保険診療における歯科矯正は、厚生労働大臣が定める疾患等に起因した咬合異常に限定されてきました。この限定の下では、咬合異常と有意に関係する先天性欠損歯を有する患者が対象から外れていました。本記事では、令和8年度診療報酬改定の個別改定項目「Ⅲ-7-⑥ 歯科矯正に係る患者の対象等の見直し」の内容を、初めて改定資料に触れる方にもわかるように解説します。
今回の見直しは、対象患者の追加と説明の標準化という2つの柱で構成されます。対象患者の追加は、告示と歯科矯正相談料の2か所で行われます。告示では、連続した3歯以上の先天性欠如歯に起因した咬合異常が、18歳未満の患者に限って保険給付の対象に加わります。歯科矯正相談料では、同じ咬合異常が算定対象となる疑い病態に加わります。説明の標準化としては、歯科矯正相談料の説明書に標準様式が定められ、その写しを診療録に添付する取扱いに変わります。
1. 連続3歯以上の先天性欠損歯が保険給付の対象に加わる
保険給付の対象追加は、療担規則等に基づく厚生労働大臣の定める掲示事項等(第十一の二)の改正で行われます。この告示は、歯科矯正を保険で行える場合を列挙した規定です。改定案では、列挙の末尾に「十八歳未満の患者であって、連続した三歯以上の先天性欠如歯に起因した咬合異常」が追加されます。
追加された対象には、年齢と実施医療機関という2つの条件がかかります。年齢の条件として、患者は18歳未満に限られます。実施医療機関の条件として、歯科点数表のN000歯科矯正診断料に係る施設基準を満たし、地方厚生局長等に届け出た保険医療機関であることが求められます。この2つの条件は、既存の対象疾患と同じ枠組みの中に追加されたことによるものです。
対象追加の根拠は、先天性欠損歯が顔面骨格の発育に与える影響にあります。中央社会保険医療協議会(中医協)に提出された資料では、先天性欠損歯が多いほど顔面骨格への影響が大きいことが示されました。同資料では、3歯以上の欠損は2歯以下より影響が大きいことも示されています。連続して隣接歯が欠損する状態は、長期的かつ多科的な治療を要する重篤な症状と位置づけられています。
同じ告示の改定案では、対象疾患も2つ増えています。改定案の疾患名の列挙には、現行にない「原発性低リン血症性くる病」と「ロイス・ディーツ症候群」が加わっています。これらの追加は他の改定項目に由来する可能性がありますが、告示の対象疾患が増える点は本項目の改定案から読み取れます。
なお、従来からある「六歯以上の先天性部分無歯症」の規定は改定後も残ります。この規定は欠損の連続性を問いません。今回追加される規定は、欠損が連続する場合に3歯以上で対象とする点で、従来の規定を補う関係にあります。
2. 歯科矯正相談料の対象にも同じ咬合異常が加わる
歯科矯正相談料の見直しは、留意事項通知(3)の改正で行われます。歯科矯正相談料は、学校保健安全法第13条第1項に規定する健康診断の結果を受けて、咬合異常等が疑われる患者に検査と説明を行った場合に算定する項目です。改定案では、算定対象となる疑い病態に「連続した3歯以上の先天性欠損歯に起因した咬合異常(18歳未満に限る。)」が加わります。
対象の追加により、相談の入口と保険給付の対象が一致します。改定前の相談料は、大臣が定める疾患に起因した咬合異常、3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常、顎離断等の手術を必要とする顎変形症の3つを疑い病態としていました。改定後の相談料は、これらに先天性欠損歯による咬合異常を加えた4つを疑い病態とします。学校歯科健診をきっかけとした相談から治療までの流れが、この一致によって切れ目なくつながります。
検査の記載も、あわせて明確化されます。改定前の通知は「歯科エックス線画像、口腔内写真、顔面写真等の撮影、スタディモデルの製作等を行い」と記載していました。改定後の通知は、E000写真診断の「1 単純撮影」「2 特殊撮影」またはE100「歯、歯周組織、顎骨、口腔軟組織」の「1 単純撮影」「2 特殊撮影」による画像と特定します。さらに、これらの検査は「必要に応じて行い」と改められ、症例に応じた実施であることが明示されます。
3. 説明書の標準様式が定められ、診療録の取扱いも変わる
説明書の標準様式は、患者への説明の質を担保するために定められます。中医協では、令和6年度改定で新設された歯科矯正相談料について、どの保険医療機関でも適切な説明ができるよう質の担保が必要だと指摘されました。令和7年6月には、日本矯正歯科学会と日本小児歯科学会が「歯科矯正相談料に関する基本的な考え方」で結果報告書(説明書)の標準様式を示しています。改定案は、この様式を「別紙様式●」として通知に位置づけます。
標準様式の運用として、写しの診療録添付が求められます。改定案の(3)は、患者等に提供する文書の様式を「別紙様式●」またはこれに準じた様式とし、その写しを診療録に添付すると規定します。様式の番号は、正式な通知の発出時に確定します。
診療録の記載要件は、写しの添付に置き換わる形で削除されます。改定前の(5)は、健康診断の実施日、結果、学校名、説明した診断結果等の要点を診療録に記載するよう求めていました。改定後は、この(5)が削除されます。診療録への対応は、標準様式の写しの添付に一本化されます。
4. 実務では3つの確認が必要になる
改定への対応では、対象・体制・様式の3点を確認してください。対象については、連続する欠如歯の本数と患者の年齢が要件を満たすかを診断時に確認します。体制については、歯科矯正診断料に係る施設基準の届出が済んでいるかを確認します。様式については、標準様式に沿った説明書を準備し、写しを診療録に添付する運用へ切り替えます。
確認の際は、正式な告示と通知の発出を待つ点にも注意してください。本記事が扱う「個別改定項目について」は、答申の時点で示された改定案です。様式番号などの細部は、正式な告示および留意事項通知で確定します。
まとめ:対象追加と説明の標準化が同時に進む
令和8年度診療報酬改定では、歯科矯正に係る患者の対象等が2つの柱で見直されます。第1の柱である対象患者の追加として、連続した3歯以上の先天性欠如歯に起因した咬合異常が、18歳未満かつ歯科矯正診断料の届出医療機関という条件の下で保険給付の対象に加わります。同じ咬合異常は歯科矯正相談料の対象にも加わり、相談から治療までの流れがつながります。第2の柱である説明の標準化として、説明書の標準様式が定められ、写しの診療録添付が従来の記載要件に代わります。学校歯科健診をきっかけに矯正相談を受ける子どもにとって、保険診療の入口が広がる改定といえます。










