臍帯血移植は、非血縁者間の造血幹細胞移植のうち過半を占める主要な治療法です。この臍帯血移植では、移植に用いる臍帯血のHLA検査等の安全性確認試験(組織適合性試験)が全例で実施されてきました。しかし、この組織適合性試験の費用は、検査方法を問わず手術料に包括評価されてきました。そのため、治療成績の向上が確認されている次世代シーケンサー(NGS)法を用いても、その費用は診療報酬上で別途評価されませんでした。本稿では、令和8年度診療報酬改定の個別改定項目「Ⅲ-5-5 難病患者等に対する適切な医療の評価-③ 臍帯血移植の見直し」について、改定内容と背景を解説します。
今回の見直しは、質の高い造血幹細胞移植を推進する観点から、NGS-SBT法による組織適合性試験を新たな加算で評価するものです。第一に、改定内容は、K922造血幹細胞移植の「3 臍帯血移植」に「NGS-SBT法実施加算」として2,000点を上乗せする点にあります。第二に、算定対象は、臍帯血移植に用いる臍帯血の組織適合性試験にNGS-SBT法を用いた場合に限られます。第三に、加算新設の根拠は、NGS法が従来法より多くのHLAアレルを判定し、生着率の向上と白血病再発率の低下につながるというエビデンスです。
1. 改定内容:2,000点の加算を新設
改定内容は、造血幹細胞移植の算定要件(注6)に、NGS-SBT法を用いた場合の加算を追加するものです。この加算の新設により、包括評価の原則を維持したまま、NGS-SBT法を用いた場合だけが例外的に上乗せ評価されます。
新設される加算は、「NGS-SBT法実施加算」として2,000点を所定点数に加算します。この2,000点は、臍帯血移植の所定点数に上乗せされます。現行の所定点数は66,450点であり、加算分は20,000円に相当します。なお、令和8年度の所定点数そのものは、今後の告示で確認する必要があります。
一方、包括評価の原則そのものは変わりません。改定後の注6も、臍帯血移植に用いられた臍帯血に係る組織適合性試験の費用は所定点数に含まれると規定します。つまり、従来法(PCR-SSO法)で組織適合性試験を実施した場合、これまでどおり手術料に包括され、別途の算定はできません。
なお、算定上の細かな取扱いは、今後発出される留意事項通知等で示されます。特に、NGS-SBT法を用いたことの記録方法や、加算の算定単位に関する取扱いは、告示・通知の内容を確認する必要があります。また、算定要件が用いる「NGS-SBT法」という名称は、中医協資料が「NGS法(NGS-HLAタイピング)」と説明した手法に対応するものと考えられます。この名称の対応関係と対象となる検査の範囲も、留意事項通知で確認してください。
2. 改定の背景:NGS法が治療成績を向上させるエビデンス
改定の背景には、NGS法が従来法より多くのHLAアレルを判定できるという技術的な進歩があります。この判定範囲の差が、移植の治療成績の差につながることが、本邦からの報告で示されました。中央社会保険医療協議会は、このエビデンスを踏まえ、臍帯血移植の評価のあり方を論点として議論しました。
判定できるHLAアレルの数は、従来法とNGS法で大きく異なります。従来法は、蛍光ビーズを用いてHLA-A、B、C、DRB1の4座を判定します。NGS法は、次世代シーケンサーを用いてHLA-A、B、C、DRB1、DRB3/4/5、DQA1、DQB1、DPA1、DPB1の11座を判定します。この11座の判定により、従来法では同定できないアレルの同定が可能になります。
判定範囲の拡大は、不適合な臍帯血ユニットの事前回避を可能にします。レシピエントのHLA-DP/DQに対する抗体を持つ臍帯血を用いた場合、好中球の生着率は55.6%にとどまります。抗体を持たない臍帯血を用いた場合、好中球の生着率は91.8%に達します。また、HLA-DPB1不適合移植は、適合移植より白血病再発率が有意に高いことも報告されています。いずれの型も従来法では判定できないため、NGS法によってはじめて回避が可能になります。
もっとも、NGS法には医療機関側の負担が伴います。結果の返却までに要する時間は、従来法が数日以内であるのに対し、NGS法は1〜2週間程度です。費用面の負担も、従来法より大きくなります。今回の加算は、こうした負担を診療報酬上で評価し、治療成績の高い検査方法の普及を後押しするものです。
3. 医療機関への影響:算定漏れの防止が実務の要点
医療機関への影響は、臍帯血移植を実施する施設で、加算の算定漏れを防ぐ体制が必要になる点にあります。この体制づくりでは、検査方法の確認と院内での情報共有が要点となります。
第一の要点は、用いた検査方法の確認です。臍帯血の安全性確認試験は、臍帯血の管理に係る一連の行為として実施され、その費用は臍帯血移植の所定点数に含まれると整理されています。そのため、移植を実施する保険医療機関は、当該臍帯血のHLAタイピングにNGS-SBT法が用いられたかを、検査結果等で確認する必要があります。
第二の要点は、診療科と医事課の情報共有です。検査方法の情報は、移植を担当する診療科に届きます。一方、加算を算定するのは医事課です。両者の間で情報が共有されなければ、NGS-SBT法を用いても加算を算定できません。加算を算定できるか否かで2,000点(20,000円)の差が生じるため、院内のレセプト点検項目に加えることが有効です。
第三の要点は、移植計画への織り込みです。NGS法は結果返却までに1〜2週間程度を要します。この所要期間の差は、移植の準備スケジュールに影響します。緊急性の高い症例では、検査方法の選択と移植時期の調整を、あらかじめ検討しておく必要があります。
まとめ:質の高い造血幹細胞移植への評価
令和8年度診療報酬改定は、臍帯血移植の組織適合性試験にNGS-SBT法を用いた場合を、新たな加算で評価します。この加算は、「NGS-SBT法実施加算」として2,000点を所定点数に上乗せするものです。加算の根拠は、NGS法が11座のHLAアレルを判定し、生着率の向上と白血病再発率の低下につながるエビデンスにあります。臍帯血移植を実施する医療機関は、用いられた検査方法を確認し、算定漏れを防ぐ体制を整えてください。










