令和7年9月25日に開催された第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、入院中のリハビリテーションに関する検討結果のとりまとめ案が示されました。この分科会は、中央社会保険医療協議会の診療報酬調査専門組織の一つで、診療報酬制度の見直しに係る技術的課題の調査・検討を行う組織です。今回のとりまとめでは、療法士の病棟業務への関与、早期リハビリテーションの推進、書類の簡素化という重要な論点が示されました。
とりまとめでは、入院中のリハビリテーションは身体機能の回復だけでなく、退院後の生活を見据えた生活機能の回復が求められるとの基本方針が示されました。現状の課題として、療法士の専従要件が病棟業務に従事することを妨げている可能性、早期介入の遅れ(14日以内に実施した症例の38%が3日以内に介入できていない)、土日祝日のリハビリテーション実施率の低さ、計画書の重複による事務負担の増加が指摘されています。これらの課題に対し、分科会委員からは、専従要件の明確化、早期介入の要件化、算定要件への土日実施の組み込み、書類の統合による簡素化などの意見が出されました。
療法士の専従要件と病棟業務の明確化
疾患別リハビリテーション料では、当該リハビリテーションを実施するために必要な療法士の数や専従要件が規定されています。この専従要件により、療法士は原則としてリハビリテーション室での訓練に専念することが求められてきました。しかし、現行の規定では、当該療法士が病棟業務に従事することに関する明確な規定がありません。
入院中のリハビリテーションには、身体機能の回復や廃用症候群の予防だけでなく、退院後の生活を見据えた生活機能の回復のための介入が求められます。実際、急性期病棟においてリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算を算定している病棟では、算定していない病棟と比べて、療法士が生活機能の回復や栄養・口腔状態に係る項目へ関与している割合が高いことが調査で明らかになりました。具体的には、食事介助、更衣、排泄介助、体位交換などの生活機能の回復に向けた支援に、療法士が積極的に関与しています。
この状況を踏まえ、分科会では「リハビリテーション室で実施されるリハビリテーションそのものの質が落ちないように留意しつつ、病棟でのリハビリテーションができることを明確化する必要がある」との意見が出されました。専従要件の見直しにより、療法士が病棟業務に従事できることを明確にすることで、入院患者の生活機能の回復をより効果的に支援できる体制が整備されると期待されます。
早期リハビリテーション介入の推進
早期のリハビリテーション介入は、患者の機能回復と早期退院において極めて重要な要素です。現在、早期のリハビリテーションを評価する加算として、急性期リハビリテーション加算、初期加算、早期リハビリテーション加算が設けられています。しかし、いずれの加算も発症日からリハビリテーション開始までの日数についての要件はなく、どのタイミングからでも算定可能という状況です。
調査結果によると、14日以内に疾患別リハビリテーションを実施した症例のうち、3日以内に介入できていない割合は38%にのぼります。この遅れの背景には、土日祝日のリハビリテーション実施体制の問題があります。急性期一般入院料1〜6における土日祝日のリハビリテーション実施割合は、平日と比べて低い状況です。また、金曜日に入院した患者は、入院後3日以内にリハビリテーションを開始した患者割合が低いという結果も出ています。
これらのデータを受けて、分科会では複数の重要な意見が出されました。「急性期のリハビリテーションでは、入院直後からなるべく早くリハビリテーションを開始することが重要であるため、急性期リハビリテーション加算等の評価の在り方について検討していく必要がある」との指摘がありました。さらに踏み込んで、「より早期の在宅復帰につなげるためにも、入院直後からリハビリテーションを開始して、土日も含めて中断しないようにすることを急性期リハビリテーション加算等の算定要件として検討しても良いのではないか。その際には必要なマンパワーについても合わせて検討すべき」との意見も出されました。
施設外リハビリテーションの単位数上限の見直し
社会復帰を目指す患者にとって、屋外などの実際の生活環境でのリハビリテーションは極めて重要です。調査結果では、急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟において、屋外等での疾患別リハビリテーションを実施した患者のうち、3単位を超えて実施した症例が45%にのぼることが明らかになりました。
現行制度では、施設外でのリハビリテーションは1日3単位までという上限が設けられています。この上限により、社会復帰に向けた十分な訓練機会が制限されている可能性があります。実際、分科会では「社会復帰のための施設外でのリハビリテーションは重要であり、1日3単位までという単位数の上限は見直すべきではないか」との意見が出されました。
施設外リハビリテーションでは、公共交通機関の利用、買い物、階段昇降など、実際の生活場面での動作訓練が可能になります。このような実践的な訓練は、病院内での訓練だけでは得られない効果があり、患者の退院後の生活の質の向上に直結します。単位数上限の見直しにより、より充実した社会復帰支援が可能になると考えられます。
退院時リハビリテーション指導料の要件見直し
退院時リハビリテーション指導料は、患者の退院時に、退院後の生活におけるリハビリテーションの継続や注意点を指導することを評価する診療報酬です。しかし、調査結果では、退院時リハビリテーション指導料を算定した患者のうち、疾患別リハビリテーション料を算定していない患者が33%いることが明らかになりました。特に在院日数が短い患者ほど、リハビリテーションを実施せずに退院時指導料のみを算定している傾向が見られました。
この状況に対し、分科会では2つの異なる意見が出されました。一つは「退院時リハビリテーション指導料については、入院中にリハビリテーションを実施した患者の退院時に指導を行うという趣旨を徹底することと、早期のリハビリテーション開始に繋げるためにも入院中のリハビリテーションを要件化すべきではないか」という意見です。この意見は、退院時指導料の本来の趣旨である「入院中のリハビリテーションの継続」という観点を重視しています。
一方で、「退院時リハビリテーション指導料は、高齢者の入院において、退院後に向けたリハビリテーションを周知する良い機会であると考えるため、入院中にリハビリテーションを実施していない場合に算定出来ないようにするかは慎重な議論が必要」との意見もありました。この意見は、短期入院の患者であっても、退院後のリハビリテーションの重要性を伝える機会として退院時指導を活用する価値を認めるものです。
リハビリテーション関係書類の簡素化
リハビリテーションに関する書類は、制度の発展とともに種類が増加し、現場の事務負担が大きくなっています。疾患別リハビリテーション料の算定にあたっては、リハビリテーション実施計画書又はリハビリテーション総合実施計画書の作成が必要です。これらの計画書は、医師が患者又はその家族等に対して内容を説明の上、交付する必要があります。
現状では、複数の計画書や評価料が存在し、それぞれに作成頻度や算定頻度が異なっています。多職種でのリハビリテーション総合実施計画書の作成、評価による機能回復の促進を趣旨とするリハビリテーション総合計画評価料は、患者1人につき1月に1回算定できます。一方、定期的な機能検査等や効果判定による、リハビリテーションの質の担保を趣旨とするリハビリテーション実施計画書は、3か月に1回以上の頻度で交付することとなっており、計画書の作成と評価料の算定頻度の設定にずれが生じています。
さらに、目標設定等支援・管理料とリハビリテーション総合実施計画書では重複する項目が多いことも指摘されています。目標設定等支援・管理料は、介護保険によるリハビリテーションへの移行が目的でしたが、平成31年3月31日をもって入院中以外の要介護被保険者への算定上限日数を超えた疾患別リハビリテーション料は廃止となりました。それにもかかわらず、書類の重複は解消されていません。
これらの状況を踏まえ、分科会では「リハビリテーション関係書類は数が多く非常に煩雑であり、重複した書類が多いため、必要な記載を残しつつ簡素化する方法について、一部の書類の統合を含め技術的に検討すべき」との意見が出されました。書類の簡素化により、医療従事者の事務負担が軽減され、その時間を患者への直接的なケアに充てることができるようになると期待されます。
まとめ
入院・外来医療等の調査・評価分科会におけるリハビリテーションの検討結果は、今後の診療報酬制度の見直しに向けた重要な論点を示しています。療法士の専従要件の明確化による病棟業務への関与促進、早期リハビリテーション介入の要件化、施設外リハビリテーションの単位数上限の見直し、退院時リハビリテーション指導料の要件整理、リハビリテーション関係書類の簡素化という5つの主要な論点が浮き彫りになりました。これらの論点は、今後の診療報酬制度の見直しにおいて、入院患者の生活機能の回復を効果的に支援し、早期の在宅復帰を実現するための重要な検討事項となります。分科会での検討結果は、中央社会保険医療協議会総会に報告され、診療報酬改定の議論に活用されることになります。