企業のデジタル変革において、AIエージェントの活用が急速に広がっています。Microsoft Copilot Studioは、自然言語やグラフィカルインターフェースを使用して、専門的な開発スキルがなくてもAIエージェントを構築できるプラットフォームです。本記事では、Copilot Studioの機能と導入事例に加え、関連するMicrosoft Copilot製品の活用事例も解説します。
Copilot Studioを導入した企業では、顧客対応の自動化、業務プロセスの効率化、知識管理の高度化といった成果が報告されています。Pacific Gas & Electric(PG&E)はCopilot Studioで構築したチャットボットにより年間110万ドル以上のコスト削減を達成し、Amgenは6週間でR&D支援エージェントを構築しました。国内ではベネッセホールディングスがCopilot Studioで社内相談AIを構築し、回答精度を81%から86%に向上させています。
Microsoft Copilot Studioとは
Microsoft Copilot Studioは、AIエージェントを作成・カスタマイズ・展開するためのエンドツーエンドの会話型AIプラットフォームです。このプラットフォームでは、ノーコード・ローコードでエージェントを設計でき、Microsoft 365やWebサイト、各種メッセージングチャネルへの公開が可能です。
Copilot Studioで構築できるエージェントには、3つの種類があります。1つ目は、ユーザーの質問に対して情報を取得・要約して回答を返す「会話型エージェント」です。2つ目は、指示を受けてワークフローの自動化や反復的なタスクを代行する「タスク実行エージェント」です。3つ目は、計画・学習・エスカレーションを動的に行う「自律型エージェント」です。
このプラットフォームの特長は、組織の既存データやシステムとの連携にあります。1,400以上の外部コネクタを利用でき、Microsoft 365アプリケーションやCRM、ERPシステムとの統合が可能です。Power Platform管理センターからエージェントの管理、セキュリティ設定、効果測定を一元的に行えます。
Copilot Studioの4つの主要機能
Copilot Studioは、エージェントの「作成」「カスタマイズ」「展開」「管理」という4つの主要機能を提供しています。これらの機能により、企業は自社のビジネスニーズに合わせたAIエージェントを構築・運用できます。
作成:多様なエージェントタイプの構築
エージェントの作成機能では、4種類のエージェントを構築できます。1つ目は「会話型エージェント」で、質問への回答、ワークフローのガイド、ビジネスデータを使用したタスク完了など、自然言語のプロンプトに会話形式で応答します。2つ目は「自律型エージェント」で、計画立案、学習、作業項目のエスカレーションなど、タスクやビジネスプロセスを自律的に管理します。
3つ目は「事前構築済みエージェント」で、エージェントストアからすぐに使えるエージェントを入手するか、テンプレートからカスタマイズできます。4つ目は「音声エージェント」で、生成AIを活用した音声または電話対応により、ユーザーや顧客を迅速に支援します。
カスタマイズ:組織のナレッジとシステム連携
カスタマイズ機能では、エージェントを組織固有のニーズに適合させることができます。Work IQというインテリジェンスレイヤーを活用することで、Copilotがユーザー、職務、企業を理解し、ワークフローに合わせたカスタムエージェントを構築できます。Model Context Protocol(MCP)サーバーや1,400以上の外部コネクタも利用可能です。
構造化された指示を追加することで、エージェントの応答方法について明確なガイドラインを設定できます。プロンプトの使用、書式設定ルール、要約などを指定し、一貫性と正確性を確保します。フロー、プロンプト、APIなどのツールを通じてユーザーに代わってアクションを実行するエージェントも構築できます。複雑なプロセスには、マルチエージェントオーケストレーションで専門知識や特定アクションが必要な場合にタスクを適切なエージェントに転送することも可能です。
展開:多様なチャネルへの公開
展開機能では、エージェントを多様なチャネルに公開できます。Microsoft Teams、SharePoint、Microsoft 365 Copilotなど、従業員が毎日使用するMicrosoft 365アプリに直接展開可能です。WebアプリやメッセージングプラットフォームなどのWebサイトやソーシャルチャネルにも埋め込めます。カスタムアプリやワークフローとの統合により、基幹業務プロセスを強化することも可能です。
管理:ガバナンスと効果測定
管理機能では、エージェントのライフサイクル全体を統制できます。Power Platform管理センターから、データの保護、エージェントの作成と共有の管理、影響の測定を一元的に行えます。専用開発環境の管理、エージェントライフサイクル管理制御の導入、エージェント支出状況の監視も可能です。
分析とレポート機能では、エージェントの準備状況と採用状況を追跡できます。Microsoft Purview、Power Platform管理センター、Viva Insightsを通じてエージェントのROIを追跡し、効果を可視化します。機密情報の保護、AIセキュリティの確保、コンプライアンスの維持にはPower Platformのガバナンスツールを活用できます。
業種別ユースケース
Copilot Studioは、金融、人事、カスタマーサービス、情報技術、法務など、幅広い業種で活用できます。各業種に特化したエージェントを構築することで、業務効率化と品質向上を実現できます。
金融分野では「貸借対照表調整エージェント」が活用されています。このエージェントは差異を検出し、正確な貸借対照表を維持しながら修正を自動化します。人事分野では「人事採用アシスタントエージェント」が候補者のスクリーニングと最適な候補者のハイライトを行い、採用プロセスを迅速化します。
カスタマーサービス分野では「パーソナライズされたクロスセル・アップセルエージェント」が顧客の好みを把握し、個別化された提案を提供します。情報技術分野では「ITサポートエージェント」がチケットの受付・作成、分類、コミュニケーションを自動化します。法務分野では「自動契約書レビューエージェント」がリスク、逸脱、問題を検出し、変更を提案することで法務レビューを加速します。
海外企業の導入事例
海外では、金融、小売、製造、医薬品など幅広い業界でCopilot Studioの導入が進んでいます。各社は顧客対応の自動化、業務プロセスの効率化、知識管理の高度化において具体的な成果を上げています。
Holland America Line:顧客対応AIエージェント「Anna」
クルーズ会社のHolland America Lineは、顧客対応を強化するためにCopilot Studioでバーチャルエージェント「Anna」を開発しました。同社のEコマース担当シニアディレクターScot Pettit氏は「クルーズの予約は複雑なプロセスになりがちで、予約後も準備方法や追加サービスの理解が容易ではありませんでした」と背景を説明しています。
Annaは、新規クルーズの予約支援、既存予約への商品・サービス追加、一般的な質問への回答という3つの主要シナリオに対応します。CRMシステムや予約システムと連携し、自然言語で顧客の質問に24時間対応できます。開発期間はわずか3カ月でした。
導入効果として、顧客がAnnaと対話した場合、対話しなかった場合と比較してニーズに合ったクルーズを見つける確率が向上しました。コンタクトセンターへの基本的な問い合わせの削減も見込まれています。
Virgin Money:銀行サービスを変革するAIアシスタント「Redi」
英国の大手リテール銀行Virgin Moneyは、顧客体験の変革を目指してCopilot Studioで「Redi」を開発しました。Rediは複数のバーチャルアシスタントを統合し、リアルタイムサポートとインテリジェントな自動化を実現しています。
Rediの具体的な機能として、カード更新時の住所確認メッセージ送信があります。この機能では、アウトバウンドメッセージに対する顧客エンゲージメント率が54%に達し、対話を開始した顧客の97%がプロセスを完了しています。
Virgin MoneyのBizApps CoEリードRuaridh Wallace氏は「旧来のチャットボットから会話型バンキングへ移行し、複数のバーチャルアシスタントを単一のスマートな体験に統合できました」と成果を述べています。同社はこの取り組みで「金融サービスにおけるAI活用ベスト賞」を受賞しました。
Pacific Gas & Electric:チャットボットで年間110万ドル以上を削減
米国の大手電力・ガス会社PG&Eは、Copilot Studio(旧Power Virtual Agents)で構築したチャットボット「Peggy」により、ヘルプデスク業務を大幅に効率化しました。同社はPower Platform全体を活用した業務自動化にも取り組んでおり、デジタル生産性センターオブエクセレンス(CoE)を設立して4,300人以上の開発者を育成しています。
Peggyは、従業員からの問い合わせに直接回答するか、適切なリソースへ誘導するチャットボットです。ヘルプデスク需要の25〜40%をPeggyが自動処理しており、この自動化だけで年間110万ドル以上のコスト削減に貢献しています。SAPアカウントのロック解除リクエスト処理では年間840時間を節約しています。
同社は生成AIの活用も進めています。Copilot Studioの生成回答機能を使用することで、Peggyは企業のナレッジベースに自動アクセスし、スクリプトなしでより多くの質問に回答できるようになる予定です。
Amgen:6週間でR&D支援エージェントを構築
バイオテクノロジー企業のAmgenは、研究開発における知識管理の課題を解決するためにCopilot Studioを活用しました。同社のR&Dナレッジ&ラーニング担当エグゼクティブディレクターBryan Yee氏は「過去の治験デザインや特定の分子に関するリソースを検索すると、大量のリンクが返ってきて、それを一つずつ確認する必要がありました。これには何時間も、時には何日もかかることがありました」と課題を説明しています。
Amgenの技術チームは、Copilot Studioを使用してわずか6週間で「Catalyst Copilot」を開発しました。このエージェントは、同社のナレッジマネジメントプラットフォーム「Catalyst」に組み込まれ、大量の情報を推論・分析し、自然言語インターフェースで回答を提供します。
Catalyst Copilotにより、創薬担当者は組織の集合知にこれまでより早くアクセスできるようになりました。「どこに情報があるか」という段階から「すでに何がわかっているか」という段階へ直接進めるようになり、創薬サイクルの短縮に貢献しています。
Dow:貨物請求書分析の自動化で数百万ドルを節約
素材科学企業のDowは、Copilot Studioを活用して貨物請求書の分析プロセスを自動化しました。同社は年間数十億ドルを輸送費に費やしており、請求書に埋もれた誤った料金や検出されないエラーが課題でした。
Dowは2種類のAIエージェントを構築しました。1つ目は、メールで届くPDF請求書を監視し、データを構造化して分析する自律型エージェントです。2つ目は、自然言語でデータと対話できるプロンプト応答型の「Freight Agent」です。
プルーフオブコンセプト段階のわずか数週間で、エージェントは数千件の請求書を分析し、異常を検出して潜在的な節約機会を特定しました。全モードでのグローバル展開後、初年度で数百万ドルの輸送コスト削減が見込まれています。同社は物流・運用に影響を与える100以上のエージェント活用ユースケースを特定しています。
Pets at Home:不正検知の効率を10倍に向上
英国最大のペットケア企業Pets at Homeは、Copilot Studioで小売不正検知エージェントを開発しました。同社は約450の実店舗、小売サイト、約450の動物病院、グルーミングサービスを運営しており、データの統合と活用が課題でした。
不正検知エージェントは、大量のデータを迅速にふるい分け、同じ写真が異なる人物によって複数回使用されているケースなど、体系的な不正を検出します。同社のシニアフロードマネージャーKay Birkby氏は「異常やパターンを発見することで、不正行為の特定だけでなく、製品に問題がないかを確認すべきケースも見つけられます」と述べています。
導入効果として、不正検知のスピードが10倍に向上し、1日あたりの処理ケース数が20倍に増加しました。
国内企業の導入事例
国内でも、大手企業を中心にCopilot Studioおよび関連するMicrosoft Copilot製品の導入が進んでいます。Copilot Studioによるエージェント構築事例と、Microsoft 365 Copilotによる生産性向上事例をそれぞれ紹介します。
Copilot Studioの導入事例
ベネッセホールディングス:社内相談AIで問い合わせ対応を効率化
ベネッセホールディングスは、新企画立案時の社内相談業務を効率化するためにCopilot Studioで「社内相談AI」を構築しました。新企画の立ち上げ時には経理・財務・法務・情報セキュリティなど多岐にわたる部門への相談が必要となり、それが新事業発足の足かせになっていたことが背景です。
同社は2023年10月にオリジナル版の社内相談AIをリリースしましたが、新規データセットの再投入やログ分析をクイックに反映することが難しいという課題がありました。そこで2024年2月にCopilot Studio版へ移行しました。データソースは各部門のマニュアルを中心に約750ページです。
Copilot Studio版の導入効果として、回答精度が81%から86%に向上しました。ノーコードで構築できることに加え、利用状況や回答精度の良し悪しが具体的にわかるため改善しやすい点がメリットです。同社専務執行役員CDXO橋本英知氏は「24年度内にCopilot Studioで簡単な質問を解決できること、翌年には一部の手続きのAI化を目標にしている」と述べています。
Microsoft CopilotとAzure AIの導入事例(参考)
以下は、Copilot Studioと関連するMicrosoft CopilotおよびAzure AIの活用事例です。
伊藤忠商事:データ分析基盤とAIの連携で商品企画を支援
伊藤忠商事は、Microsoft Copilotを全社的に導入し、業務効率化と新たなビジネスモデルの創出を目指しています。繊維、食料、情報、金融など多岐にわたる事業を展開する同社では、各部門で生み出される膨大なデータの分析・活用が課題でした。
特に食料カンパニーでは、既存のデータ分析基盤「FOODATA」にAzure AIを組み込み、Copilotと連携させることで、商品企画・開発プロセスにおけるデータ活用を飛躍的に向上させました。Copilotが市場トレンドや消費者ニーズを分析し、新商品のコンセプト立案やキャッチフレーズ作成を支援します。商品のパッケージデザインのイメージ生成など、これまで言語化が難しかった業務もサポートしています。
導入効果として、これまで一部の専門家しか扱えなかったデータ分析が、現場社員レベルでも容易に実現できるようになりました。データに基づいた迅速な意思決定が可能となり、業務効率が大幅に向上しています。同社はCopilotを「商いの未来」を創造するパートナーと位置づけ、全社的な活用を推進しています。
Microsoft 365 Copilotの導入事例(参考)
以下は、Copilot Studioとは別製品であるMicrosoft 365 Copilotの導入事例です。Copilot Studioがエージェント構築プラットフォームであるのに対し、Microsoft 365 CopilotはOfficeアプリケーションに組み込まれたAIアシスタントです。
デンソー:3段階展開で30,000人への全社導入を決定
自動車部品メーカーのデンソーは、Microsoft 365 Copilotを3段階のステップで展開しました。同社ITデジタル本部デジタル活用推進部長の白井智明氏は「AIを当たり前に活用する風土・働き方変革を一気に進めていきたい」と導入の背景を説明しています。
第1ステップとして2023年10月にIT部門と各部門の有志300人で先行利用を実施し、ひとりあたり月12時間の業務時間削減を確認しました。第2ステップとして2024年4月に各部門長と選出社員6,000人に拡大しました。第3ステップとして2024年7月に本社30,000人への本格導入が決断されています。
導入効果として、時間削減に加えて品質向上面でも成果がありました。設計部門では、Microsoft 365 Copilotから社内に蓄積されたデータを基にこれまで気づかなかった注意点などのアドバイスを得ることができ、設計品質の向上につながった事例があります。同社ではプロンプトと回答例を掲載した社内利用事例集を作成し、全社への浸透を図っています。
住友商事:日本企業初のグローバル全社導入
住友商事は、日本企業として初めてグローバル全社でCopilot for Microsoft 365を導入しました。同社デジタル戦略推進部長の塩谷渉氏は「使わない人たちにこそ、自身の生産性や創造性を高めるために使ってもらわなければならない」という経営層の強い思いが全社導入の背景にあったと説明しています。
2023年9月にEAP(Early Access Program)で300ライセンスを先行導入し、経営層やIT戦略委員会などで検証を実施しました。EAPでのアンケートでは「満足」との回答が7割を占めました。2024年4月には全従業員・派遣スタッフに向けて8,800ライセンスを配布しています。
定着化に向けて、プロンプトのテンプレート展開、各SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)へのアンバサダー配置、Microsoft Viva Insightsを活用した定量的効果測定など、1年間で定着させるための施策を次々と打ち出しています。
まとめ
Microsoft Copilot Studioは、AIエージェントを簡単に作成・展開できるプラットフォームとして、国内外の企業で導入が進んでいます。顧客対応の自動化ではHolland America LineやVirgin Moneyが成果を上げ、業務プロセスの効率化ではPG&Eが年間110万ドル以上、Dowが数百万ドル規模のコスト削減を見込んでいます。知識管理の高度化ではAmgenが創薬サイクルの短縮に成功しています。国内ではベネッセホールディングスがCopilot Studioで社内相談AIを構築し、回答精度を向上させました。
Copilot Studioの利点は、ノーコード・ローコードでエージェントを構築でき、利用状況や回答精度を可視化して継続的に改善できる点です。URLを指定するだけで公開Webサイトや社内イントラサイトからCopilotを作成でき、SharePoint、Teams、Webサイトなど多様なチャネルへの展開も容易です。
導入を成功させるポイントは3つあります。1つ目は、最大の業務課題を特定してからAIを適用することです。2つ目は、組織のデータと既存システムとの連携を重視することです。3つ目は、スモールスタートで効果を検証してから全社展開することです。Fortune 500の90%がCopilot Studioを選択しており、AIエージェントによる業務変革は今後さらに加速すると見込まれます。










