岡大徳のメルマガ
岡大徳のポッドキャスト
少子化時代の小児・周産期医療体制の現状と課題:母体・胎児集中治療室の要件見直しと成人移行期医療の展望
0:00
-8:41

少子化時代の小児・周産期医療体制の現状と課題:母体・胎児集中治療室の要件見直しと成人移行期医療の展望

令和8年度診療報酬改定に向けた入院・外来医療等の調査・評価分科会における検討事項の解説

令和7年度第12回入院・外来医療等の調査・評価分科会において、少子化が進行する中での小児・周産期医療体制の現状と課題が議論されました。出生数が72万人台まで減少し、医療機関の運営が困難になる中、母体・胎児集中治療室(MFICU)の医師配置要件の見直しと小児成人移行期医療の充実が喫緊の課題となっています。本稿では、これらの課題に対する現状分析と今後の方向性について解説します。

本分科会では、3つの重要な論点が示されました。第一に、出生数減少による小児・周産期医療体制への影響です。第二に、MFICUの医師配置要件と実際の運用状況の乖離です。第三に、小児慢性特定疾病患者の成人移行期医療の課題です。これらの課題は相互に関連しており、診療報酬改定を通じた総合的な対応が求められています。

少子化が小児・周産期医療に与える影響

出生数の急速な減少が、小児・周産期医療体制の維持を困難にしています。令和5年の出生数は727,288人で、前年より43,471人減少し、明治32年の人口動態調査開始以来最少となりました。この傾向は今後も継続すると予測され、14歳以下の人口はさらに減少していく見込みです。

出生数減少は、分娩取扱医療機関の減少を招いています。産婦人科を標榜していても実際に分娩を取り扱わない施設の割合は、病院で25%、診療所で65%に達しています。特に診療所における分娩取扱の中止が顕著であり、地域における周産期医療体制の維持が課題となっています。一方で、妊婦の高齢化により、35歳以上の妊婦が30%を占め、合併症妊娠や社会的ハイリスク妊産婦が増加しており、高度な周産期医療の需要は減少していません。

小児入院医療においても、病床稼働率の低下が問題となっています。小児入院医療管理料届出病床当たりの小児入院患者数の割合は約5~6割程度にとどまっています。令和6年度診療報酬改定では、小児入院医療管理料3において一般病棟との一体的運用を可能とする見直しが行われましたが、地域における小児医療体制の維持には継続的な対応が必要です。

母体・胎児集中治療室(MFICU)の運営課題

MFICUの届出治療室数は、令和4年7月から令和6年7月にかけて全国で11治療室減少しました。地域別では東北で4治療室、近畿で3治療室が減少しており、地域偏在が懸念されます。全国周産期医療(MFICU)連絡協議会のアンケート調査によると、届出変更の理由として「医師の配置要件を満たせない」が最も多く挙げられています。

現行の施設基準では、専任の医師が常時MFICU内に勤務することが原則とされています。令和6年度改定で一定の条件下で宿日直を行う医師も認められましたが、依然として人員確保が困難な状況です。実態調査では、MFICU内に常駐していない医師でも、院内にいる医師は概ね10分以内に診察開始可能であることが確認されており、緊急時の対応体制は確保されています。

母体搬送受入件数や多胎妊娠分娩件数が極めて少ない施設も存在しています。母体搬送受入件数が0件の施設が関東信越に、1~9件の施設が関東信越、東海北陸、近畿にそれぞれ存在しており、施設間の機能分化が不十分である可能性が示唆されます。一方で、産科異常出血は分娩前からの予測が困難であり、約20%の症例ではリスク因子が認められないことから、すべての分娩施設において緊急時対応体制の確保が必要です。

小児成人移行期医療の現状と課題

小児慢性特定疾病患者の成人移行期医療は、まだ十分に体制が整備されていません。小児科以外の医療機関で定期的に小児科に受診していた患者を紹介により受け入れた経験は極めて少なく、病院で平均0.6人、診療所で平均2.3人にとどまっています。受け入れ経験がない理由として、「対象となる患者の紹介がなかったため」が85%と最も多く、次いで「医師・スタッフの専門的な知識・経験が不足しているため」が17.7%となっています。

診療報酬上の課題も存在します。小児慢性特定疾病は801疾病が指定されているのに対し、指定難病は348疾病にとどまっており、約半数の疾病が指定難病に該当しません。小児科医療機関で「小児科療養指導料」を算定していた患者が成人移行期となり小児科以外の医療機関に紹介された場合、「難病外来指導管理料」の算定対象でない限り、同様の管理料を算定できない状況です。

成人移行期患者を受け入れた経験のある診療科は、内科が25.9%と最も多く、次いで消化器内科、精神科が各9.3%となっています。移行期医療の推進には、受け入れ側の医療機関における体制整備と、診療報酬上の評価の充実が必要です。

まとめ

少子化時代における小児・周産期医療体制の維持には、医療資源の効率的な配分と診療報酬による適切な評価が不可欠です。MFICUの医師配置要件については、地域の実情に応じた柔軟な運用を可能にしつつ、緊急時対応体制を確保する方向での見直しが求められます。小児成人移行期医療については、指定難病の対象拡大や新たな管理料の創設など、継続的な医療提供を支援する仕組みの構築が必要です。今後の診療報酬改定において、これらの課題に対する具体的な対応策が示されることが期待されます。

Discussion about this episode

User's avatar