歯科用貴金属材料の価格は、近年大きく変動しています。この価格変動を受けにくいCAD/CAM冠やCAD/CAMインレーは、大臼歯の咬合支持や金属アレルギーの有無といった細かな要件に縛られ、使える場面が限られてきました。本稿では、令和8年度診療報酬改定の個別改定項目「⑩ 歯科治療のデジタル化等の推進」を、日常業務で判断に使える形に整理します。
今回の見直しは、大きく3つです。第一に、CAD/CAM冠とCAD/CAMインレーの算定要件が簡素化され、クラウン・ブリッジ維持管理料の対象範囲も広がります。第二に、局部義歯のクラスプやバーは、原則として歯科用貴金属材料以外を使う運用に変わります。第三に、光学印象の対象がCAD/CAMインレーからCAD/CAM冠へ拡充されます。
1. CAD/CAM冠・インレーは要件が簡素化される
CAD/CAM冠とCAD/CAMインレーの見直しは、「大臼歯の条件撤廃」「乳歯への適応追加」「インレーの評価引き上げ」「材料選択時の参照要件」「維持管理料の対象拡大」の5点に整理できます。前半の3点は算定できる場面を広げ、後半の2点は運用の前提を定める改定です。
大臼歯の要件は、咬合支持の条件が撤廃されます。現行では、第一大臼歯または第二大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)を使う場合に限り、対側や同側の大臼歯による咬合支持、対合歯の欠損状況などを確認する必要がありました(材料(Ⅴ)には、現行でもこの条件はありません)。改定案では、この条件が削除され、「大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)又は(Ⅴ)を使用する場合」に一本化されます。金属アレルギー患者に材料(Ⅲ)を使う際に医科との診療情報提供を求めていた現行の規定も削除されますが、これは対象が狭まるためではありません。金属アレルギー患者も、大臼歯を対象とする上記の規定で算定できるため、医科との連携要件が不要になったという整理です。
乳歯への適応は、新たに追加されます。改定案では、「後継永久歯が先天的に欠如している乳歯に使用する場合」がCAD/CAM冠およびCAD/CAMインレーの算定対象に加わります。この場合のCAD/CAM冠用材料は、永久歯に準じて算定します。
CAD/CAMインレーは、評価も引き上げられます。点数は1歯につき750点から770点へ見直されます。あわせて大臼歯の要件も、咬合支持や金属アレルギーの条件が外れ、「大臼歯に使用する場合」へ簡素化されます。
適応拡大の一方で、材料選択の判断根拠を示す要件が新設されます。大臼歯および乳歯に使用する場合は、その他の歯冠補綴物・歯冠修復物との選択について、日本歯科医学会が令和8年3月に示す「CAD/CAM冠に関する基本的な考え方」および「CAD/CAMインレーに関する基本的な考え方」を参考とすることが求められます。中医協の議論では、CAD/CAM冠は金属と比べて耐久性が低く、破損の増加を懸念する意見も出ていました。適応が広がるほど、症例ごとの選択理由を説明できる体制が重要になります。
クラウン・ブリッジ維持管理料は、対象範囲が広がります。現行では、金属アレルギー患者に対する非金属歯冠修復とCAD/CAM冠が対象外とされていましたが、改定案ではこの除外が削除されます。除外が残るのは、金属アレルギー患者に対する高強度硬質レジンブリッジです。また、支台歯とポンティックの合計が5歯以下の区分には、チタンブリッジが新たに含まれます。
2. クラスプ・バーは非貴金属材料が原則になる
局部義歯に附属するクラスプやバーは、製作の実態に合わせ、原則として歯科用貴金属材料以外を使う運用へ見直されます。対象は、鋳造鉤・線鉤・コンビネーション鉤・大連結子の4つです。共通するのは、「基本的に使う材料を定めたうえで、例外を使うなら理由を診療録に記載する」という枠組みです。
鋳造鉤は、鋳造用コバルトクロム合金が基本になります。14カラット金合金や金銀パラジウム合金を使う特段の理由がある場合は、その理由を診療録に記載します。あわせて、「14カラット金合金による鋳造鉤は2歯欠損までの有床義歯に限る」という現行の制限は削除されます。
線鉤は、不銹鋼および特殊鋼が基本になります。14カラット金合金を使う特段の理由がある場合は、その理由を診療録に記載します。線鉤についても、2歯欠損までとする現行の制限は削除されます。
コンビネーション鉤は、鋳造鉤やレストに用いる材料が鋳造用コバルトクロム合金を基本とします。金銀パラジウム合金を使う特段の理由がある場合は、その理由を診療録に記載します。
大連結子は、名称と定義が明確化されます。現行の「バー」は「大連結子」へ改められ、「離れた位置にある義歯床同士、または義歯床と間接支台装置を連結する鋳造バーまたは屈曲バー」と定義されます。「1 鋳造バー」は鋳造用コバルトクロム合金を基本とし、金銀パラジウム合金を使う特段の理由がある場合は、その理由を診療録に記載します。
3. 光学印象はCAD/CAM冠にも算定できる
光学印象は、算定対象がCAD/CAMインレーからCAD/CAM冠へ拡充されます。クラウン形状の印象精度がインレー形状と同等以上であるという報告が、拡充の根拠です(この報告は中医協資料「歯科医療(その2)」で示されたものであり、個別改定項目には記載されていません)。
算定できる医療機関は、これまでと同じく届出を行った保険医療機関に限られます。施設基準に適合するものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関が、デジタル印象採得装置を用いて直接法により印象採得と咬合採得を行った場合に算定します。算定は製作物ごとに行い、印象採得・咬合印象・咬合採得は別に算定できません。
光学印象の拡充は、診療時間の短縮にも直結します。中医協に示された研究では、光学印象は従来の印象法に比べ、当該行為に係る時間が6分程度短くなったと報告されています。CAD/CAM冠の適応拡大と組み合わせれば、口腔内スキャナーを導入した医療機関ほど効果を実感しやすい改定といえます。
まとめ:3つの見直しを自院の運用に落とし込む
令和8年度改定の「歯科治療のデジタル化等の推進」は、貴金属価格に左右されない補綴治療を広げる改定です。CAD/CAM冠とCAD/CAMインレーは大臼歯の咬合支持要件が撤廃され、乳歯にも適応が広がり、クラウン・ブリッジ維持管理料の対象も拡大します。クラスプやバーは非貴金属材料が原則となり、例外を選ぶ場合は診療録への理由記載が必要です。光学印象はCAD/CAM冠にも算定できるようになります。まずは、日本歯科医学会の「基本的な考え方」を確認し、材料選択の判断基準と診療録の記載ルールを院内で共有しておきましょう。










