精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者は、急性期の全身管理と専門的な精神科医療の双方を必要とします。こうした患者は、身体面の急性期に対応できるICU等を備えた病院の精神病床でいったん受け入れられ、その後、専門的な精神科医療を担う病院へ転院する流れが想定されます。しかし現行制度では、この転院患者が精神科救急急性期医療入院料等の算定対象に含まれていませんでした。そこで本メルマガでは、令和8年度診療報酬改定における精神科救急急性期医療入院料等の対象患者の見直しを解説します。
今回の改定は、精神科救急急性期医療入院料及び精神科救急・合併症入院料の対象患者に、新たな転院患者を追加するものです。追加される患者は、ICU等の高度急性期病床を有する病院の精神病床に入院していた患者です。この患者が当該保険医療機関へ転院した場合に、対象患者となります。一方、精神科急性期治療病棟入院料は、今回の追加対象に含まれません。
改定の背景:身体と精神を併せ持つ患者の医療提供体制の推進
今回の改定は、精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の医療提供体制を推進する観点から行われました。このような患者は、精神症状への対応だけでなく、身体面の急性期治療も同時に必要とします。そのため、身体治療の急性期は高度急性期病床を持つ病院が担い、その後の精神科医療は専門病院が担う、という役割分担が望まれます。
しかし現行制度では、この役割分担を診療報酬が十分に評価できていませんでした。高度急性期病床を持つ病院の精神病床から専門病院へ転院した患者が、精神科救急急性期医療入院料等の対象患者に含まれていなかったためです。この結果、身体・精神の連携を担う病院間の転院が、診療報酬の面で評価されにくい状況でした。今回の見直しは、この転院患者を対象患者に加えることで、両者の連携を後押しするものです。
追加される対象患者:高度急性期病床を持つ病院からの転院患者
追加される対象患者は、高度急性期病床を持つ他の病院の精神病床から当該保険医療機関へ転院した患者です。この患者が対象となるには、転院元の病院と、そこでの入院料に関する2つの条件を満たす必要があります。以下では、この2つの条件を順に説明します。
第一の条件は、転院元の病院が高度急性期病床を持つことです。具体的には、次のいずれかを算定する病棟又は病室を有する病院が該当します。
救命救急入院料 ・特定集中治療室管理料(ICU)
ハイケアユニット入院医療管理料(HCU)
脳卒中ケアユニット入院医療管理料(SCU)
小児特定集中治療室管理料(PICU)
総合周産期特定集中治療室管理料(母体・胎児集中治療室管理料を算定するものに限る)
第二の条件は、その病院の精神病床で所定の入院料を算定していたことです。具体的には、転院元の病院において、次のいずれかを算定した後に当該病棟へ転院した患者が対象となります。対象となる入院料は、精神病棟入院基本料(10対1、13対1及び15対1入院基本料に限る)、特定機能病院入院基本料(精神病棟に限る)、精神科救急急性期医療入院料、精神科急性期治療病棟入院料、精神科救急・合併症入院料、児童・思春期精神科入院医療管理料の6区分です。
以上の2つの条件を満たす転院患者が、今回新たに対象患者へ加わります。つまり、身体の急性期治療が可能な病院の精神病床でいったん受け入れられ、その後に専門病院へ移った患者を評価する仕組みです。
対象となる2つの入院料と、対象外の入院料
今回の見直しは、2つの入院料に同じ形で適用されます。適用されるのは、精神科救急急性期医療入院料と精神科救急・合併症入院料です。両者ともに、上記の転院患者を対象患者へ追加する規定が新設されました。
精神科救急急性期医療入院料では、対象患者の第3区分として新設されました。従来の第3区分(治療抵抗性統合失調症治療薬による治療のための転棟患者)は、繰り下がって第4区分となります。
精神科救急・合併症入院料でも、同じ考え方で対象患者の第4区分として新設されました。従来の第4区分(治療抵抗性統合失調症治療薬による治療のための転棟患者)は、繰り下がって第5区分となります。
一方、精神科急性期治療病棟入院料は、今回の追加対象に含まれません。別表第十のタイトルには3つの入院料が並びますが、転院患者が追加されるのは上記2つのみです。実務では、この点を取り違えないよう注意が必要です。
実務上のポイント:転院元の体制と入院料の確認
実務では、転院元の医療機関の体制と入院料を確認することが重要です。対象患者となるかどうかは、転院してきた患者そのものではなく、転院元での状況によって決まるためです。
まず、転院元が高度急性期病床を持つ病院かを確認します。救命救急入院料やICU等を算定する病棟・病室を持つ病院であるかが判断の起点です。次に、その病院で患者が算定していた入院料を確認します。精神病棟入院基本料等の対象6区分のいずれかに該当すれば、当該病棟への転院後に対象患者となります。
こうした確認を行うことで、身体と精神を併せ持つ患者の転院が、適切に評価されるようになります。転院元の情報を診療録や診療情報提供書で把握し、算定要件との照合を確実に行いましょう。
まとめ
令和8年度診療報酬改定では、精神科救急急性期医療入院料及び精神科救急・合併症入院料の対象患者が拡大されました。新たに追加されるのは、ICU等の高度急性期病床を有する病院の精神病床から当該保険医療機関へ転院した患者です。この見直しは、精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の医療提供体制を推進するものです。なお、精神科急性期治療病棟入院料は今回の追加対象に含まれない点に留意してください。










