令和8年度診療報酬改定は、臨床心理技術者に係る経過措置を見直します。この経過措置は、臨床心理技術者等を診療報酬上の公認心理師とみなす取扱いであり、平成31年4月1日から「当分の間」続いてきました。終了時期が示されないまま運用されてきたため、医療機関は心理職の人員体制をいつまでに整えるべきか判断できませんでした。本記事は、この経過措置の終了期日と、医療機関に求められる対応を整理します。
今回の見直しは、臨床心理技術者等を公認心理師とみなす経過措置を、令和10年5月31日をもって終了させます。この終了の背景には、公認心理師の養成が進み、登録者数が令和6年度末時点で73,743人に達した状況があります。終了の影響は、入院料等の算定要件から特掲診療料の施設基準まで、心理職を評価する規定の全体に及びます。医療機関に求められる対応は、改定が施行される令和8年6月から令和10年5月31日までの2年間で、該当する職員の資格取得と人員体制の点検を進めることです。
1.見直しの背景:公認心理師の養成が進み、経過措置の役割が終わる
経過措置の見直しは、公認心理師の養成状況を踏まえたものです。中央社会保険医療協議会(中医協)は、「公認心理師の養成状況を踏まえ、診療報酬上の臨床心理技術者に係る経過措置を終了すること」を論点として示しました。この論点は、資格制度の定着によって、みなし規定を置く必要性が薄れたという判断に基づきます。
公認心理師は、平成27年に成立した公認心理師法により創設された国家資格です。同法は平成29年9月15日に全面施行され、第1回の国家試験は平成30年に実施されました。試験はその後も毎年1回以上実施され、合格者が登録簿に登録されることで公認心理師となります。
公認心理師の登録者数は、この制度創設以降、一貫して増加してきました。登録者数は、平成30年度末の24,056人から、令和6年度末には73,743人まで伸びています。主たる勤務先の内訳を令和5年度公認心理師活動状況等調査でみると、保健医療分野が24.1%を占め、教育分野(27.1%)、福祉分野(24.7%)に次ぐ規模となっています。
この人材の広がりを受けて、平成30年度改定で設けられた経過措置が役割を終えます。平成30年度改定は、診療報酬上評価する心理職を「公認心理師」に統一しました。統一にあたっては、資格取得までの移行期間を確保するため、従来の臨床心理技術者を公認心理師とみなす経過措置が併せて設けられました。この移行期間が、今回の改定で終期を迎えます。
2.改定の内容:「当分の間」から「令和10年5月31日まで」へ
改定の内容は、みなし規定の期限を明記することです。現行の規定は、経過措置の期間を「平成31年4月1日から当分の間」と定めています。改定案の規定は、この期間を「令和10年5月31日までの間」と改めます。みなし対象者の範囲そのものは、改定の前後で変わりません。
みなし対象となる者は、現行どおり次のいずれかに該当する者です。第一に、平成31年3月31日時点で、臨床心理技術者として保険医療機関に従事していた者です。第二に、公認心理師に係る国家試験の受験資格を有する者です。これらに該当する者は、令和10年5月31日までは公認心理師とみなされ、同年6月1日以降はみなされません。
期限が明記される規定は、算定要件と施設基準の双方にわたります。算定要件では、第1章第2部「入院料等」の通則17が改められます。施設基準では、第1「基本診療料の施設基準等」の10が改められます。いずれも、期間の記載だけが「当分の間」から「令和10年5月31日までの間」に置き換わります。
同様の取扱いは、これら以外の規定にも及びます。算定要件では、D285に掲げる認知機能検査その他の心理検査と、第8部第3節の経過措置が同様の扱いとなります。施設基準では、特掲診療料の施設基準等が同様の扱いとなります。つまり、心理職について公認心理師を求めるすべての規定で、みなし規定が同じ日に終わります。
3.実務への影響:令和10年6月1日から資格の有無が問われる
実務への影響は、令和10年6月1日を境に生じます。同日以降、公認心理師の登録を受けていない職員は、診療報酬上の公認心理師として扱えません。この扱いは、届出や算定の可否に直結します。
第一の影響は、施設基準の充足に現れます。公認心理師の配置を要件とする入院料や加算では、みなし職員を人員に算入できなくなります。要件を満たせなくなった場合、届出の変更や取り下げが必要となります。
第二の影響は、個別の点数の算定に現れます。D285の認知機能検査その他の心理検査のように、公認心理師が実施した場合を評価する項目では、みなし職員による実施が算定の対象外となります。心理職の実施を前提とする評価では、実施者の資格確認が欠かせません。
第三の影響は、令和8年度改定で見直される他の評価の活用に現れます。同改定は、神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害に対する公認心理師による心理支援を推進する観点から、心理支援加算の要件及び評価を見直します。同改定はまた、急性期等の入院料における精神保健福祉士、作業療法士又は公認心理師の病棟配置について、新たな評価を行います。これらの評価を活用するには、公認心理師の確保が前提となります。
4.医療機関の対応:残り2年間で資格取得と体制点検を進める
医療機関に求められる対応は、猶予期間内に完了させる必要があります。猶予期間は、診療報酬本体の改定が施行される令和8年6月から、経過措置が終了する令和10年5月31日までの2年間です。なお、令和8年度診療報酬改定は令和8年6月施行とされており、薬価の改定(令和8年4月施行)とは施行時期が異なります。
第一に取り組むべき対応は、該当職員の把握です。心理職として配置している職員のうち、公認心理師の登録を受けていない者を洗い出します。洗い出しの結果は、施設基準ごとに整理しておくと、後の判断が容易になります。
第二に取り組むべき対応は、資格取得の計画づくりです。公認心理師試験は毎年1回以上実施されており、直近の第8回試験は令和7年3月2日に実施されました。ただし、公認心理師となるのは試験に合格した時点ではなく、公認心理師登録簿への登録を受けた時点です。経過措置の終了までに登録を完了させる必要があるため、受験資格を有する職員には、できるだけ早い回での受験を促してください。なお、各回の試験日程は公表されるまで確定しないため、一般財団法人公認心理師試験研修センターの案内で必ず確認してください。
第三に取り組むべき対応は、人員体制の見直しです。資格取得が間に合わない可能性がある場合は、公認心理師の採用や、届出内容の変更をあらかじめ検討します。令和10年6月1日の直前に判断すると、届出の間に合わない事態を招きます。
まとめ:期日が決まった今こそ、心理職の体制を点検する
令和8年度診療報酬改定は、臨床心理技術者等を公認心理師とみなす経過措置を、令和10年5月31日をもって終了させます。この終了は、登録者数が73,743人に達した公認心理師の養成状況を踏まえたものです。終了の影響は、入院料等の算定要件から特掲診療料の施設基準まで、心理職を評価する規定の全体に及びます。医療機関は、改定が施行される令和8年6月から令和10年5月31日までの2年間で、該当職員の把握、資格取得の計画づくり、人員体制の見直しを進めてください。










