有床義歯の管理は、平成26年度改定以降、「新製有床義歯管理料」と「歯科口腔リハビリテーション料1」の2本立てで評価されてきました。この2本立ての評価体系には、両者がいずれも調整と指導を1口腔単位で評価するため、義歯の構造や形態ごとに異なる指導の手間を反映できないという課題がありました。本稿では、令和8年度診療報酬改定の個別改定項目「Ⅲ-7-③ 有床義歯管理の評価体系の見直し」を、算定単位、算定要件、併算定の3点から解説します。
今回の見直しは、新製有床義歯管理料を装置ごとの評価に改め、歯科口腔リハビリテーション料1との役割分担を明確にする内容です。第1に、算定単位が1口腔単位から1装置単位へ変わり、点数は局部義歯140点・総義歯140点となります。第2に、算定要件が整理され、新製有床義歯管理料は義歯の取扱いの説明を、歯科口腔リハビリテーション料1は義歯の調整・指導を担います。第3に、両者の併算定制限が撤廃され、同月・同日でも算定できるようになります。
1. 算定単位の見直し:1口腔単位から1装置単位へ
新製有床義歯管理料は、算定単位が1口腔単位から1装置単位へ見直されます。この見直しに伴い、点数区分も患者の状態による区分から義歯の種類による区分へ変わります。
算定単位の変更は、有床義歯の構造や形態が多種多様である実態を踏まえたものです。中央社会保険医療協議会(中医協)の資料では、有床義歯の構造や形態は欠損範囲や欠損部位に応じて多種多様であり、新たな有床義歯を製作する際の確認・指導事項は装置や装着部位によって異なると整理されました。たとえば部分床義歯では、義歯床に加えてクラスプやレストといった支台装置・維持装置の適合確認が必要になります。装置ごとに指導内容が異なる以上、装置ごとに管理を評価する仕組みが求められたわけです。
点数区分は、現行の「困難な場合」の有無から、「局部義歯」と「総義歯」の別へ改められます。現行の新製有床義歯管理料は、1口腔につき「2以外の場合」190点、「困難な場合」230点の2区分でした。改定案では、1装置につき「1 局部義歯の場合」140点、「2 総義歯の場合」140点の2区分となります。区分は分かれていますが、点数はいずれも140点で同一です。
[新製有床義歯管理料:現行 → 改定案]
算定単位:1口腔につき → 1装置につき
区分1:2以外の場合 190点 → 局部義歯の場合 140点
区分2:困難な場合 230点 → 総義歯の場合 140点
装置単位への変更により、上下顎に義歯を新製した場合の評価は手厚くなります。従来は上下顎に義歯を新製しても1口腔単位のため190点(困難な場合230点)でした。改定後は1装置140点を2装置分算定できるため、280点となります。
2. 算定要件の見直し:説明は新製管理料、調整はリハビリテーション料
算定要件の見直しでは、新製有床義歯管理料と歯科口腔リハビリテーション料1の役割分担が明確になります。前者は新製義歯の取扱いの説明を、後者は義歯の調整・指導を担う整理です。
新製有床義歯管理料の要件からは、「適合性等の検査」と「保存・清掃方法等の指導」が外れます。現行の要件は、有床義歯の適合性等について検査を行い、併せて取扱い、保存、清掃方法等について必要な指導を行った上で、その内容を文書により提供することでした。改定案の要件は、当該有床義歯の取扱いについて必要な説明を行った上で、その内容を文書により提供することに整理されます。装着した日の属する月に、当該有床義歯を製作した保険医療機関において算定する点と、文書提供が要件である点は変わりません。
歯科口腔リハビリテーション料1の要件からは、逆に新製義歯の取扱い説明が除かれます。改定案では、「1 有床義歯の場合」の対象から、新製有床義歯管理料における新製した有床義歯の着脱や保管の方法等の取扱いについての説明が明示的に除外されます。1口腔単位で義歯に係る調整または指導を行った場合に月1回算定する点は変わりません。診療録への記載事項は、「調整部位又は指導内容等の要点」から「調整又は指導内容等の要点」へ改められます。
検査の位置づけについては、条文上の記述が両区分から姿を消す点に注意が必要です。新製有床義歯管理料からは「適合性等について検査を行い」が削除されます。歯科口腔リハビリテーション料1からも、現行要件にあった「有床義歯の適合性や咬合関係等の検査を行い、患者に対して義歯の状態を説明した上で」という具体的な記述が削除されます。したがって、検査が新製有床義歯管理料から歯科口腔リハビリテーション料1へ移されたという整理ではありません。実際の取扱いは、今後の通知および疑義解釈で確認が必要です。
点数区分は、新製有床義歯管理料と同様に簡素化されます。現行の歯科口腔リハビリテーション料1「1 有床義歯の場合」は、「イ ロ以外の場合」104点、「ロ 困難な場合」124点の2区分でした。改定案では、この2区分が廃止され、114点に一本化されます。困難な場合の定義を新製有床義歯管理料から引用していた要件も削除されます。
3. 併算定の見直し:同月・同日の算定が可能に
併算定の見直しにより、新製有床義歯管理料と歯科口腔リハビリテーション料1は同じ月に算定できるようになります。両者の役割分担が明確になったことを受けた取扱いです。
現行の併算定制限は削除されます。現行の新製有床義歯管理料の注2は、同管理料を算定した日の属する月について、歯科口腔リハビリテーション料1(1に限る)を算定できないと定めていました。改定案では、この注2が削除されます。
削除に代わり、歯科口腔リハビリテーション料1の要件に併算定を認める規定が置かれます。改定案の要件では、新製有床義歯管理料を算定した月と同月に当該義歯の調整または指導を行った場合、同日であっても歯科口腔リハビリテーション料1を算定して差し支えないと明記されます。この規定は、装着日の属する月の翌月以降の調整・指導を歯科口腔リハビリテーション料1で算定すると定めていた現行規定に置き換わります。翌月以降の調整・指導を歯科口腔リハビリテーション料1で算定する取扱い自体は変わらず、装着月から算定できる点が新しくなります。
4. 実務への影響:算定額と運用の変化を押さえる
実務では、算定額の変化と運用上の留意点を押さえる必要があります。算定額は上下顎の新製で増え、運用では説明と調整の切り分けが求められます。
算定額は、上下顎に総義歯を新製し、同月に調整を行うケースで大きく変わります。現行では、新製有床義歯管理料のみを算定し、同月の歯科口腔リハビリテーション料1は算定できませんでした。改定後は、新製有床義歯管理料140点×2装置=280点に、歯科口腔リハビリテーション料1の114点を加えた394点となります。
[上下顎に総義歯を新製し、同月に調整した場合:現行 → 改定案]
新製有床義歯管理料:190点、または「困難な場合」に該当すれば230点(いずれも1口腔) → 280点(140点×2装置)
歯科口腔リハビリテーション料1:算定不可 → 114点
合計:190点または230点 → 394点
現行の「困難な場合」に該当するかどうかは、現行通知の定義によります。総義歯や多数歯欠損の症例では230点を算定している医療機関が多く、その場合の増加幅は394点との差の164点です。自院の実際の算定区分に当てはめて比較してください。
運用では、説明と調整・指導の切り分けが記録上のポイントになります。新製有床義歯管理料では、義歯の取扱いについての説明内容を文書で提供します。歯科口腔リハビリテーション料1では、調整または指導内容等の要点を診療録に記載します。同日に両者を算定する場合、文書の内容と診療録の記載が重複しないよう、それぞれの趣旨に沿って整理してください。
まとめ:装置単位化と役割分担の明確化が今回の要点
令和8年度診療報酬改定における有床義歯管理の見直しは、装置単位化と役割分担の明確化に集約されます。新製有床義歯管理料は、1口腔単位から1装置単位へ改められ、局部義歯140点・総義歯140点となります。算定要件は、新製有床義歯管理料が義歯の取扱いの説明を、歯科口腔リハビリテーション料1が義歯の調整・指導を担う形へ整理されます。併算定制限は撤廃され、同月に当該義歯の調整または指導を行えば、同日でも両者を算定できます。上下顎の義歯を新製する機会の多い医療機関ほど、今回の見直しの影響は大きくなります。詳細な取扱いは、今後発出される告示・通知および疑義解釈でご確認ください。










