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費用対効果評価で2品目が「効果同等」判定 中医協651回総会を解説
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費用対効果評価で2品目が「効果同等」判定 中医協651回総会を解説

コロナ治療薬と週1回インスリンが「追加的有用性なし」とされた理由と、企業の不服意見への判断を解説します

令和8年6月24日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会(第651回)で、費用対効果評価専門組織から医薬品2品目の評価案が報告されました。費用対効果評価の結果は、その品目の薬価の価格調整に反映されます。本号では、報告された2品目の評価案について、結果と判断の根拠を整理してお伝えします。

2品目はいずれも、比較対照の薬剤に対して「追加的有用性(上乗せの効果)は示されていない」と評価されました。新型コロナ治療薬「パキロビッドパック」は、比較対照のモルヌピラビルに対して「費用増加」と判定されました。週1回投与のインスリン製剤「アウィクリ注 フレックスタッチ」は、患者集団に応じて「費用増加」または「費用同等」と判定されました。両品目とも企業が不服意見を出しましたが、最終的には公的分析(国側の分析)の結果が妥当とされました。

用語メモ

  • 費用対効果評価:新しい医薬品の効果と費用を既存の治療と比べ、価格が見合っているかを評価する仕組みです。結果に応じて、薬価のうち加算部分などが調整されます。

  • 追加的有用性:比較対照の治療と比べて、効果がどれだけ上乗せされるかを指します。

  • 費用最小化分析:効果が同等と判断された場合に、費用だけを比べる分析です。

  • ICER(円/QALY):健康な1年(QALY)を追加で得るのに必要な費用です。効果が同等の場合は算出せず、「費用増加」「費用同等」などの区分で示します。

今回報告された2品目の概要

今回の報告対象は、いずれも市場規模が100億円以上の「H1区分」に指定された2品目です。両品目とも、収載時に有用性系加算率5%を得ています。

① パキロビッドパック

  • 一般名:ニルマトレルビル/リトナビル

  • 製造販売業者:ファイザー

  • 効能・効果:SARS-CoV-2による感染症

  • 収載時価格:12,538.60円(300 1シート)、19,805.50円(600 1シート)

  • 有用性系加算率:5%

  • 市場規模(ピーク時予測):281億円

  • 費用対効果評価区分:H1

  • 総会での指定日:2023年3月8日

② アウィクリ注 フレックスタッチ

  • 一般名:インスリン イコデク

  • 製造販売業者:ノボ ノルディスク ファーマ

  • 効能・効果:インスリン療法が適応となる糖尿病

  • 収載時価格:2,081円(300単位1キット)

  • 有用性系加算率:5%

  • 市場規模(ピーク時予測):131億円

  • 費用対効果評価区分:H1

  • 総会での指定日:2024年11月13日

パキロビッドパック:モルヌピラビルに対して「費用増加」

パキロビッドパックは、比較対照のモルヌピラビルに対して追加的有用性が示されず、「費用増加」と判定されました。「費用増加」とは、効果は同等で、費用が増加することを意味します。対象集団は、重症化リスク因子を持つ新型コロナ患者(小児を除く)で、患者割合は100%です。

追加的有用性を否定した根拠:オミクロン株・ワクチン接種下のデータ

公的分析は、オミクロン株流行・ワクチン接種下では追加的有用性が示されていないと判断しました。企業が根拠としたEPIC-HR試験とMOVe-OUT試験は、デルタ株流行以前にワクチン未接種者を対象に行われています。この対象者は、分析で想定する現在の患者像と合致していません。

そこで公的分析は、公的分析期間中に公表されたEPIC-SR試験を用いて評価しました。この試験のうち、デルタ株流行下で重症化リスク因子を持つワクチン接種者の集団では、主要評価項目である症状回復までの時間に、プラセボとの有意差がありませんでした。入院・死亡については、点推定値で改善傾向がみられたものの、有意差はありませんでした。さらにPANORAMIC試験(ワクチン接種・オミクロン株流行下)でも、標準治療群に対する28日以内の入院または死亡の調整オッズ比は1.18(95%信用区間0.55–2.62)で、有意差は認められませんでした。

この判断を受けて、公的分析は費用最小化分析を実施しました。専門組織は、分析中断後の再開であり意思決定が求められる状況から、費用最小化分析を基軸とすることが妥当としました。

企業の主張と不服意見:モルヌピラビルとの比較で評価すべき

企業は、比較対照はモルヌピラビルであり、モルヌピラビルに対する追加的有用性を評価すべきと主張しました。企業は、モルヌピラビルに対して有意性を示した観察研究のネットワークメタ解析・メタ解析が存在することも根拠に挙げました。専門組織がこの主張を退けたのち、企業は不服意見として、標準治療との比較試験ではなく、モルヌピラビルとの間接比較で評価すべきと改めて主張しました。

専門組織は、この不服意見を踏まえても公的分析の結果が妥当と結論づけました。主な理由は次のとおりです。

  • 報告時期が遅れることを踏まえると、追加分析は不要である

  • 現在の患者は大部分がワクチン接種者・既感染者であり、オミクロン株では肺炎の発症も減っている

  • PANORAMIC試験では、入院・死亡に対する効果が示されていない

  • 令和8年4月23日にNEJM誌で公表された同試験の論文では、ウイルス減少や症状改善の速さに傾向はあるものの、臨床現場での使い方は変わらない

一方で専門組織は、ワクチン未接種者や免疫抑制患者などには有用な薬剤であることも認めています。評価結果によって、臨床での位置づけは変わらないという見解も示されました。

アウィクリ注:1型などは「費用増加」、2型の多くは「費用同等」

アウィクリ注は、4つの患者集団すべてで比較対照と効果が同等とされ、集団ごとに「費用増加」または「費用同等」と判定されました。「費用同等」とは、効果も費用も同等であることを意味します。患者割合の大きい2型糖尿病の(b)(c)が「費用同等」、残る(a)(d)が「費用増加」です。

  • (a) 1型糖尿病:比較対照はグラルギンU300+追加インスリン、区分は「費用増加」、患者割合は5.0%

  • (b) 2型・インスリン治療歴なし:比較対照はグラルギンU300、区分は「費用同等」、患者割合は71.4%

  • (c) 2型・基礎インスリン治療歴あり:比較対照はグラルギンU300、区分は「費用同等」、患者割合は16.9%

  • (d) 2型・基礎-追加インスリン治療歴あり:比較対照はグラルギンU300+追加インスリン、区分は「費用増加」、患者割合は6.7%

追加的有用性を否定した根拠:HbA1cの差と低血糖の増加

公的分析は、(a)(b)(c)について、HbA1cの差が臨床的に意味のある大きさではないと判断しました。グラルギンU300との直接比較試験がないため、企業はインスリン デグルデクとの比較試験(ONWARDS 2・3・6)を用いて評価しました。そのうえで企業は、(b)(c)では統計的な優越性が示されたと主張しました。しかし、これらは非劣性試験であり、群間差の点推定値は非劣性マージン0.3%を下回っています。臨床専門家への意見聴取でも、この差を臨床的に意味のある差とはみなせないとされました。

低血糖の発現も、公的分析の判断を後押ししました。臨床的に重要または重大な低血糖(レベル2・3)は、(a)(b)(c)のいずれでもインスリン イコデクで多い傾向がみられました。

  • (a) 1型:発現率比1.89(26週時点)、1.80(57週時点)で、統計的に有意に多い

  • (b) 2型・治療歴なし:発現率比3.12(26週時点まで)、1.82(31週時点まで)で、多い傾向

  • (c) 2型・基礎インスリン歴あり:発現率比1.93で、有意差はないが多い傾向

これらを踏まえて、公的分析は(a)(b)(c)で費用最小化分析を実施しました。あわせて、併用するSGLT2阻害薬の薬価を2025年8月1日の改定後の価格に更新しました。併用薬の使用割合も、両群で同じ割合に設定し直しました。

企業の不服意見:利便性・HbA1c 7%未満達成率・QOLの反映を主張

企業は、週1回投与の利便性やHbA1c 7%未満達成率、QOLの改善を評価に反映すべきと主張しました。企業は、高齢者や訪問診療の患者で、家族や介護者の負担が軽くなる点も強調しました。

専門組織は、利便性の価値に一定の理解を示しつつも、企業の主張を退けました。主な理由は次のとおりです。

  • 企業が根拠としたDTSQは治療満足度の尺度であり、費用対効果評価に使えるQOL尺度ではない

  • 利便性による継続率の向上が、費用対効果の良さに直結するとは限らない

  • 高齢者ではHbA1c 8%未満を目標とすることも多く、7%未満達成率では有用性を示しにくい

ただし専門組織は、費用最小化分析の前提について公的分析に追加分析を求めました。対象は、訪問看護を受ける患者の割合と、血糖自己測定の回数の設定です。企業は全患者が訪問看護を受ける前提を置いていましたが、専門組織はこれを臨床の実感と乖離していると指摘しました。追加分析の結果、訪問看護を受ける患者割合と「訪問看護が月1~2回減少する」という推定は、実態に沿ったものとして妥当とされました。

まとめ:2品目とも追加的有用性は示されず、公的分析が採用された

今回の報告では、2品目とも比較対照に対する追加的有用性が示されず、公的分析の結果が採用されました。パキロビッドパックは、現在の流行状況・ワクチン接種状況では追加的有用性が示されないとして、「費用増加」と判定されました。アウィクリ注は、HbA1cの差が小さく低血糖も多い傾向から、集団ごとに「費用増加」または「費用同等」と判定されました。両品目とも、追加的有用性に関する企業の主張は認められませんでした。ただしアウィクリ注では、不服意見を受けて、訪問看護などの前提について追加分析が行われました。

今回の評価案は、今後の価格調整の根拠となります。評価の詳細は、国立保健医療科学院から公表される報告書で確認できます。


参考資料:中央社会保険医療協議会 総会(第651回)資料「総-2 費用対効果評価専門組織からの報告について」(令和8年6月24日)

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