令和8年度診療報酬改定は、感染症に係る検査の算定要件を見直します。現行の要件には、3つの課題があります。第1に、多剤耐性菌に有効な新規抗菌薬の投与に必要な追加の薬剤感受性検査について、算定の可否が明確ではありません。第2に、新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)とその他の感染症を同時に対象とする検査が、COVID-19のみを疑う場合でも算定できます。第3に、多項目の病原体を同時に検出する検査のうち、SARS-CoV-2核酸検出を含むものには、施設基準の届出と対象患者の限定が課されていません。本記事は、これら3つの課題に対応する改定内容を、算定要件の変更点に沿って解説します。
今回の見直しは、抗菌薬の適正使用と検査の適正実施を柱に、3つの検査の要件を変更します。第1に、細菌薬剤感受性検査は、多剤耐性菌に有効な抗菌薬の適応判定のために再度実施した場合、改めて所定点数を算定できます。第2に、同時抗原検査は、同時に検出する感染症のすべてが疑われる患者に、算定対象を限定します。第3に、ウイルス・細菌核酸多項目同時検出(以下「マルチプレックスPCR」)は、SARS-CoV-2核酸検出を含むものも施設基準と対象患者の要件の対象とします。
1. 細菌薬剤感受性検査:多剤耐性菌への追加検査を評価
細菌薬剤感受性検査は、多剤耐性菌に有効な抗菌薬の適応判定を行う場合に、再度の算定が認められます。この取扱いは、算定要件に新たな項目として明記されます。
細菌薬剤感受性検査の追加実施が必要になる背景には、新規抗菌薬の登場があります。近年、多剤耐性グラム陰性桿菌の治療薬として、セフィデロコル(CFDC)、セフタジジム・アビバクタム(AVI/CAZ)、レレバクタム・イミペネム・シラスタチン(REL/IPM)の3剤が承認されました。これらの新規抗菌薬は、国内の薬剤感受性装置の感受性プレートに搭載されておらず、従来の抗菌薬と同時に測定できません。そのため医療機関は、別途の感受性プレートを用いて、追加で薬剤感受性検査を実施する必要があります。
追加の薬剤感受性検査については、これまで算定の可否が明確ではありませんでした。細菌薬剤感受性検査は、細菌感染症に対する一連の治療につき1回に限り算定するのが原則です。この原則のもとで、一連の治療中に同一検体から培養された同一の菌に対して複数回の検査を実施した場合の取扱いが、示されていませんでした。改定案は、この原則を算定要件に明記したうえで、例外となる場合をあわせて新設します。
取扱いが明確ではなかった追加検査は、改定後、一定の条件を満たせば算定できます。条件は2つあります。第1に、細菌薬剤感受性検査の結果、カルバペネム系抗菌薬を含む通常の治療で用いられる抗菌薬に対する非感受性又は耐性が確認されることです。第2に、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)等、多剤耐性を有する細菌に対して有効な抗菌薬の適応判定を行う必要があることです。この2つを満たして本検査を再度実施した場合、改めて所定点数を算定できます。
2. 同時抗原検査:すべての対象疾患を疑う患者に限定
同時抗原検査は、同時に検出する感染症のすべてが疑われる患者に、算定対象が限定されます。この見直しは、SARS-CoV-2とその他のウイルスを同時に測定する3つの検査に及びます。
対象となる3つの検査は、いずれも感染症免疫学的検査に位置付けられています。第1が、SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス抗原同時検出定性です。第2が、SARS-CoV-2・RSウイルス抗原同時検出定性です。第3が、SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス・RSウイルス抗原同時検出定性です。
これら3つの検査は、現行では、COVID-19のみを疑う場合でも算定できます。現行の算定要件は、対象患者を「COVID-19が疑われる患者」、実施目的を「COVID-19の診断」と定めているためです。この要件のもとでは、インフルエンザウイルス感染症やRSウイルス感染症を疑わない発熱患者のスクリーニングにも、同時抗原検査を使えます。
スクリーニング目的での使用には、関係学会が慎重な姿勢を示しています。日本感染症学会と日本臨床微生物学会は、令和7年8月25日の提言で、同時検査キットの使い方に言及しました。提言は、COVID-19とインフルエンザのいずれか一方しか流行していない時期について、「特別な必要性がない場合は単独の検査キットを優先的に使用することが望ましい」としています。
関係学会の提言を踏まえ、改定後の算定要件は、対象患者と実施目的の両方を書き換えます。対象患者は、当該検査が対象とするすべての感染症が疑われる患者となります。実施目的も、すべての感染症の診断となります。たとえばSARS-CoV-2・インフルエンザウイルス抗原同時検出定性は、COVID-19及びインフルエンザウイルス感染症が疑われる患者に対して、両者の診断を目的として実施した場合に、1回に限り算定します。
検査結果が陰性であった場合の追加算定は、改定後も維持されます。ただし、追加算定の条件となる「診断がつかない」疾患の範囲は、検査によって扱いが異なります。SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス抗原同時検出定性は、「COVID-19以外」から「COVID-19又はインフルエンザウイルス感染症以外」に広がります。SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス・RSウイルス抗原同時検出定性も、対象の3疾患以外に広がります。一方、SARS-CoV-2・RSウイルス抗原同時検出定性は、現行から「COVID-19又はRSウイルス感染以外」とされており、この部分に変更はありません。
3. マルチプレックスPCR:評価体系の再編と要件の適用拡大
マルチプレックスPCRは、評価体系の再編とあわせて、施設基準と対象患者の要件の適用範囲が広がります。見直しは、微生物核酸同定・定量検査の区分立てから対象患者の定義まで、3段階で行われます。
第1段階が、区分立ての整理です。現行は、「ウイルス・細菌核酸多項目同時検出(SARS-CoV-2核酸検出を含まないもの)」と「結核菌群リファンピシン耐性遺伝子及びイソニアジド耐性遺伝子同時検出」を同一区分の963点にまとめ、SARS-CoV-2核酸検出を含むものを別区分の1,350点としています。改定後は、結核菌群の耐性遺伝子同時検出を独立した区分(963点)とします。マルチプレックスPCRは1つの区分にまとめ、「イ SARS-CoV-2核酸検出を含むもの」を1,350点、「ロ SARS-CoV-2核酸検出を含まないもの」を963点に整理します。点数そのものは、いずれも据え置かれます。
第2段階が、施設基準と対象患者の要件の適用拡大です。現行では、施設基準の届出と対象患者の限定は、SARS-CoV-2核酸検出を含まないものにのみ課されています。改定後は、これらの要件がマルチプレックスPCRの区分全体にかかります。SARS-CoV-2核酸検出を含むものも、届出を行った保険医療機関において、厚生労働大臣が定める患者に実施した場合に限り算定できます。この変更は、実務への影響が大きいと考えられます。令和5年度のマルチプレックスPCRの算定回数は、99%以上をSARS-CoV-2核酸検出を含むものが占めているためです。
第3段階が、対象患者の定義の見直しです。現行の対象患者は、「重症の呼吸器感染症と診断された、又は疑われる患者」と「集中治療を要する患者」のいずれにも該当する患者です。改定後は、次の2つのいずれかに該当する患者となります。イが、重症の呼吸器感染症と診断された、又は疑われる患者であって、集中治療を要する患者です。ロが、COVID-19又はインフルエンザウイルス感染症等が疑われ、重症化のおそれが高い患者です。ロの追加は、日本感染症学会の実施指針が対象患者に重症化リスク因子を有する患者を含めていることを踏まえたものです。
対象患者の見直しにあわせて、施設基準も一部が簡素化されます。現行の施設基準は、必要な医師の配置と、対象患者の治療を行うにつき十分な体制の整備の2つを求めています。改定後は、必要な医師の配置のみが残ります。
まとめ:3つの見直しに共通する視点は「適正使用」
令和8年度診療報酬改定は、感染症に係る検査の要件を3点にわたって見直します。第1に、細菌薬剤感受性検査は、カルバペネム系抗菌薬等への非感受性又は耐性が確認され、多剤耐性菌に有効な抗菌薬の適応判定が必要な場合に、再度の算定が可能となります。第2に、同時抗原検査は、同時に検出するすべての感染症が疑われる患者に、算定対象が限定されます。第3に、マルチプレックスPCRは、SARS-CoV-2核酸検出を含むものにも施設基準と対象患者の要件が課され、対象患者には重症化のおそれが高い患者が加わります。3つの見直しに共通する視点は、抗菌薬と検査の適正使用です。必要な検査には評価を広げ、必要性の低い検査は絞り込む。この方向性を踏まえ、自院の検査運用と届出状況を早めに確認しておくことをおすすめします。










