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病棟多職種連携の現状と課題|2026年診療報酬改定への示唆
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病棟多職種連携の現状と課題|2026年診療報酬改定への示唆

届出率9.0%にとどまる体制加算の効果検証と、療法士・管理栄養士・薬剤師の病棟配置の実態を詳細に解説

令和7年度第13回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、病棟における多職種でのケアに関する検討結果がとりまとめられました。高齢化の進展により入院患者のADL維持・向上が重要課題となる中、リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の届出率が9.0%にとどまるなど、多職種連携の推進に複数の障壁が存在することが明らかになりました。今回の分科会では、療法士、管理栄養士、薬剤師、看護職員等の病棟配置の実態と効果を詳細に分析し、次期診療報酬改定に向けた重要な示唆を提示しています。

分科会の検討結果は、病棟における多職種連携の重要性と具体的な課題を明確にしました。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は、ADL改善効果が高く休日リハ提供量も平日の86.5%を実現していますが、体制加算算定患者は要介護度が高い患者や高齢の患者が多く、ADL悪化率は算定なしと明らかな差はありませんでした。常勤専従の療法士2名以上配置などの人員要件が届出の障壁となっています。管理栄養士の病棟配置は進んでおらず、就業時間の2割未満しか病棟業務に従事していない病棟が約3割を占めています。病棟薬剤業務実施加算は年々増加しているものの、小規模病院では診療報酬によって薬剤師の人件費が確保できない現状があります。看護業務タイムスタディ調査により、多職種配置による効果的なタスクシェアの可能性が示されました。

リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の効果と患者背景の検証

リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は、ADL改善において効果を示していますが、算定患者の背景を考慮した評価が重要です。退院時にADL悪化した患者の割合は、算定ありで5.0%、算定なしで4.6%と明らかな違いはみられませんでした。一方、ADLが大きく改善した患者の割合は、算定ありで25.7%と、算定なしの14.1%と比べて顕著に高い結果でした。体制加算算定患者は、算定なしと比べて要介護度が高い患者や高齢の患者が多く、これらはもともと入院中にADLが低下しやすい患者の特徴と一致していました。

体制加算の届出施設においては、ADLが低下する患者の割合は3%未満という施設基準を満たしていました。算定していない施設においては、ADL低下割合4%以上5%未満に緩やかなピークが見られ、施設基準を満たせない医療機関が存在することが示されました。入院3日目までにリハビリテーションが開始された割合は、算定ありで約9割に達しています。体制加算算定ありの患者は、算定なしの患者と比べてリハビリテーションの実施割合が高く、早期介入が実現されていました。

患者1人当たりの1日平均リハビリテーション単位数は、算定なしの場合が平日2.3単位であるのに対し、算定ありの場合は3.1単位と多く、休日も平日と変わらない水準を維持しています。施設全体におけるリハビリテーション提供体制は、算定ありの場合、土日祝日全体での提供単位数が平日の86.5%に達し、土曜日は94.1%、日曜日は87.8%、祝日は65.1%となっています。一方、算定なし施設では休日全体で平日の34.1%にとどまり、土曜日50.1%、日曜日22.1%、祝日26.8%という結果でした。この差は、体制加算の施設基準が「土日祝日における1日あたりの疾患別リハビリテーション料の提供単位数が平日の提供単位数の8割以上」を求めていることに起因しています。

体制加算算定病棟では、多職種が病棟業務に積極的に関与しています。栄養状態のスクリーニング・定期的な評価において、管理栄養士が主として関わる割合は算定ありの病棟で59.70%、算定なしの病棟で44.67%でした。ADLのスクリーニング・定期的な評価において、理学療法士が主として関わる割合は算定ありの病棟で34.72%、算定なしの病棟で19.95%でした。口腔の状態のスクリーニング・定期的な評価において、言語聴覚士が主として関わる割合は算定ありの病棟で38.57%、算定なしの病棟で24.54%でした。

体制加算算定ありの患者のほうが、低栄養の入力割合と入院栄養食事指導料の算定患者割合が高い結果でした。算定ありの患者のほうが、入院時の低栄養の割合が高く、栄養管理を必要とする患者が多く含まれていました。体制加算の算定有無による退院後の歯科受診状況に大きな差はなく、歯科受診率は低い状況でした。病棟専従の療法士は、疾患別リハビリテーション以外の業務も担当しており、場面に応じたワンポイントのADL動作の指導や、看護職員の業務としても実施される体重測定や環境調整といった業務を、療法士としての観点から行っている事例があります。

体制加算の普及を阻む施設基準の課題

体制加算の届出率は9.0%にとどまっています。届出していない理由として最も多かったのは、「常勤専従の理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士を2名以上配置(うち1名は専任でも可)することが困難なため」で56.3%を占めました。次いで「土日祝日における1日あたりの疾患別リハビリテーション料の提供単位数が平日の提供単位数の8割以上を満たさないため」が53.9%でした。「当該保険医療機関において、リハビリテーション医療における経験を3年以上有し、適切な研修を受けた常勤医師を確保することが困難なため」も19.2%ありました。

分科会での評価・分析に関する意見では、土日祝日に提供するリハビリテーション単位数が平日の8割以上であることの要件が厳しすぎるのではないかとの指摘がありました。体制加算に取り組みたい医療機関は多いものの、人員配置等の施設基準が厳しいため、算定が伸び悩んでいるのではないかとの意見もありました。病棟配置によって、ADLの評価、維持や廃用予防といった観点から意義があるのではないかとの意見があった一方、入院中の患者のADLの維持や向上を趣旨とした体制加算や病棟の施設基準における多職種配置が進みつつあるが、生活機能を落とさないためには、より一層こうした病棟での多職種連携の推進が必要ではないかとの意見がありました。

生活機能の回復に向けた支援において、療法士が関与している割合は体制加算算定病棟で高く、食事支援で76.1%、排泄支援で41.2%、離床の促しで46.4%となっています。療法士が生活機能回復や栄養・口腔状態に係る項目へ関与している割合が高く、多職種連携による効果的なケアが実践されていました。体制加算における多職種配置により、医師や看護職員が主として関わる割合は低下し、各専門職が専門性を活かした業務に集中できる体制が構築されていました。

病棟における各専門職種の配置状況と役割

管理栄養士の病棟配置は、多くの病棟で十分に進んでいません。管理栄養士が病棟で従事する時間が就業時間のうち2割未満の病棟が約3割あり、そのような病棟では栄養情報提供書の作成やミールラウンドの実施割合が特に低い状況でした。累次の診療報酬改定において管理栄養士の病棟での業務が推進されているものの、給食管理業務の負担が大きく、調理員不足により調理等の業務が増えている場合もあり、病棟での栄養管理に専念できない状況があります。

栄養サポートチーム加算の届出施設数は増加していますが、入院料により算定状況は様々です。未届出の理由としては、研修を受けた専門職確保が困難であることが多く、チーム設置のメリットが少ないことも3割超となっていました。管理栄養士の病棟配置や多職種連携が要件となっている特定入院料や加算は、原則として栄養サポートチーム加算の出来高算定や併算定はできません。高齢者の入院が今後ますます増加する中で、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士が共同で診療を行うことの負担が大きく、栄養管理の観点からどのように推進するか検証すべきとの意見がありました。

病棟薬剤業務実施加算の届出医療機関数は、平成24年度の加算新設以来、年々増加しています。病棟薬剤業務実施加算の算定状況によらず、薬剤師による介入が医師の負担軽減に寄与しています。令和6年度に新設された薬剤業務向上加算について、算定医療機関数は今後増加の見込みですが、地域の医療機関に出向できる薬剤師の確保が課題となっています。調剤以外の病棟業務等のニーズが増え、病院薬剤師数は増加していますが、小規模病院では病棟薬剤業務実施加算により150床程度の算定で得られる診療報酬でようやく1人分の人件費となり、当該診療報酬によって薬剤師の人件費が確保できない現状があります。

地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟の施設基準においては、専従常勤の療法士数が規定されており、かつ疾患別リハビリテーションを担当する専従者と兼務はできないとされています。専従の療法士が病棟において疾患別リハビリテーションと別に行う業務については、地域包括医療病棟以外では明記されていません。療法士の疾患別リハビリテーションの提供以外の業務として、ADL等の評価、他職種へのポジショニング等に関する助言、可動域等や退院後を考慮した患者へのケア提供、疾患別リハビリテーション料等の対象とならない患者へのADLの維持・向上を目的とした指導等を行っていました。

回復期リハビリテーション病棟入院料1~4を算定する病棟のうち、生活の場における短時間のリハビリテーションを実施していた病棟は10~20%でした。地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟のうち、疾患別リハビリテーション等以外のADLの維持、向上等を目的とした指導を実施している割合は地域包括医療病棟にて最も高く、実施した患者数はいずれの病棟でも同程度でした。病棟における生活の場に即した短時間のリハビリテーションは重要ですが、トイレ場面の介助等は短時間で終わり、カルテ記載を含めるとカルテ記載のほうが長くかかることもあるため、こうしたリハビリテーションの位置づけを検討してはどうかとの意見がありました。

病棟配置の療法士の役割は明示されていませんが、病棟における生活機能回復のための介入は重要であるとの意見がありました。一方、一部は生活介助の延長ともとらえられるため、リハビリテーションとして実施する効果を科学的に検証する必要もあるのではないかという指摘がありました。回復期リハビリテーション病棟では、「生活機能の回復に向けた支援」等、ADLに係る項目について、療法士が関与している割合が比較的高い状況でした。地域包括医療病棟では、地域包括ケア病棟と比べ、生活機能の回復に向けた排泄や離床の促しの支援、体位交換等の業務について療法士が関与している割合が高い傾向でした。

多職種連携によるタスクシェアの実態と今後の展望

急性期から慢性期の43病棟の看護師を対象とした病棟の看護業務タイムスタディ調査の結果では、「診察・治療」「患者のケア」に従事している時間が長く、全体の半分程度を占めていました。「看護記録」や「情報共有」の時間がそれに続きました。病棟業務への多職種の関与として、「診察・治療」のうち栄養状態、摂食・嚥下状態、ADL、口腔の状態等に関するスクリーニング・評価や、各種計画の作成は、管理栄養士や療法士がそれぞれ主として実施している病棟が多い状況です。

薬剤の準備・投与に関する業務は薬剤師が関与している病棟が多く、検査の準備や実施は、臨床検査技師が関与している病棟が約3割ありました。病棟におけるリハビリテーションや自立援助、嚥下訓練に関する業務は療法士、食事に関する業務は管理栄養士が関与している病棟が多い結果となりました。「患者のケア」に係る業務の多くは、看護師が主として実施していましたが、食事の配膳や排泄介助、見守り・付き添い、食事介助、体位交換は、看護補助者が主として実施していると回答した病棟が1割~2割程度みられました。離床の取組や患者宅への訪問は、理学療法士や作業療法士が関与している又は主として実施している病棟が多い状況でした。

調査で分担していることが明らかになった各業務においては、専門職が関わることにより、業務の安全性向上や効率化、対応の迅速化といったメリットがあると考えられました。今後、病棟では多様な職種の関わりが増えてくることで、各専門職種がそれぞれの視点を活かした支援業務を行っていくことが必要となります。効果的なケアを行うためには、多様な職種が関わるタイミングや内容、病棟全体の患者の状況等に応じた様々な業務分担の在り方を検討し、有機的な多職種の連携が不可欠です。

日常生活動作に関してオンデマンドでリアルタイムに介入していくことが、退院後の生活に直結しています。看護師は看護の視点で日々こうした支援を実施しています。今後、病棟での多様な職種の関わりが増えることにより、各職種それぞれの視点を活かして日常生活動作への支援が行われるようになると考えられますが、各職種がばらばらに関わることがないよう、有機的に連携させることが不可欠です。マネジメントの知識や経験のある人材がしっかりとまとめていくことが重要であり、看護管理者によるマネジメントも重要との意見がありました。

多職種連携が加算等で評価されることとなると、大病院に雇用が集中し需給バランスが崩れる懸念があります。医療機関ごとの需要に応じた柔軟な体制をとれるよう、技術的に検討すべきとの意見がありました。特に療法士が病棟で担う役割には期待しており、どのような業務・ケアを担当しうるか詳細に検討してはどうかとの意見もありました。入院中の患者のADLの維持や向上を趣旨とした体制加算や病棟の施設基準における多職種配置が進みつつありますが、生活機能を落とさないためには、より一層こうした病棟での多職種連携の推進が必要です。

まとめ

病棟における多職種連携は、患者のADL維持・向上に重要な役割を果たしています。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は、ADL改善効果が高く休日リハ提供量も充実していますが、算定患者は要介護度が高い・高齢といった背景があり、ADL悪化率は算定なしと差がありませんでした。人員配置要件の厳しさから届出率が9.0%にとどまり、管理栄養士の病棟配置も十分に進んでいない状況です。病棟薬剤業務実施加算は増加傾向にありますが、小規模病院では人件費確保が課題となっています。今後は、各専門職種の役割を明確にしつつ、有機的な多職種連携を推進し、看護管理者によるマネジメントのもと、医療機関ごとの需要に応じた柔軟な体制構築が求められます。

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