鹿児島大学の坂井美日准教授が、ノーコードAI開発プラットフォーム「miibo」を活用して教育現場の革新に挑戦しています。大学1年生の半数以上がAIを一度も使用していない現状を打破するため、論理力向上クイズボットとレポート添削支援システムを開発しました。さらに、30年以内に消滅の危機にある鹿児島方言を守るため、方言チャットボット「カルカンちゃん」の開発にも着手しています。
本事例では、プログラミング知識がない文系教員でもmiiboを活用することで、教育課題の解決と文化継承の両立を実現できることを実証しています。3クラス90人分のレポート添削業務の効率化に成功し、ゲーム感覚で楽しく学べる環境を構築しました。また、医療・介護現場でのコミュニケーション課題解決にも貢献する、実用的なAIアプリケーションの開発を実現しています。
AI教育の現状を変える挑戦
「大学1年生の半数以上が一度もAIを使ったことがない」という驚くべき現実に直面した坂井准教授は、教育現場のAI活用に革新をもたらしました。多くの教員が「使わずに警戒している」状況を打開するため、miiboのノーコード環境を活用して実践的な解決策を開発しています。コードは大学1年生と同じレベルの知識しかない完全な文系人間である坂井准教授が、専門知識なしでAIアプリケーションの開発に成功したことは、教育現場におけるAI活用の新たな可能性を示しています。
学生が苦手とする「問いを立てる」という課題に対しては、対話型の論理力向上クイズボットを開発しました。このボットは、AIとの会話を通じて楽しみながら論理的思考を養うことができる仕組みです。学生たちは「AIが褒めてくれる」という特徴に好意的な反応を示し、積極的に学習に取り組むようになりました。
1クラス30人、3クラス計100人近いレポートの添削という業務負荷に対しても、AI活用による解決策を実装しています。坂井准教授の知識をAIに組み込んだ事前チェックシステムにより、初期段階のレポートチェックの時間を大幅に削減しました。学生はまずAIのチェックを通してから提出する仕組みにより、教員の負荷軽減と指導の質向上を両立させています。
方言継承への革新的アプローチ
30年以内に鹿児島県の方言が消滅する危機に直面する中、坂井准教授は方言継承の新しい道筋を見出しました。「おじいちゃんの言葉が理解できない」という個人的な経験から始まった方言研究は、miiboを活用した実用的なソリューション開発へと発展しています。標準語での入力に対して鹿児島方言で応答するチャットボット「カルカンちゃん」は、70代の方言話者の言葉遣いを自然に再現することに成功しました。
医療・介護現場では、方言しか話せない高齢患者と標準語しか理解できない若い医療スタッフとの間で深刻なコミュニケーションギャップが生じています。この課題に対し、「カルカンちゃん」は実用的な解決策として期待されています。高齢になるほど起こる「方言返り」現象により、母語である方言でしか自己表現できなくなる患者との意思疎通を支援する可能性を秘めています。
実証実験では、方言を話すAIに対して予想以上の好反応が得られました。高齢者のQOL(生活の質)向上への貢献が期待される一方、方言学習者からも「AIなら気軽に練習できる」という声が寄せられています。miiboのRAG機能を活用した方言知識ベースの効率的な実装により、奄美方言特有の7母音体系への対応など、技術的な課題も克服しています。
教育現場に適したAI活用の工夫
教育効果を高めるため、坂井准教授は独自の工夫を施しています。学生がAIとの対話を適切に行ったことを確認するため、特定のキーワード(「花子」や「もちまる」など)をAIが会話の中で発するよう設定しました。このキーワードを課題の一部として記入させることで、適切なAI活用を確認する仕組みを実現しています。
レポート添削支援ボットにおいては、「レポートの丸写しはダメですが、添削ならOK」という使い方の指針をAI自体に組み込みました。学生が「答えを教えて」と依頼しても、AIが明確に禁止事項として伝える設定により、適切な活用を促進しています。このような細かな配慮により、教育的価値を損なうことなくAIを活用できる環境を構築しています。
miiboのシナリオ機能を活用した会話フローの細かな制御により、教育目的に特化したAIの振る舞いを実現しました。API連携機能を使用した音声合成技術の実装も進めており、約80%の認識精度を達成しています。これらの技術的な工夫により、より自然で効果的な学習体験を提供することが可能になっています。
今後の展望と期待される成果
「文系の学生や教員は実はアイデアをたくさん持っています。ただ、技術がないために実現できないでいました」という坂井准教授の言葉は、miiboが開く新たな可能性を象徴しています。学校の先生の業務負荷軽減とデジタル化の両立を目指し、実践例の共有や活用方法の普及を進めています。「使わせない」から「正しく使わせる」への転換により、教育現場の働き方改革が期待されています。
方言継承においては、AIを人による継承を補完する存在として位置づけています。核家族化が進む中、普段はAIで方言を練習し、週末に実際の方言話者と交流するという新しい継承モデルを提案しています。このアプローチにより、失われつつある地域文化の保護と次世代への継承が可能になると期待されています。
まとめ
鹿児島大学の事例は、miiboを活用することで非エンジニアでも実用的なAIアプリケーションを開発できることを実証しています。教育現場の課題解決と文化継承という異なる領域において、それぞれ具体的な成果を上げている点が特筆されます。今後、より多くの教育機関や地域でmiiboを活用した革新的な取り組みが広がることで、教育DXの加速と地域文化の保護が同時に実現されることが期待されています。