、追加負担を求めないこととしています。
今後のスケジュールと将来展望
新制度は令和8年度中に実施される予定であり、法改正を伴います。
実施に向けた技術的な検討として、対象医薬品の詳細な範囲や、長期使用等の医療上の必要性を判断する考え方などが専門家の意見を聞きながら進められます。
将来的には、制度の対象範囲を拡大する方針が示されています。令和9年度以降、OTC医薬品の対応する症状の適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品の相当部分にまで対象を広げることが目指されています。また、特別の料金をいただく薬剤費の割合(現行4分の1)の引き上げも検討される予定です。
制度拡大に向けた環境整備として、政府は3つの取組を推進します。第一に、セルフメディケーションに関する国民の理解を深める取組です。第二に、OTC医薬品に関する医師・薬剤師の理解を深める取組です。第三に、医療用医薬品のスイッチOTC化に係る政府目標の達成に向けた取組です。
まとめ
OTC類似薬の保険給付見直しは、令和8年度中に実施予定の医療保険制度改革です。この改革は、OTC医薬品利用者との公平性確保と現役世代の保険料負担軽減を目的としています。対象は77成分・約1,100品目で、薬剤費の4分の1が特別の料金として保険外負担となります。こどもや慢性疾患患者、低所得者などには配慮措置が設けられており、医療上必要な場合には追加負担は求められません。










